とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

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前回のあらすじ:妹「家族がガチャ廃人かぁ」末妹「リアルでも昔問題になってましたしね」兄「この件は“あくまで他人”である俺達に出来る事は少ないだろうな」


呪物()と怪盗少女の結末(前編)

 □<ネクス平原> 【狂戦士(バーサーカー)】ミカ・ウィステリア

 

 そんな訳で私達はシルビィさんが金庫を運びながらフィールドに出ていた事情──母親の死が切っ掛けでガチャ狂いになってしまった父親を元に戻す為、そのガチャが入ってくる金庫を盗み出して始末しようとしているらしい──を聞いた訳なのですが……一つ彼女に言っておく事があるかな。

 

「とりあえずシルビィさんは一度ギデオンに戻った方が良いんじゃないかな?」

「……やっぱり協力はして貰えないんですね。……いえ、流石に出会ったばかりの貴方達にこんな犯罪の片棒みたいな事をやらせるのは、自分でもおかしい事は分かってました……」

「ああいや、そうじゃなくて……お兄ちゃんも言ったけどもう一度お父さんと話すべきだって事。……シルビィさんがそこまで思いつめてこんな行動を取った事をお父さんが知ったのなら、ガチャについても考え直すかもしれないじゃん」

 

 少なくともその父親に真っ当な親としての情が残っていれば、クソ重い金庫を持ち出してまで家出した娘を見て自分の行いを反省ぐらいはすると思うんだよね。

 ……それでもダメだったら? 流石に他所様の家庭環境をどうにかするのは私達でも難しいしなぁ……。

 

「……ええと……それは……」

「まあ、ミカの言う事も最もだろうよ。その親父さんは奥さんを失った悲しみからガチャに逃げるぐらいに家族思いなんだろう? だから娘が悩んでここまでしたと知ったらガチャ狂いの酔いも覚めるんじゃないかね。……それでもダメなら目の前でガチャをぶっ壊すとかすれば良いだろ」

「確かにそっちの方がインパクト有りそうですしね」

 

 私の提案を聞いたシルビィさんは冷静さを取り戻したのか顔を俯けて、そこにお兄ちゃんとミュウちゃんのフォローが入って更に深く何かを考え込む様に黙ってしまった。

 ……よしよし、どうもかなり思い詰めていて視野が狭くなっていた彼女も私達の言葉を聞いて大分冷静さを取り戻して来たみたいだね。このまま放置していると、多分一人で向こう見ずな行動を取ってそのまま死ぬ可能性が高いみたいだし。

 

(こうやって知り合ってしまったから、このまま死にに行くのを見過ごすのは私の精神衛生的に悪いし……貴女がどうなろうとも()()()()助かって貰うよ)

 

 ……私がそんなある意味“自分勝手”な事を考えている間に、シルビィさんは気持ちが落ち着いたのかどこかスッキリした顔を上げた。

 

「……そうですね。まずはもう少しお父様と話をしようと思います。……改めて思うとちょっと私は色々と思い詰めすぎていたみたいですね。皆さんのお陰で気付く事が出来ました。本当にありがとうございます、何かお礼が出来れば良いんですが……」

「いやいや、一人では“これしか無い”と思い詰めていた事でも、他人に相談してみたらあっさりと解決策が思い付くとかはよくある事だからね。私達は話を聞いただけだしそんなに気にしなくて良いよ」

「そうですよ」

「これからは単独で荷物を持ってフィールドに出るとかしなければ構わないさ。……今回は運が良かったが次は無いだろうし」

 

 そんな感じでシルビィさんはお父さんともう一度話をしてみる事にした様です……ふう、これで彼女がモンスターに喰い殺されそうなルートは回避出来たかな。私の考えを読んだお兄ちゃんも忠告してくれたし。

 ……さて、後は彼女を連れてギデオンに行けばひとまず解決になると思うんだけど……。

 

「じゃあ、この金庫を開けるとかの話はどうする? お兄ちゃんの『目の前で金庫ぶっ壊そうぜ!』作戦には中のガチャを取り出す必要があるし……付いてるダイヤルを適当に回せば開かないかな?」

「あの案はものの例えで言った事だから別に実行する必要は無いんだが……」

「ああ、その話は無しで良いですよ。今度はちゃんとお父様が分かってくれるまでじっくりと話会う気ですから。……それに、そのダイヤルは正しい数字を合わせない事が三回続くと、ダイヤルを回した人間に強力な呪いがかかるスキルが付いていますから」

 

 ほうほう、強力な呪いねー……ふーん……それなら行けるかな。三回でアウトなら二回はダイヤルを回しても安全って事だし……早速二回程適当に回しました(過去形)

 

「ちょっ⁉︎ ミカさん何を⁉︎」

「……よし、これで次間違えたら“危険”って訳だね。……つまり()()()()()()()()を選べば……」

 

 そんな訳で慌てて静止してくるシルビィさんをスルーしつつ、私は“直感”をフル稼働させて金庫のダイヤルをチキチキ回していく……まあ、ダイヤルを弄りながら危険じゃない数字を選んで回して行くだけの、私にとっては簡単な作業なんだけど。

 ……えーっと、これとこれとこれと……ふむ、それとこれかな? 

 

「……よしっ! 開いたよー! シルビィさんどうぞー」

「嘘ぉ⁉︎ ……【怪盗(ファントムシーフ)】のジョブを収めた私ですら、金庫の所有権は身内だったからどうにかして変えられてもこの扉を開く事は無理だったのに……これが伝説の<マスター>の力……」

「流石にこんな事が出来るのはウチのミカ含めて何人も居ないだろうがな」

 

 なんか驚愕しながら考え込んでいたシルビィさんだったが、しばらくすると落ち着いたのか開いた金庫の中身を探り始めた……ふむ、この人はどうも一人で考え込む癖があるっぽいね。

 

「……まあ、何か色々と理不尽を見た気がしますが置いておいて、とりあえずこの金庫の中身を全部出してしまいましょう。……重量増加の呪いは中身が空っぽなら発動しませんからね」

「そういう仕様なんだ」

「そうしないと売る時や部屋に置く時とかに金庫を運べないしな」

 

 成る程〜確かにね〜……と、私がお兄ちゃんの解説に納得している間にシルビィさんは金庫の中から一つの長方形に箱の様な物を取り出していた。

 ……よく見るとその箱の上半分ぐらいは透明な素材で中に“複数のカプセル”が入っているのが見えており、下半分には回して使うらしきレバーと如何にも何か出てきそうな排出口が取り付けられていた……って、何処からどう見ても現実にある『ガチャ』そのまんまだね。

 

「これが私の父を狂わせた忌まわしき呪物……【ガチャ】です」

「……まあ、どう見てもガチャだな」

「ガチャだね」

「ガチャなのです」

 

 正直言って、このデンドロ世界には似つかわしくないぐらいに現実にあるガチャそのままのデザインだね……尚、こんな外見だけど中にはアイテムとかは入っておらず、投入したリルに応じたアイテムを何処からか呼び出している召喚器の様な物らしい。

 ……このデザイン的にどう考えても<マスター>相手にする前提で作ったでしょ運営ェ……。

 

「まあ、私が嫌っていただけで別にこのガチャ自体が呪われている訳では無いのですが。……まだ母が生きていた頃には遊びで回したりしていましたし」

「ふーん……ちょっと回してみても良いかな? 一回だけ、一回だけで良いから! お礼代わりに!」

「いや、ちょっとは空気読もうぜミカ」

 

 いやぁ、だってこういうゲームの中にあるガチャとか回したくなるじゃん……それにシルビィさんがこのガチャに向ける感情も大分柔らかくなってる感じがするしね。

 ……後は彼女が私達に対して申し訳なさそうな風にしてるから、このガチャを回す事をお礼って事にしてやろうと思ったんだよ。

 

「ええと……お礼をするのは構わないんですが、この盗みをする為の準備とかで今私はリルをあまり持っていなくて、このガチャから高価なアイテムを召喚する事は難しいかと……」

「ああいや、お金は当然コッチで出すよ。ただちょっとガチャを回させてくれれば良いだけだから。……<マスター>の場合だと『ガチャが回せる』というか事実だけでお礼になるからね!」

「そんな<マスター>は一部だけだと思うが……まあ、記念に一回ぐらい回すのも面白そうか」

「そうですね。沼に嵌ったりしないお遊び程度なら良いんじゃないでしょうか」

 

 私の提案を聞いてガチャから出て来るレアアイテム狙いだと勘違いしたのかシルビィさんが的外れな事を言ったけど、そこはしっかりと『<マスター>は未知や娯楽を求めるからガチャが回せるだけでお礼になる』的な事を言って納得して貰った。

 ……最も彼女からは『決して連続で回さず一回きりです!』と念を押されたりもしたが……別に私達は物珍しいガチャを回してみたいだけでガチャ狂いではないと説得するのは大変だったね。彼女の事情を考えれば当然だけど。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<ネクス平原> 【調教師(トレーナー)】レント・ウィステリア

 

 そんな訳でガチャを引く引かないに関して、俺達とシルビィさんの間で色々と話し合った結果『三兄妹で一人10万リルを1回ずつ回す』という事になった。

 ……なんかグダグダな感じの話し合いだったが、だからこそ彼女が抱いていた申し訳無さやらちょっと暗い雰囲気とかが大分薄くなった様な事だけは良かったかな。

 

「さあ、やって来ました! ガチャ十万リル一発勝負! まずはお兄ちゃんからだよ!」

「はいはい……俺は妹二人程リアルラックに恵まれていないんだがな」

 

 妙にハイテンションなミカに促されるままに、俺はガチャに一度に投入出来る最大額である十万リルを突っ込んでレバーを回した……ミカ曰く、適当な額を入れる様なチキン戦術は認めないそうだ。

 ……このガチャ、ステータスのLUCが影響とかしないかな。それなら各種補正のお陰で俺はこのパーティー内で一番高い数値なんだが……。

 

「……おお! カプセルが出て来たね。この辺りは現実のガチャと同じか……そんでカプセルには『C』って書いてある」

「Cなら投入した額を等価値のアイテムが出る筈です。なので十万リル相当のアイテムが入っている筈ですね」

「説明ありがとうシルビィさん。……まあ損はしてないなら良いかな。とりあえず開けるか」

 

 そうして俺がカプセルを開けると中から一つの赤い指輪が出て来た……《鑑定眼》で見た所【ウォーム・リング】という名前で、装備者への氷属性のダメージを僅かに軽減し、寒冷な環境でも体温を一定に保つ《寒冷耐性》スキルが付いていた。

 ……シルビィさん曰く、主に寒冷環境で行動する時に使うアイテムであり、その中でもアクセサリー枠で済むので割と高性能なアイテムらしい。

 

「……ただ、今の所は寒い場所に行く予定は無いんだよなぁ」

「まあまあ兄様、そう悪いアイテムじゃないんだからいいじゃないですか。次は私ですね」

 

 ミュウちゃんにはそうフォローされたが、昔から俺はゲームでのランダムアイテム入手イベントだと『性能は良いんだけど今求めてるやつじゃないよね』的なヤツしか当たらないんだよな。

 ……そんで、その横でリアルラックが高めな妹二人がレアアイテムを出すのが何時ものパターンで「おや? このカプセル『X』って書いてますね。ガチャ表にも無いレアリティですが」……ほらー。

 

「……『X』? そんなレアリティは私でも見た事が無いんですが……」

「シルビィさんでもそうって事は隠し要素みたいな物なのかな? とりあえず開けてみなよミュウちゃん」

「はい、分かりましたのです。……おっと、なんか()()()()()()()()()が出て来ましたね」

 

 ミュウちゃんが当てやがった『X』などという謎レアリティのカプセルを開かれると、その中には『銀色をしたメカニカルなデザインの大型拳銃』が入っていた。

 とりあえず《鑑定眼》っと……んん? 名前が【シルヴァ・ブライト】という事は分かったが、説明やスキル効果が殆ど見えないな。

 ……どうやら俺の《鑑定眼》スキルレベルではよく見えないレベルの代物の様だし、ジョブ的にスキルレベル高そうなシルビィさんに頼んで見て貰……なんかその銃を見てる彼女の顔が青いんだけど……。

 

「……えーっと、シルビィさん?」

「この金属光沢、まさか神話級金属(ヒヒイロカネ)ベースの合金⁉︎ しかもこの特異な形状からして火薬式の銃器では無く、現在では生産出来ないとされる魔法式の銃器ですか⁉︎ 加えて私の最大レベル《鑑定眼》でも完全にはステータスが分からないとなると……まさか先々期文明の……⁉︎」

 

 ……うん、さっきから彼女は俺達が声を掛けているのにも気が付かずに、顔を引攣らせながら【シルヴァ・ブライト】を凝視して、何やらぶつぶつと呟いている。

 ……なんか凄く不安になって来たんだが。相当に“ヤバい”アイテムなのか? 

 

「シルビィさん! シルビィさん!」

「ハッ! ……す、すみません! ちょっと集中していて……」

 

 ミカが彼女の名前を呼びながら肩を揺すったお陰でシルビィさんはようやく我に返った……さて、ちょっと怖いがこの銃が何なのか彼女に聞かねばならないか。

 

「それは別に良いです。……それでシルビィさん、この【シルヴァ・ブライト】は一体どういった物なのですか?」

「はい……私が鑑定出来た範囲ですが、この【シルヴァ・ブライト】は神話級金属合金で出来た超高性能な光属性の魔法式銃器だと思われます。装備レベル制限が“合計レベル1000以上”になっていたので、恐らく超級職(スペリオルジョブ)専用に調整された特注品かと。……また、デザインや私の《鑑定眼》でも機能が完全には分からなかった事から先々期文明の物品である可能性もありますが詳細不明ですね。単に現在ロストしている魔法式銃器の詳しい知識が私に無いのが原因かもしれませんし」

 

 ……確か神話級金属ってこのデンドロに於ける最高の金属の事だったよな。価格は1kg1000万リル以上だって聞いたんだが……。

 

「……ちなみにこれのお値段はどのくらいで」

「……私には専門的な知識が無いので詳しくは分かりませんが、神話級金属製な事や現在では希少な魔法式銃器である事から考えると()を下回る事はないでしょう。……由来が本当に先々期文明の物なら更に数十倍とかするかもしれませんが……」

「「うわぁ……」」

 

 ……俺と妹二人は彼女の見立てに思わず絶句してしまった……こんな代物が手に入るならガチャに溺れるのも無理はないかもと、ちょっとだけ思ってしまった。

 

「と、とりあえず私は手持ち武器を使わないのでコレは兄様にあげますね! 装備レベル制限的にも兄様の方が相応しいでしょうし! ……正直、高価過ぎて持ってるのが怖いです」

「まだ装備レベルには足りないんだが……まあ、受け取っておくよ。……ギデオンに着いたら早急に盗難対策のアイテムボックス買わないと。それと盗難防御が出来るジョブに就く必要もあるかなぁ」

「こんな序盤に手に入って良い装備じゃないよねコレ。……こういうのが出るから溺れていくんだろうね。ホントにガチャって怖いわぁ……」

 

 そんな訳で、基本的に庶民派の俺達にとっては出鱈目に高価な装備を突然手に入れても戸惑うばかりと言うのが分かったとさ……シルビィさんは『そんな貴方達ならガチャに溺れる事は無いと思いますよ』と言ってくれたけどな。

 ……実際、本当にどうしようかなコレ。<マスター>の場合『ころしてでもうばいとる!』が普通にあるから、デンドロ序盤の現在下手に使うのも怖いし……ホントにどうしてこうなったorz




あとがき・各種設定解説

兄:当たったけど要らないレアアイテムを妹から貰う事も良くある
・ただ、それでも今回はモノがモノなので真剣に困っている模様。

妹達:リアルラック高い組
・ただ、それでも今回はモノがモノなので真剣に(ry

シルビィ:ヤバいモノを見て驚愕
・家が商人(ほぼ潰れかけ)なのでスキルレベル以外の目利きの技術も高く様々なアイテム関連の知識も豊富な人。
・ただ、それで今回は(ry

【シルヴァ・ブライト】:先々期文明製魔法式銃器
・先々期文明時のとある国に仕えていた超級職【魔銃王】の為に作られた超高性能【魔銃王】専用魔法銃の一つで、国での最強格の人物の為の国家規模の計画において先々期文明の技術を結集して作られた代物であり、現在出回っている魔法式銃器と比べると遥かに高性能。
・基本的はMPを消費して光属性魔法を放つ魔法式銃器で、燃費と連射性能を極限まで追求していて光属性魔法の欠点をほぼ克服しており、その上で一度に籠められる最大MP量は数十万規模という代物。
・更に威力を籠めるMPによって自在に変動させたり、MPを追加消費して聖属性を付与する機能の他、神話級金属合金なので非常に頑丈で《破損耐性》や当時の()()()()である《自動修復》まで備えている。
・尚、この計画は『フラグマン氏から齎された技術で自国の超級職を強化しようぜ!』的なものだったので、フラグマン由来の技術は使われているがフラグマン製と言う訳では無い。
・とは言え、先々期文明の武器としては特殊な機能などは無い『超高性能なレーザー銃』止まりの武器なのだが、これは【魔銃王】自身が戦場に於いて己の技術と壊れない武器を重視する質実剛健な性格だった為。
・……実際、彼が“武装の化身”と戦った際にも『運良くこの武器だけは残った』ぐらいには彼の愛銃達は頑丈だった模様(その後回収されたが)


読了ありがとうございました。
書いていたら思ったより長くなったので前後編に分けます。意見・感想・評価・誤字報告待ってます。
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