□<クルエラ山岳地帯> 【
お互いにどう出ていいのか分からず睨み合いとなっていた私達と【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】だったが、その均衡は突如現れた乱入者達──大量のゴーレムの群れによって破られたのだった。
『『『『…………』』』』
『《テンペスト・ストライク》! 全く数が多いね!』
『撃っても殴っても終わらないウサ!』
槍を構えて襲いかかる【クルエラソルジャー・ゴーレム】達を私が暴風を纏わせた【ギガース】によって吹き飛ばし、向こうではメイスで殴り掛かってくる【クルエラブリガンド・ゴーレム】をシュウさんがガトリングガンで蜂の巣にしながら、時折片手持ちにしたハンマーで接近して来た【クルエラスカウト・ゴーレム】をカウンターで殴り飛ばしていた。
まあ、一体一体は雑魚だから倒すのには苦労しないんだけど、相手は数百体はいるから中々面倒なんだよね……私みたいにENDがある程度高ければ囲んで棒で叩かれても死にはしないんだけど、他の人達はジョブが魔法寄りだったりSTR極振りだから数の暴力はそれなりに有効な手段になってる。
「武具など前座……真の英雄は目で殺す。《ヒートブラスト・コンバージェンス》!」
「目って言うより額から出てへん? 遠目から見ればそんな風に見えるかもやけど……とりあえず【ラーゼクター】は逃げて行きよったし、《薄明》から通常の《月面除算結界》に変えとこか」
『分かったわ』
「《瞬時注射》……護衛はお任せを」
向こうでは葵ちゃんが手に入れたばかりの【熱竜冠 ヒートライザ】から熱線を放って遠間から魔法攻撃をして来ていた【クルエラメイジ・ゴーレム】を焼き尽くし、月夜さんが健太さんに守られながら回復魔法とデバフ結界を駆使して味方を援護していく。
……ちなみに【ラーゼクター】は月夜さんの言った通り私達とゴーレム軍団と戦い始めたドサクサに紛れてさっさと逃げていった。ゴーレムはあっちにも向かったんだけど、ヤツは斬撃波を出すスキルを使って蹴散らした後こちらには目もくれずに。
『まあ、お陰でゴーレムに集中出来るんだけどね! もし同時戦闘してたら酷いことになってた!』
『それよりも更に追加のゴーレムが来るウサ!』
『『『『…………』』』』
月夜さんの《月面除算結界》によって全ステータスがダダ下がりしているお陰でゴーレム達は瞬殺出来ており数に押し切られずに済んでいたのだが、倒しても倒しても次々と地面から追加のゴーレムが現れるのできりが無いんだよね。
……しかも、追加ゴーレムには【クルエラソードマスター・ゴーレム】とか【クルエラグレイトブリガンド・ゴーレム】などの亜竜級に届くものもあったのだ。
『《サンダー・スラッシュ》』
『《インパクト・ストライク》』
『げっ⁉︎ コイツらスキルまで使って来る! 《アームズブレイカー》!』
加えて亜竜級ゴーレムは当たり前の様にそこそこ強力なスキルを使うので、こちらに与えるダメージが大きく集団で囲まれた時の脅威度が段違いに高いのだ。
今のところは月夜さんのお陰で弱体化してるのもあって、私は“直感”で攻撃軌道を見切りカウンターで武器を砕くとかして対処出来ているが、それでもパーティー全体としてみると徐々にダメージが積み重なっているし。
……加えて<
「まあ、ウチがおれば雑魚はどれだけ集まっても大した脅威では無い……と言いたい所なんやけど、完全に向こうは消耗戦の構えやなぁ。弱体化しようが全方位から数で押し続ければって感じか?」
『どれだけ倒しても百体以上のゴーレムを次々と辺りの地面から生成されている上、場所を移動しようとしても移動先にゴーレムを生成されてるからどうも位置を捕捉されている様だし、完全にこっちを狙って来ているな』
『それにこっちからはゴーレムを作っている“何者か”が何処にいるのかさっぱり分からないからジリ貧だよね。山を降りるルートで移動してるけど逃げ切るのは難しいかな』
とりあえずシュウさんや月夜さんと話し合って打開策を考えるものの、向こうがやってるのは単純にゴーレムを大量に作って嗾けるだけの『物量によるごり押し』なので対抗手段が思いつかないでいた。
……とは言え、私の“直感”だと『ここでもう少し待てば事態は好転する』感じもしてるからね。だから後少しだけ頑張ろうか。
「《インフェルノ・バーンナックル》! 《ヒートブラスト・コンバージェンス》! ……必殺スキル使った後で蓄積した熱量が少ないからあんまり派手な事は出来ないか」
『《インパクト・スマッシャー》! ……亜竜級のゴーレムは私が優先して倒しておくよ!』
『雑魚は任せるウサー!』
「《皆癒の霊薬》……HP回復はこっちで行います!」
「じゃあウチは結界に集中しよか。MPポーションMPポーションっと……」
『『『『…………』』』』
それでも私達は各々の得意分野を活かした連携を駆使してどうにか持ち堪えていたのだが、どうも倒される端から補充されているのか、ゴーレムの数は一向に減る事が無く戦線は膠着状態に陥っていた……と思われたその時、後方から一発の火球が凄まじい速度で飛来して後方にいたゴーレム達に着弾して炸裂した。
……それによってゴーレム達の何割が吹き飛んだ所に、更に追加で氷属性の誘導弾を放ちながら見覚えのあるカーゴを引いた多脚戦車──山賊のアジトに向かっていた筈の【スレイプニル】と【チャリオッツ】が突っ込んで来た。
『ようし! 《
『こっちも行きます! 《リパルジョンブラスト》発射!!!』
そうして雨霰と多種多様な砲撃による圧倒的な火力でゴーレム達を吹き飛ばした【スレイプニル】と【チャリオッツ】は、そのまま進路上に残っていたゴーレムを亜音速で轢き潰しながらこちらに来た……そうして私達の側に停車すると【チャリオッツ】の後部からミュウちゃんと月影さんが降りて来たのだ。
「ミュウちゃん! 誘拐された人達は?」
「山賊に誘拐された人達の救出は完了しました……ですが、山賊達はゴーレムに襲われて壊滅。私達も急いで山を降りる所だったのです」
「ですが、その途中で月夜様達が交戦している場面に遭遇してこうして助けに来たという訳ですね」
『そもそも進路上にいたから突破しなきゃいけなかったし』
『それよりも早く乗ってください! ゴーレムが再生成され始めています! この【スレイプニル】の足なら奴らを振り切れますから!』
とりあえず簡単に彼女達の事情を聞いた後、再生成が始まってこっちに向かって来たゴーレム達を各々の遠距離攻撃で牽制しながら結奈さんに言われた通り【チャリオッツ】へと騎乗していく。
……その中にはサリーちゃんから救出を頼まれていたケリー・メイティスさんを含む誘拐された商隊員達も居たので、私はクエストそのものは達成出来たのだと安堵のため息を吐いた。
『全員乗り込みましたね。では発進します……《ストーム・アクセラレイション》!』
「追ってくる連中には《
「ついでに《月面除算結界》を使ったままにしておこか。これで追いつけんくなるやろ」
そうして全員が乗り込んだ所で結奈さんがスキルを使って【スレイプニル】を急加速させ、利奈さんが追いすがってくるゴーレム達を暴風で吹き飛ばし、暗黒の魔弾で粉砕しながら追撃を妨害していく。
更に月夜さんの結果のお陰で近づくゴーレムはステータスが大幅に下がるので追い付く事が出来ず、前に立ちはだかるものも普通に轢殺出来るので私達はあっさりとゴーレム達の囲みを抜ける事に成功していた。
『じゃあこのまま逃げ切れればとりあえずクエストは完了かな? サリーちゃんには良い報告が出来そうで良かったよ』
「……あの、妹の事を知っているんですか?」
「ウチらはサリーちゃんの依頼であんたらの救出に来たからな。まあ無事で何よりや」
「それは……本当にありがとうございます。このお礼は必ず……」
……そんな感じでケリーさん達誘拐された人達と話せる程度には状況が落ち着いた所で、シュウさんが何かに気が付いた様に声を上げた。
『……そう言えばレントはどうしたんだ? 姿が見えないんだが』
「兄様なら山賊のアジトに残りました。……そこで凄まじい魔力を感じ取ったので様子を見に行ったら、あのゴーレム達について知っている情報提供者に遭遇したとか。援軍のゴーレムが来たから誘拐された人達の救出優先で自分は置いて先に逃げろ、この山から降りればゴーレムは追ってこないとも言ってたのです」
ふーん、まあ私の“直感”的には今のところ上手くいってる感じがするし大丈夫でしょう……このクエストを受けた
『まあ、あのゴーレム達の対処はお兄ちゃんに任せておけば大丈夫な気がするし、私達はクエスト達成の為にケリーさん達を山から降ろしてギデオンに送る事に集中しようか』
「そうですね、兄様ならこの山で単独行動でも問題ないでしょう。何せ私や姉様とは
「……まあ、身内である二人がそれで良いならええやろ」
……お兄ちゃんが単独で山に残ったと聞いても私とミュウちゃんが何でもない様に平然としていたので、他のメンバーや救出された人達もやや困惑しながらも、気をとりなおして完全な危険地帯と化した<クルエラ山岳地帯>を抜ける事に集中するのだった。
◇◇◇
□<クルエラ山岳地帯>廃砦 【
「……よし、これで契約完了だ」
「うむ、今後ともよろしく頼むぞ主人よ」
そんな感じで俺は山賊のアジトで出会ったエレメンタル謎少女をテイムした(させられたとも言う)のだが……正直言って物凄い厄ネタを背負い込んだ気がしなくも無い。
「まあ、それに関しては後で考えるとして……まずはこの砦から脱出せんとな。あのゴーレム達は光学迷彩と気配遮断は有効みたいだが」
「解析出来た範囲ではあのゴーレム供の感知機能は視覚メインで補助に聴覚、更に固有の探知スキルを付けられたものもおるな。……それとおそらくじゃがあのゴーレムを操っておる存在は地脈を介して生物の位置を探知しておる。地脈の自然魔力を読み取ったらその手の術の反応があったし」
……やっぱコイツヤベェ(震え声)……俺もこの世界の魔法技術にはそこまで詳しい訳じゃ無いんだが、それでもコイツの魔法技術が色々おかしいって事ぐらいは分かるぞ。
「それじゃあどうやって連中の目を誤魔化す? ミュウちゃん達が全速力で逃げていったお陰で今ゴーレム達の注意はあっちに向いているが、追いつけないと分かればこっちに来るぞ」
「基本は光学迷彩と消音でどうにかなるじゃろ。地脈からの生態探知に関してもワシならどうとでもなる、これでも自然魔力の扱いには長けておるしな。……ただ、今のワシの魔力じゃと“裏技”混みでもあまり多人数を誤魔化せんから、そっちのヴォルトとゴーレム君を一旦【ジュエル】に仕舞って……」
「……待って、この【ジュエル】一体だけしかモンスターを入れられないタイプなんだけど」
正直テイムモンスターを増やす気は無かったからな、移動用のヴォルトだけ入れられれば良いってそう言うタイプの【ジュエル】にしたからなぁ。
「ふむ? ヴォルトに《魔物強化》が掛かっておったから【
「【従魔師】のジョブも取ってはいるがヴォルトを強化するのと従属キャパシティを稼ぐ為に取っただけだから……」
「ああ、なるほど。その異常な高レベルは【勇者】と同じタイプか。……ま、そのぐらいならゴーレムを
そう言うとエレメンタル少女はおもむろにゴーレムの胸部に手を当てて、何やらぶつぶつと呟きながら俺には理解出来ないレベルで何かの魔法を使い始めた。
……そうして十秒ほど何かの作業をした後、エレメンタル少女はゴーレムの胸部を開いて中に入れてあった虹色の石(多分前に言っていた【魔神石】ってやつ)を取り出し、それと同時にゴーレムは膝をついて機能を停止した。
「これで【スチールゴーレムの素体】と【魔神石】の二つのアイテムになったからの。これならアイテムボックスに仕舞えるし、戦力が必要になったら素体に【魔神石】を入れれば直ぐにゴーレムとして使えると言う寸法よ」
「器用な事をするな」
「アイテムをゴーレムにする手法もあるからな。そのちょっとした応用よ」
とりあえず俺は【スチールゴーレムの素体】と【魔神石】をアイテムボックスへと仕舞いヴォルトを【ジュエル】へと戻すと、さっさとこの砦から脱出する事にした……どうも表のゴーレムはミュウちゃん達を見失って、追跡を諦めてこっちに来ているみたいだからな。
「それで生態探知を妨害する手段があると言う話だったが」
「その前に手を出してくれ。……今のワシのMPでは少々術の維持には心許ないでな。【魔神石】は本命の為に温存しておきたい故、《従属契約》の繋がりを用いて主人殿のMPをワシが使える様にするパスを繋いでおきたいのじゃ」
「そんな事も出来るのか。……まあ良い、分かった」
もういい加減このエレメンタル少女の出鱈目さには慣れたので、俺はさっさと済ませる為に手を差し出した……すると少女は俺の手を両手で取って目を瞑りながら、俺では理解出来ないレベルの術を行使していく、
「……さて、じゃあ《従属契約》を踏み台に《ライフリンク》と【
「む、これは……」
……エレメンタル少女がそのスキルの発動を宣言した途端に、俺と彼女の間に『何か』が繋がった様な感覚があった。
「魔力のパスが繋がった様じゃな。ちなみに接触状態じゃないと共有効率が大きく落ちるからこのままな。……それじゃあ地脈からの探知を誤魔化す為に『ジャミング・ライフサイン』……それと『オプティック・ハイド』と『サイレンス』もこっちで使っておこう。……よし、これで見つからないだろうから後はワシを運んでくれ。今のワシはティアンの子供にも負けるレベルの身体能力なのでな」
「実にトントン拍子に進むなぁ……まあ分かった」
そうして俺はエレメンタル少女を小脇に抱えて廃砦から出る為に廊下を進んでいった……途中で砦に入って来たゴーレム部隊にも遭遇したのだが彼女が使った“隠密術式セット”の効果は絶大だった様で、ゴーレムの直ぐ横を通ろうが一切こっちに気づかれる事なく進む事が出来てしまった。
『『『『…………』』』』
「……本当に効果バツグンだな。全くこっちに気が付いてない」
「まあ、このゴーレム自体にそこまで強力な探知機構は組み込まれていない様だからの。おそらく地脈からの生態探知と視覚・聴覚情報の共有で周辺情報の探知を行うタイプの様じゃからな。そこを誤魔化してしまえばこんなものよ」
……そんな感じで俺達は特に何事も無くあっさりとゴーレム軍団の包囲網を突破して砦から脱出、そのままゴーレム達から離れる事に成功したのだった。
「……さて、無事に連中を巻けた訳だがこの後はどうする主人殿。このまま山を降りる事も出来るだろうが」
「お前、さっきはあのゴーレムを操る黒幕を倒す気まんまんな感じの事を言ってなかったか?」
「アレは売り込みの為の宣伝も兼ねて言ってみただけだ。……まあ、地脈を探ってみたらあのゴーレム達はかなり遠隔から操られている上、この<クルエラ山岳地帯>全域に多数展開されておる節がある……このまま時間を置けば経験値を稼いで更に
……もし<UBM>なら経験値で進化する可能性もあるし、そうで無くともこの<クルエラ山岳地帯>がゴーレムの領域になるって感じか。
「アイツらは山賊を積極的に殺して回っていたからな……良いだろう、厄介事はさっさと済ませるに限る。黒幕の位置は分かるんだろう?」
「うむ、地脈の自然魔力の流れを読んでゴーレムを操っているラインから逆探知すればな。……黒幕そのものを倒せるかは分からんが」
「それに関しては黒幕を見つけてから判断するさ。駄目なら撤退すれば良いしな」
そういう訳で俺はエレメンタル少女の案内の下、この<クルエラ山岳地帯>にゴーレムを展開している黒幕の所まで行ってみる事にしたのだった……ミカが俺をこっちにやったって事は『そういう事』だろうからな。
<UBM>とかなら倒せる時に倒した方が良いだろうし、ミカに負担が掛からない様に可能な限り悲劇が起きない方が良いだろうしな。
あとがき・各種設定解説
妹達パーティー:この後は無事に山から脱出出来た
・ちなみに何人か兄を助けに行った方が良いのではという意見も出たが、妹二人が『クエスト達成が最優先』と強く主張したのでそのままギデオンに帰還した。
・尚、こんな主張をしたのは妹の“直感”が『兄だけの方が勝率が高い』と出たからでもある。
【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:こっちも撤退
・基本的にリスクを可能な限り減らして確実に獲物を狩る『狩人』な行動パターンなので、自身で対処が難しい不測の事態が起きた場合には撤退を最優先にしている。
兄&エレメンタル少女:無事に契約及び脱出成功
・エレメンタル少女の名前はまだ決めていないが、その辺りは向こうの事情(前世)をキチンと聞いてからで良いだろうと兄は考えている。
《
・このスキルを習得しているテイムモンスターは主人のMPを使う事が出来る、又は逆にテイムモンスターの魔力を主人が使う事が出来る様になる。
・ちなみに接触状態では100%の効率で魔力を共有出来るが、離れていると最大でも50%程度の効率でしか共有出来ない仕様になっている。
・このスキルを“新しいスキルとして習得させている”事から分かる通り、エレメンタル少女はマニュアルで魔法を自分のスキルとして習得する事も出来るが、現在のレベルでは容量に限度もあるのでマニュアルで構わない術は習得させない様にしている。
読了ありがとうございました。次回は兄&エレメンタル少女VS【クルエラン・コア】なる予定。