□<サウダ山道> 【
さて、先程の顔合わせでは色々()あったが、俺達はとりあえずクエスト【王都周辺及びその街道沿いのモンスター討伐・調査の手伝い 難易度:三】を開始して、一路<サウダ山道>を南に進みつつ出て来るモンスターを倒していた。
……正直、このメンバーで上手くパーティーとして戦えるかが心配だったが、シュバルツ何某が先程言っていた言葉は嘘ではなかった様でちゃんとリーダーであるリリィさんの指示に従って戦っていたし、ミュウちゃんの方も大分機嫌が悪そうだったが動きには一切の変化は見られなかったので一先ずなんとかなりそうである。
「ふむ、この世界に現れてから長くてまだ一カ月程度でこの実力……やはり<マスター>という存在は色々と規格外ですね。……クエスト内容を
「……む? リリィさん、それは本来の【墓標迷宮探索許可証】入手クエストはこの様な内容では無かったという事なのか?」
そんな俺達の戦い方を見ていたリリィさんがふと呟いた言葉に、偶々それを聞きつけたアットが非常に興味深そうな様子で反応した……アイツはこの【許可証】入手クエストの詳しい内容もWikiに載せるつもりだと言っていたから、今の彼女の発言は聞き逃せなかったのだろう。
……ちなみに今までも戦闘の合間などの空き時間にリリィさんに色々質問しており、そんなアットに対しても彼女は大人の対応で質問に答えていたので、今回のアイツのちょっと失礼な態度にも彼女は特に気にする事も無く答えていった。
「ええ、このクエストの本来予定されていた形式は『調査担当の騎士達とモンスター討伐担当の<マスター>に分けてクエストを行う』と言うものだったのですが、私の父上──アルター王国第一騎士団団長リヒト・ローランが『今後の事を考えると騎士達と<マスター>を積極的に交流させて、彼等との友好を深めつつその対応方法などを探して行った方がいい』からと、今の様な騎士団と<マスター>の混成パーティーを組んでモンスターを討伐する形式になったのです」
「ふーん、そんな裏話があったのか……」
「……国としても俺達<マスター>との付き合い方を探っている感じかな」
ちなみに経験の無い<マスター>では不向きな生態系の調査の方には、それ専門のティアンと護衛の騎士で構成されたパーティーを事前に編成して各地に派遣しているとの事……今回は多くの<マスター>がクエストに参加して討伐の方には人的余裕があったので、生態系の調査の方にもそれなりの数の人材を回す事が出来たらしい。
……彼女のそれらの話から得た情報をメモに書いていたアットは、それを一通り書き終えた後に更にアイツにとっては重要な問いを投げかけた。
「……では、この【許可証】入手のクエスト内容は後々変わる可能性があると?」
「その可能性は高いでしょうね。……今の王国は急な<マスター>の増加に対して色々と対応している真っ最中ですから、このクエストだけでなく様々な事が今後変わって行くでしょう。このクエストに於いて父上が<マスター>との交流を優先したのも、今後起きるであろう変化に我々騎士団を慣れさせる為でも有るのでしょうし」
「成る程……だとすると、今後も何度かこのクエストを受けて情報を精査する必要があるか。……それに<マスター>の増加による王国の変化も考慮に入れて……」
そんな事を言いながら、リリィさんの話を聞き終えてメモを取り終えたアットは顎に手をやって考え込んでしまった……彼女の話からすると<マスター>の増加による王国の変化は結構ありそうだからな。<Wiki編集部>も大変そうだ。
尚、こんな風に呑気に喋りながら移動している様に見えるかも知れないが、俺はちゃんと索敵系スキルを使いながらモンスターを探しているし、他のメンバーも(アットはちょっと怪しいが)辺りをキチンと警戒している。
……そして、そんな中でも周辺の索敵に一番活躍しているのは、【
『BAUWAU! (主! あっちに何体かモンスターがいますぜ!)』
『KEEE! KIEE! (こっちでも確認しました……あれはゴブリンの群れです!)』
「分かったよ……皆さん! ここから10時の方向にゴブリンの群れが居るみたいです!」
この様に彼女のテイムモンスター達は、先程からずっと【
……何でもこの世界では同じ名前のモンスターでも個体によってレベル上限や得意分野などの才能が違うので、稀に特定の分野に特化した変種が生まれる事もあるのだとか。
「《遠視》……確かに向こうの山道にゴブリンの群れが居るな。ひーふー……二十匹ぐらいかな」
『『『『……gaa……gaaaa……』』』』
俺はスキルを使ってエルザちゃんが言った方角を見てみると、そこには確かに武装したゴブリンの群れが辺りを警戒しながら進んでいるのが見えた……内訳は【ゴブリン・ファイター】【ゴブリン・ソードマン】【ゴブリン・アーチャー】と言った物理系の連中みたいだな。とりあえず敵の情報をリリィさんに伝えておこう。
……おっと、どうやら群れの中にいた【ゴブリン・スカウト】がこっちに気が付いたらしく、慌てて周囲にいたゴブリン達にその事を伝えているな。
「あっちにも斥候が居たみたいでこっちに気付かれました。今、連中は戦闘態勢を取ってこっちに向かってきました」
「分かりました。……では、アットさんとレントさんは魔法で壁と先制攻撃をお願いします。ミカさん、ミュウさん、シュバルツさんは私と一緒に前衛で戦って下さい。エルザさん達はそのフォローを」
それだけの簡潔な指示を出したリリィさんは自身も武器である長槍を構えて前に出て行った……つまり、これまでの戦いと同じパターンだな。下手に複雑な指示を出しても寄せ集めの俺達では満足に動けないだろうし妥当な指示だろう。
まあ、そもそもゴブリン二十体程度ならリリィさん一人でお釣りが来るだろうけど、彼女は俺達のレベル上げと<マスター>の実力を知る為に敵が弱い内には最低限しか戦わないって最初に言ってたからな。
……と、そんな事を言ってる間に向こうに居た三体の【アーチャー】がこっちに向かって狙いを定めて弓を引きしぼっていたので、こちらも魔法による応射の準備をする。
『GAA!』
「アット、壁頼む……《魔法射程延長》《ヒート・ジャベリン》!」
「まだ下級職の俺ではあまり射程の長い魔法は使えんからな……《詠唱》終了《アースウォール》!」
その結果、あちらの三体の【アーチャー】がこちらの前衛に放った矢はアットが魔法で作り上げた土の壁に阻まれるか、狙われたリリィさんとミカが手に持った武器で払い飛ばす事で防がれ、俺が放った炎の槍は敵の【アーチャー】一体とその後ろに居た【スカウト】一体を焼き払った……うん、我ながら中々良い狙いだったな。
更に、その隙にフリーだったミュウちゃんとシュバルツが敵の前衛である【ファイター】や【ソードマン】との戦いに入っていた……のだが……。
『『GYAAAAAA!』』
「おいっ! このゴブリン供なんか強くないか⁉︎」
「チッ、何をヘタレた事を……と言いたいのですが、妙に強いのは本当の様ですね。……少し《看破》してみましたが、コイツら
確かにミュウちゃんの言う通り、このゴブリン達のステータスを《看破》で見てみるとそれぞれのステータスを倍加するバフが掛かっていた……元がゴブリンだからかそこまで劇的な強化では無いものの、これまで特に苦戦もせずに敵を倒して来たこちらの前衛達を手間取らせるぐらいには厄介な感じである。
……そして、その報告を聞きながら自分でもゴブリン達のステータスを確認していたリリィさんは、何か心当たりがあったのか顔を顰めていた。
「……まさか、近くに【キング】がいますか? ……皆さん、作戦を変更します。私が
『……承知しました、お嬢様』
リリィさんははそれだけ言うと、右手に付けられた【ジュエル】から一頭の美しい薄緑色のペガサス──これまでは前述の理由で戦闘には参加させなかった彼女の愛馬である純竜級モンスター【テンペスト・ペガサス】のティルルを呼び出した。
……尚、普通に人語を解するモンスターは初めて見たのでちょっと驚いた。
「ティルル! 連中を蹴散らしなさい! ……《グランドクロス》!」
『了解しました、お嬢様……《テンペスト・アーマー》!』
『『『『GYAAAAaaaaaa!!?』』』』
そしてリリィさんが指示を出すとティルルは即座に自身の身体に暴風を纏わせて目で追うのが難しい程の速度でゴブリン達に突撃し、その纏った暴風によってゴブリンを千切り飛ばしながら蹴散らして行く……更に彼女自身も、今まで使ってこなかった【
……いくらステータスが倍加しているとはいえ所詮はゴブリン。合計レベル483を誇るリリィさんと純竜級モンスターである【テンペスト・ペガサス】にとってはどうと言う相手では無く、それから間も無くしてゴブリン達は
◇
そうして戦闘(殲滅)が終わった後、俺はいきなり行動を変えたリリィさん疑問に思っている<マスター>達を代表してその理由を尋ねた。
……それに対して、愛馬のティルルに周辺の偵察を命じていた彼女はその質問に答えて状況の説明を始めた。
「それでリリィさん、何故あのゴブリン達を早急に始末したんですか? ……何かあの群れに対して心当たりがある様でしたが」
「はい、あのゴブリンの群れはおそらく【ゴブリン・キング】の配下である可能性が高いと思われたので、決着を急がせて貰いました」
彼女曰く【ゴブリン・キング】とはその名の通りゴブリンの群れを率いる“王”としての能力を持ったゴブリンだそうで、単体としてのランクは亜竜級以上純竜級未満程度だそうだが、その【キング】が必ず保有する《ゴブリンキングダム》と言うスキルが厄介らしい。
「《ゴブリンキングダム》は複数の効果を併せ持つ複合型のパッシブスキルで、その効果は“配下のゴブリンの全ステータスを倍加し、配下が得た経験値が自身にも加算され、自身の受けたダメージを配下のゴブリンに転嫁する”と言うものです。……つまりは配下が生きている限り【ゴブリン・キング】にはダメージが通らないと言う事です」
その特性上、配下の数が増えて質が増す程に【ゴブリン・キング】の脅威度は一気に上昇して行き、もし【ホブゴブリン】【ハイゴブリン】などの上位ゴブリンが配下にいた場合には群れ全体の脅威度のランクは純竜級にまで達する事もあるらしい。
それに加えて配下の経験値を自身に加算するので成長も早く、もし【キング】がより上位のモンスターに進化して、更に亜竜級以上のゴブリンを複数従える様になった場合には小国を滅ぼす程の戦力になった事例も過去に有るのだとか。
「それに今遭遇した群れはその構成からおそらく偵察部隊……つまりこの【キング】は二十体程度のゴブリンなら偵察として派遣しても問題無い規模の勢力を持っている可能性が高く、かつ本隊がこの近くにいる可能性が高いと思われました。……なので、可能な限り早く戦闘を終わらせて周辺の状況を確認する必要かあると判断しました」
「成る程……分かりました、ありがとうございます」
確かにそう言う理由なら決着を急ぐのも当然だし、先程真っ先にティルルを上空に飛ばしたのも納得だな……どうやら他のメンバーも今の説明に納得した様で周辺の警戒を始めている。
……だが、あのゴブリンの群れには
「ではリリィさん、その【ゴブリン・キング】には配下がやられた時に
「えっ?」
その俺の言葉に始めて気がついたのか、リリィさんと俺達三兄妹以外の<マスター>達は先程まで戦っていたゴブリンが倒された場所を振り返った……そう、この世界のモンスターは倒されたらアイテムを落とす筈なのに、先程倒したゴブリン達は跡形も無く光の塵になっていたから気になっていたのだ。
「あれ? お兄ちゃんが《長き腕》を使ってた訳じゃ無いんだ」
「いつも通りだから気にならなかったのです……が、この状況だと兄様はスキルをオフにしますよね」
「ミュウちゃんの言う通り、今はスキルをオフにしている。……ああでも、テイムモンスターや召喚モンスターはアイテムを落とさない設定だったか?」
「おい、ちょっと待て! ……状況がよく分からんからもっと詳しく説明しろレント。《長き腕》とはなんだ?」
その可笑しな状況に対して動揺している他の人間を後目に、俺と妹二人がとそんな会話をしているとアットが詳しい状況説明を要求して来た……うん、ついいつもの癖で身内だけで会話を完結させてしまったか。
……今は野良パーティーを組んでいる訳だし、この不穏な状況をキチンと確認する為にもちゃんと説明しておく必要があるだろうな。
「えーっと、まず《長き腕》って言うのは俺の<エンブリオ>のスキル《
そう言って俺は《長き腕》のステータス欄をみんなに見せてスキルがオフになっている事を示した……このスキルは一度切り替えると16時間が再変更不可能な仕様であり、既に再変更可能な状態である事からこの現象は俺の所為では無い事が証明出来た。
……そして全員が納得した所で俺は更に話を続ける。
「それで、このスキルがオフになっているのにアイテムを落とさなかった事が気になって聞いてみて、確かテイムモンスターと召喚モンスターは倒されてもアイテムを落とさない設定だったと思い出した所だったんだよ」
「……テイムモンスターは倒されてもアイテムを落とさない設定ですがそれは無いでしょう。モンスターに使役されたモンスターは普通にアイテムを落としますし。……もう一つの召喚モンスターの方ですがこちらも時間制限がありますし、あの群れはかなり長時間活動していた様に見えたので可能性は低いかと」
そうやって俺がこの状況での一通りの疑問点を並べると、リリィさんはそれに対して一つ一つ丁寧に答えてくれた……さて、いくつか予想は立っているが……。
「ふーん。……お兄ちゃんは消えたアイテム分のリソースを経験値に変換してるけど、このゴブリン達の
「……【ゴブリン・キング】の変異種……いえ、まさか<
ミカが発したその質問にリリィさんは考え込みながらも、思い至るいくつかの可能性を呟いた……正直、今のところ情報が少な過ぎて断言は出来ないが、俺のスキルがアイテムのリソースを経験値に変換している様に、このゴブリン達のアイテムのリソースを何かに利用している
……そうやってメンバー達が考え込んで居る所で、辺りを偵察に行っていたティルルが地上に降りてきた。
『お嬢様。周辺一帯を捜索しましたが大規模なゴブリンの群れは発見出来ませんでした』
「そうですか……とりあえず、この事を他の騎士達とリヒト団長に知らせてから近くにいるパーティーと合流しましょう。……少なくとも【ゴブリン・キング】がいる事はほぼ確実ですし、もし遭遇したのなら1パーティーで戦うのは厳しいですから」
そう言ったリリィさんは、アイテムボックスから通信用のアイテムを取り出して各所に連絡を取っていった……さて、こうなるとさっきミカが言った“直感”通りに中々厄介な事になりそうだな。
あとがき・各種設定解説
リリィ・ローラン:戦闘能力もかなり高い
・……というか、現在の“最盛期”近衛騎士団でも平均レベルは200後半から300ぐらいなので、愛馬であるティルルとの連携を含めれば王国騎士の中でも超級職の面々を除けば最強格。
・ジョブ構成は上級職に【聖騎士】と【天馬騎士】をカンスト、下級職に【騎士】【騎兵】【槍兵】【冒険家】【乗馬師】をカンストで【魔獣師】がレベル上げ途中。
・加えて頭も良くて指揮能力も高く(まともな人格の持ち主ばかりとは言え)<マスター>の野良パーティーを見事に纏め上げている。
・愛馬のティルルにこの歳で『お嬢様』と呼ばれるのは実は少し不満。
【
・名前の通りペガサスなどの飛行可能な馬系モンスターに乗って戦う事に特化したジョブ。
・スキルは高レベルの《乗馬》や《天馬強化》《空気抵抗軽減》《重心安定》《高空適正》などの騎乗飛行補助のパッシブスキルと、飛行しながらの使用に特化した攻撃用アクティブスキルなど。
・また、聖属性の攻撃スキルや騎乗している愛馬限定の回復魔法なども覚えるので【聖騎士】とはジョブ同士の相性が良い。
・ただし、転職条件に『亜竜級以上の飛行可能な馬系モンスターの所持』があり、それらのモンスターが非常に希少なので転職難易度は上級職の中ではトップクラスに難しい。
・尚、飛行可能な馬系モンスターには西方だと翼の生えた馬である“ペガサス”、東方の黄河には竜の要素が入った馬である“竜馬”が居たりするが、どちらも希少な上にプライドが高く乗せる人間を選ぶ。
ティルル:リリィの愛馬である【テンペスト・ペガサス】
・純竜級のモンスターで風属性の防御魔法や飛行補助魔法に長けており、通常飛行速度でも亜音速を超え、スキルを駆使すれば一時的に超音速飛行が可能な程の能力がある。
・《テンペスト・アーマー》は暴風の鎧を纏って自身と騎手への攻撃を防ぎ、近くに居る相手に風属性の攻撃を行うスキル。
・人語を話す程の高い知能を持っており、また《人化の術》でメイド服姿の女性に変身したりも出来る。
・実は【天翔騎士】リヒト・ローランの愛馬【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】デュラルの娘で、リリィとは幼い頃からの付き合い(お嬢様呼びもこの所為)
読了ありがとうございました。
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