□<ウェスダ平原> 【
そんな訳で山賊に誘拐された人達を助ける為に集まった私達三兄妹とシュウさん、そして月夜さん達<月世の会>メンバー達はその内の【
『このまま進めば後5分ぐらいで<クルエラ山岳地帯>へ着きます』
「分かったでー、流石は結奈やんの【スレイプニル】と利奈やんの【チャリオッツ】やね。クマやんの【バルドル】よりはや〜い!」
『……事実だから別に言い返さないが、そもそもお前が自慢する事じゃねえだろ女狐。……しかし、地面を滑走しているから
「結奈の【八速騎動 スレイプニル】には搭乗者への揺れとかを軽減するスキルもあるからねー。“足を使って”移動する時もあんまり揺れないのだ〜」
今は通信によって話している結奈さんの<エンブリオ>【八速騎動 スレイプニル】は一言で言うと多脚戦車型の<エンブリオ>で、外見は短めの砲塔が付いた戦車にキャタピラの代わりに八本の足が付いていると言った感じです。
そして普通にその多脚で移動する他に《
……これに【疾風騎兵】の騎乗物の速度強化スキルや長距離移動時に消費MP・SP軽減するスキルを組み合わせる事で、ギデオンから<クルエラ山岳地帯>までの道のりを短時間で移動する事が可能になるのだとか。
「……それで今乗っているのは利奈さんのチャリオッツ系列の
「そうやって並べられるとチャリオッツがゲシュタルト崩壊しそうだねー。私の<エンブリオ>、正式名称は【棄動戦車 チャリオッツ】なんだけど名前が凄く紛らわしいのが欠点なんだよね。最近進化した時にはTYPEアドバンスになったし〜」
そう言う利奈さんの<エンブリオ>【棄動戦車 チャリオッツ】は【スレイプニル】に接続されながら引かれているメカニカルな大型カーゴ……名称の由来からして文字通りの
この【チャリオッツ】は《コネクション》というスキルで【スレイプニル】と連結していて、その間は繋がっている相手と同じ様に移動・加速・旋回・停止する上に騎乗・移動系スキルを共有出来るので、この【チャリオッツ】自体も《滑走機動》で移動出来て中にいる私達にも揺れの軽減などの恩恵を得られるのだとか。
「まあ、進化して覚えた《兵団輸送》で内部空間が拡張されたお陰で旅行の移動要員にされたけどね〜」
「二人には本当に感謝しとるよ。お陰でウチのクランの移動範囲が大きく広がったしな」
そして今私達が乗っているのは、利奈さんが座っている【チャリオッツ】の後部に備え付けられた小学校の教室ぐらいの広さの部屋になります……明らかに外見と内部空間の体積が違いますが、どうやらスキルによって空間が拡張されている様ですね。
……まあ、外から見た時にはカーゴの頭上に大口径の砲台や左右に付いたパラポラアンテナの様な副砲、後はミサイル発射管の様なパーツとかもあったので本来は連結した乗機の戦闘能力を増大させるのが役目の<エンブリオ>なのでしょうが、今回のクエストではこの輸送能力がメインになりそうですね。
「まあ、救出した人間の輸送が出来るのは大きいな。この移動力なら最悪の場合には誘拐されたティアンを乗せて全速力で街に引き返せばいいし」
「せやねー。……まだ少し時間はあるし人質になっとるティアン救出時の各々の役割ぐらいは話し合っといた方がええかな? ……ちなみにウチとカグヤは回復と敵へのデバフが使えるえ」
「此の《月面除算結界》ならレベル50未満のティアンならほぼ戦力外に出来るわね」
そして兄様と月夜さんがそう言ったのを皮切りに今回のクエストで各々がどんな役割をこなせるかを話し合っておく事になりました。
「俺は基本的に魔法型だな。上級職で就いているのは【
「私は完全に物理で殴る系ビルドだからなぁ、人質救出には役に立たなさそう。……着ぐるみを来て無駄に目立つ囮役でもやるかな」
「私も戦闘特化ですが特典武具のスキルで人間の位置を探知出来ますから、上手くいけば人質が何処にいるか分かるかもしれません」
ちなみに私達三兄妹のパーティーでの役割分担は私が近接戦、姉様が近接戦、兄様が近接戦と遠距離魔法と魔法支援と索敵と移動手段と生産です……兄様の万能性が高すぎて役割分担になっていない件。
『俺も戦い方がどうしても目立つから囮役の方がいいワン』
「STR極振り着ぐるみ戦車とかいうキワモノビルドやからね。無駄に目立つから囮役にはぴったりやなー」
『うるせーワン。プレイスタイルから自然とそうなっただけだワン。……後はこの着ぐるみのスキルで偵察用の狼が作れるぐらいか』
私達に続いてシュウさんも月夜さんが入れる茶々に言い返しながら自分が出来そうな役割に付いて話してくれました。
……ちなみにクランオーナーが他の<マスター>と言い合いなっていても良いのかと月影さんに聞いたら、『アレでも月夜様はシュウ氏との掛け合いを楽しんでいるので温かい目で見てください。他のメンバーにも言ってありますし』と言われたので、これが原因でパーティーの雰囲気が悪くなる事は(シュウさんが怒らない限り)無さそうです。
「私はジョブと<エンブリオ>両面で隠密行動が出来るので誘拐されたティアン救出にはお役に立てるでしょう」
「そういう意味だと俺は誘拐されたティアン救出には役に立ちそうにないですかね。<エンブリオ>も隠密行動どころか集団戦に向いているタイプじゃないですし……出来る事は普通の戦闘要員ですね」
「私は直接戦闘と<エンブリオ>のお陰で薬の扱いに長けているので治療や支援も出来ます」
「それで私と結奈は助け出したティアンを街まで運ぶ役だね」
『そうだね利奈。……【チャリオッツ】の中に入れてさえくれれば、カンストティアンや純竜級モンスターからでも逃げ切って街まで送り出しますよ』
続いて月影さん、翔さん、健太さん、結奈さん、利奈さん達<月世の会>メンバーも話し合いに参加して救出作戦の概要を練っていきます……現地の地形やスミス山賊団が根城にしていると思しき砦跡の地図はギデオンの冒険者ギルドから入手出来ていたので、大雑把な作戦を立てる事自体は出来ました。
……まあ、現地の詳しい状況やそこからどんなイレギュラーが起きるかはまだ分からないので、建てた作戦は『囮の人達が人質なんて関係なく山賊を殲滅しようとしているフリをしつつ、潜入組が人質を助けて即逃げる』程度の大雑把な方針だけのものですが。
「……とりあえず方針はこんな所で。後は現地の状況に注意して高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変に行きましょう」
「実質無策っぽい言い方やけどオッケーやで。……トラブルに会う確率が高そうなクマやんとミカやん達がいる時点で現地で何が起こるか分からんしな」
『人をトラブルの元凶みたいに言うなワン。……まあ、とにかく行ってみなければ分からんだろ』
『まもなく<クルエラ山岳地帯>の麓に到着します』
……そうして私達の『難易度:九のティアン救出クエスト』が幕を上げたのでした。
◆◆◆
■ ???
……かつての
……ただ、ソレが他の同個体のモンスターとの違っていた部分は周辺の有毒植物を食べる為の免疫スキルが多少強力だった事と、他の同族と比べて偶々『賢かった事』ぐらいのものである。
『……KITIKITIKITIKITI(私は弱い。生き残る為にも上手く立ち回らなければ)』
……まず、ソレがその森の中で生き残る為に行った事は周りを観察して学習する事だった……強力な有毒植物にやられた同族から食べられる植物・食べられない植物を学び、他の強力なモンスターにやられた同族からはその失敗の原因から身の隠れ方を覚え、そのモンスターからは他の獲物を狩る仕方と彼等が使うスキルを参考にしてと……他にも森で起きた事から様々な事を学んでいったのだ。
そしてそのあとソレは身を隠しながら少しずつ
そして、スキルに頼らない狩りの技術なども磨いてその森の中で自身が最も強くなった時に、何処からか膨大な力が流れ込んで自身が変化するのを感じ、気が付いたら逸話級<
『(どうやら私はこの森の近辺を徘徊していた、魔蟲を食らい喰らった魔蟲の形とチカラを得る“異形の魔蟲”と同じ存在になったようだな。……ふむ、元々持っていた毒と免疫のスキルは強化され、更に新しく狩った獲物のスキルを覚える力を得たのか)』
ソレ──【ラーゼクター】の有するスキルは、まず今まで捕食した毒の種類内いくつかを選択して“自身すら汚染するレベル”で強化した上で噴霧する《蠱毒瘴気》、自身に掛かった状態異常を時間を掛けて回復させる《免疫生能》、これによって治した事のある状態異常の効果を反転させる《害毒反転》と言った元々の毒虫としての能力が強化されたものがあった。
……そして、単独で生物を殺傷した時に対象が覚えているスキルの中で自身が使える物を一定確率でランダムに一つラーニング出来る《ソリチュード・ラーニング》という、周りを見て学習しながら一人で生きてきた彼を象徴する様なスキルを習得していた。
『(……確かに凄まじい力だが、力を持った魔蟲である私自身をあの“異形の魔蟲”は見逃さないだろう。……いつか私がヤツに狩られる前にこちらからヤツを狩らねばならん)』
その為に【ラーゼクター】は強くなった力でより強い獲物を相手に更なる狩りを重ねて経験値とスキルを蓄え、更に“異形の魔蟲”をこっそりと付け回しながらその行動パターンを把握して入念な策を練り……ついに“異形の魔蟲”を討ち取る事に成功したのだった。
……更に<UBM>が<UBM>を倒した事によって【ラーゼクター】に莫大なリソースが流れ込み、その身を伝説級<UBM>に進化させたのだった。
『(まあ、倒せたのは“異形の魔蟲”が他の魔蟲の形とチカラを取り込み過ぎて脆くなっていたのが大きいが……やはり、他の者の力を詰め込みすぎると肉体に何らかの弊害が出るのか。私自身もスキルを覚える程に成長自体が遅くなるのを感じていたからな)』
そう考えられたからこそ、彼は進化した際に『習得したスキルを削除・合成・改造するスキル』である《取捨戦択》を習得したのかもしれないが……それからの【ラーゼクター】はスキルを厳選しつつ活動範囲を広げて行き、様々な獲物を狩って自身の力を上げて更に活動範囲を広げるという事を繰り返していた。
……その途中でモンスターよりも人間の方が獲得経験値の効率が良く、ラーニング出来るジョブスキルも有用なものが多い事に気が付いて積極的に人間を獲物とした結果、それを聞きつけてやって来た『天馬に乗った人間の強者』に危うく討たれかけたと言ったトラブルもあったが。
『(……どうやら少し慢心していた様だな。上には上がいるという事を忘れるとは、必死に知恵を絞って生きてきた小さな毒蟲だった昔なら考えられないことだ。今後は気を付けねば……まずは私を能力・技術共に圧倒した“天馬乗り”から何か学ぶ事がないか考えてみるか。この知恵こそが私がこれまで生き残って来れた最大の武器なのだから)』
そして彼は大きな人間の街に近づき過ぎない様にしながら、これまで以上にモンスターや人間達の行動を積極的に学習していき、より効率的に狩りが出来るようにスキルだけではなく戦術や技術に関しても磨きをかけて行った。
……そうして経験と研鑽と学習を重ねていく中で『人間が獲物にしている人間──山賊とかを狩るのなら自分を脅威と見てヤバい追っ手が来る事は無い』と考え、更に連中が街から離れた所にいるから狩りやすい事もありそういった連中が多数いる<クルエラ山岳地帯>で狩りをする事にしたのだった。
『(これで潰した山賊団とやらは五つか。……人間はレベルが低くても経験値の効率が良い上に、低レベルであっても使えるスキルをラーニング出来る可能性も高いから良いな。他にもいくつか
……だが、そんな【ラーゼクター】の悩みはおそらく現在の自分が既に頭打ちでレベルが殆ど上がらず、おそらく伝説級<UBM>としての『壁』にぶつかっているだろうと言う事だ。
『(おそらくこの『壁』を乗り越えるには、以前“異形の魔蟲”を倒した様に<UBM>を狩る事で大量の
実際、以前に遠目に見かけただけの『万物を切断する剣虎』には今の自身の実力ではどうあがいても勝てないと判断していたし、同族の群れを率いる外竜や鎧竜の【竜王】達にも彼ら全員と自身単騎だけでは勝率は薄いだろうと考えていた。
……なので狙うのは『自身の実力と手札で狩れる同格以下で単独行動している<UBM>』と言う事になるのだが、そんな都合のいい相手とあっさり遭遇出来る訳もなく……。
『(……まあ良い、今は最後に残った砦跡に住む人間達を狩る事を考えよう。あそこにはかなりの実力を持つ人間もいたから後回しにしていたが、色々と
そんな事を考えていた【ラーゼクター】は周辺警戒の為に使用していた《強者感知》──かつて狩った【ライトニング・ドラグホース】からラーニングしたもの──に『この山の中に入って来た強者の反応』を感知して、その方向へとラーニングした複数のアクティブ索敵系スキルを行使して詳細を探った。
『(……ふむ、これはかなりの大物がこの山の中に入って来た様だな。都合良く数は
……そうして複数の索敵系スキルでそれらの反応の位置を把握した【ラーゼクター】はどうすれば上手く立ち回れるかを考えながら詳細な状況を把握する為、複数の隠密行動用スキルを使って誰にも悟られぬ様に反応があった場所へと向かっていったのだった。
あとがき・各種設定解説
【八速騎動 スレイプニル】
<マスター>:佐藤結奈
TYPE:ギア
到達形態:Ⅳ
能力特性:斥力力場・滑走
スキル:《
・モチーフは北欧神話に出て来る八本足の馬である“スレイプニル”。
・《滑走機動》は斥力を使ったホバー機動の様なもので加速・旋回性に優れておりドリフトや超信地旋回なども容易くこなせるが、地上の起伏に合わせて滑走する仕組みなので道が険しすぎると上手く動けない欠点がある。
・その場合はスキルを使わず普通に足で走るのだが実はそれでもかなり速く、多脚部分はパワー・強度共に高いので険しい悪路の走破や大ジャンプとかも出来る。
・その際に掛かるマスターへの負荷・慣性などは《機動負荷軽減》のパッシブスキルで軽減し、この二つの移動方法を組み合わせたアクロバティックな高機動が本来の能力。
・戦闘手段としては斥力力場を応用した砲台からの衝撃波の弾丸や脚部分からの斥力障壁・斥力ブレードが使えるが、機動力を重視した<エンブリオ>なので威力は余り高くない。
・ちなみにマスターである結奈の悩みはMPを使うスキルが多いのに王国ではMP特化の操縦士系統の幅が狭く、特に上級職に就けるクリスタルが中々見つからない事。
【棄動戦車 チャリオッツ】
<マスター>:佐藤利奈
TYPE:アドバンス・アームズ・キャッスル
到達形態:Ⅳ
能力特性:騎乗物の火力・輸送能力強化
スキル:《コネクション》《カートリッジ》《
・モチーフは古代の戦争で用いられた戦闘用馬車……『戦車』の総称“チャリオッツ”。
・《コネクション》は
・《兵員輸送》は【チャリオッツ】内の空間を拡張するスキルだが、名前通り兵員を輸送する事がメインなのでただスペースがあるだけで居住性は低い(作中では自前の椅子などを使っていた)
・《カートリッジ》は1日に一定数(第四形態現在では十二個)の【チャリオッツ】のスキル行使に使えるMPを蓄積出来る弾丸を生産して、それにMPを装填して保管しておけるスキル。
・《多機能型魔力式砲塔機構》は【チャリオッツ】に備え付けられている上部の大口径主砲、左右の自在稼働型副砲、各部に分散配置されたミサイル発射管から《カートリッジ》で作ったMP弾丸を使って様々な属性の魔力砲撃を放つ事が出来るスキル。
・その種類は主砲の《火属性爆裂魔弾》《光属性徹甲魔弾》、副砲の《雷属性照射魔弾》《風属性拡散魔弾》、ミサイル発射管の《闇属性誘導魔弾》《氷属性誘導魔弾》などがある。
・この様に多様な属性の高火力武装や輸送能力を持ってはいるが、その反面【チャリオッツ】自体には移動能力が存在せず、更に《コネクション》を使用した状態でなければ《カートリッジ》以外のスキルが使用不可能になってしまうデメリットが存在している。
・つまり戦う為には“騎乗物を持った協力してくれる他人”が必要というピーキーな<エンブリオ>であるが、彼女の場合には姉の【スレイプニル】と連携する事で純竜すら倒せる火力を十全に運用出来ている。
【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:趣味はレベリングとスキル厳選
・高い頭脳で戦術を練る・スキルをラーニングする・弱小モンスターからの成り上がりなど、なろうのモンスター系転生者みたいな事をやってる<UBM>(笑)
・その能力特性は『
読了ありがとうございました。
ちなみに【ラーゼクター】の名前の由来は『ラーニング』と『インセクト』を繋げてもじった感じです。……後、難易度:九の理由は彼だけでは無く……。