□<クルエラ山岳地帯> 【
どうにか<
『…………』
「「「…………」」」
そして現在、その【ラーゼクター】と私達はお互いに戦闘態勢を取りながらも何もせずに只睨み合っていた……こっちは【ヒートライザ】との戦いでかなり消耗してるから、このまま【ラーゼクター】との戦いになったらキツイってもんじゃ無いし。
……加えて今仕掛けたら詰むって私の“直感”が言っている上、目の前の【ラーゼクター】がまったく隙を見せないからシュウさんや月夜さんも手が出せないんだよね。
(さて、真面目にどうしよか? このまま睨み合っても拉致があかんやろ)
(俺の見立てだと女狐の徐算があれば俺とミカちゃんなら接近戦で抑えられるだろうが……決め手に欠けるな)
(勘だけど今の戦力じゃアイツは倒し切れないと思うよ。どっか行ってくれないかな?)
(……あ、やばい、そろそろドーピングの反動が……)
(抗ドーピング薬はあるが……)
そんな感じで私達は【ラーゼクター】の様子を見つつ小声で話し合っていたのだが……突然、私の“直感”が『何か別の脅威が迫って来る』事を示した。
……直後、明後日の方角から何やら“多数の足音”が聞こえてきたので、私達と【ラーゼクター】はそちらに目を向け……。
『……アレは……』
「えぇ……なんか来るんやけど……」
『どうやらここからが
『……KIE……』
……そうして、そちらから近づいて来る“モノ達”を見た私達と【ラーゼクター】は思わず呻きながらも、ここで硬直した状況が動くと判断していつでも戦闘に入れる様に身構えた。
◆◆◆
■<クルエラ山岳地帯>廃砦
「おっ、お頭ぁ⁉︎ 大変です!!!」
「……何だ、騒々しい」
「まあ一旦落ち着きけ。何があったのかゆっくり話しな」
アルター王国とカルディナの国境地帯にある<クルエラ山岳地帯>にある廃砦、そこを根城にしている<スミス山賊団>の首魁【
「へ、へぇ……お頭達に言われて辺りの監視を強化していたんですが、そしたら【
「詳しく話せ」
その山賊の口から<UBM>という言葉が出た瞬間、ジョンとダリーの雰囲気が鋭いものへと変わった……彼等もこの世界のティアンとしてはレベルを500でカンストしている幾多の戦いを潜り抜けた強者であり、それ故に<UBM>の恐ろしさをよく理解しているのだ。
……そして山賊の一人は<UBM>の名前が【熱態己竜 ヒートライザ】である事、そいつがこの山に入って来た《鑑定眼》が効かない機械的な馬車を引いた多脚戦車と交戦状態に入った事、そして直ぐにどこかに逃げていった戦車を追って【ヒートライザ】もまた何処かに行ってしまった事を伝えた。
「……機械的な戦車か。こんな所に居るって事はドライフ製でも無さそうだし、鑑定が効かなかった事を考えると<マスター>の<エンブリオ>の可能性が高いか」
「そ、それでお頭! 俺達はどうすれば……」
「落ち着け、まだその<UBM>がこっちに来ると決まった訳じゃない(ティアンは経験値が高いからそうなる可能性は高いだろうが)……とにかく周囲の監視を強化して、万が一<UBM>がこっちに来るようならば即座に撤収すればいい(そんな余裕が無い可能性も十分あるから俺達は先に撤収するが)だから落ち着いて行動しろ(そんで精々囮になれ)」
「は、はいっ⁉︎」
そんな風に完全に配下を見捨てて逃げる気な本心を隠しながら、ジョンは配下の山賊に指示を出して部屋から追い出した……彼は自分が比較的才能に恵まれたお陰でカンストレベルの強者になれたが所詮はそこ止まりだと考えており、自分が<UBM>に勝てる程の
ちなみに見張りに出た山賊が【ヒートライザ】を見た時点でアジトに戻ったので彼等は新たに現れた【ラーゼクター】の存在は知らないが、仮に知ったとしても逃亡という選択は変わらなかっただろう。
……そうして配下が出て行った後、彼は気取られぬ様に相方のダリーと共に砦から逃げる準備をして行った。
「それで兄貴、持っていくものは?」
「<UBM>と遭遇する可能性がある以上、動きやすい様に身一つだ……と、言いたかったんだがそっちの小娘はどうするか……」
「んお?」
そう言ってジョンは部屋の隅にある檻の中でさっきからずっとお菓子を貪っていた【リトル・ネイチャーエレメンタル】の少女の方を見た……ジョンが当初希少なモンスターで高く売れるだろう彼女だけは連れて逃げようと思っていたが、それと同時に近くに<UBM>がいる以上は万が一を考えると足手纏いを連れて行く事に不安を感じていてどうするか悩んでいたのだ。
加えて彼女が先程言った『この山は荒れる』という言葉通りに<UBM>が現れたので、彼の中では『この少女は本当にただのレベル1モンスターなのか?』という疑問が浮かんでおり、それを確かめる為に改めて問い詰めるつもりで声を掛けたのである。
……だが、彼が問い詰めるよりも早く、食べながらも話を聞いていたエレメンタルの少女はともすると呑気な口調で
「……ああ、話は聞いておったぞ。中々物騒な事になって来た様じゃな……まさかワシが
「…………待て、お前は一体何の話をしているんだ?」
……その口から放たれた余りにも意外すぎるその言葉にジョンは思わず聞き返してしまったが、彼女は特に気にせずに『少々説明不足だったか』と考えて先程自分が感じ取った事について詳しく話し始めた。
「うむ、“今のワシ”の種族である【ネイチャーエレメンタル】は様々な属性の自然魔力の扱いに長けた種族でな、それ故に自然魔力を感知する能力も高いのだが……その感覚でどうもこの山の地脈に流れる自然魔力に
「「…………」」
彼女が語ったその内容を聞いたジョンとダリーは思わず黙り込んでしまった……それが明らかに『只の感覚だけでなく異常なまでの知識と経験に基づくモノ』だと理解してしまったが故に、目の前の少女が只の『レベル1エレメンタル』などでは無くもっと計り知れない
……その解説が終わった後、部屋の中は張り詰めた様な沈黙に包まれたが、やがて堪り兼ねたジョンが口を開いた。
「……お前は一体何者なんだ?」
「んー、ワシか? ……まあ普通のエレメンタルと言うには違うじゃろうが、単にちょっと転せ『ギャアアアアアアアァァァァァァ!!!』……む、なんじゃ?」
重苦しい雰囲気で放たれたジョンの質問に対して彼女は軽い口ぶりで答えようとしたのだが、その直前に砦の外から山賊達の悲鳴が聞こえてきた所為で話は中断されてしまった。
……そんな立て続けに起こった異常事態にとうとう冷静さを失い始めたジョンは、頭を書きながらも外の見張り役に持たせておいた通信用アイテムを手にとって連絡を取った。
「今度は一体なんだ⁉︎」
『お、お頭! いきなりこの砦に襲撃を掛けてきたヤツが! アレはまさかゴー……グワァァァァッ!!?』
「おいっ⁉︎ どうしたっ! おいっ!!! ……くそっ⁉︎ 切れたか。……一体この山で何が起きてるってんだ!!!」
向こうの使用者がやられた所為で通話が切れてしまった通信用アイテムを握りしめながら、ジョンは思わず余りにも悪い条件になってしまっている現状への苛立ちを吐き出す様に叫んでしまった。
……彼等<スミス山賊団>の拠点を襲ったモノ、それは……。
◇◇◇
□<クルエラ山岳地帯>廃砦前 【
いきなり襲い掛かって来た<UBM>【ヒートライザ】をミカとシュウさん、月夜さん達に任せて、俺達は山賊団のアジトである廃砦前にやって来ていた。
……まずは廃砦の偵察を行う為にデカくて目立つ【スレイプニル】と【チャリオッツ】を乗り手である佐藤結奈さんと佐藤利奈さんと一緒に離れた場所に待機させて、俺とミュウちゃんと月影さんで廃砦前までやって来ていた。
「……それでミュウちゃん、あの砦の内部に居る人間の位置はどうなってる?」
「んー……私に分かるのは位置情報と大雑把な強さだけなんですが。……あの砦内部には大体下級職一つ目の人間が多くいますね。それがあちこちに」
そして今は砦から少し離れた茂みの中で、俺が就いているジョブの一つ【
……ちなみに月影さんは単独で動く方は隠密能力が高いとの事なので、俺達よりも更にアジトに近づいての偵察を頼んでいる。
「……砦の内外にレベルが低めの連中が慌ただしく動いています、多分コイツらが山賊団でしょう。それと他と比べてレベルが高いのが二人程二階の一箇所に留まっていますね。……後、地下にレベルが低い人間が六人一箇所に留まって動いてないです」
「……地下の人間が誘拐された人達かな、事前情報と数が一致するし。……二階のヤツらは山賊団の首魁かな。三人いるって話だったが一人いないのか……」
目を閉じて集中しながら内部を探ったミュウちゃんの報告に対して答えつつ、俺はどう人質を救出するかを考えて行く……と、その時に偵察に行っていた月影さんから【テレパシーカフス】で連絡が入った。
『こちら月影です。……少し山賊達の話を《盗み聞き》したんですが、どうも【ヒートライザ】と私達の戦いの一部が目撃された様で【スレイプニル】と【チャリオッツ】の存在にも気づかれている様です。今も<UBM>を警戒して見張りを強化しているみたいですね』
「ありがとうございます、月影さん。……さてどうするか」
見張りが強化されているとなると潜入は難しいし、その上で【スレイプニル】と【チャリオッツ】の事も気付かれているとなると……とりあえず【テレパシーカフス】を結奈さんと利奈さんに繋げて現在の状況を知らせてから話し合うか。
「…………と言うのが現在の状況ですね」
『うえー、難易度爆上がりじゃん』
『難易度:九のクエストだけあって面倒な状況ですね』
「潜入して人質だけ連れ出して逃げると言うのは……」
『私とレントさんなら潜入する“だけ”なら出来るかも知れませんが、中に居る人質を山賊達に気付かれずに連れ出すのは厳しいでしょうね』
結局の問題は月影さんが言う通り人質を連れ出すって所なんだよな。今回のクエストの目的はそこな訳だし……これは多少荒っぽく行くしかないか。
「やっぱり囮役が派手に暴れて山賊の注意を引き付けている隙に、やや強引にでも人質を連れ出すしかないかな。……ちょっと戦力が足りないのが不安だが」
『山賊達は<UBM>の登場で浮き足立っていますから案外上手く行くかも知れませんが……誰が囮役になります?』
「囮役は当然俺が行く……と言うか、人質までの案内と潜入役にミュウちゃんと月影さんは必要だし、結奈さんと利奈さんは必要の回収をしてもらわないといけないしな。ヴォルトと一緒なら俺だけでもまあ何とかなるだろう」
基本方針としては俺とヴォルトが派手に暴れると同時にミュウちゃん月影さんが潜入、それと共に結奈さんと利奈さんにもこっちに来てもらって潜入した二人が人質を連れ出した所で回収、そのまま逃亡……って感じで行ければ理想なんだが。
……正直、自分で考えておいて大分雑な作戦ではあるが、何でも月影さんの<エンブリオ>には影の中に他者を入れるスキルがあるらしいので、山賊の注意を引き付けさえすれば人質を逃がす事は可能だろうって事でこういう作戦に決まった。
「……よし、じゃあやりましょうか。この作戦は連中が何かする前に人質を逃がせれば勝ちなのでスピード重視でいきましょう」
『そうですね、では私とミュウさんが合流次第救出に……ん? ……レントさん、砦の正門前の道の先から“何か”が来ています』
そうして作戦を実行に移そうとしたその時、通信を繋いでいた月影さんがそんな事を言って来たので俺とミュウちゃんが砦前の道の方を見ると、そこには
『『『『『『………………』』』』』』
「……アレは人間……ではなさそうだな」
「はい、動き方が人間……いえ、生物のモノでは無いのです」
『《遠視》を使った所、頭上に名前表記があったのでモンスターの様です。……【クルエラソルジャー・ゴーレム】と』
そう言われて俺も《遠視》を使った所、そいつらは金属製の鎧や武器を身につけている土で出来たゴーレムである事が見て取れた……また、そのゴーレム達はいくつかの種類がある様で、月影さんの言う槍を持って鎧を身に付けた【クルエラソルジャー・ゴーレム】の他にもメイスを持った【クルエラブリガンド・ゴーレム】や短剣を持った【クルエラスカウト・ゴーレム】などが確認出来た。
……そんなゴーレムが三百人も隊列を組みながら無言で進軍して来る光景は異様な迫力を醸し出しており、見張っていた山賊達すら一瞬呆気に取られる程だったが、流石にいつまでも惚ける事は無く山賊達はすぐに各々が迎撃態勢を取った。
「な、なんだぁ⁉︎ アイツら!」
「大量のゴーレムだ! とにかく迎え撃つぞ!」
「お、お頭達にも連絡を……!」
『『『……《Stone bullet》』』』
だが、それよりも早くゴーレムの後方にいた【クルエラメイジ・ゴーレム】が石を発射する地属性の下位魔法《ストーン・バレット》によって山賊達を先制攻撃したのだ。
……下位魔法とはいえ三十体近いゴーレムから一斉に発射された大量の石飛礫は下級職の山賊達にダメージを与えるには充分な威力を持っており、それによって動きの鈍った山賊達に武器を持ったゴーレムが次々と襲い掛かっていった。
『…………』
「なっ⁉︎ コイツ……ガァァ!?」
『…………』
「このっ……喰らえ! コイツッ! ……ゴフッ⁉︎」
『…………』
「いきなりこの砦に襲撃を掛けてきたヤツが! アレはまさかゴー……グワァァァァッ!!?」
そのゴーレム達は一体一体の平均ステータスは下級職二つか三つ程度のティアンレベルで山賊とそこまで変わらないレベルであったが、山賊の数は精々五十人程しか居ないのに対してゴーレムは三百体も居たため文字通りの“多勢に無勢”と言った結果となり次々と山賊は始末されていった。
……そんな酷い光景に目を奪われながら【クルエラ】の名を持つあのゴーレム達が一体何なのかを考えていた俺だったが、その戦っているゴーレムの一部が砦の中に入って行くのを見て即座に【テレパシーカフス】を起動して全員に連絡を取った。
「作戦変更だ、現在此処にいる全員で砦に突っ込むぞ。……あのゴーレム達人間を積極的に殺してやがるから中に居る人質達も危ないから、その前に全員救出する。どうせこんな騒ぎになった以上は連中にこっちを気に掛ける余裕は無いしな」
『成る程、では私は先に砦内部に潜入します。確か地下でしたね』
「お願いします月影さん。……結奈さんと利奈さんも来てくれ。そして退路の確保の為に可能な限り外のゴーレムを倒してほしい」
『分かりました』
『りょうかーい! ……って、ただの山賊討伐なのにどうしてこんな事に……』
多分、難易度:九のクエストだからだろうな……そして俺は光学迷彩のまま戦闘態勢を整えた上でミュウちゃんと一緒に砦への潜入を試みる事にした。
「……と言っても、この位置からだと戦闘を回避するのは難しそうですが。ゴーレムに光学迷彩がどこまで有効かですかね」
「一般的なゴーレムはコスト面の問題から基本的に再現しやすい視覚か聴覚で情報を取得している筈だが……どう見ても、アレらが一般的なゴーレムには思えないからな。最悪戦闘も覚悟で進もうか」
「どうせ退却の為にはある程度数を減らさねばなりませんしね」
……そうして俺とミュウちゃんは気配を消しつつ足音を立てない様に、だが可能な限り急いで未だに山賊とゴーレムの死闘が行われている砦まで向かっていったのだった。
あとがき・各種設定解説
兄:難易度が九と言ってもトラブル起きすぎだろ
・そう思いつつもも妹の“直感”が働いている以上はロクでも無い事が起きるだろうと覚悟はしていたので、すぐさま最優先事項である人質の救出に動く事が出来た。
・ちなみに目の前でティアンの山賊が虐殺されていっているが『まあ自業自得だろ。むしろ妹達が手を下す事が無くて良かった』とドライに考えている。
末妹:索敵要員(重要)
・【ブラックォーツ】の《人間探知》は詳しい情報が分からない代わりに位置情報はかなり正確に分かる。
・目の前の虐殺に関しては不快には思うものの、彼女は『戦闘の才能』によって戦いに不都合な精神的影響を受けづらいので冷静に『助けるのは無理』と受け止めている。
《オプティカル・カモフラージュ》:【幻術師】のスキル
・自身及び指定した対象の姿を光学的に不可視にするスキルで、乗り物系の超級エンブリオならオマケみたいに類似スキルを覚えたりする。
《盗み聞き》:【盗賊】【暗殺者】などで覚えるスキル
・自分の存在が相手に気付かれていない状態でのみ、効果範囲内の指定した相手が発する音を聞き取る事が出来るアクティブスキル。
ジョン・スミス:ティアンの犯罪者としては非常に優秀
・……なのだが、今の魔境と化した<クルエラ山岳地帯>の状況では流石に普段の冷静さを失いかけている。
【リトル・ネイチャーエレメンタル】:知識量がおかしい
・【ネイチャーエレメンタル】は自然魔力の操作に長けたエレメンタルの中でも、天・地・海の三属性……
・その特性上、長年生きてきて自然魔力への干渉技術を磨いてきたエレメンタルが進化する場合が多い希少種である。
【クルエラ】のゴーレム:いつから難易度が九の理由が二体の<UBM>だと錯覚していた?
・原作において味方が『下級職一職目のクマニーサンとフィガロ、後土竜人』で敵が『<UBM>二体』かつクエスト達成条件がその撃破で援軍のアテもないという条件での難易度が“八”だったので、それより上の“九”ならただ<UBM>二体だけじゃ足りないよね!
・個々の戦闘能力は低いがゴーレムとは思えないぐらいに組織的に動く事が出来る事や、名前に【クルエラ】が付いている理由とかは次回。
読了ありがとうございました。
難易度:九の本番はこれからなのさ……でも、<クルエラ山岳地帯>に居るヤベーやつらは別に人質を優先して狙うなんて事はないので救出自体は上手くやれば出来ない事も無い。