※字面的な問題で超級職の名称を変更しました。原作に出てきた【武王】と被るし。
□決闘都市ギデオン・第八闘技場 【
『《ライザァァァキィ──ック!!!》』
「グワァァァァァァ!!!」
「おー、ビシュマルさんが爆炎を上げながら吹き飛ばされました。見事な
「ミュウ、あの爆炎って彼自身の<エンブリオ>じゃなかったっけ?」
そうとも言いますがねミメ、これはお約束と言うものなのです……まあ、ビシュマルさんもガードしながら後ろに飛んでダメージを殺してますし、彼が身体に纏う炎でライザーさんもダメージを受けているのでこの戦いはまだ続きそうです。
……そんな訳でこの私“ミュウ・ウィステリア”とその<エンブリオ>である【ミメーシス】は
「……ううむ、これが<マスター>同士の試合か。決闘試合でなら何度か見ているが、ここまで間近で見られる機会はなかなか無いな」
「フルフェイスヘルムと軽鎧の方はかなりの格闘術を収めているな……妙に派手な動きが多いのが気になるが。ただ、あの戦い方なら防具はもう少し軽い方がいいんじゃないか」
「ズボンだけの半裸の方はあの炎の<エンブリオ>が格闘戦では厄介だな。……長時間使うと自分も燃え尽きるみたいだが」
まあ、今回の試合はファイトマネーが出る試合ではなく“格闘家ギルドが主催している練習試合形式のジョブクエスト”なので、この闘技場の周りには私達以外にもあの二人の試合を見学している格闘家ギルド所属のティアンや<マスター>がかなりの数いるのですが。
……ちなみにライザーさんはあの動き的に多分本職のスーツアクターさんっぽいですね。以前
ビシュマルさんの方は手に入ったレベルが高い《火炎耐性》持ちの防具があのズボンだけだったそうです。ズボンで良かったですね。
「まあ、あの二人のこだわりがある部分っぽいので私は深く言いませんが」
「リアル情報を言う訳にもいかないからね。……<マスター>の格好が変なのは今に始まった事じゃないし、着ぐるみとか」
……まあ、姉様やシュウさんの
「よう嬢ちゃん、久しぶりだな」
「ああ、ゴライアンさんお久しぶりです。貴方もギデオンに来ていたんですね」
「俺も決闘には出てるからな。最近はギルマスの仕事が忙しかったが、今回の闘技場での練習試合には王都所属の格闘家も参加するからようやく来れたんだが」
彼の言う通り、この練習試合はギデオン以外の格闘家ギルドからも参加者がいるぐらい結構大規模に行われているんですよね。
「しかし、随分と盛況なんですね。……私のジョブクエスト参加報酬もかなり良かったですし、<マスター>の能力を見るのが目的でしょうか?」
「お兄さんが言ってた“<マスター>との伝手を作る”ってやつじゃない?」
「まあ、今回の練習試合に<マスター>を招いた理由としてはどっちも正解なんだが……この練習試合が大規模なのは
そんな私達の疑問にゴライアンさんそう答えた後、私達の隣に座って更に話を続けました。
「……今から二十年くらい前に死んじまったんだが、昔アルター王国の北西にある“クレーミル”って街に格闘家系統
「ふむ? それは自分の後を継ぐ者を探すとかの目的で?」
「うーむ、それも有ったかもしれないが……俺の見立てだと主な目的は
ゴライアンさん曰く、基本的に超級職に就いた人間は“自分の身を守る為に”可能な限りその転職条件を秘匿するものであるとの事……超級職は一種一人しか就く事が出来ないので、条件が公開されると『俺も転職条件を満たしたんだから、今超級職に就いてるヤツさえ殺せば……!』的な人が沢山出るからだそうです。
何でも超級職の転職条件を満たすと専用のアナウンスが聞こえるそうですが、既にそのジョブに就いている人がいると『転職条件を満たしていない』扱いになるのでアナウンスは出ないそうです……なので、転職条件が分かっていなければ『例え条件を満たしていても自分が既存の超級職に就職出来るかも分からない』仕様という訳ですね。
「まあ、転職条件が明らかになっても彼に挑むヤツは殆ど居なかったんだがな」
「それはどうして?」
「まず一つに
「ほう? 話の流れ的にその条件がこの練習試合クエストに繋がる様ですが……」
私は戦いが終わって闘技場から降りて行くライザーさんとビシュマルさんを眺めながら、ゴライアンさんの話に耳を傾けていきます……私もゲーマーの端くれなので、この手のユニーク要素には興味がありますし。
「ああ、アスカ氏が公開した【格闘王】への転職条件はまず『【
「それはまた……格闘家系統の超級職なので【武闘家】の転職条件のスケールアップ版だという感じですが」
しかし成る程、つまり最後の『100連勝する』の条件を満たす為にこの練習試合ジョブクエストは行われているんですね……と、思ったのですがゴライアンさん曰くそう上手くはいかないみたいです。
「……アスカ氏は『真剣勝負の最低条件は“闘技場での全力戦闘”ぐらいじゃないか? 儂は若い頃決闘に出たり修行の旅の途中で野試合したらいつの間にか条件を満たしていたからよく分からないが』という言葉を残していて、それからこう言った練習試合を定期的に行なっているが……少なくともアスカ氏が死んでから、俺が知る限りではアルター王国の格闘家は誰も【格闘王】の座には就いていないんだ。多分この“同格以上との真剣勝負”はかなり厳しい判定なんだろう」
今まで確認出来た範囲内では『相手のやる気が無い』『相手に勝利を譲る気』とかではカウントされず、悪質な『八百長で超級職を』『不意打ちで倒す』とかだと逆に敗北判定になるのでは推測されているようです。
それと“同格以上”の判定も『勝率が高い同格の相手と連戦』とかしても条件を満たせなかったらしいので、連戦だと判定基準が上昇している可能性が高いとの事。
「そもそもこんな練習試合をやっても二十年間【格闘王】に誰も就けなかった以上、闘技場での戦いだと“真剣勝負”の条件を満たす判定が厳しくなるんじゃないかとも推測されてるけどな。……まあ腕を磨くのには使えるし、この王国では噂に聞く天地と違って下手に野試合なんてすれば高確率でお尋ね者扱いだしな」
「上手くはいかないものなのですね」
なので、今ではこの練習試合クエストはギルド内の格闘家同士で技量を磨くための交流戦に近い感じになってしまっているのだとか。
「しかし、その【格闘王】の転職条件を私に条件を教えても良いのですか?」
「ん? ああ、どうせ過去に一度公開されてる情報だから調べればすぐに分かるしな。……それに嬢ちゃんなら条件を満たせるんじゃないか? さっきから
「……うーん……」
……まあ、確かにライザーさんとビシュマルさんにも私は勝っていますが、その二人クラスの相手に100連勝するのは難しい……というか無理でしょうね。それだけ戦えば私への対策取った二人に何処かで負けると思いますし。
それに超級職欲しいのは誰でも同じですから、勝負の時に相手が条件を満たせない様に撤退的なメタとか妨害とかに出る人も……。
「……この転職条件って公になった方が条件満たし難いのでは? こう熾烈な取り合いになる的な意味で」
「現状を考えればある意味そうだろうな。……条件を満たすのにどうしても
件の【格闘王】さんは何を思って転職条件を公開したんでしょうね。特に<マスター>が条件を知ったらロクでも無い事になる気がします。
……そんな話をしている内に闘技場の貸し切り時間が過ぎたので練習試合はお開きとなりました……就けそうな超級職の転職条件が明らかになりはしましたが、無理をして条件を満たそうとすると(悪目立ちして)失敗しそうなので今は保留にしておきましょう。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・八番街
格闘家ギルドによる練習試合のクエストが終わった後、参加者であったミュウ・ウィステリアとその<エンブリオ>の【ミメーシス】は
尚、三人が一緒なのはこのギデオン八番街は治安の悪い場所なので少女二人で帰らせるのは危ないと、男二人が街を出るまでの同行を申し出たからである……少女二人の方が戦闘能力が高いとかは言ってはいけない。
『やはりフルフェイスと軽鎧では格闘戦だと動き難いか。……だが、今まで売っている防具を吟味した中で、この装備が最も俺のイメージする“ヒーロー”の姿に近かったんだが……』
「まあ、このデンドロには特撮ヒーローなんてやってないからな。ヒーロースーツなんて売ってないだろ」
「そこまで拘るなら求めるデザインを提示してのオーダーメイドしか無いのでは?」
「お金は掛かるけどそれが確実だよね」
そして今は装備が原因で練習試合での戦績が振るわず肩を落とすライザーを、他の三人が励ましたりしている所だった。
「確かゴライアンさんが言ってましたが、王国の北西にある『クレーミル』という街では武器・防具の生産がこの国トップらしいですし、そういった場所ならライザーさんが求める“ヒーロー”の姿をカタチに出来る人もいるのでは?」
「ヒーローの姿を知ってる<マスター>でも良いかもしれないけど、以前にあった生産系<マスター>達は『まだオーダーメイドを作れる程の技術と材料がない』って言ってたし」
『そうだな……ありがとう二人共。今度【ヘルモーズ】を飛ばしてその『クレーミル』に行ってみる事にするよ』
「お前の【ヘルモーズ】は足が速いからな!」
その様に街の雰囲気とは似つかない和やかな感じで話をしていた四人は、特に何事も無く八番街の出口へと辿り着き……不意にミュウが
「……すみません、ちょっと用事を思い出したのでこれで失礼します」
「あ、ああ。気を付けてな」
……そして僅かな時間だけ考え込んだ後、彼女は男二人に別れを告げるとそのままミメーシスを連れてギデオンの西側に向かっていった。
「《人間探知》……ミメ」
「了解。《
その道中でミュウは特典武具のスキルを使ったりミメと融合状態になる、更に装備のいくつかを戦闘用の物に変えるなど戦う為のの準備を済ませていった。
……そして準備を終えた彼女はピンク色の髪を棚引かせながらそのままギデオン西門を出て、その先にある<ジャンド草原>へと向かって行ったのだった。
◇
「……ふう。見晴らしも良いですし、この辺りにしましょうか」
『不意打ちされるのは避けたいしね』
そうして彼女達は<ジャンド草原>の人気の無い平原地帯にやって来ると、
「……ハァ、分かってはいましたが、また貴方ですかシュバルツ何某」
「シュバルツ・ブラックだ。……ククク、態々この人気の無い場所を戦いの舞台に選ぶとは、貴様も我らの再びの戦いに邪魔をされたく無いと見える」
「いえ、街中で貴方を
そう、現れたのは以前に彼女達兄妹を襲って返り討ちに遭ったPKであるシュバルツ・ブラックだった……尚、彼自身は待ち望んだリベンジの機会に高揚しているのか笑みを浮かべていて、対照的にミュウは非常にウンザリした表情で溜息を吐いているが。
……そしてシュバルツが何かを言うのを適当に無視しながらミュウはさっさと倒そうと戦闘態勢に入った。
「……前にも行った通り、仕掛けて来たのはそちらが先なので躊躇なく潰します。《フレイム・フィスト》《フリーズ・フィスト》」
彼女はウンザリした表情のまま、ミュウは魔拳系スキルにより右手に炎、左手に氷を纏わせた上で、自分の
……だが、一見自分に酔っている様に見えるシュバルツだったが、その実ミュウ相手に一切油断はしていなかった。
「その戦い方は闘技場で見たぞ! 《魔力放出》!」
「む、距離を取りましたか。こっちの動きを研究して来てますね」
そのミュウの行動を読んでいたシュバルツは、同じく自身のメインジョブ【
更にミュウは以前の戦いで彼の<エンブリオ>【ミスティルテイン】に手傷を負わされているので、そのスキルの発動条件と思っている“槍への接触”を警戒して下手に踏み込まなかった事も後退を許した理由であった。
「……では、それを推し量った上で動きましょう。《アクセルステップ》」
とは言え、そこは戦闘に関してなら“天災児”と言える才能を持っているミュウは即座にシュバルツの動きを読み切りながら、数歩の間だけAGI上昇させる歩法系スキルを行使して相手の持っている槍に接触しない様に回り込む形で接近した。
……だが、その慎重な戦術を選んだ事と、戦闘開始時に距離が少し離れ過ぎていた──シュバルツが彼女相手でも
「遅い! 《
「ッ⁉︎ これは……」
シュバルツがそのスキルを行使すると彼を中心として淀んだオーラで出来た半径10メートル弱の半球型のフィールドが展開され、接近して来たミュウを飲み込んだ後に消失した。
……これこそが【ミスティルテイン】が上級に進化してTIPEテリトリー・アームズになった際に発現したスキル《
『《
「じゃあ何かされる前に潰します。《波動拳》!」
それを見たミメーシスは即座にデバフ対策の《転位模倣》を使うが、掛かっている効果は判別出来たものの【ミスティルテイン】の能力がマスターを含めて無差別に掛かるものだった為にデバフ対策としては機能しなかったのだ。
とは言え、それを聞いたミュウは即座に状況を理解してシュバルツに遠距離攻撃を行い、既に攻撃力が上がると知っている槍での接近戦を避ける様に立ち回りを変更した……が、彼が使う“もう一つのスキル”にとって距離は余り関係の無いものだった。
「ここだっ! 《
……シュバルツがそのスキルを発動した瞬間、ミュウの右腕の肘部分が
「なっ……⁉︎」
「今だっ! 《瞬間装着》《
……流石に自分の右腕が肩口から手首の辺りに至るまで粉々に弾け飛んだ所を見て僅かに動揺したミュウに対し、シュバルツは腕部装備を“特注の籠手”から動かしやすいグローブに変えた後、更なるスキルを行使して攻撃力を上げた【ミスティルテイン】を彼女に突き込むのだった……。
あとがき・各種設定解説
末妹:デンドロ始まって以来の大ピンチ
・STRとAGIを併用した移動法はAGIによる移動時に更にSTRによる踏み込みを上乗せする感じで、格闘家ギルド所属のティアン達から教えてもらった(ついでに《魔力放出》を追加してアレンジした)
・【ミメーシス】の《転位模倣》は発動時に対象に掛かっているバフ効果をある程度なら理解する事も出来る。
【格闘王】:格闘家系統超級職
・実は闘技場での真剣勝負の判定は“原作での決闘ランク戦”ぐらいのガチさが求められ、実力差もレベル・技術・装備・コンディション・<エンブリオ>などから総合的に厳しく判断される仕様。
・野試合ならこれらの判定は若干緩くなるが天地でもない限り途中で捕まり、その天地だと武芸者の実力的に100連勝がキツイ。
・実際、アルター王国では転職条件が明らかになった事で足の引っ張り合いが起きていて、後に転職条件を知った<マスター>もそれに加わったりする模様。
・他にも格闘家ギルドで『100連勝させて超級職を誰かに就かせよう』という動きもあったが譲り合いだと真剣勝負の条件を満たせず、更に漫然と同じ相手と戦い続けると判定が厳しくなる仕様だったので無理だった。
・ちなみに前任者のアスカ氏は典型的な求道者タイプで『死期も近いからって超級職を継がせてくれとかいうヤツが湧いて来たから修行の邪魔だな。……じゃあ転職条件公表すれば文句も出ないだろ』とか思って公表しただけだったり。
シュバルツ・ブラック:リベンジなるか?
・こいつもリアルでは小学生なので大概天災児よりで、特に分析と対策に関して高い才能を持っている。
・これまでのネトゲでも『極振りとかレアスキルとかでイキってるヤツを平均的なステの自キャラで念入りに対策してPKザマァする』とかやって来たので、<エンブリオ>も極振り特効的な能力になった。
・現在のジョブは【槍士】【呪術師】【魔法槍士】にレベル上げ途中の【剛槍士】で、対末妹時にスキルを万全に使う為にメインを【魔法槍士】にしている。
《
・消費するHPは100単位で設定可能であり、クールタイムは1分。
・今回は地上で使ったので末妹の目には半球状に見えたが、実際には球状で地下にもフィールドは広がっている。
・コストがHPなので相応に重いが、シュバルツは後々デバフで下がる分だけのHPを捧げたり、固形ポーションを口の中に仕込むなどする事でデメリットを少なくしている。
・実は呪術系スキルなので【呪術師】の《呪術強化》スキルが乗ったりする。
《
・末妹に始めて大ダメージを与えたスキルで、色々特徴があるので詳しくは次回説明。
読了ありがとうございました。
※超級職の【武王】は既にいるらしいので、語呂はちょっと悪いけど【武闘王】にします。……痛恨のリサーチ不足orz