□<ネクス平原> 【
「……よしっ! 最後は私がガチャる番だよ!!!」
「この空気でまだやる気なのですか姉様」
「もう回さなくて良いんじゃねえ? また変なのが出るかもしれないし……」
……私がガチャを回して【シルヴァ・ブライト】とか言う推定数億リル以上のとんでもアイテムを出してしまった所為で、ちょっと微妙な感じになってしまった空気を払拭する様に姉様はそう声を張り上げました。
……申し訳なさそうなシルビィさんへの気遣いを兼ねたお礼としてガチャを回そう! と言ったのは姉様なので、どうも引っ込みが付かなくなってる気がしますが……。
「いや、この空気を払拭する為には私がガチャを回してFランクのカプセルを出す事でオチをつけるしか無いんだよ!」
「……お前のリアルラックはミュウちゃんと遜色無いレベルだろうが。またとんでもアイテムが出るんじゃないか?」
「いやいや、このガチャの排出率的に考えても二連続であんなとんでもアイテムが出るなんて事は無い筈(フラグ)……まあそれに多少いいアイテムが出たとしても、あの【シルヴァ・ブライト】程の価値があるアイテムは流石に出ないでしょう(フラグその2)から、それでオチは付けられる! ……ではいざガチャァ!!!」
そうして姉様は兄様からの忠告を無視しながら、半ばヤケになったかの様に言い募りつつ勢いよく十万リルをガチャの中に突っ込んでレバーを回しました……何というか、姉様のあのテンションはむしろ自分に言い聞かせている気もするんですが。
……その結果、ガチャから出て来たカプセルは、なんかもう形状からしてゴツくてめっちゃ虹色に煌めいていて大きく『S』の文字が刻印されている……どう見ても大当たりのSランクアイテムですね。本当にありがとうございましたのです。
「…………ヴァカな!!!」
「まあ、ある意味でオチはついたんじゃないか? まあここまで見事にフラグを踏み抜くのは流石に予想外だったが」
その結果を見た姉様は目を見開きながら驚愕し、兄様は一周回って諦観の表情を浮かべながら頭を抱えていました……ちなみにシルビィさんはカプセルが出た時点で時が止まったかのように硬直しています。
……しかし、たった三回ガチャを回すだけでここまで訳の分からない当たり方をするなんて、何か大いなる
「……とりあえずさっさと開けてしまえ。そうしないと話が進まん」
「うぐぐ……適当にガチャを回してお茶を濁す予定だったのに〜」
なんか凄く投げやりな感じで兄様がカプセルの開封を促し、それに答えた姉様も当たりガチャを開けるとは思えないぐらいに低いテンションでカプセルを開けていきました。
……そして私と兄様は今度は一体どんなとんでもアイテムが出てくるのかと内心戦々恐々しながら開封作業を見ていたのですが、そのカプセルの中から出て来たのはなんと
「……ふむ? これは予想外のアイテムが出て来たね。……ネタアイテムならオチが付いたと言えるのでは……?」
「往生際が悪いぞ。……しかしデフォルメされてはいるが、見た目からして多分『ドラゴンの着ぐるみ』みたいだな」
「こうしてみるとちょっと可愛いかもなのです。……ですが、確かSランクのカプセルって投入した金額の100倍とかではなかったかと思うのですが、この着ぐるみのお値段は億超えるんですかね?」
……私のその発言を聞いた二人は『出来るだけ考えないようにしてたのに……』的な表情を浮かべながらその着ぐるみの詳細を調べて行きました。
実際、この着ぐるみは見た目こそ『全身が暗い黄色のデフォルメされた二足歩行ドラゴン』ですが、よく見てみると着ぐるみを構成している鱗とか革は今まで見て来た売り物の装備品よりも高級っぽいので、おそらくかなりの値打ち物だと思われるのです。
「とりあえずステータスを見てみましょう姉様。……さっきの【シルヴァ・ブライト】の時はとんでもアイテムが当たった衝撃でちょっと忘れてましたが」
「オッケーミュウちゃん、ステータス欄を出すよ。……えーっと、名前は【Q極きぐるみシリーズ どらぐている】だって」
そう言って姉様は他人にも見える様に設定してステータス欄を私達に見せて来ました……あれ? その“説明文”と“モンスターの名前”で命名されるアイテムって確か……。
【Q極きぐるみしりーず どらぐている】
<
強靭で伸縮自在の尾を持つ地竜の概念を具現化したQ極な着ぐるみ。
凄く頑丈かつ強靭で中の人をすっごく強く出来る! 更に尻尾を自由自在に伸ばせるんだ!
※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし
・装備補正
攻撃力+1065(どらごん)
防御力+1065(どらごん)
STR+30%
END+30%
AGI+30%
・装備スキル
《アラウンドビュー》:中の人の視界を完璧に確保する。望遠・暗視機能つき。
《フリーサイズ》:中の人のサイズに合わせて変形する。急に体格が変わっても大丈夫。
《冷暖房内蔵》:外部気温に関わらず中の温度を適温に保つ。夏でも冬でも安心。
《万能竜爪》:不思議と物を掴めるし器用に使える。更に爪を展開して攻撃も出来る。
《竜尾剣》:SPを消費してブレードが付いた尾を自由自在に伸ばす。パワーとスピードは自分と同じ。
《重位圏》:MPを消費して周囲の物体の位置を把握する。効果範囲は自分のレベルに比例。
《???》※未開放スキル
……これはまた説明文はアレですが、とても着ぐるみとは思えない程の高性能で強力なスキルが多数……って。
「これ
「……そりゃあ億越えの着ぐるみなんて普通はないよなぁ……」
「名前の付け方を何処かで見た事があると思ってましたが……」
そう、この【Q極きぐるみしりーず どらぐている】はなんと<
……いや、だからなんでガチャからこんなのが出て来るんですかねぇ……。
「……確か<墓標迷宮>などの神造ダンジョンの深層では、かつての英雄が使っていたとされる特典武具が見つかる事もあると聞いた事があるので、おそらくその着ぐるみもそれに近い物かと」
「あ、シルビィさん復活したんだ」
そこで漸くフリーズ状態から復帰したシルビィさんがその様に解説をしてくれました……確か特典武具を所持しているティアンが死亡した場合、それらの特典武具も消滅すると以前アイラさんに聞いた事がありましたね。
……つまり、この着ぐるみも元は昔のティアンが所持していた特典武具だと……MVPにアジャストされる筈の特典武具で着ぐるみが出るとか、そのティアンの方は一体どういう人だったのでしょうね。ちょっと気になります。
「……しかし見た目と説明文はアホくさいのに、今私が付けてる【クインバース】と【ギガース】除く装備品一式を合わせたよりも高性能なんだよねーコレ。流石は古代伝説級の特典武具ってとこかな」
「古代伝説級ともなると国の存亡を賭けて挑む天災の様なモノですからね。滅多には現れませんし。……一番最近だと数年前に【天騎士】【天翔騎士】【大賢者】の御三方に討伐されたと聞く、“あらゆる生物を喰い尽くす”とされた【業奪死竜 ドレインドレイク】ぐらいしか聞いた事が無いですね」
「確か<UBM>は古代伝説級になると一気に強くなるとリリィさんに以前聞いた事があるな」
まあ、私達がこれまで戦った【ヴァルシオン】【クインバース】【ブラックォーツ】などよりも格上の<UBM>がベースの特典武具ですから、それは見た目はともかく高性能になるでしょうね……見た目はともかく。
「……正直かなり悪目立ちするヤツだしミュウちゃんみたいにお兄ちゃんに押し付け「残念ながら特典武具は譲渡不可能だ」……ですよねー。……それじゃあいっそ装備してみるか。このファンシーな外見ならオチがつくかもしれないし。【瞬時装着】でいけるかな」
そう言った姉様は、いそいそと【どらぐている】を身につけ始めた……どうにもこの空気を払拭する為、何かオチをつける事に意地になってる感じがしますねー。
……そうして姉様の着替えが終わると、そこには手に2メートル弱の大型メイスを持つ身長150cmぐらいの二足歩行デフォルメドラゴンが誕生していました……こうして見るとギャグとしか思えませんね。
『んーなかなか良い着心地だねドラゴン。《フリーサイズ》のお陰か動きも阻害されないし、《アラウンドビュー》で視覚の確保も十分にされているから充分戦闘も出来そうドラゴン』
「……語尾はそれで良いのか?」
「ていうか姉様、なんで語尾付けてるんです?」
『やっぱり四文字だと長いドラ? 後、着ぐるみを着たら何故か語尾を付けなければいけないって思ったゴン』
そんなどこかのクマさんじゃ無いんですから……まあ、意外と満足そうで何よりですね。私は当たったアイテムが使えなくて兄様に譲る事になりましたし。
◇◇◇
□<ネクス平原> 【
さて、ガチャ関連でなんやかんやあったがいい加減にシルビィさんをギデオンに連れて行かなければならないという事で、アレらのとんでもアイテム達の事は後回しにする事に……。
……この場で考えてもいい案は浮かばないだろうからな。明日の俺達がなんとかしてくれるだろう(願望)
「それじゃあシルビィさん、そろそろギデオンに行きましょうか。道中危険なので送りますよ」
「何から何まで本当にありがとうございます。……何かちゃんとしたお礼が出来れば良いんですが……」
「あ、いえ、これ以上変なアイテムが増えても困るので、あの十万リルガチャ三連で十分です(真顔)」
『落ち着いて考えてみると特典武具と超高性能装備が手に入ったんだから、金庫を開けた報酬としては過剰すぎるドラ』
ちなみにミカは存外気に入ったのか【どらぐている】を着たままである……まあ、性能自体は凄まじいし特典武具である以上は盗まれる心配も無いので、見た目がネタにしか見えない問題を除けば普段から使っても構わないだろうからな。
……そんな俺達に対して苦笑いを浮かべながらシルビィさんは金庫を持っていこうとした。
「あはは……ここで見た事は誰にも言いませんよ。ガチャに溺れる人が(ウチの父含めて)増えそうですし……アレ?」
……そうやって金庫を持ち上げようとしていたシルビィさんだったが、何故か金庫は中々持ち上がらなかった。
「これはまだ重量増加の呪いがかかってますね。……中の物はガチャだけだと思っていたんですが、まだ何か入っているみたいですか……」
どうも金庫の中にはまだアイテムが残っていた所為で重量増加の呪いが続いていたらしく、シルビィさんは扉を開けて中を調べていった……そして、しばらくした後に彼女は金庫の中から
……そのペンダントが何なのかは少し気になったが、彼女がとても懐かしそうで、かつ悲しそうな表情を浮かべていたので空気を読んで黙っておく事にしよう。妹二人もそんな感じだし。
「……これは……お母様がお父様の初めての結婚記念日に送ったペンダントだった筈。……確かまだ裕福でなかった時の物なので安物ですが……そうですか、これだけは残していたんですね」
「「「…………」」」
……つまりはそういう事らしい。これなら彼女の先行きに希望が見えてきたかな。
「……皆様、今日は本当にありがとうございました。……これから必ずお父様を説得してみせます」
「分かりました、頑張って下さいシルビィさん。……じゃあ今度こそギデオンに向かいましょうか」
実に晴れやかな表情になったシルビィさんのお陰で、これまでの(主にガチャ結果の所為で)微妙だった空気も良くなったしな……そういう訳で俺達は再びヴォルトの引く馬車に乗って、一路ギデオンを目指して行ったのだった。
◇
そんなこんなで<ネクス平原>を行く俺達だったが、これまでの様に何かトラブルが起きる事も無く順調に進み大体お昼頃に“決闘都市”ギデオンの北門へと到着していた……そして俺達はここでシルビィさんと別れる事になる。
……まあ、後は彼女達家族間の問題だから俺達がどうこう言える事も無いしな……何より今の彼女は初めて会った時と違って希望に満ちた表情をしている事だから、決して悪い事にはならないだろう。
「それでは皆様、私はここで失礼いたします。……改めて色々と助けて頂いてありがとうございました」
『どういたしましてドラ。シルビィさんも説得頑張って下さいゴン』
「実質ほとんどガチャ回しただけみたいな物なので気にする事は無いですよ」
「頑張って下さいね」
……そうして彼女は深々と俺達にお辞儀をした後、そのまま金庫を背負ってギデオンの街の中へと消えていったのだった。
『さて! じゃあ私達もギデオンを満喫しようドラ!』
「……それはいいんですが姉様、その着ぐるみは着たままなので?」
「なんか結構しっくり来てるけどさ」
『道中使ってみて中々強かったからね。メイン装備でもいい気がして来たドラ』
ミュウちゃんとミメ(街中なので融合解除)のツッコミを受けたミカin着ぐるみは、そう呑気な感じで答えていた……確かに道中のモンスター相手に尻尾を伸ばして攻撃したりもしてたからな。
……曰く、この《竜尾剣》は遠距離の直接攻撃だから【ギガース】の《バーリアブレイカー》の効果も乗るから相性は良いと言っていたが……。
「……とりあえず街中では抜いどけよ。悪目立ちするだろ」
『まあそうだねー。街中専用の《着衣交換》付きの服でも買おうかな?』
実際、街中でも着ぐるみとかネタ装備万歳な人間か、余程退っ引きならない事情がある人間(例:シュウ・スターリング)ぐらいだからな。それでもメイン装備にするならそういった備えも必要だろう。
「それじゃあまずは何処から周ろうか。とりあえず決闘場とか見てみる?」
「元々それが目的で訪れましたからね。いいんじゃないかと」
「俺は決闘には余り興味が無いから店とか見てみたいな。……それに例のアイテムを収める盗難防止機能付きアイテムボックスも買わねばならんし」
……そんな感じで俺達は各々の目的の為にギデオンの街へと繰り出して行ったのであった。
◇
……尚、これは少し後の話になるのだが、俺達はギデオンにある<アレハンドロ商会>のお店で再び例の【ガチャ】と再会したのだ……何でも最近入荷した物で買い物をした人が一回だけ回せるサービスになっているのだとか。
そしてお店の人に加えて話を聞いた所、この【ガチャ】は
……それを聞いた俺達はちょっと嬉しくなったので記念にガチャを回してみたが、今度は笑い話になる程度のハズレだったとさ。
あとがき・各種設定解説
兄:ガチャは笑い話になる程度のハズレで十分だと思う
・ギデオンではアイテムボックスを買う資金稼ぎの為に【ジェム】作りに邁進しつつ、その為に新しく上級魔法系ジョブや盗難対策が出来るジョブを少しずつ取ってレベルを上げている。
妹:着ぐるみ勢になった
・ゲーム内なので別に着ぐるみ着て街中歩いても気にしないが、兄と末妹に配慮して街中では普通の衣服を着る事に。
・ただし、ギデオンでの決闘では着ぐるみ(古代伝説級)を着ながら無双している模様。
【Q極きぐるみしりーず どらぐている】:ガチャのオチ担当
・《アラウンドビュー》の暗視・望遠機能はSPを微量消費するアクティブ系機能で、視界確保《フリーサイズ》《冷暖房内蔵》《万能竜爪》の爪は消費なしのパッシブ系機能。
・《竜尾剣》はSPを消費してブレードが付いている尻尾を自由に伸縮・操作出来るスキルで、尾を伸ばせる長さは合計レベル×1メートルまでで最大パワーと速度はそれぞれ装備者のSTRとAGIと同じ。
・《重位圏》は周囲の物体の質量を感知する重力属性のスキルで、感知範囲は自分を中心とした半径“合計レベル×1メートル”分。
・元となったのは【尾竜王 ドラグテイル】という三強時代より前に活動していた地竜種の竜王で、尻尾に神話級金属並みの強度を持つブレードが付いていてそれを音速の数倍の速度で数十キロ伸ばして超遠距離攻撃をする事が出来た<UBM>だった。
・更に強力な《竜王気》と純粋性能型故の高いステータス、そして“あらゆる物を切断出来る”切り札によって近接戦闘も問題無くこなす事が出来る直接戦闘に長けた竜王だった。
・だが、某人外さんより前の【龍帝】と戦いになり、あくまで“直接攻撃が単純に強い”タイプだったので不死身に近い再生能力を突破しきれず三日三晩の持久戦の末に敗北した。
・尚、着ぐるみなのはその【龍帝】が変化後の自分の姿を晒す事を嫌って、よく全身装備を身に付けていた事にアジャストした結果。
末妹:内心ガチャはもういいかなと思ってる
・ちなみにギデオンでは妹に付き合って決闘に参加して並み居る対戦相手を殴り倒している模様。
シルビィ・マグノリア:新たな人生へ
・この後、都合5時間ぐらいの説得(物理込み)によって無事に父親と和解して、残ったガチャ含む売りに出せる資材を売って別の街で慎ましい生活を送る事にした。
・三兄妹に会わなかったのは大当たりを出しまくった彼等に会うと父親のガチャ狂いが復活しそうだったからで、状況が落ち着いたら改めてお礼を言いたいと思っている。
ガチャ:後にいくつものドラマを生んだり生まなかったりする
読了ありがとうございました。
次回からは掲示板回を挟んで三兄妹のギデオンでの活動編になると思います。感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。