とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

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前回のあらすじ:妹「よし! PK撃破! ……でもドロップはしけてるね。これじゃ大した足しにならないよ」末妹「まあ【宝櫃】が手に入っただけよしとしましょう」兄「……お前らさぁ……」


次への準備

 □王都アルテア 【戦棍騎士(メイスナイト)】ミカ・ウィステリア

 

 今日は7月22日水曜日、<infinite Dendrogram>が発売されてから現実(リアル)で一週間が経ち、私達三兄妹は今日も今日とて夏休みを利用してデンドロ三昧な日々を過ごしています……勿論ちゃんと休憩は取っているし、今年の夏は暑いから冷房と水分補給はしっかりとしているけど。

 そして、今日はPKに襲われたりする事も予期せぬボスモンスターと遭遇する事も無く、無事に外での狩りを終えて王都を散策している所なんだよ。

 

「ふう、今日の狩りも無事に終わったね! ……二日目三日目みたいに狩場が<マスター>で溢れるって事も無くなって来たし」

「俺達を含めて初日あたりから始めた<マスター>のレベルが上がって、王都から離れた狩場で戦える様になってるみたいだからな。……そのお陰で王都周辺は始めたばかりの<マスター>が普通に利用出来る様になってたしな」

「このまま<マスター>の行動範囲が広がれば初心者狩場が満杯なんて事は無くなるでしょうか?」

「他の街に拠点を移す人も出て来るだろうから、その内そうなるんじゃない?」

 

 ミュウちゃんとミメちゃんの言う通り、最近では<マスター>の行動範囲が結構広がっているからね。掲示板でも<決闘都市ギデオン>など他の街に行ったってコメントが結構あったし……私達の知っている人では、確かシュウさんがリアルで三日ぐらい前に王都から出て行ってたね。

 ……何でも『アバターのキャラメイクをやり直せるかもしれない場所の情報を入手したクマ。……正直言って情報元はまったく信用出来ないが、実際に確かめてみるまで可能性はゼロじゃない筈クマ!』とか言って。

 

「確かにシュウさんはそんな事を言ってましたね。……しかし、アバターのキャラメイクをやり直せるモノなんて有るのでしょうか?」

「光学迷彩とかステータス偽装とかのジョブスキルはあるみたいだがな」

「でもお兄さん、それじゃあキャラメイクのやり直しにはならないんじゃない?」

「まーしょうがないけどねー。シュウさん『着ぐるみ着たまま店にいるとティアンの人達に不審者を見る様な目で見られるクマ』って愚痴ってたし。……ちなみに、私の勘だとちょっと丈夫な新しい着ぐるみを手に入れるだけな気がするけど」

 

 ティアンが<マスター>のやらかしに対するスルースキルを身につけるにはまだしばらくかかりそうだしね。それまでは頑張ってとしか言えないかなー。

 

「まあ、シュウさんなら遭難とかしても自分で何とかするだろうし放っておこう。……それよりも明日受ける【墓標迷宮探索許可証】入手クエストの準備をしに行こう!」

「確か騎士団の人達と一緒に王都周辺の街道沿いでモンスターの討伐をするんだったな。……<神造ダンジョン>に入る為に必要なアイテムだから確保はしておきたいな」

「これも騎士団に渡りを付けてくれた姉様のお陰ですね! 予約制だったので早めに知れたのは大きいのです」

「予約漏れの<マスター>が結構いたみたいだからね」

 

 何処からか<墓標迷宮>や【許可証】の事が<マスター>達に広がったのか、騎士団詰所はクエストを受けた彼等への対応で大わらわだったからね……私達は以前私が騎士団のクエストを受けた時にこの事を知って、そのまま直ぐに二人を誘って予約したから余裕でしたが。

 ……一応、他に<墓標迷宮>へと入る方法には『【聖騎士(パラディン)】に転職する』って方法もあるみたいだけど、転職条件が厳しいから普通にクエストに参加した方が簡単だしね。

 

「とりあえず戦力強化の為にマリィさんのお店で装備を買うか。……その為に俺の【長き腕】をオフにして亜竜級モンスターを倒していったんだからな」

「冒険者ギルドでボスモンスターの目撃情報を探して、その場所を狙い撃つ作戦が思った以上に上手く行きましたからね。……情報を教えてくれたアイラさんには感謝なのです」

「お兄ちゃんの【ルー】やミメちゃんが第三形態に進化したお陰で亜竜級モンスターも安定して狩れる様になったからね。……私達が装備出来る様なアイテムは落ちなかったけど、そこは換金すれば良いだけだし」

「僕が進化した時に覚えた《転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》は《天威模倣(アビリティ・ミラーリング)》と同時に使用出来ない……というか、()()()()()()使()()()()()()だから微妙に使いづらいけど」

 

 そう、ミュウちゃんミメちゃんが新しく取得した《転位模倣》は『指定した敵対対象一体に掛かっているバフ効果・デバフ効果・傷痍系以外の状態異常を自分に同期させる』スキルだったんだけど、《天威模倣》とは併用不可な二者択一のスキルらしい。

 

「でも、状態異常を多用してくるモンスターにはかなり有効だったじゃない。……《転位模倣》の同期効果を使うと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

「まあ、以前のシュバルツ何某にデバフを食らって苦戦したのが原因でこんなスキルになったんだろうからね。……でも、《天威模倣》と違って相手にバフが掛かって無いとステータス面で優位が取れないから決め手に欠けるんだよね」

「おそらく《転位模倣》の方は状態異常への対策がメインの形態なんだろうよ。……要は使い分けが必要だと言う事だ」

「そうですよ、使い易い方(バナナアームズ)だけでなく使い難い方(マンゴーアームズ)もちゃんと特性を把握して使いこなさないとです。……それにタイプチェンジでの能力変化はロマンですからね!」

 

 まーそれは分かるかな。私も不利になった状況を姿と能力を変えて逆転するのにはロマンを感じるし……偶に番組後半になると使われなくなるヤツが出たりするけどそれもご愛顧。クライマックスとかで急に今まで使われなかった形態が出たりするのも燃えるしね! 

 ……そんな感じでちょっと話が脱線仕掛けた所で、ミュウちゃんがお兄ちゃんの()()()()について言及した。

 

「それに、切り札なら兄様の新しいスキルがありますし」

「……俺の新スキル《仮想奥義・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》もかなり使いづらいんだがな。……何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()スキルだし」

「えーっと、確かお兄さんのスキルは『任意のジョブ一つのジョブレベルを最大30まで下げて、その分だけ指定したアクティブスキルの効果を上昇させる』んだったね」

「でも威力は凄かったよね! 何せ【魔石職人(ジェムマイスター)】のレベルを5つ捧げただけの《フレイムアロー(火属性下級魔法)》が亜竜級の頭部を消し飛ばす威力になったし」

 

 まあ、お兄ちゃん的には『実践で上手く使う為に効果範囲とか規模とか色々検証したいんだが、レベルがコストだとおいそれとは使えないのが問題』らしいけど……進化によって《光神の恩寵(エクスペリエンス・ブースター)》のレベルも3になり獲得経験値も+300%になったとは言え、レベルを上げってのはそれ自体が大変な行為だしね。

 ……後、下手にレベルを下げるとせっかく覚えたスキルがリセットされる事もあるのが最大の問題だとも言ってたね。

 

「まあ、このスキルのお陰で【紅蓮術師(パイロマンサー)】の転職条件を満たせたのは幸いだったがな。……これで俺も漸く上級職だ」

「おめでとうなのです兄様。上級職になるとステータスやスキルも強力になりますから、戦闘もずっと楽になりますよ」

「あーいいなー二人共ー。私は【戦棍士(メイスマン)】はカンストしたけど、最後の転職条件であるダメージ総量のヤツを満たすのにはもう少しかかりそう」

 

 私の【ギガース】は新スキルとか覚えないから二人みたいに一喜一憂出来ないしなー……その分ステ補正は高いんだけど、それを活かすには元となるステータスが高い上級職に就かないとねぇ。

 ……と、そんな風に私達が話しながら歩いていると、目的地である<マリィの雑貨屋>が見えてきた。

 

「あっ、お店に着いたよ」

「……じゃあ、アイテムを換金した後に買い物するか」

「この前籠手をぶっ壊されてから有り合わせの物を使ってましたから、今日はちゃんとした物を買いたいですね」

 

 そうして私達は狩りの後にはいつも利用していて、今やすっかり馴染みとなった<マリィの雑貨屋>へと入っていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<マリィの雑貨屋> 【紅蓮術師】レント・ウィステリア

 

「……はい、全部合わせて124万8000リルになるわ。……しかし、よくこれだけのレアアイテムを集めたわねぇ」

「ありがとうございます。……まあ、今回は比較的ドロップ運が良かったですからね」

 

 そんな訳で<マリィの雑貨屋>に入った俺達は狩りで集めたアイテムをマリィさんに渡して、その代金である124万8000リルを受け取った。

 初日は数万リルで一喜一憂していた俺達がこれだけの大金を稼げる様になるとは、何か感慨深い物があるな……まあ、これだけの大金でも、ちょっと装備を整えようとするとあっさり消え去るのがデンドロクオリティなんだが……。

 

「おお〜! 凄いねリルが百万超えたよ。……これもアイラさんがボスモンスターの情報を教えてくれたお陰だね!」

「本当にありがとうございます、アイラさん」

「……え、ええ……どうも。……確かに王都周辺に目撃情報があって討伐対象に指定されそうな亜竜級モンスターの情報を教えましたけど、まさかその殆どを倒して来るとは……」

 

 手に入れた大金を見たミカとミュウちゃんは、偶々雑貨屋にいたアイラさん──どうやら今日は冒険者ギルドが休みだったのっで実家でもある雑貨屋を手伝っていたらしい──にお礼を言っていた。

 ……まあ、彼女は俺達がここまで多くのモンスターを倒して来るとは思っても居なかった様でかなり驚いていたが。

 

「いえ、貴方達が亜竜級モンスターを倒せる実力があるのは知っていましたし、だからこそ危険なモンスターの討伐を期待して情報を渡した訳ですが……そこまで正確な位置情報は渡せなかったのに、こんな短時間で何故ここまでの数を見つけられたのですか?」

「……基本は運が良くて偶々遭遇出来ただけですよ」

「強いて言うなら()()()()()()()()()()()からかなー」

 

 ……尚、本当の理由は“危険なモンスター”の大雑把な位置を()()()()()()()()ミカの“直感”で把握してから、その近辺を俺が【斥候(スカウト)】のジョブスキルなどを駆使してボスモンスターを探し出したのが真相である。

 ……まあ、ミカの直感だってそう都合よく発動する訳ではないし、ここまで上手く狩れたのは運の様子も強いから嘘は言ってないがな。

 

「じゃあ! 資金も手に入れましたし【通行証】ゲットのクエストの為に装備を買いましょうか!」

「そうだね! 破壊された籠手の代わりを買わないと!」

「ああ、皆さんもあのクエストを受けるんですね。……では、それに対するおススメのアイテムを紹介しましょう」

 

 話が面倒な方向に転がりかけた時、ミュウちゃんとミメちゃんが話を誤魔化す為に本来の目的を声高く言ってくれたお陰でアイラさんの注意は別の方に向いてくれた様だ……彼女が空気を読んでくれただけかもしれないが。

 

「ちゃんと紹介してね〜アイラ。なるべく高いやつを〜」

「キチンと彼等の予算に合わせた物を紹介します。……合計レベルはレントさんが100以上、ミカさんとミュウさんが50以上ですか……ではこちらですね。後は外での長期間行動に使えるアイテムもついでに紹介しましょう」

 

 そう言って、アイラさんが紹介してくれたのはMPを込めると飲める水が出て来る水筒型マジックアイテム、長期保存出来る携帯食、テントなどの各種キャンプセットと言った初心者が使う野外用アイテムだった……この世界にはアイテムボックスがあるからこれだけ持って行っても嵩張らないのである。

 ちなみに携帯食や水筒が“初心者用”なのは、一定以上の実力者とかになると時間遅延・停止機能の付いた高級アイテムボックスに水や食料を詰め込んでいるからとの事。

 ……そして装備についても、彼女は俺達の戦闘スタイルや意見を聞いてから最適な物を選んでくれた。

 

「基本は魔法で妹達を支援していますね。後、たまに剣を使った近接戦も」

「では、レントさんにはまず今使っている物の上位版である【マジックローブ・3】と【マジックトレントの杖】を。そして【紅蓮術師】である貴方に合わせて火属性魔法効果及び火属性耐性が上昇する【紅蓮魔導の手套】と、魔法剣士用の剣でMPに補正が入り更にMPを込める事で一時的に攻撃力を上げる《マジックエッジ》スキルの付いた【シルバー・マギソード】がおススメですね。……後は魔法職だとMPが幾らあっても足りないので【MP回復ポーション】を沢山買っておきましょう」

「【ライオット】も良い装備なんだけど、私って回避が上手くて攻撃があんまり当たれないから《ダメージ軽減》が意味ないんだよね」

「それでは動きやすい軽鎧でAGI補正と範囲攻撃である風属性耐性がついた【ウインドスケイルアーマー】上下セットと、AGI補正と低レベルですが【麻痺】【拘束】耐性が付いた【不縛のブーツ】ですかね。……後はSTRを上昇させる籠手装備【パワーガントレット】やアクセサリーの【怪力の腕輪】辺りでしょうか」

「籠手はなるべく頑丈な物を。後スキルの都合上ダメージを受ける機会が多くなりそうなのです」

「僕のスキルの都合上HP・MP・SP以外は上がっても余り意味はないかも」

「でしたら《ダメージ軽減》《武器ダメージ減少》スキルの付いた【鋼の武闘着】上下セットと、SP補正が付いていて頑丈な【ミスリルアロイ・ガントレット】でどうでしょうか? ……後は【麻痺】【脱力】耐性付きで装備攻撃力が高めな【鬼人の脚甲】が有りましたね」

 

 ……アイラさんってこういうの本当に丁寧に選んでくれるよなぁ。【鑑定眼】で見るとどれも今装備出来る中ではトップクラスの性能で、全部合わせても今回の儲けで買える値段になっているし。

 とりあえず、彼女には丁寧にお礼を言った上でこれらのアイテムを全部買う事になった……お陰で今回の儲けが殆ど吹き飛んだが、まあ必要経費だろう。

 

「は〜い、お買い上げありがとう御座いました〜。お陰で在庫がかなり捌けたわ〜。……今後もサービスするから、またいっぱい買っていってね〜」

 

 ……ひょっとしたら、アイラさんの行動含めて全部マリィさんの計算通りな気がして来たが……気の所為と言う事にしておこう……。

 

「今日も本当にありがとうねアイラさん! ……何か困った事があったら言ってね、可能な限り力になるよ」

「分かりました、もしそんな事があったら頼みますね。……それでは、今度のクエストも頑張って下さい」

 

 そうして、俺達は準備を可能な限りの整えた上で【墓標迷宮探索許可証】獲得クエストに挑む事になったのだった。




あとがき・各種設定解説

兄:最近は十万リルが端金に思えて来た
・第三形態に進化した際の他の変更点は【長き腕】のオンオフ変更のクールタイムが16時間に減ったぐらい。

仮想奥義・神技昇華(イミテーション・ブリューナク)》:【ルー】の第四スキル
・このスキル自体のクールタイムは5分で、強化したスキルは24時間再使用不能になるデメリットもある。
・消費したレベルに内包されたリソース分だけスキル効果が上昇するので、より上位のジョブ・より高いレベルの時にコストにした方が上昇率は高い。
・強化の方式はスキル効果を総合的に上昇させる仕組みで、特定の部分(魔法の威力・速度・射程など)のみを強化する事は出来ない。
・選択したスキル発動と同時にレベルが減る仕様なので、レベルが下がって選択したスキルが使えないという事態にはならない(レベルが下がった後で選択したスキルが消える事はある)。
・尚、兄のパーソナルを読み取って生まれた【百芸万職 ルー】の本来の能力特性は“才能(ジョブレベル)”である。

妹:ボスモンスターレーダー
・本人的には色々準備が必要な気がするらしい。

末妹&ミメ:ボスモンスターキラー
・進化時の他の変更点として《天威模倣》で同期出来るステータスの数が4つに増えており、更に《攻撃纒装(アタック・テスクチャ)》のスロット数が3つに増えており、ミメーシスのMPも一万五千強まで上昇している(他のステータスもある程度は上昇している)。

転位模倣(エフェクト・ミラーリング)》:【ミメーシス】の第四スキル
・コストとして発動時から1分間経過する毎に選択した敵対対象がモンスターの場合はレベル×50、人間範疇生物の場合は合計ジョブレベル×10だけMPを消費する。
・このスキルのクールタイムは1分で、一度解除した場合は同一対象には24時間再使用不能。
・このスキルの使用時に既に掛かっているバフ・デバフ・傷痍系以外の状態異常は上書きされて、スキル解除時には使用前の状態に戻る。
・当然だが選択した敵対対象にデバフや傷痍系以外の状態異常が掛かった場合は自分も同じ状態になるが、こちらもスキル解除時には元に戻る。
・同期時には他のバフ効果は効かず、デバフ・傷痍系以外の状態異常も余程強度が高いモノ以外は効かない。
・このスキルはシュバルツ何某と戦った経験から発現したものだが、その特性上術者にも同じデバフが掛かる【ミスティルテイン】には普通に使ってもあまり効果は無い(これは彼女達がそのデメリットを知らなかった所為)。

マリィさん:計算通り(ニヤリ)
・とは言え装備の値段は相場と比べても安めであり、それだけの物を用立てられるぐらいに品揃えは豊富な店である。

アイラさん:売り子としても人気
・彼女が売り子になるとファンの冒険者が訪れる所為で<マリィの雑貨屋>の売り上げが倍くらいになるとか。
・今回、三兄妹に世話を焼いたのは、最近の王都周辺での()()()モンスター目撃情報に違和感を感じて嫌な感じがしたからでもあった。


読了ありがとうございました。
次に一度掲示板回をやったらこの章は終わりで、次章の『【墓標迷宮探索許可証】入手クエスト編(仮)』に続きます。
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