□<ネクス平原>上空 【
【クエスト【討伐──【鬼仔母身 クインバース】 難易度:九】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
そう言う訳で突発クエスト『ミカのドキドキ人間砲弾作戦(爆笑)』の発動が決まったので、私は王都への連絡など諸々の準備が終わったリヒトさんと一緒に【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルに乗って、一路空路にて【鬼仔母身 クインバース】率いるゴブリン軍団の元に向かっているのでした。
これはどうせ行くなら出来る限り早く【クインバース】の元に赴く事で、向こうが先程の襲撃で受けた損害を補填するより早く奇襲を仕掛けるべきだと言うリヒトさんの提案である。
……しかし、私は今リヒトさんの後ろに乗ってるんだけど、流石は最上級のモンスターだけあってデュラルの乗り心地はいいね。向かい風やら空気抵抗やらも彼が風属性魔法でどうにかしてくれているらしいから、高空を飛んでいても全然寒く無いし。
「それじゃあ改めて今回の作戦を確認しておこう。……と言っても、やる事は俺とデュラルが姿を消してゴブリン達に感知されないギリギリまで接近、そこから全速力で【クインバース】に突撃しながら《第三の腕》で保持したミカ君を【クインバース】にぶつけると言うだけなんだがな」
『その際に私が君に空気抵抗軽減の魔法をかけるから大気の壁は無視出来る……が、激突時の衝撃はどうしようもないから、そこは追加で貼った結界と渡した【救命のブローチ】及び【身代わり竜鱗】を信じるしか無いがな』
「オッケー、分かりました! ちゃんとその二つも装備してるよ」
ちなみに私をぶつける時には投げるのでは無くリヒトさんが持つ物体を動かす特典武具のスキルを使う事になりました……投擲だと命中率に不安があり、こっちの方が確実に当てられるとの事。
……ぶっちゃけ私は【ギガース】を握りしめてじっとしているだけの簡単なお仕事なので、その辺りは全部リヒトさんとデュラルに任せるしか出来ないんだけどね。気を付けなければいけないのは【ギガース】がすっぽ抜け無い様にするぐらいだし、一応布とかで縛っておけば大丈夫でしょう。
「後は、相手のダメージに依らず一撃入れたらその時点で全速離脱するから。……最低でも手傷さえ負わせれば時間稼ぎにはなるだろうし」
『無理に追撃などはしない事だ。……もし追撃の必要があっても、その時は私達が行おう』
「はーい、邪魔しない様にじっとしてます」
まあ、今回の私の役目は言ってしまえば“武器”兼“砲弾”だからね。戦力としては一切役に立たないから、二人の邪魔にならない様にじっとしているのが一番でしょう。
……そんな事を考えていたらリヒトさんがややトーンを変えてこちらに話しかけて来た。
「さて、まだ目的地まで時間があるし少し話をしようか。……君は何故こんな自分の命を投げ捨てる様な作戦を提案したんだ?」
「それはさっきも言った通り【クインバース】を倒さないと王国のティアンに被害が出るし、私は<マスター>だから死んでも問題無いし……」
「その事に関しては《真偽判定》にも反応は無かったし嘘では無いんだろうが、私が疑問に思っているのは君が
「…………」
そのリヒトさんの問い掛けは実に的を射ているものだったので、私はそれ以上の言い訳を募る事が出来なかった……まあ、別に私は自分の“直感”について念入りに隠している訳じゃないから、目端の利く人なら普通に気づかれるよね。
ただ、現実では未来が分かる程の“直感”なんて眉唾物過ぎて誰も思いつかないけど、この世界でなら本当に当たる占いや予言とか有りそうだから私が可笑しい事には直ぐに当たりをつけられるのが原因かな。反省しよう。
……しょうがない、リヒトさんには無茶振りを聞いてくれたしこっちもちゃんと事情を話そうか。それにここで私の事情を彼に話しても特に問題無い
「……信じて貰えるかは分から無いけど、私は生まれつき自分やその周りに訪れる“危険”とか“事件”を感じ取れるんですよ。……今回もこのまま【クインバース】を放置しておくと王国に多大な被害が出ると感じ取ったので、私はそれを阻止しようと動いてました。……そうなると分かっているのに放置しておくのは非常に不愉快なので」
「……成る程。そう言う事なら納得がいった」
まあ、
……私がデンドロやってるのは自分の“才能”である直感に向き合う為でもあるからね。その為にもまずはこの事件を解決に導いてみよう、そうすれば何かが変わるかもしれないから……。
「しかし、なんかあっさりと信じてくれましたね。……私が予知・予測系の<エンブリオ>とかジョブスキルを持っているんじゃないかと聞かれると思っていたんですけど」
「ああ、それは以前に“似たような話”を聞いた事があるからな。……君には言い辛い話をさせてしまった様だし、その礼として私が知っている限りのその事……特殊超級職【
……どうやら言葉にはしてない部分も察せられてしまっていたらしい。この辺りはまだ子供の私との人生経験の差が出たかな……規格外の直感を持っていても人の心とかは分からないモノだからね。
……しかし、その【先導者】と言うのは一体何なのだろうか? 名前からしてこの世界にあるジョブの一つなんだろうけど……。
「【先導者】と言うのは転職に“血筋”や“特別な適性”などが条件にある超級職の事だ……本格的な説明をすると長くなるし、詳しくは後で調べてほしい」
「はあ……」
「とまあ、そんな特殊超級職である【先導者】なんだが、その資格者は『危険をなんとなく探知する才能』を有するらしいんだ。……まあ、私も建国者がその資格者だったらしいグランバロア出身のラングレイや、フィンドル侯爵に聞いた話だからこれ以上は知らないんだが」
『後はその【先導者】に就いているティアンの噂は聞かないから、未だに空位に有るのではないかと言うぐらいか』
……へー、中々面白い話だね。このゲームをやり続ける理由が増えたかな。
「……おっと、話し込み過ぎたな。そろそろ【クインバース】の拠点に付くから準備してくれ。《オプティック・ハイド》。デュラル消音を」
『既にやっている』
「分かりました」
……まあ、まずはこの目の前にある『いずれ起こりうる悲劇』を未然に阻止する事から始めましょうか。
◇◇◇
□◾️<ネクス平原>僻地・【クインバース】の拠点
ここは【鬼仔母身 クインバース】率いるゴブリン軍団の拠点、そこでは現在【
……具体的には【クインバース】が出稼ぎに行っている【ゴブリン・キング】が稼いだ経験値を使って新たに即戦力のゴブリンを出産したり、地属性魔法や大工・木工系スキル持ちのゴブリンによる拠点修復などである。
『呼び戻していた【ゴブリン・キング】二人がようやく戻ってきたぞ』
『現在残っている【キング】は我々三人を含んで十二人。その内の半数である六人と率いるゴブリン達がここで“女王”の護衛をしている事になるか……もう少し拠点に呼び戻すべきか?』
『いや、これ以上は拠点に入らないから無意味だ。今も全体の三割程度は外の偵察を行っているしな。……だが、人間どもの全面戦争も近いのだし、他の【キング】拠点の近くまでは呼び戻しておくべきだろう。どうせここの位置は既にばれているんだからな』
今までは人間達にバレない様に派手には動いて来なかったゴブリン達だが、リヒトとの戦いがあった時点で隠蔽の意味が無いと判断して拠点の戦力を大幅に増大させていたのだ。
……これは彼等ゴブリン達の最優先事項は【クインバース】の身を守る事だと設定されているので、この様に経験値獲得のペースを下げてでも拠点戦力の増大を優先しているのも有るが。
……だが、そこで彼等にとっては思わぬ来客が現れる事になったのだった。
『……大変です! あの
『何だと! ……チッ、どうりで手応えが無いと思っていたらやはり生きていたか!!!』
『今すぐに護衛役と結界役は“女王”の守りを固めよ! 他は戻って来た者達も含めて迎撃だ!!!』
見張りに付いていたゴブリンからそんな報告を受けた【ハイゴブリン・キング】達は、即座に迎撃の準備を進めると共にそのゴブリンが指差した方角の空を見上げる……すると、そこには角が付いたペガサスであるデュラルとそれに乗ったリヒトの姿があった。
……そのまま上空を飛んで拠点の元に近づいて来た
『攻撃して来ました⁉︎』
『落ち着け! 向こうの狙いは荒いからただの牽制だ! 準備が出来た者から攻撃開始!!!』
その攻撃に前回の被害を思い出して怯むゴブリンも居たが、それらは【キング】が一喝するだけで直ぐに落ち着きを取り戻して上空にいる彼等への攻撃や、相手の攻撃に対する防御など自らの役割を忠実に行い始めた。
『《スナイプアロー》!』
『《ヒート・ジャベリン》!』
『《スプレッド・アロー》!』
『《サンダー・スマッシャー》!』
そして先程の戦闘と同じ様に地上にいる対空攻撃可能なゴブリン達が、一斉に上空にいる彼等に向かってアクティブスキル混みの矢や魔法を放ち始めた。
……その対空攻撃は先程と同く回避を許さぬ様に彼等の周囲を覆う様に広範囲にばら撒かれる物と、直接彼等を狙う物に分かれて放たれ……リヒト達に当たる起動を描いた攻撃は全て彼等を
『攻撃が擦り抜けた⁉︎』
『今度はどんな能力……⁉︎』
『……いや! アレは
ゴブリン達が上空に居たリヒト達がよく出来た幻影だと気付くその直前、その反対側に居た【クインバース】の直上まで姿を消して接近していたリヒト・デュラル・ミカの三人はそのまま超超音速での急降下を行なっていた。
……これはリヒトが所有する特典武具【螢幻布 ホタルンガ】のもう一つのスキル《イリュージョン・ダブル》──本人及びその騎乗対象と同じ姿の幻影を作り出すスキル──を事前に使っていたからである。
◇
……これはゴブリン達がリヒトの幻影を発見する少し前の事である。
「……おお、リヒトさん達がもう一人」
「この幻影を囮にしてゴブリン達の目を引き付けて、その隙に隠密状態で【クインバース】の近くまで接近する。……どうせ十秒もあれば気付かれるだろうが、それだけあれば超超音速で近付いて一撃入れるぐらいは何とかなるだろう」
『後、幻影の中に風属性と聖属性の魔法を仕込んで遠隔発動させればよりバレ難くなるだろう』
そうしてリヒトは《イリュージョン・ダブル》で作られた幻影をゴブリンの拠点に向かわせつつ、自身は姿と音を消して向こうの探知結界に掛からない様大きく上空を迂回して【クインバース】の元に接近していった。
「それじゃあミカ君、君を《第三の手》で保持するから準備はいいか。……一応、君のメイスを含めて念力で保持するから大丈夫だと思うが、なるべくしっかりと握っておいてくれ」
『空気抵抗軽減の魔法は念入りに掛けておいたし、衝撃対策として君の体表面に結界を張っておいたが、これから行う事が事だから気休めぐらいに思っておいてくれ』
「分かりました大丈夫です。……手と【ギガース】を布で縛ってみたけどやっぱり気休めかな」
そう言ったリヒトは《第三の腕》で【ギガース】を握り締めたミカを宙に浮かせて自分の横に固定した……尚、現在のミカの姿勢は【ギガース】の柄を両手でしっかりと掴み、自分の頭の上に【ギガース】の頭部が来る様にしながら空中で横になっているという側から見るとややシュールな光景だったが。
「……よし、敵が囮に食いついた。行くぞミカ君!」
「はいっ!」
……そしてゴブリンの拠点の上空にまで来ていた彼等は、光学迷彩を解除しながら一気に超超音速で斜め下に居る【クインバース】の元へと突っ込んで行ったのだった。
◇
その様にしてゴブリン達の裏を書く事に成功したリヒトは、各種加速系アクティブスキルを使って護衛のゴブリン達が気付くよりも早く【クインバース】を《第三の腕》の射程圏内──100メートル以内──に収める事に成功していた。
……尚、この《第三の腕》は“腕”であるが故に使用者であるリヒトと保持している物体は相対距離で固定される、つまりリヒトが超音速で移動しても隣に保持しているミカは《第三の腕》を動かさなくても同じ様に移動する仕様である。
「今だっ!!!」
「──────ッ!!!」
それはつまり、超超音速で移動している最中に《第三の腕》を前方に移動させた時の速度は『移動速度+《第三の腕》を動かす速度──リヒトのAGI』になるという事である。
……故に、今《第三の腕》によって前方に射出された
『……不味い⁉︎ “女王”が危ない!!!』
『“女王”を守……!』
『結界を……⁉︎』
その圧倒的な速度はゴブリン達が【クインバース】を守ろうとするよりも早く玉座を守る結界までミカを到達させ、その速度によって得られた圧倒的な攻撃力は“攻撃力を基準としてあらゆる防御系スキル効果を低下させる”パッシブスキル《バーリアブレイカー》の効果を最大限に引き出している。
その結果、先端に配置しておいて【ギガース】が結界に触れた瞬間、超級職の奥義すら一撃なら凌げる程の強度だった結界はまるで紙切れの様に消し飛び……。
『……あ』
……そのまま相手が何かを言うよりも早く一発の弾丸と化したミカは【クインバース】の上半身部分に突き刺さり、最後の砦である《ゴブリンエンパイア》の身代わり効果を《バーリアブレイカー》で無効化してその身体を上半分を跡形も無く吹き飛ばしたのだった。
【<UBM>【鬼仔母身 クインバース】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミカ・ウィステリア】がMVPに選出されました】
【【ミカ・ウィステリア】にMVP特典【鬼身腰帯 クインバース】を贈与します】
……後、こんなアナウンスが表示されたのだが【クインバース】を貫通して超超音速で地面に突っ込んだミカにはそれを確認する余裕は無かった様だ……。
あとがき・各種設定解説
妹:人間砲弾(生死不明)
・色々と自分の才能に思う所がある系の天災児。
・尚、MVPに関しては《バーリアブレイカー》で結界や身代わり効果を破った事と直接トドメを刺したのが大きかった模様。
リヒト・ローラン:歴戦の戦士なので人を見る目はある
・尚、観察や推理の基礎は昔世話になっていた【聖焔騎】から教えてもらったものだと言う裏設定があったりする。
・今回も幻影を上手く動かしてゴブリン達の注意を引いたり、《第三の腕》を精密に操って芋を【クインバース】に直撃させたりと要所で活躍している。
デュラル:魔法技術は非常に高い
・その技術は魔法を発動待機状態で遠隔操作しながら、妹に衝突時の反動や射出時の負担を大幅軽減する防護結界と空気抵抗軽減魔法を展開出来る程。
【鬼仔母身 クインバース】:防御貫通人間砲弾に粉砕された
・敗因としては結界と《ゴブリンエンパイア》に頼り過ぎて守りが疎かになっていた事が挙げられる。
・これは自身の子供を失った所為で【クインバース】の心にはどこか虚無的な感情があったため、フランクリンなどの様に徹底した執着が持てなかった事も理由だったりする。
・尚、彼女は死んでも産み出されたゴブリン達が消える訳では無い。
読了ありがとうございました。
実にギャグっぽい討伐の仕方だけど本人達は大真面目です……というか、これ以外に【クインバース】を倒す方法が思いつかなかった(作者が)とも言う。