□<墓標迷宮>地下18階
『……!』
「グッ⁉︎」
……突如として<墓標迷宮>の壁面から現れてレントの首を刈り取った逸話級<
「なっ⁉︎」
「レント⁉︎」
『BURUA⁉︎ (レント殿⁉︎)』
まずは動けなかったアット、リゼ、ヴォルトの三名……この内アットとリゼの<Wiki編纂部>組は事前の【ブラックォーツ】との交戦で
尚、ヴォルトは同種の中でも人間と遜色無いレベルの高い知能を持っているので、もし野生のままであれば『全力で逃亡』という“最適解”を選ぶ事が出来たのだが、テイムモンスターとして信頼を抱きつつあったマスターがやられた事で咄嗟の判断が出来なかった形である。
……そしてもう一つは【ブラックォーツ】に対して即座に対応した
「……【ブローチ】が無ければ即死だったぞっと!!!」
『……⁉︎』
自らの命の代わりに砕けた【救命のブローチ】を懐から零しながらも、レントは己の首を刈り終わった【ブラックォーツ】に対してカウンターの蹴りを放って押し出しつつ距離を取った。
ちなみにこの【救命にブローチ】は以前<墓標迷宮>のボスを倒した際に手に入れた物で、その後レベリングの為に単独で行動する兄に付けておいて欲しいと渡した物だったりする……それから一度も命の危機には合わなかったので装備したままだったのが幸いした形になったのだ。
……更に蹴り飛ばされて態勢を崩した【ブラックォーツ】に対し、三兄妹は即座に三方向に散って攻撃範囲を被らせる事無く同時攻撃が出来る位置を取った。
「お返しだ! 《クレセント・エッジ》!」
「《波動拳》!」
「《クエイク・インパクト》!」
そしてレントが降った剣から放たれた三日月型の聖属性斬撃波が、ミュウの正拳突きから放たれた衝撃波が、ミカが【ギガース】で地面を叩いた事で生じた地を這う振動波がそれぞれ【ブラックォーツ】に襲い掛かった。
『……⁈』
「……ふむ、
……だが、聖属性の斬撃波と魔力による衝撃波は【ブラックォーツ】の身体を擦り抜けてしまったのでダメージを与える事は出来ず、唯一地を這う振動波によって態勢を若干崩す事が成功した程度だった。
……これは【ブラックォーツ】のスキルの一つである《
「レント! そいつには武器も魔法も擦り抜けてしまう! 後、攻撃を受けると【治癒阻害】の状態異常を受けるぞ!」
「……ふむ、だが
「了解しました」
それを見たアットは【ブラックォーツ】が警戒して様子見をしている間に自分達が交戦した結果得た情報を簡潔にレント達へと伝え、それを聞いたレントは先程の攻防から得た情報を踏まえて“最適”と思われる指示を出した。
……それとほぼ同時に様子見を終えた【ブラックォーツ】が亜音速を超える速度でレント達に向かって来た。
『……!』
『《
「分かりましたよミメ……では殴り合いましょうか」
だが、その突撃はスキルによって【ブラックォーツ】と同じ速度を得たミュウが割り込んだ事によって止められた……眼前に立ち塞がった相手に【ブラックォーツ】は即座に両腕の刃を振るうが、ミュウは立て続けに放たれるそれらの斬撃を次々と躱していく。
……この際に【ブラックォーツ】は《
『……! ……⁉︎』
「……まあ、殴り合う分には問題無さそうですね。《ソニックフィスト》!」
その内【ブラックォーツ】が自分の攻撃が中々当たらない事に焦れて僅かに斬撃が大振りになった隙をミュウは見逃さず、その一閃を紙一重で回避しながら懐に潜り込んで出の早いパンチを胸部に叩き込んで、相手の鉱石の様な身体の一部を砕きながら殴り飛ばした。
……それを見たミュウは僅かに下がりながら殴った拳を眺めて、少し思案した後に【ブラックォーツ】の能力に対する自分の考察を述べた。
「……アレを殴った際に籠手では無く生身の拳が当たりました。おそらく、あの透過のタネは
「まあ、俺の剣を擦り抜けて首に直接当たっていたからな。闇属性魔法みたいな感じか」
「走ってたし、地面を揺らすのも効いてたから“接地”はしてるっぽいけどね」
そう、彼らの推理通り
更にMPを微量に消費する事で任意の生物以外の対象に接触する事も可能であり、接地程度であれば自然回復で賄える程度のMPしか消費しない事もあって高いAGIを使って走る事も問題無い。
……人間が使う“ほぼ”あらゆる武器や魔法・スキルを無効化出来るこのスキルは非常に強力な物であり、高いAGIと《断刻傷深》や奇襲戦術を組み合わせれば、武器や魔法が主軸だったからでもあるが現時点での<マスター>達の中でも高い実力を持つ<Wiki編集部>パーティーを無傷で半壊させられる程である……のだが……。
「……まあ、これ以上何か“奥の手”でも無ければ
「これだけ強力な防御スキルがあればENDやHPなんて基本的に無駄だろうからな。……じゃあミュウちゃん任せた」
『……!』
そう言ったミュウはレントと僅かに言葉を交わした後に、再び【ブラックォーツ】に突っ込んで格闘戦を挑みに行った。
確かに【ブラックォーツ】は強力な<UBM>であり《暗黒晶身》は最高クラスの防御スキルなのだが、それだけのスキルを身に宿すが故に“いくつかのデメリット”を背負ってしまっているのだ……例えば、ステータスの内HPとENDが亜竜級以下ぐらいまで低い事などとか。
『……! ……⁉︎ ……⁈』
「確かに貴方は速いですし、攻撃の威力も高いのですが……余りに技術と経験が足りません。師匠や格闘家ギルドのティアン達と比べても劣ります」
そんな事を言いながら、ミュウは当たり前の様に【ブラックォーツ】が立て続けに振るう両腕を回避しながら、スキルすら使わないただの拳による通常攻撃でその身体を徐々に砕いていった。
この【ブラックォーツ】はスキルとして高レベルの《剣術》《体術》なども保有しているが、【許可証】を手に入れた<マスター>に対応する為に最近<墓標迷宮>に派遣されたので、戦闘経験自体は<Wiki編集部>との戦いを含めても数える事しか無いのだ。
……故にスキルによる技術に経験が追い付いていないので攻撃の組み立てや間合いの取り方が甘く、そこをミュウに付け込まれて徐々に追い詰められている状態である。
「まあ、技術云々はともかく戦術が未熟なのは事実だよな。……奇襲が失敗した時点で床抜け・壁抜けで逃亡して、再度奇襲を仕掛けた方が良いだろうに」
「……それは分からなくも無いが、妹が一人で戦っているのに随分と余裕だな」
「ミュウちゃんなら問題無いかな。私達が迂闊に攻めると足手まといになりそうだし。……それに相手の逃亡や切り札にも気をつけないといけないしね。ミュウちゃんもそれを警戒してスキルを使わない手数重視で攻めてるからね」
『BURURU……(成る程……)』
そうやって外野が邪魔にならない程度に話している間にも、ミュウは【ブラックォーツ】の攻撃に対応してしまい双剣を掻い潜ってその懐に潜り込んだ……が、突如として【ブラックォーツ】の胸部から
……直前にその攻撃に気付いたミュウは咄嗟にバックステップで距離を取って直撃を避けたが、それでもいくつかのかすり傷を負ってしまう。
「チッ! やはり奥の手を隠し持っていましたか!」
『……!!!』
そして距離が開いた所で【ブラックォーツ】は胸部の剣を引っ込めると同時に後退、間合いを広げた所で両腕を高速で伸長させて両手に付いた剣による
……これが【ブラックォーツ】の奥の手であるMPを消費して自身の肉体の鉱石をある程度変形させる事が出来る、いくつかの鉱物系エレメンタルが簡易的な肉体修復や環境への適応の為に所有しているスキル《マテリアル・ディフォーム》である。
「ッ! 距離を取られましたか!」
『……! ……!!!』
不意打ちの遠隔斬撃をミュウはギリギリで回避し続けるが、いきなり攻め手のパターンが変わった所為か完全には避けきれず肉体にいくつかの切り傷が付いてしまった。
それをチャンスと見たのか【ブラックォーツ】は腕部の伸縮を更に高速化させてミュウを攻め立てていく……生物による直接攻撃以外が通用しない【ブラックォーツ】にとって“距離を離して戦える”というのは非常に強力であり、それがただの形状変形スキルである《マテリアル・ディフォーム》が“奥の手”となっている所以である。
『……! ……! ……!!!』
「……さて、このままだと近づくのは少々面倒ですね……私一人なら」
このまま攻め続けて【治癒阻害】の状態異常で体力を削っていけば勝てると【ブラックォーツ】は考えていたが、ミュウは
『ミュウ、受けた攻撃は全部“ストック”出来てるよ』
「……ふむん、こういう奥の手だったか。遠隔攻撃とは予想していたけど、アレならどうにかなるかな」
「アット、少し聞きたいんだがアイツと戦った時に使った魔法で……」
……自分の“頼りになる味方達”による反撃の準備が整うまでの時間を稼ぐ為に。
◇
「……いや、
「やってみる価値はありますね! 私達も使えますよ!」
『まかせろー。わがはらからのかたきうちだー』
「じゃあアット達は準備しながら俺のが効いた時に追加で頼む」
「……話は終わった? それじゃあ私はミュウちゃんの援護に行ってくるよ」
レントがアット達にした確認が済んだ所で、ミカは攻撃をさばき続けているミュウを助ける為に【ギガース】を構えて【ブラックォーツ】の攻撃範囲内まで高いSTRを使った踏み込みで突っ込んで行った。
『……⁉︎ ……!!!』
「ミュウちゃん! 一発だけ防ぐ!」
「了解なのです!」
いきなり突っ込んで来たミカに【ブラックォーツ】は一瞬怯むものの、即座に相手が自身よりも遥かに遅い上に手に持っている武器では自分を傷つけられないと判断して一刀両断するべく腕の一本を伸長させて大上段から斬撃を放った。
……だが、持ち前の“直感”で斬撃のタイミングと軌道を先読みしていたミカは、それに被せる様にして同じく大上段から【ギガース】を振り抜いた。
「《ハードストライク》!」
『……⁉︎ ……! ⁉︎! ⁉︎』
振り下ろされる刃にドンピシャなタイミングで激突した【ギガース】は、防御系スキルを低下させる《バーリアブレイカー》の効果で《暗黒晶身》を無視して【ブラックォーツ】の片手を粉々に打ち砕いた。
……そして、大きなダメージに【ブラックォーツ】が動揺した隙をついてミュウは再度の接近を試みた……のだが、一瞬早く正気を取り戻した【ブラックォーツ】は一旦全力で距離を取って時間を稼ぎつつ、壁か床を擦り抜けて逃げようとしたのだ。
「……《魔法射程延長》《魔法威力拡大》《ダークリング》」
『ッ⁉︎』
……だが、バックステップしようと地面を蹴る直前に黒いリングが【ブラックォーツ】の右足に嵌って、その動きを一瞬だけ止めた……その正体は対象に黒いリングを嵌めて動きを短時間【拘束】する闇属性の下級魔法《ダークリング》であり、それを使ったのは後ろで待機していたレントであった。
「やっぱり闇属性は効くみたいだな……アット!」
「分かってる! 《ダークリング》」
「《ダークリング》!」
『《だーくりんぐ》』
それが効いたと見るや否や<Wiki編集部>メンバー達も同じ魔法を行使して【ブラックォーツ】に次々と黒いリングを嵌めていった……そう、スキル《暗黒晶身》は生物にのみ干渉する闇属性の特性を利用している為、『闇属性は同じ闇属性で干渉出来る』という特性が付いてしまっているのだ。
……尚、作成時に同じ闇属性の弱点である光属性や聖属性を透過させる事には成功したのだが、スキルに使えるリソースと闇属性エレメンタルである【ブラックォーツ】が《闇属性耐性》を持っていた関係でこの特性は修正せずに放置されていたのである。
『……⁉︎ ……! ……!』
しかし、所詮は下級魔法である事と【ブラックォーツ】に備わっている《闇属性耐性》のお陰で数秒【拘束】した程度でリングは砕け散ってしまった……が、それだけの時間があればAGIが亜音速を超えるミュウが接近するには十分な時間だった。
『《
「捉えた《ブラストアッパー》!」
『ッ!?』
接近したミュウは、そのまま【ミメーシス】のスキルで攻撃力を増大させたアッパーで【ブラックォーツ】の顎を打ち抜いて砕きながら空中に打ち上げて逃走を阻止した。
『《攻撃纒装》《攻撃纒装》《攻撃纒装》!』
「《スライスハンド》《回し蹴り》《掌底》!」
『ッ! ッ⁉︎ ッ!?』
そして、ミュウが空中にいる【ブラックォーツ】が床や壁を擦り抜けて逃げられない様に、吹き飛びにくいスキルによる連続攻撃を行なっていき、更にミメが先程の攻防で限界までストックした《攻撃纒装》を次々と消費して威力を増大させた。
……結果として【ブラックォーツ】は空中に固定されたまま、その肉体を端から砕かれていった。
『《攻撃纒装》!!!』
「《真撃》《瓦割り》!」
『ッ!!! ……』
最後に《攻撃纒装》と【
◇
【<UBM>【刻傷黒晶 ブラックォーツ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミュウ・ウィステリア】がMVPに選出されました】
【【ミュウ・ウィステリア】にMVP特典【黒晶首巻 ブラックォーツ】を贈与します】
「……ふぅ、このアナウンスが出たという事は倒せた様ですね。後、MVPは私ですか」
「まあ、終始ミュウちゃんが戦っていたしな。おめでとう」
「おめー」
そのアナウンスを見て残心を解いたミュウは手元に出てきた特典武具入りの【宝櫃】を手に取りながら眺めていたが、ふと何かに気が付いた様に後ろに居た<Wiki編集部>の方に振り向いた。
「そんな訳で特典武具は私が頂く事になりました。……先にそちらが遭遇したのにすみません」
「……え? ああ、いや私達は実質敗北してましたし……」
「今回のMVPに関して文句をつける気は一切無いから。……しかし、俺達があれだけ苦戦した<UBM>をこうもあっさりと討伐するか……正直、驚きを通り越して言葉が出ないな」
「あの【ブラックォーツ】は相性的にミュウちゃんが完全に突き刺さっていたからな」
「私だと防御は突破出来てもAGI差がキツイしね」
そうして彼等は自分達の今後の行動について話し合ったのだが、ミュウが【治癒阻害】付きの傷を負った事と<Wiki編集部>のメンバーがこれ以上の戦闘は無理だと言う事で全員が【エレベータージェム】を使って地上に帰還する事になった。
「……ただ、この【エレベータージェム】って発動に少し時間が掛かるから、戦闘からの離脱には使えないんだよな」
「ヴォルト《
「しかし<墓標迷宮>って<UBM>も出るんだね」
「今度Wikiに乗せて、掲示板にも書き込みましょう」
……そんな会話を最後に彼等の<墓標迷宮>探索は終わったのだった。
あとがき・各種設定解説
末妹:初特典武具ゲット・詳細はいずれ
・ちなみに《攻撃纒装》の連続使用は前々から<UBM>クラスの相手を想定して練習していた。
《瓦割り》:【武闘家】で覚えたスキル
・鉱物系オブジェクトや鉱物系のモンスターに対して攻撃力を増大させる拳を放つスキル。
《ソニックフィスト》《ブラストアッパー》:拳士のスキル
・それぞれ加速しながら殴るでの早いアクティブスキルと、殴った相手を打ち上げるアッパー攻撃のアクティブスキル。
・尚、末妹はこれらのスキルの特性を全て把握している。
兄:闇属性魔法の特性については以前に魔法ギルドとかで調べていた
《ダークリング》:【魔術師】で覚えられる闇属性下級魔法の一つ
・目視している生物の肉体に黒いリングを嵌めて、その部分だけに【拘束】の状態異常を掛ける魔法。
・リングが嵌った部分の肉体にしか【拘束】の効果は及ばず、効果時間も短くて発動にもやや時間が掛かるが、その分効果の強度は下級魔法としてはそこそこ高い。
妹:今回は要所で活躍
・今回は相手が普通に倒せる範疇だったので“直感”はそこまで機能していない。
<Wiki編集部>:無事帰還
・特典武具こそ手に入らなかったが<墓標迷宮>での<UBM>情報が入手出来たのは大きく、掲示板などで宣伝する事でWikiの<墓標迷宮>項目の閲覧数が増えたらしい。
【刻傷黒晶 ブラックォーツ】:狙った相手が悪かった
・基本格闘か闇属性しか効かず、殆どの防御を擦り抜けて生身を高攻撃力で斬り裂く刃などの各種能力で奇襲性も高く、更に高いAGIと変形で直接戦闘も出来るという逸話級としては強力な部類の<UBM>。
・……だったのだが、格闘特化でステータスも互角に出来る末妹や防御効果を無効に出来る妹相手では優位性が活かせず、弱点である耐久性の脆さを突かれてあっさりやられた。
・最大の敗因は活動時間が少なかった事による経験不足により“侵入者を倒す”という命令に忠実過ぎた為、“相性の悪い相手とぶつかった際にすぐ撤退”という選択を選べなかった事。
・尚、この結果を受けてジャバウォックは『直接戦闘に拘り過ぎて透過能力による奇襲を活かしきれなかったのが問題だったな。……次の透過系<UBM>は直接戦闘ではなく【石化】などの致命的に状態異常と隠密に特化したヤツにするか』とコメントしたとか。
読了ありがとうございました。
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