□<イースター平原> 【
「それでは、この先にあら<イスターデ森林>にターニャが欲しがっている素材があるんですね?」
「そうだよー。そこに居る【カース・トラップスパイダー】の素材が欲しいんだよね。……でも、生産職の私一人だとキツい場所だからさ」
デンドロのとある昼下がり、私は友人である【
……テイマーである私は仲間のモンスターや【ワルキューレ】達が使う装備をいくつも用意しないといけないので、こんな風に戦力を貸す代わりに彼等クランが求める素材を手に入れる手伝いをよくやっているんです。
『マスター、10時の方向から【バイオレンス・ファング・ボア】が三体こちらに向かって来ています』
「ありがとうヴォルフ、そのまま私の護衛を宜しく。……アリアとトリムは前に、アーシーは穴と壁を、ウォズとフィーネは援護の準備。ターニャは私のそばで待機して」
『了解!』
その途中で索敵担当である【グレイウルフ】のヴォルフが敵の接近を感知したので、私はいつも通り皆んなに指示を出してから手に持っていたいた【従魔師の鼓旗】を掲げました。
進化したヴォルフの種族である【グレイウルフ】は、直接戦闘能力が低い代わりに《危険察知》《殺気感知》《索敵》《罠感知》などの各種探知系スキルに特化しているので、パーティーの斥候役を担ってくれています。
……そして私が持つ【従魔師の鼓旗】は掲げる事でテイムモンスターのステータスを微増させるパッシブスキル《従魔鼓舞》を持つ、<プロデュース・ビルド>製の一品です。
『『『BURUAAAAAAA!!!』』』
『じゃあ作るよー。《ディグ》ー、そんで《アースウォール》ー』
更に向かって来た【ファング・ボア】の前方に、私の肩に乗っている拳大の石──【アース・コアエレメンタル】の“アーシー”が魔法で地面に開けた穴と、その後ろで土で作り上げた壁が発生しました……突然作り上げた穴を全速力で突っ込んで来たボアは避ける事が出来ず、そのまま壁にぶつかって三体とも穴の中に落ちていった。
……アーシーは私がフィールドを探索している時にフラフラ彷徨いていた所を偶々見つけてテイムしたモンスターで、その見掛けによらず強力な地属性魔法を駆使する亜竜級モンスターなのです。
『BUMOOOO⁉︎』
「穴からは出しません! 《シールドバッシュ》!」
「そういう事! 《大切断》!」
慌てて穴から出ようとする【ファング・ボア】に対し、接近していた【
……そうして即座に次の準備をしていたアーシーと上空にいる【テンペストイーグル】のウォズ、そして【ワルキューレ】が第四形態になって新しく生まれた四女である緑髪ショートカットの【
『《カッター・サイクロン》!』
「《ブレイズ・バースト》!」
『《魔法多重発動》《ロックグレイブ》ー』
『『『GUOOOOOO⁉︎』』』
そして上空のウォズが巻き起こした敵を切り刻む竜巻、フィーネのワンドから放たれた業火、アーシーが穴の中から発生させた岩の槍が【バイオレンス・ファング・ボア】へと突き刺さってその息の根を止めたのだった。
……やっぱり陸戦突撃系には穴に落として集中攻撃が一番手っ取り早いですかね。高速かつ連続で魔法を発動出来る技術を持ったアーシーが仲間になったからこその戦術ではありますが。
「マスター、ドロップアイテムの【暴走猪の毛皮】です」
「ありがとうアリア。……ターニャ、毛皮系アイテムだけど買う?」
「そうだねー、じゃあ買い取るよ。最近大口の依頼があって懐に余裕があるしね。……しかし流石はエルザ、私やクロートーが手を出す暇も無かったね」
『KYUUU』
まあ、今回の依頼はターニャ達の護衛が主ですから、彼女達が戦う事には出来るだけならない様にする方針です……そんな会話をしつつ、時折現れるモンスターを狩って素材をターニャに友情価格(高値)で売りながら、私達は<イスターデ森林>へと向かって行ったのでした。
◇
そうして到着した<イスターデ森林>ですが、ここには魔蟲系……特に蜘蛛系のモンスターのモンスターが多数生息しており、それらによる糸を使ったトラップが多く設置されているので一種の<自然ダンジョン>と化している場所になります。
……鬱蒼として視界が効かない森と至る所に設置された“蜘蛛の巣”によって、それらに対応出来る能力が無ければカンストしていようが森を進むに連れて『詰む』ぐらいに攻略難易度が高い所でもあります。
『マスター、ターニャ殿、前方に蜘蛛の巣がいくつかあります』
「《鑑定眼》……ふむふむ、アレは粘着性に特化して触れると張り付いて動きを封じるタイプかな。可燃性が高いから焼いた方がいいかも」
「分かりました。フィーネ、お願いします」
「了承する……《ファイアーボール》」
最も、こちらには《罠感知》が使えるヴォルフと、ジョブスキルによって“糸”に対する鑑定に補正が掛かるターニャがいるのでどうにか進めていますが。
さて、今回のターゲットである【カース・トラップスパイダー】はその名の通り
……なので呪怨系状態異常を治せて、サブジョブの【
『KIISYAAAAAA!!!』
「やっと見つけたよ【カース・トラップスパイダー】! クロートー《運命の横糸》!」
『KYUUA!』
目的の相手をようやく見つけてテンションが高いターニャは、肩に乗ったクロートーに網状に織られた黒い糸を口からいくつも発射させた……アレは粘着性が高くて触れた敵に【呪縛】の状態異常を掛ける糸なのだが、所詮は糸なので速度はそこまででも無い上に呪いに長けて意外と素早い【カース・トラップスパイダー】はあっさりと回避してしまったが。
……まあ、一時的に向こうの注意を引いてくれただけで充分なんだけど。
「セリカは呪い対策、フィーネは周りの巣を排除して」
「分かりました……《ホーリーゾーン》!」
「了承する……《バーンウェイブ》!」
そうして出来た隙にセリカが周囲の呪怨・病毒系状態異常を軽減する結界を展開し、フィーネが弱目の炎を周囲を舐める様に放って貼られた蜘蛛の巣を排除していった。
……とりあえず呪い対策と周囲のトラップの排除さえ出来れば、あの【カース・トラップスパイダー】自体のステータスは低いからね。十分倒せる。
『マスター、辺りのトラップは全て解除されましたぞ』
「分かったヴォルフ。……アーシーは相手の動きを封じて。アリアとトリムは糸に注意しつつ接近戦。ウォズは二人の援護」
「了解です、マスター!」
『おっけー。《マッドバインド》ー』
そうして蜘蛛の巣が排除された所でアリアが盾を構えながら突っ込んで行き、それと同時にアーシーがスパイダーの左右と後ろの地面から縄状に形成した泥を襲い掛からせる。
……咄嗟にその泥の縄をスパイダーは避けようとするが、泥縄の無い前方からはアリアとトリムが迫っていた事もあって、回避出来ず泥に纏わり付かれてその動きを鈍らせた。
『KIISAAA⁉︎』
「隙あり! 《魔蟲斬り》!」
「いっくよー! 《バーバリアン・クラッシュ》!」
そこにアリアの剣による一閃がスパイダーの足の内一本を斬り飛ばし、その後ろから飛び出したトリムが両手に持った大斧を勢いよく振り下ろして相手の頭部を真っ二つに叩き割った。
……まあ、【カース・トラップスパイダー】は格的には亜竜級未満といった所ですし、罠と呪い重視で物理ステータスは決して高く無いので今の私達なら接敵さえすれば問題なく倒せるんですがね。
「……ふーむ、ドロップは【呪怨罠蜘蛛の節足】か。出来れば【呪怨罠蜘蛛の糸玉】の方が良かったんだけどね。……まあ、クロートーの《天糸紡ぎ》で糸素材に変えれば良いんだけど。質量はこっちの方が多いし」
「ドロップアイテムの種類は問わないのは楽で良いですね。この手の採集クエストは運次第では少し面倒な事になるから『マスター! 新手ですっ!!!』っ! 全員警戒!!!」
私とターニャがが目的のドロップアイテムを拾って一息吐いていると突然ヴォルフが警告を飛ばして来たので、私はすぐさま全員に警戒を指示して皆もそれに応えて即座に戦闘体勢を取った……<墓標迷宮>の様なダンジョンでは常に敵を警戒しなければならないので、すっかりこういう指示出しがクセになってしまいました。
……そうして戦闘準備を終えた直後、森の木々をなぎ倒しながら
『GAAAAAAAAA!!!』
『KISYAAAAAAAAA!!!』
怒号を上げながら口から光の束を放って辺りを薙ぎ払っているのは一対の翼とがっしりとした手足を持つ白い竜【シャイニング・ドラゴン】で、そのブレスに擦りながらも反撃として毒の針を飛ばしているのが巨大な毒毒しい色の蜘蛛【デッドリー・ヴェノムスパイダー】……どちらもここらでは珍しい純竜級のモンスターでした。
……どうもドラゴンの方の動きが鈍い様でしたが、よく見ると翼に毒々しい色の糸が絡み付いている所為で飛べなくなっており、《健康診断:非人型範疇生物》で見てみると【溶解毒】と【衰弱】の状態異常に掛かってるのが分かりました。
『GIIIAAAAAAA!!!』
『KESYAAAAA!!!』
だがそれでもこの世界でも最強の種族であるからか、ドラゴンは毒に犯された身体でも構わず光熱を纏った爪牙で【ヴェノムスパイダー】を斬り裂いています……やっぱ良いですよねドラゴン、ファンタジー好きの私としてはいつかテイムしてみたい物ですが……。
「うへぇ……もう怪獣大戦争じゃん。……幸い向こうは戦いに集中してこっちに気付いてないみたいだし逃げようよ」
「……まあ、今回の収集依頼は一応果たしましたし……っ⁉︎ アーシー! 私達を地下へ!!!」
『《ピットフォール》! 《アースウォール》!』
そんな光景をどこか他人事の様な雰囲気で見ていた私達でしたが、すぐに私の指示により普段はのんびり間延びした口調のアーシーが焦った様子で全力の地属性魔法を使って地面に穴を掘り、私達をその中に入れると共に土の壁で上を覆いました。
……その直後、スパイダーが口から放った粘着性の糸で囚えた【シャイニング・ドラゴン】を勢いよく振り回してこちら側へと投げつけて来たのだ!
『GAAAAAAAAA!?』
「わっきゃ────!!!」
こちらに飛ばされたドラゴンは直前に展開していた土の壁を突き破り、穴に入った私達の上を通り過ぎて後ろにあった木々にぶつかって動きを止めました……不味いですね、位置的に私達は蜘蛛とドラゴンに挟まれる形になってしまいました。ここは……。
「セリカ以外の総員! 前の蜘蛛を足止めして下さい!」
「了解! 《ワイドシールド》!」
「《トマホーク・ブーメラン》!」
『《マッドクラップ》!』
『《ウインドカッター》!』
『KISYAAAAAA⁉︎』
私の指示の元に穴から飛び出した仲間達はこちらに迫っていた【ヴェノムスパイダー】へと足止め目的で集中攻撃し始めた……幸い相手の注意がドラゴンにしか向いていなくて奇襲になった事、そしてこれまでの戦闘でスパイダーがダメージを負っていた事によってどうにか足止めに成功していた。
「……さてターニャ、確か持ってきたアイテムに【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】と【
「う、うん、お得意様から報酬代わりに貰ったヤツと生産ギルドの伝手で入手したヤツが……何するの?」
「そうですね、ちょっとテイマーらしくモンスターとの“交渉”の時間ですよ」
不安そうに聞いてきたターニャに対して私は少し悪戯っぽく笑みを浮かべながらそう答えながら、糸と状態異常によって地面に倒れ伏して動けずにいる【シャイニング・ドラゴン】の元へと向かっていった。
「やぁ【シャイニング・ドラゴン】ちゃん、私のテイムモンスターにならないかな? 今なら【快癒万能薬】が付いて来るよ。……拒否したらこっちの【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を投げるけど」
『何だと……⁉︎』
「ああ、ウチの子達が時間を稼げるのは後少しだから十秒以内に決めてね。勿論十秒過ぎたら後顧の憂いを断つために【ジェム】だけど。いーち、にーい……」
『ま、待てぇ⁉︎』
何か焦っている【シャイニング・ドラゴン】の言葉を意図的に無視しながら、私はターニャから預かった【ジェム】と【快癒万能薬】を両手に持ちながら制限時間である十秒を数えて行く。
……状況が状況なので相手に深く考える余裕を無くさせて勢いで押し切る作戦である。今の状態異常では十秒以内に動ける様になるのは無理だしね。
『わ、ワカッタ! お前のテイムモンスターになってやるから!!!」
「その言葉が聞きたかった。んじゃ《
私の穏便な交渉術──ダウト! byターニャ──によって【シャイニング・ドラゴン】はテイムモンスターになる事を同意してくれたので、私は直ぐに【快癒万能薬】を彼女に与えて、更にセリカに回復魔法を掛けてさせておく。
……そうして状態異常とダメージが回復して動ける様になった彼女は、即座に自分の身体へと光熱を纏わせて張り付いていた蜘蛛糸を焼き払った。
「それじゃあ、貴女の名前は“シャイナ”で良いかな。まずはあの蜘蛛を倒して貰うよ……誇り高きドラゴンが一度した約束を破るとかは言わないよね?」
『言われなくても分かってる! お前達は下がっていろ!!!』
『KISYAAAAA!!!』
そんな風にシャイナはちょっと苛立たしそうにしながらも私の指示を聞いて【デッドリー・ヴェノムスパイダー】へと襲い掛かって行った……まあ、今戦っていたアリア達を下がらせてから突っ込んでいますし、口調の反面テイムモンスターとしてはキチンとやる気みたいですがね。
……それで肝心の戦いの方だが、そもそもシャイナは状態異常と蜘蛛糸によるデバフを受けた状態である程度戦えていた上、今は私のテイムモンスターになった事で私の《魔物強化》などのバフが掛かっていて、かつ相手はこれまでの戦いで相応のダメージを負っているので……。
『いい加減に沈め! 《ストライク・レーザークロー》!!!』
『KEEESYAAAAA⁉︎』
散々ボコボコにした後に光の刃によって伸長させた爪による一閃で身体を断ち割られて【デッドリー・ヴェノムスパイダー】は絶命したのであった。
「お疲れ様シャイナ。流石は純竜だね」
『当然だ、毒さえ貰わなければあの程度の相手に苦戦するものか』
「うんうん、これからも宜しくね」
『……ハァ……コンゴトモヨロシク』
うん、とりあえずシャイナとは少し無理矢理な契約だったけど私に従ってはくれるみたいだし、この関係が良いものになるかどうかハァ今後の付き合い方次第かな……まずは他のみんなに新しく加わった彼女と仲良くする様に言っておこうかな。なんか面倒見は良さそうだし。
「まあ、少々トラブルもありましたが結果的には純竜級蜘蛛の素材も手に入って、純竜までテイム出来たので万々歳ですかね」
「……エルザ、本当に強く……ってか、色々と図太くなったわねぇ。以前はおっとり系お嬢様だったのに……」
……そうして諸々の事態を解決したらターニャからそんな事を言われて少し引かれた。解せぬ。
あとがき・各種設定解説
エルザ:順調にテイマー街道を驀進中
・ちなみに自身の現状は装備が全て従属キャパシティ拡張に割り振られていて、<エンブリオ>である【ワルキューレ】は現在第四形態で必殺スキルはまだ未習得と言った所。
・彼女自身は観察力こそ高いものの天然物《審獣眼》持ちの様にモンスターの資質を見極める事は出来ない……が、本人のリアルラックと巡り合わせの良さで優秀なテイムモンスターを手に入れるタイプ。
【高位飼育者】:飼育者系統上級職
・【
・だが、従魔の世話をする事で経験値を微量獲得させられる《ブリーディング》、従魔を使役している数に応じて獲得経験値を上昇させる《飼育事業》などレベル上げ補助スキルを複数取得出来る。
・上級職の【高位飼育者】になると従魔の病毒・傷痍系状態異常耐性を上昇させる《健康管理:従魔》や従魔のHP・MP・SPを持続回復させるパッシブスキルなども取得可能。
・その特性上“レベルを上げる事が出来る”<エンブリオ>である【ワルキューレ】との相性が良く、獲得経験値が分散してレベルが上がりにくいという欠点をある程度補っている。
アーシー:性格は甘えん坊で、性別はメス
・【コアエレメンタル】とは通常の自然系エレメンタルが対応する属性の肉体を持っているのに対して、意思を持つ宝石の様な“コア”だけが存在して対応する属性を操る事に特化した種族で、肉体が無い分ステータスはMPに極特化している。
・【アース・コアエレメンタル】の場合は地属性魔法全般が使用可能で、普段は魔法で作った岩石でコアを覆って物体操作魔法で浮遊している。
・その特性上耐久性が非常に低いので、戦闘時にはエルザの肩に乗って一緒に守られながら魔法による援護を行うスタイル。
・実は【アニミズヮーム】が作ったエレメンタルの一人であり、最近生みの親との繋がりが何故か突然途切れて困りながら放浪していた所をエルザに拾われた。
シャイナ:成り行きでテイムされた純竜、性別はメス
・ちなみに【デッドリー・ヴェノムスパイダー】にやられていたのは、ちょっと美味しそうな果物があったので地上に降りたら不意打ちで状態異常と糸を食らってそのままズルズルと押し切られたから。
・ステータスに関しては純竜らしく全体的に高く、特に物理ステータスが高めで光を肉体に纏わせる事による格闘戦に長けている。
・光のブレスも吐けるが光属性特有の燃費の悪さやチャージ時間から余り使わず、その弱点を補う手段として格闘能力を磨いたという一面もある。
・人語を理解し話せる事を含めて頭は良くて人化スキルとかも使え、性格はプライドが高いが基本的に善良なのでエルザ達とはそれなりに上手くやっている模様。
ターニャ:親友の変わりっぷりに内心かなり驚いている
・リアルでのエルザは運動音痴のおっとり系お嬢様といった感じだったのだが、デンドロではすっかりテイマーとしてブイブイ言わせてるのでギャップが凄いと思ってる。
読了ありがとうございました。
ここからしばらくは三兄妹以外の者の視点で短編を書いていく事になると思います。お楽しみに。