とある大学での一コマ
□地球・とある大学 加藤蓮
デンドロでネリル(元神話級)をテイムしてから数日、夏期休暇も終わってしまったので俺はごく普通に大学へと通っていた……デンドロやる時間は減るがリアル優先である以上はしょうがない。
そんで今は昼休みなので食堂できつねうどんを啜りつつ、同じ大学一年生で中学からの付き合いがある友人の
「……ふーん、蓮もデンドロ始めたんだ?」
「ああ、妹達と一緒にアルター王国でな。……その言い方だと姫乃もか?」
「ええ、一月ぐらい前からレジェンダリアで始めたわ。今は気の合った<マスター>とパーティーを組んで色々やってるわね」
そんな事を言いながら姫乃は天ぷらそばを啜っていた……ちなみに彼女は身長175ぐらいの長身でスレンダーなモデル体型、かつ長い黒髪に整った顔の美人なのでさっきから結構注目されていたりする。
……俺の方にも視線が来ているが多分姫乃のついでか嫉妬の視線だろう。中学の頃から良くあったし。
「……言っとくけど蓮も普通にイケメンだから見られているのよ。話題の美男美女で座ってるから注目されているんだし」
「姫乃はともかく俺はそんなに話題になっていたか?」
「貴方この大学にトップの成績で入学したじゃない」
「それを言うならそっちは推薦入学だろう」
コイツは外見だけでなく中身までハイスペックだからな……まあ、それを言うと『お前にだけは言われたくない』って突っ込まれるから言わないけど。
……とは言え所詮は珍しい物見たさの視線なので、しばらく時間が経って食堂に人が増えて皆が食事に入っていくと自然にそう言った視線は消滅していった。
「さて、注目も逸れた事だし本題の<Infinite Dendrogram>の話の続きをしましょうか。……実は私がデンドロ始めたのって“仕事”も兼ねてのものでもあるのよね」
「それって“巫女さん”の方の仕事か? ……
「ええ、何故か巡り巡って私にしわ寄せが来たのよねぇ。……いくら私が“霊視”出来るとはいえゲーム内の情報収集はまた畑が違うんだけど……」
実は姫乃の実家は古くから続く神社であり、彼女自身も“本物”の巫女──この世界では一般には知られていないが『怪異』やら『異能力』などの“裏の世界”とも言えるモノが存在している──であり、“有らざるモノを見る”眼を持っているのだ。
……ちなみに俺と姫乃の出会いは中学の時に巻き込まれた裏側関係の“とある事件”での事で、その時に色々と世話になったのがきっかけだったりする、
「……まあ、一応これでも国内最高峰である私の霊視が全く通じない時点で只のゲームではないでしょうからねぇ。ログインして肉体がアバターに変わってからは霊能力全ての行使が不可能になったし。……アレ、多分だけど魂か情報体か何かを別の器に入れるヤツね。根本的なレベルが違いすぎるから断言は出来ないけど」
「それでログインして普通のゲームプレイヤーとして情報収集していると。……正規以外の方法ではやらなかったのか?」
「分かってて聞いてるでしょ。……そうしたら
……まあ、先日ネリルから聞いた『先々期文明に現れた“化身”』の話を聞いた限りだとそうなるよなぁ。ニュースでもデンドロに不正アクセスしようとしてスーパーコンピュータがアボンされたってのがやってたし。
「……そんな危険な仕事をよく受ける気になったな」
「まあ、正規ルートで行けば問題無いって“視えた”し、チュートリアルの時に担当になった“クイーン”と言う管理AIから『正規の方法でログインして普通にゲームをプレイするのなら、こちらからは一切の干渉はしない』って言質を取ってるから」
「ああ成る程、こっちのも確かに『<マスター>に取っては最初から最後までただのゲーム』と言ってたな」
「そういう意味ではゲームを楽しみながら給金が貰えるから悪くない仕事よ」
やっぱり、あの“管理AI”達は正規の<マスター>に関しては基本的に不干渉で間違いなさそうだな……先々期文明を始めとした『あの世界における重要情報』を数多く知るネリルを仲間にしたり、彼女から情報を多く聞いても俺は一切問題なくデンドロをプレイ出来ているからそうだと思ってはいたが。
「それで、情報収集はどのくらい進んでいるんだ?」
「それがさっぱり。普通にプレイするだけだと集まる情報はwikiで手に入るもの以下だしね。……まあ、依頼主達の方もデンドロの余りの難攻不落っぷりにもう諦めムードだから、情報無しでも給金が減るぐらいで何か言われる事も無いんだけど」
「まあそうだな。まだデンドロ発売からこっちでは1カ月半だし、早々有用な情報が手に入るなんて事は
尚、先々期文明から世界を見続けてきた神話級<
「とりあえず今は普通にゲームをプレイしているわよ。固定パーティーも出来たし<UBM>を討伐して特典武具をゲットしたりと割と順調な方ね」
「成る程な。……ところで、レジェンダリアには変なプレイヤーが多いと聞いたが「私はロリショタでもバ美肉でも無い」ア、ハイ」
そうやって軽い気持ちで聞いてみたら姫乃がいきなり物凄く据わった眼をしてそんな事を言った……これは地雷を踏んだか?
「大体私は現実で背が高いからちょっとゲームの中では小さい身体でもいいかなと思って小型のアバターにしただけなのよ。なのにあのクソ覆面変質者と来たら困っていた小学生ぐらいの<マスター>を連れた私に『瞳がだいぶ曇っているので本物のロリではありませんな。しかし俺と同じくロリショタを愛し助けようとするその姿勢は見事。同士として手助けしましょうぞ』とか公衆の面前で言ってくれたお陰で私までレジェンダリアの<マスター>達にはバ美肉ロリショタ扱いされる羽目になったし新しく出来た<YLNT倶楽部>の連中には同類を見る目で見られるし……」
「どうどう、落ち着け」
暗いオーラを滲ませながら早口で捲したてる姫乃を落ち着かせつつ、俺は食い終わった後のドンブリ二つを返却場所へと持っていく……美人がいきなりぶつぶつ言いだしたからめっちゃ目立ってるしな。ここはさっさと食堂を出た方が良いだろう。
◇
「……あー、落ち着いたか?」
「……ええ、大丈夫よ。悪かったわね」
そんな訳で姫乃を連れて食堂から出た俺は適当なベンチに彼女を座らせた……次の講義まではまだ時間があるしここでしばらく休むか。
「噂には聞いていたが、レジェンダリアってそんなに酷い所なのか?」
「いえ、基本的に全体の半分ぐらいの<マスター>は真っ当な部類だし、ザ・ファンタジーと言える様な神秘的な街並みは和風の怪異は嫌という程見てきた私にとっても新鮮で悪くないわよ。……ただ、<マスター>の残り四割が性癖を隠してる変態で、残り一割が性癖を隠してもいない変態なだけで。後ティアンの一部から現実にもよく居る
……話を聞く限り悪い事しか無い気もするが、姫乃曰く『それでも殆どの<マスター>とティアンは(変態である事を除いて)真っ当な生活を送っているわよ。……ただ、私は霊視無しでも“眼が良い”方だから、どこの社会にもある全体から見れば僅かな悪性が目につくだけよ』との事。
「それにパーティーメンバーには性癖がまともな……性癖がまともな! 人間を選んだから楽しくやってるわよ」
「なんで二回言ったんだ?」
「レジェンダリアでパーティーを組む際に一番重要な要素だからよ。……今までの裏稼業で磨き抜かれた観察力を駆使して集めたパーティーだから、実は異常性癖持ちとかって言うのも(おそらく)無いわ」
俺は安心安全な妹達との固定パーティーが組めて良かったと思いました(小並感)
「強いて他に文句があるとすれば<エンブリオ>の名前かしら」
「何か変なネーミングにでもなったのか? 【モモタロウ】とか【ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレカイジャリスイギョノスイギョウマツウンライマツフウライマツクウネルトコロニスムトコロヤブラコウジノブラコウジパイポパイポパイポノシューリンガンシューリンガンノグーリンダイグーリンダイノポンポコピーノポンポコナーノチョウキュウメイノチョウスケ】とか」
「……よく一息で言えるわね……」
とりあえず思い付いた<エンブリオ>名になりそうな変な名前を言ったら姫乃に呆れた目で見られた……実は早口言葉は結構得意なのさ。
……最もこんな長い名前だと必殺スキルがまず戦闘中に使えないから、もしそういうモチーフの<エンブリオ>があるとしても名前は題名の方で【ジュゲム】とかだろうけど。
「流石にそこまでネタに振り切った名前じゃ無いよ。単に私の<エンブリオ>の名前が【アマテラス】だったから、本職の巫女である私としてはちょっともにょっただけで」
「日本神話の主神だからなぁ、納得。……まあ、俺もケルト神話の太陽神の名前である【ルー】が<エンブリオ>名だからね。この国のゲームでは良くある事だし」
「アマテラスがラスボスのゲームとかも普通に出るからねぇ。日本宗教色薄いから。……うちのパーティーメンバーにも【シャカ】って名前の<エンブリオ>の持ち主がいるし」
そんな訳で<エンブリオ>の名前が神話とかもモチーフになるならそういう事もあるよねってお話でしたとさ。
「それで、そっちのデンドロの様子はどうなの? まさか私にだけ話させて自分は話さないなんて事は無いわよねぇ」
「ん? ……まあ大した事は無いぞ。普通に妹達とデンドロをプレイしながらモンスターを狩ったりクエストをこなしたり神造ダンジョンに潜ったり、後はガチャを回したり<UBM>を倒したりして特典武具をパーティーで五つ手に入れたりとかな」
「……いや。十分大した事してるじゃない。私達でも<UBM>は一体倒したぐらいなのに……いや、美希ちゃんの“直感”があればおかしくはないかしら。アレは私の“異能”とは違って純然たる“才能”だからあちらでも使えるでしょうし」
ちなみに姫乃はウチの妹達の事情についても知っていて、良く相談に乗ってもらっているのだ……あの二人の才能は
……そういう意味では色々貸しもあるし、こっちで得た情報を渡しても良いかもしれないな。姫乃なら上手くやってくれるだろうし。
「確かデンドロの情報を集めてるって言ってたし、こっちが得た情報を教えようか?」
「え、良いの? 貰えるなら有り難く貰うよ。その方が報酬は増えるし……でも、wikiに乗ってるレベルの情報ならいらないかな」
「大丈夫だ、<wiki編集部>には言うつもりの無い情報だしな。……まず、こっちの情報筋だと管理AI達は先々期文明に現れた『無限』の位階にいる“化身”達と同一の存在であろうと推測されるな。更に元々デンドロ世界は“化身”とは別の『無限』である<
「いやちょっと待って⁉︎ なんか物凄い重要っぽい情報が出てきたんだけど!!!」
とりあえず一番重要そうな情報を初手ブッパしたら慌てた様子の姫乃からストップが入った……勿論、これらの情報は先々期文明を生きてきた前世を持つネリルから聞き出したモノである。
最もネリルの前世【アニミズヮーム】が生まれたのは先々期文明末期の“化身”が表れる直前の事だったんだが、彼女の母親である【ハイエンド・クイーン・ミネラルワーム】からその才能を見込まれて昔の事なども教わっていたらしい。
……何でも【ミネラルワーム】という種族は<無限職>が環境調整用に生み出したモンスターの一種で、彼女の母親である【クイーン】は“無限職”に直接生み出された【ミネラルワーム】の最期の生き残りだったから世界の根幹に関わる事も幾らか知っていたらしい。
「まあ、その“無限職”達は成果の出ないティアン達に愛想を尽かして何処かへと去り、それから先々期文明まで発展するも他所からきた“化身”達に滅ぼされて、今は彼等がドロップアイテムやら<UBM>や<マスター>……そして<エンブリオ>と言った新しい法則を強いて世界を管理してるらしい」
「……どうやってそんな情報を仕入れてきたの……」
「昔の事について知っているヤツを仲間にして聞いた。……流石に今の管理AIの目的までは分からないが、先代管理者である<無限職>と同じ様に自分の同類……おそらく<無限エンブリオ>みたいなのを生み出すのが目的では無いかと推測してる。それなら態々<マスター>に<エンブリオ>を持たせてあの世界に向かわせた理由も説明が付くし」
「ああ……成る程ね……」
ちなみにネリルが態々これだけの情報を吐き出したのは、<マスター>がこれらの事情知った時に
そのネリル曰く、<マスター>も<UBM>を始めとするモンスターも“化身”の力の影響下にある以上は監視されてるだろうし、知った情報に応じて連中がどの程度干渉してくるか試してみたいと言って、一切の躊躇遠慮無くヤバげな情報を俺に教えまくったのだ。
……結果としてはそういった情報を知っても一切の干渉は無かったので、おそらく管理AIは<マスター>の“自由”を歪める様な干渉は表立ってしないのだろうと言う結論になったが、正直垢BANされるかどうかでヒヤヒヤしたな。
「……ハァ……まあ、管理AIが“無限”──超越者かそれに準ずる連中だってのは予想してたけど何よ前任者の無限職って。こんなの私程度にどうにか出来る問題じゃないじゃない。依頼主に報告しても同じだろうし」
「こっちの世界の超越者達はどうしてるんだ? 椋鳥さんとか」
「そんなの私みたいな木っ端巫女に分かるわけないでしょ。超越者なんて迂闊に関わったら消されるし……蓮の方こそ昔会った事があるんじゃなかったっけ?」
「いや、昔『友人』と一緒に戦っていた時に一言“忠告”をされただけだからな。連絡先も知らんぞ」
……とりあえず色々と話し合った結果、デンドロの根幹情報に関しては保留という事になった。
「少なくとも蓮の情報に加えてこっちの超越者が動いたって話は聞かない以上、<Infinite Dendrogram>が地球に影響を与える事は無いと今は考えるとしましょう。……もし何かあっても私達じゃどうしようもないし」
「あちらの世界でならレベルを上げれば案外出来る事もあるかもしれないが……まあ、力をつける事も含めて何かあるまでは普通にゲームをプレイするので良いだろう」
「確かに、私としてもゲーム内の様子をレビューするだけでお小遣いが貰えるバイトは悪くないしそれで行こうか」
まあ、今すぐ行動しないと世界が滅びるとかそういう問題では無いのでデンドロに関しては先送り、或いは保留するって事に決定した……世界が滅びる様な問題になったら俺達に出来る事は何も無いだろうけどね(笑)
「……おっと、そろそろ次の講義だし行かねばな。大学ではゲームよりも勉強優先だ」
「まあ、それもそうね。……確かデンドロのサークル作るって話があるって聞いたけど」
「雰囲気が良さそうなら参加してみるのも良いかもしれないかな」
……そんな会話をしつつも俺達は次の講義の為に指定された教室へと向かっていったのだった。
あとがき・各種設定解説
兄:厄ネタが思った以上だったので相談
・ちなみに姫乃とは友達以上恋人未満ぐらいの関係で、お互いに信頼しあっている親友だが付き合っている訳では無い。
・尚、周りの人間からはよく一緒にいるから付き合っている物だと思われており、事情を知っている妹達も『どうして付き合わないんだろう?』と思われてる。
ネリル:監視の目もあってどこまで話すか悩んでいた
・だが、それを気にして話さないというのは面白く無いので、兄から<マスター>や管理AIの事を聞いた後『おそらく<マスター>に直接手を出す可能性は低いだろう』と考えた。
・なので初手に“化身”にとって面倒そうな情報をブッパしてどんな反応を返すか見る事にしたという感じ。
加茂姫乃:唐突に生えてきたヒロイン候補
・ガチな退魔系巫女さんで兄とはかつて共にとある事件で戦った戦友……みたいな設定もあるんだけど、リアル側の話はほぼフレーバーなので本編で語られる事は無いです。
・デンドロではロリショタ扱いされたどこぞのLSに対する恨みや対抗心、そして本人の面倒見の良さが合わさって『あんな変質者に幼い少年少女を任せては置けない』として、幼い<マスター>の保護や孤児院への寄付とかを積極的に行っている。
・だが、そのせいで<YLNT倶楽部>からは『オーナーと仲が悪いからウチに入っていないだけで
・ちなみにアバターはリアルの自分をそのまま小学生にしただけである。
【光炎矢如 アマテラス】
<マスター>:ひめひめ
TYPE:アームズ
到達形態:Ⅳ
能力特性:光・火属性魔力矢の生成
スキル:《光炎之矢》《閃光之矢》《炎勢之矢》《聖浄之矢》
必殺スキル:《
・モチーフは日本神話の太陽神にして主神である“天照大御神”。
・MPを消費して様々な特性を持つ光炎の矢を生成する魔法弓型のアームズで、ステータス補正はMP・DEX特化で後はSTRとAGIにそこそこ。
・現在生成出来る矢の種類は、光熱による単純威力重視の《光炎之矢》、光属性で貫通性が高い《閃光之矢》、火属性で延焼による継続ダメージを与える《炎勢之矢》、威力は低い聖属性で強力な浄化能力を持つ《聖浄之矢》がある。
・必殺スキル《天地一切大祓之矢》はまず矢の種類一つを選択し、それを自身の上空に向けて射って太陽エネルギーをチャージする光球を形成、そして任意のタイミングで光球を選択した特性を持った超威力の矢へと変換させて指定した場所に放つという物。
・その特性上日照下でしか使えずクールタイムも24時間と長い上、矢を打ち上げてからクールタイム終了まで選択した種別の矢も使えずチャージ時間も最低五分は必要と使い難いが、その分チャージ時間に応じて威力・射程・弾速・効果範囲を大幅に引き上げる特性がある。
・アームズ系としては比較的捻った所の無いスタンダードな<エンブリオ>だが、姫乃本人の“魔法弓を扱うリアルスキル”が図抜けているので戦闘能力はかなり高い。
読了ありがとうございました。
この章ではオムニバス形式の短編集をやっていこうと思います。三兄妹以外のキャラを主役とした話とか。