□王都アルテア 【
私とミュウちゃんが夏休みの宿題を終わらせる為に自室で缶詰になる事リアル時間で三日ぐらい、どうにか日記とかの毎日やらなければならない宿題以外を終わらせる事が出来た……まあ、小学校の宿題なんて量が多いだけだし元々少しずつはやってたからね。私達もお兄ちゃんと比べなければ頭は普通に良い方だし。
……尚、私達が宿題に掛り切りになってる間お兄ちゃんは自室で悠々とベッドに寝ながらデンドロしてましたとさ。まあ私達のリルを渡してギデオン行きの準備をさせていたから文句は無いんだけど。
「そんでお兄ちゃん、準備の方はどんな感じ?」
「まず少し値段は高く付いたが《重量軽減》と《悪路走破》とかのスキルが付いた小型の馬車を買ったぞ。ヴォルト一頭で三人を引っ張るならそう言ったスキルがあった方が良いからな。それと【
「おおう……流石は兄様、準備は万端ですね。ありがとうございます」
「楽しい旅になりそうだね」
そうして私とミュウちゃんはお兄ちゃんが用意してくれたアイテムボックス──私が嵩張らない指輪型でミュウちゃんが格闘の邪魔にならないポーチ型、お兄ちゃんは少し容量が大きい小袋型だった──と各種消耗品を受け取りつつ、今まで使っていたアイテムボックスのアイテムを新しいヤツに詰め替えていく。
「……よし、詰め替え終わりって事で出発前にジョブを変えに行こうか。この前は宿題の為にカンストしてからそのままログアウトしちゃったし」
「そういえばそうでしたね。……私も【
成る程、ミュウちゃんはこのまま魔法拳士的なジョブ構成にする感じか……じゃあ、私はどうしようかな。一応候補の下級職はいくつか見繕ってるんだけど……。
「うむむ、私はジョブ構成を戦棍士系統をメインにした前衛型で行きたいから、サブジョブもそれに準じた物にしたいと思ってるんだよね。だから汎用スキルを覚えるヤツか戦棍士系統をメインにしていても使える前衛系ジョブを考えてるんだけど、中々ピンと来るヤツが無くて」
「じゃあ【適職診断カタログ】でも使うか?」
「使うー」
私はお兄ちゃんから渡された【カタログ】の質問によるジョブ検索機能を使い、今の私にオススメらしいジョブを表示させてみた……えーっと前衛系サブジョブ候補として【
他にもメイス含む打撃武器全般を使う【
……そもそも私は勘で攻撃を察知出来る以上《殺気感知》や《危険察知》は要らないよね。じゃあ【ギガース】の特性を活かすために物理ステータスに特化したジョブに就くのもありかな。今メインにしてる【壊屋】もジョブスキルは殆ど使って無いけど高いSTRも役に立っているし。
「……うん、じゃあ次のジョブは【狂戦士】にしようかな。ステはSTRとAGI特化だから相性は悪く無いし《バーリアブレイカー》はパッシブスキルだから、アクティブスキルが使えなくなる事が多い狂化系スキルも最終手段としてぐらいは使えるでしょう」
「姉様も就きたいジョブが決まったみたいですし、さっさと済ませてギデオンに行きましょうか」
「それと冒険者ギルドで何かギデオンに行くついでに熟せるクエストも探してみるか」
そうして私とミュウちゃんはそれぞれのジョブに就けるジョブクリスタルでメインジョブを変更した後、そのまま冒険者ギルドでカタログを見繕って適当なお使い系クエストを受注する事にした。
内容は難易度:二ぐらいの【配達依頼ー決闘都市ギデオン ギルド間配送】という当たり障りの無い物だったけど、報酬が3万リルと結構良かったからね。
……まあ、期限は三日以内だし荷物を持ち逃げした場合には刺客を送るとか言う物騒な注意書きが書いてあったけど……冒険者ギルドってその手の懲罰部隊とかいるのかな?
「で? そこの所はどうなのアイラさん?」
「当冒険者ギルドにはそのような物はありません(大本営発表)……というか、この冒険者ギルドは現役を引退した冒険者の再就職先の一つでもありますから結構高レベルの職員とかもいるんですよ、私とか。……犯罪者はそういったギルド職員や騎士や雇った冒険者で捕まえる様になってます」
「説明ありがとうございます、アイラさん。……ミカ、あんまり変な事を聞くんじゃない」
テヘペロ、ごめんなさーい! でもあんな注意事項が書いてあったら気になるよね? ……まあ、そんなこんなで私達はクエストを受注したのだった。勿論アイラさんにもちゃんと謝りました。
「……では、こちらが皆様に運んでもらう荷物になります。それと最近、王都からギデオンへの街道を行く商隊で行方不明者が時折出ているのでご注意下さい」
「分かりました、気を付けます」
「まあ、今の私達なら道中に<
「……姉様、それはフラグと言うのでは?」
大丈夫大丈夫、私の“直感”だとギデオンまでの道中では何か強敵と遭遇する感じはしないし……ただ、何故か“何も無い”気もしないんだけどね。
……そんな会話をしているとアイラさんが何か感慨深そうな顔になっていた。
「? どうしたんですか、アイラさん?」
「いえ、最初に指導した時と比べて皆さん見違えましたねと思っていたんですよ。いずれ強くなるのは分かっていましたけどここまで早いとはね。……最近では【
「へー、そんな事もやってるんですか?」
何でも教師ギルドと冒険者ギルドの共同でやっているんだとか。この世界で戦闘者としてやっていくのに必要な常識とかも教えてるから、非常識な行動が減る・やる事が分かりやすいとティアン・<マスター>共に結構好評らしい。
……でも、ちょっと長く話しすぎたのか受付に列ができ始めてきたね。お兄ちゃんとアイラさんもそれに気付いたみたい。
「……余り長く話をする訳にもいかんな。次の人が待っている」
「そうですね。……それでは皆様お気をつけて」
……とまあ、そういう訳で私達はクエストの荷物を受け取った後、アイラさんの見送りを受けて王都の南にある決闘都市ギデオンへと向かうために南門を潜って<サウダ山道>へと出たのだった。
◇
「おー! 馬車なんてのに乗るのは初めてだけど意外と乗り心地がいいね。もっと揺れるかと思ってたよ」
「速度も思った以上に早いですし、振動の方もリアルの車と対して変わりませんね」
「クッションもあるしね」
そうして王都を出て<サウダ山道>を南に進んでいた私達は思ったよりも乗り心地が良い馬車の旅を満喫していた……ちなみに私達が乗っている馬車は御者を含めて五人ぐらいが乗れるサイズの小型二輪馬車であり、それを引いているのは
「まあ、この世界にはリアルと違って『スキル』と『ステータス』があるからな。この場合は馬車に付けられてる《悪路走行》のお陰だろう。現実と違って街と街を繋ぐ道もモンスターがいるせいでまともに舗装されていないから、こういうスキルはこの世界での主要な移動手段である馬車には必須らしいぞ。STRがある程度あればモンスター一体でも普通に馬車を引けたりするしな」
『BURURU、BURURU(亜竜級まで進化すれば普通に馬車を引くぐらいは問題無いですね)』
ちなみにヴォルトは進化前だとMPとAGIが高いタイプだったので、馬車を買った後に試しに引いてみたら人間三人を乗せて長時間馬車を引くのはちょっとキツかった事が分かったらしい。
それに気が付いたお兄ちゃんは急いで【
……まあ、そうやって経験値稼ぎをしていたらヴォルトが亜竜級に進化してSTRはどうにかなってしまったのだが、今度は従属キャパシティの方がキツくなったので【
「……それはまた二転三転したんですね。色々と準備をして下さってありがとうございました兄様」
「まあ気にするなよ、お陰で俺もヴォルトもレベルも大分上がったしな。それに転職条件を満たして【
『BURURURURU(まさかここまで早く亜竜級に進化出来るとは思いませんでしたが)』
まあ、お兄ちゃんの場合どんなジョブのレベルを上げても無駄にはならないだろうからね……っと、右の森から何か来るね。
「お兄ちゃん右からー」
「ああ分かってる。《魔物察知》にも反応があったからな」
『BURURU(来ますね)』
『『KISYAAAAAA!!!』』
私がお兄ちゃんに警告した直後、街道の右にある森から二匹のクワガタムシ型魔蟲系モンスター【スラッシャー・スタッグ】が名前通り鋭い刃になった顎をキチキチと鳴らしながらこちらへ飛んで来た。
……モンスターの少ない街道とは言えフィールドだからね、こうしてそれなりの頻度で襲われる事もある訳ですよ……お兄ちゃんやヴォルトも周囲の索敵は欠かしてないしね。
「ああいう下級モンスターならどうとでもなるんだがな、俺は右をやる……《ヒート・ジャベリン》」
『BURUAA! (《ライトニング・ジャベリン》!)』
『『SYAAAA!!!』』
そして飛来して来た【スラッシャー・スタッグ】二匹は、お兄ちゃんとヴォルトがそれぞれ放った炎と雷の槍で貫かれて出オチ気味に倒されたとさ。
……とまあ、モンスターに関しては一向に問題は無いんだよね。大体お兄ちゃんとヴォルトの遠距離攻撃で先に倒せるし、それで倒しきれない程に多ければ私とミュウちゃんが馬車から降りて相手をするだけで済んでるから。
「お兄さんもヴォルトもお疲れ様。索敵に戦闘に大変だね」
「索敵に関してはミカが事前に報告してくれるし、ヴォルトも手伝って交代でやってるからな。お陰でMPやSPにも余裕がある」
『BURURURU、BURURU(野生の草食系モンスターにとって周囲の索敵は重要でしたからね)』
ちなみにヴォルトは元々《殺気感知》や《危険感知》を高レベルで持っていた──ヴォルトの言葉を翻訳したお兄ちゃん曰く『コレがないモンスターは直ぐに死ぬ』そうである──上に、自分より強い存在の位置が分かるパッシブスキル《強者感知》まで持ってるので索敵役としても問題無い模様。
……尚、肝心の騎乗戦闘はもうちょいらしい。何でも進化した時に雷属性スキルの制御能力が上がる《雷電制御》というパッシブスキルを習得したので、スキルレベルを上げればいけると言う見込みだとか。
「うん、実に順調な旅路だね。これなら無事にギデオンに着きそう」
「姉様がそう言うなら安心ですね」
そんな感じで私達は馬車での旅路を楽しみながらギデオンまで進んで行ったのでした……ただ、危険は無い気はするんだけど
◆◆◆
■□<ネクス平原> 【
そこは決闘都市ギデオンの北にある<ネクス平原>……その深夜の街道沿いで一つの顔の下半分を隠す覆面と帽子を付けた黒尽くめの人影が
……よく見るとその人影は小柄であり身体に丸みを帯びている事、そして覆面に隠されていない青い眼や帽子から見える金髪から人影は少女だと分かる。
「ハァ……ハァ……重いね。《懸架重量軽減》も効果は薄いか……」
……もしその少女を誰かが見ていればアイテムボックスに物体を収納出来るこの世界において態々荷袋を使って物を運ぶ事に不自然さを感じるかもしれないが、それ以上に運んでいる等の少女の必死さの方が目に付くかもしれない。
(どうにかこの『忌まわしき呪物』を盗み出す事には成功したけど、追っ手を巻く為とはいえ逃走ルートを北にしたのは失敗だったね。南や西なら森に隠れて離脱出来たのに……このルートに気付かれるのも時間の問題だし、なるべく早くギデオンから離れないと)
そう考えながらも少女は更にスピードを上げて<ネクス平原>を駆けて行く……一見小柄で華奢に見えるその少女だが、盗賊系統派生上級職【怪盗】の他に【
(なるべく遠くに離れてこの『呪物』を誰にも知られない場所に……チッ!)
『『『GYAAAAA!!!』』』
そうして走っている途中、少女は取得していた《危険察知》に反応を感じて咄嗟に短剣を引き抜いた……直後、夜闇に紛れていた三体の黒い狼型モンスター【ブラックナイト・ウルフ】が少女に襲い掛かった。
「邪魔っ! 《スリーピング・ファング》! 《パラライズ・ファング》!」
『GEE⁉︎』『GAA⁉︎』『GUU⁉︎』
だが、少女は素早く短剣を振るって狼達を斬りつけて【強制睡眠】や【麻痺】の状態異常にする事でその動きを封じ、そのままトドメも刺さずに走り抜けていった。
(こんな所で足止めを食らう訳にはいかない。……この『呪物』を盗み出すのに予定より時間が掛かったからもうすぐ夜が明けてしまう……その前になるべく遠くへ……!)
……そうして狼の群れを切り抜けた少女は再び夜闇の中を駆けて行くのだった。
あとがき・各種設定解説
三兄妹:宿題は無事終了
【
・名前通り雷属性のスキルを駆使する亜竜級の馬型モンスターで、MP・AGIに長けておりHP・STR・ENDもそこそこ高い万能型のステータスを持つレアモンスター。
・ヴォルトの場合だとよりMPに特化している分だけ物理ステータスはやや低めだが、サイズはそんなに大きくなってはいないので騎乗も充分に可能。
・更に《雷電制御》《ライトニング・ジャベリン》など兄との訓練の影響を受けた制御性上昇スキルや、効果範囲が狭い代わりに威力の調節が効きやすいスキルを追加で習得している。
【調教師】:調教師系統下級職
・テイムモンスターを育成するジョブの内『モンスターのスキルや技術』を成長させる事に特化したジョブ。
・主なスキルとして一つのスキル指定して、それを成長させられる訓練をする事でスキルレベルの上昇率に補正が掛かる《調練》などがある。
・また上級職である【
謎の怪盗少女:『呪物』と呼ぶ何かを盗み出した様だが……?
【輸送隊】:荷運系統上級職
・物を運ぶ事に特化した【荷運】系統の上級職で、奥義であるパッシブスキル《
・この場合の輸送補助スキルとは【荷運】で覚える輸送物の重量を軽減する《懸架重量軽減》やアイテムボックスの容量を拡大する《収納容量拡大》の他、《悪路走破》《持久力上昇》《盗難防御》などのいくつかの輸送に使える汎用スキルなども含まれる。
・戦闘用のジョブでは無いので戦闘スキルは覚えないが輸送に必要なSTRとAGIはそこそこ伸びる上、“物を運ぶ”と言う共通項から盗賊・強盗系統がメインでもジョブスキルを使えたりする。
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