とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

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前回のあらすじ:エルザ「<プロデュース・ビルド>絶賛活動中! 是非来てね!!!」エドワード「前書きで宣伝するのか」


現実での一幕

 □とある大学・仮想現実電子遊戯研究会 加藤(かとう)(れん)

 

 九月も半ばに差し掛かった頃、俺は大学に新しく出来たクラブ『仮想現実電子遊戯研究会』の部室で姫乃(ひめの)と一緒にお菓子を食べながら駄弁っていた……ちなみにこのクラブは名目上は『最近出来たVRゲームが社会に与える影響を調べる』とか最もらしいテーマを掲げているが、実際のところは大学にいるデンドロユーザーが集まって適当に過ごす感じの集まりである。

 

「え? 志津香さんもデンドロやってるのか? ……というかログイン出来たんだ」

「ええ。……まあ、()()()()()()()()()()()()()()()辺りデンドロは只のゲームじゃないわよねぇ。今更だけど。……それに<エンブリオ>も全身置換型の“ボディ”ってカテゴリだったし」

「全身置換型ねぇ……<エンブリオ>は<マスター>のパーソナルを読みとって生まれるんだから、“人間の肉体にこだわっていない”ならそうなるのかね」

 

 尚、“志津香さん”とは姫乃の()()()()()()であり、その関係で俺とも面識がある方である……どうも彼女も<Infinite Dendrogram>を調べるという依頼を受けて『彼女でもちゃんとログイン出来てゲームをプレイ出来るか』を調べる為に一緒にログインしていたらしい。

 ……尚、彼女の<エンブリオ>は【負有幽霊 ゴースト】と言って、『自身を非実態型のレイス系アンデッドへと変える』スキルを持っているとの事だ。まあ“そのまんま”だな。

 

「彼女も今は普通にデンドロを満喫してるからね。頭上にモンスターを示すネームが浮かばないから、偶に本物の幽霊とか言われる事もあるけど」

「普通に本物なだけでは? それにデンドロ内なら本物の幽霊ぐらい普通にいるだろ」

「知り合いになったティアンの【死霊術師(ネクロマンサー)】に聞いた話だと、あっちの幽霊はレイス系モンスターと普通の幽霊の二種類がいて普通の幽霊の方は死霊術師系統のジョブスキルが無いと感知できないみたいよ」

 

 その辺りの話は俺も以前の司祭系ジョブクエスト『怨念溜まりの浄化』の時に一緒になった教会の人達から聞いたな……あちらでは怨念の発生は()()()()()で、怨念を放置しておくと強力なアンデッド系モンスター発生の温床になるから司祭系統や死霊術師系統の人に頼んで怨念溜まりの対処を定期的に行っているのだ。

 故に【死霊術師】は一見如何にも悪者っぽいジョブに見えるかもしれないが、デンドロではむしろキチンとしたギルドで運営されている立派な仕事の一つなのである……まあ、イメージ通りの悪い【死霊術師】も居るが、それは他のジョブも変わらないし。

 

「……まあ、志津香さんが幽霊っぽい行動を取って、それを見た<マスター>やティアンが勘違いするのが原因なんだけど」

「見た目が完全に浮遊霊じゃなぁ」

 

 ……まあ、頭上にネームの無い幽霊は普通の人には見えないから志津香さんは『本物の幽霊』とか言われてるって事らしいな。尚、本人はそれを面白がって“いつも通り”幽霊っぽい行動を取って人を驚かせてるみたいだが。

 

「……よー、邪魔するぜ……本当にお邪魔だったか?」

「別に部室なのだからクラブに所属している者は普通に入ってくれば良いって思うが、江戸川」

「そもそも単にお菓子食べながら駄弁ってただけよ、江戸川君」

 

 そんなたわいの無い事を話していた途中で、部室の扉を開いて中を見た瞬間に何故か遠慮しだしたのがクラブのメンバーの一人である江戸川(えどがわ)(りく)であった……後、別にお邪魔とかじゃ無いからさっさと室内に入って来ると良い。後ろがつかえてるだろ。

 

「なんだ江戸川、またあの二人がいちゃついてたのか?」

「あー、何時ものバカップルが?」

「お菓子を食べながら話すのが“いちゃついている”と見えるならそうなんでしょう、貴方達の中ではね」

「まあ、客観的に見て男女二人部屋の中で喋っていれば“いちゃついている”と見えなくも無いんだろうが」

 

 そんな茶化す様な事を言いながら江戸川の後ろから入って来たのは、同じくクラブのメンバーである赤城(あかぎ)譲治(じょうじ)結城(ゆうき)奈々(なな)だった……尚、こうやってからかわれるのは俺も姫乃も慣れているので適当にスルーである。

 ……まあ、この二人にこの手の事を言われてそれをスルーするのは何時もの事なので、そのまま彼等は部屋の中に入って一緒にお菓子を食べ始めた。

 

「しかし、お前ら本当に付き合ってないんだよね? めっちゃ仲良く見えるのに」

「別に仲のいい男女=恋人同士という訳でもないだろう。仲は普通に良いが」

「……というか、今付き合うと色々と()()なのよねぇ。……それよりも一応クラブ活動なのだからデンドロについての話をしましょう」

 

 そうしつこく聞いてくる結城を俺達は適当にあしらいつつ話をデンドロの話題に切り替えていく……ちなみに“面倒”なのは姫乃の『実家』関係である。特に語る意味もないので言わないが。

 

「じゃあ江戸川、最近の<プロデュース・ビルド>の調子はどうなんだ?」

「まあ、ようやく商売と生産活動が軌道に乗ったって所かな。俺達が作る特殊素材の売れ行きは上々だし、生産物に関してはオーダーメイドの少数生産に特化するっていう方針に固めたしな」

 

 そう、この江戸川のデンドロでのプレイヤー名は“エドワード”……アルター王国の生産クラン<プロデュース・ビルド>のオーナーであり俺のフレンドでもあったのだ。まさか同じ大学にいたとは思ってもいなかったので、最初にこの事を知った時には世間は予想以上に狭いと思ったな。

 

「成る程な……それじゃあ何かいい金属素材とかはないか? 最近ゴーレムを作り始めたからそれに適した素材を集めてるんだが」

「それなら生物素材を金属化させた物とかはどうだ? 俺は金属素材が専門だから他にも色々あるぞ。値段は応相談だが」

 

 それに最近ようやく【クルエラン・コア】の()()()()()が使える様になったから、ネリルの指導の下で本格的にゴーレム生産を始めたのだ……最もその第二スキル《クリエイション・ゴーレムアーミーズ》の運用にはまだ色々と準備が必要ではあるので、生産クランである彼等に相談しているのだが。

 ……その時に回収した古代伝説級合金の箱の残骸もあるが、今の俺とネリルではスキルレベルやMPの関係で複雑な加工が難しいし。

 

「……それで? 奈々の“お城作り”はどうなっているのかしら?」

「まあボチボチ? 【ハルファス】に素材を貢いで少しずつ大きくしてる所。……ただ、私と言うか【ハルファス】は“戦闘”ならともかく“狩り”は苦手だから中々素材が集まらないんだよねぇ。ジョブクエストで稼いでもいるが効率が……」

「アイテム要求系の<エンブリオ>は大変だな。……まあ俺もだけどさ」

 

 ちなみに結城は天地所属の<マスター>で大の城マニアであり、デンドロでも資材を使って増築が可能なTYPEキャッスルの【ハルファス】という<エンブリオ>を最強の城にする為に活動しているのだとか。

 そして赤城の方はドライフ所属でパワードスーツ着ながら戦ってるとか聞いたが詳細は分からん……まあ、自分の能力を隠すのは基本だし俺も姫乃も<エンブリオ>や特典武具について肝心なところは言ってないからな。自分の作品の宣伝をする江戸川と結城が例外なのだ。

 

「なら必要な金属素材があるなら今度向こうで相談に乗ろうか? 金か素材とかと引き換えに色々と用立てるが。……こっちとしても実力のある<マスター>とのコネは多い方が良い、自分達では取ってこれない強いモンスターの素材とか」

「そうしてくれるなら有り難い。……これでもLUCは高いからドロップ運は良い方だ」

「それは頼もしい」

 

 最も普段はドロップアイテムを経験値に変換してるから余りLUCの恩恵は感じられないが……ふむ、ドロップアイテムの量や質が上昇するタイプのスキルも取得しておくべきかな。上手くいけば経験値への変換量も増えるかもしれんし。

 ……確か【狩人(ハンター)】か【屠殺者(ブッチャー)】辺りのジョブで覚えられるんだったかね。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □地球・とある小学校 加藤(かとう)美希(みき)

 

 今日も今日とて小学校の授業を終えた私は早速家に帰ってデンドロをやろうと手早く帰りの準備を行っていた……最近はほぼ<墓標迷宮>に篭っていたお陰か、多分そろそろ【戦棍王】の転職条件を半分ぐらいは満たせているんじゃないかと思っていたり。

 ……とはいえ、ただひたすらにゴブリンの装備を壊し続けるのも飽きてきたからね。そろそろ気分転換にちょっとだけ別の事をしようかな。

 

「……あの……加藤さん、これ落としたよ」

「へ? ああ、シャーペンを落としてたね。拾ってくれてありがとう、新垣(にいがき)君」

 

 そんな風に考え事をしていた私におずおずとした声で話し掛けて来たのは隣の席の新垣貴志(たかし)君だった……どうやら慌てて準備したせいでシャーペンを落としてしまってたらしい。気を付けないとね。

 

「う、うん、どういたしまして……良かった、ちゃんと話し掛けられた……」

「え? 何か言った?」

「い、いや、何でもないよ!」

 

 まあ、彼は気が弱くて大人しい性格でクラスでは少し浮いてるけど悪い人じゃないからね……ただ、そのせいで一昨年辺りに彼を対象としたイジメが起きそうな時もあったけど、少し“目に余る光景”だったから私が色々と動いて()()()()()()()()けどね。

 ……流石に彼が『イジメを苦に自殺する未来』を視せられて何もしないのは私の精神衛生に関わるしね。その時の事は彼には気付かれてないだろうけど、今年席が隣同士になって少し話すようになったのは縁を感じるかな。

 

「そ、そういえば加藤さんもデンドロやってるって聞いたんだけど……」

「うん、アルター王国でお兄ちゃんと祐美(ゆみ)ちゃんと一緒にやってるよ。その言い方だと新垣君も?」

「う、うん、僕もアルター王国で……」

 

 すると新垣君はいつも一言二言で話が終わるのに、今日は何故か吃りなからもデンドロの話を続けてきた……それにしても彼もデンドロを、しかも私達と同じアルター王国でやってるとはね。人の縁とは分からない物だよ。

 ……と思っていたら、彼は何でか知らないけど何やら考え込む様に顔を伏せてブツブツと呟き始めた。

 

「……アルター王国の三兄妹……加藤……藤…………ウィステリア?」

「あらバレちゃったか。まあ安直な名前だしねー」

 

 彼の口から出てきた自分達のプレイヤー名を聞いて、私は苦笑いを浮かべながら実質的に正解を認める発言をした……実際只の本名の捩りだしデンドロとリアルで両方で私達の事を知ってれば推測は出来ちゃうかな。

 ……と、特に危険も感じないので私はそんな風にお気楽に考えてたんだけど、またまた何故か新垣君は顔を真っ青にして何やら慌てだした

 

ヤベェよ……襲撃どころか妹さんに闇討ちして……

「ん? どうしたの?」

「なんでもない! です……よ、用事を思い出したので俺はこれで!!!」

 

 そう言った新垣君は急いで荷物を纏めると直ぐに教室から出て行ってしまった……一体何だったんだろうね? 危険な感じは一切しなかったから大丈夫だろうけど。まあ、気にしてもしょうがないし私も家に帰ろうか。

 

 

 ◇

 

 

「……ほーん、そっちは樫宮君って子とデンドロの話をしてるんだ」

「はい、同じクラスでデンドロやってるのは彼だけだったので少しだけ。……武術に関しての考えはお互いに結構違いますが、その辺りに気を付ければ普通に話せる仲なのです」

 

 そうして私は同じく家に帰ろうとしていた祐美ちゃんと一緒に警備ロボが彷徨く道を歩きながら学校であった事を話していた……こっちは同じクラスでデンドロやってるのがさっき明らかになった小森君だけだからね。隣のクラスにはグランバロア所属の子がいるんだけど。

 

「お互いに武術やってるなら話が合うんじゃないの?」

「いえ、彼のとって武術は“極めるもの”、或いは“好きでやってるもの”ですが、私にとっては“必要だったから納めているもの”で“出来て当たり前のもの”なので。……まあ、そう言った所に深く突っ込まなければ普通に武術の話も出来ますけどね」

 

 どうも彼等にしか分からない“一線”みたいなのがあるらしいね。武術とかはさっぱりな私には何が何だか分からないけど……と、そんな会話をしていたら突然祐美ちゃんが前方を見ながら足を止めてしまったのだ。

 ……よく見ると彼女の顔は()()()()()()()()()歪んでおり、更に前方の一点だけを注視していたので私もそちらを見ると、そこには私達が通っている学校と同じ制服を着た女の子がこちらを見ていたのだ。

 

「……真里亞(まりあ)ちゃん……」

「……ッ⁉︎」

 

 その女の子──祐美ちゃんの友人()()()赤城(あかぎ)真里亞ちゃんは、こちらに気付くと同じ様に気まずそうな顔をしながら慌てて身を翻して走り去ってしまったのだ。

 ……うむむ、それを見た祐美ちゃんは悲しげな表情で顔を伏せながら立ち尽くしているし、これは二年ぐらい前の“あの事件”以来ずっとこんな感じみたいだね……。

 

「祐美ちゃん、あの事件以来まだ仲直りしてなかったの?」

「……はい。……話しかけようにもいつもこんな風に逃げられますし、私も()()()()()()()()追い掛ける事が出来ていないのです。……情け無い話ですね。これが戦闘であれば恐怖など一切感じない身体なのに……」

 

 そう言いながら祐美ちゃんはどんよりとした雰囲気の中で自嘲する様に溜息を吐いた……別に彼女達が悪いという訳でもなく、一昨年の“あの事件”は色々と魔が悪かったからなぁ。他にもイジメへの対応とかもあって忙しかったから私の“直感”でも少し対応が遅れてしまうなど時期も悪かったし……。

 ……その事件の本当に悪い人はお兄ちゃんと姫乃さんが“根絶やし”にしてくれたらしいから事件そのものは解決してるんだけど、この二人の関係はまだ修復出来てないんだよね……。

 

「……とりあえず帰ろうか祐美ちゃん。帰ってデンドロやろ?」

「はい……」

 

 そうして私は落ち込む祐美ちゃんを半ば無理矢理連れて家まで帰っていったのでした……こういう時に気の利いた事が思いつかない辺り、私の“直感”は本当に使えないよね。基本『命の危険』ぐらいにしか正確に反応しないし……情け無いなぁ……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……あー……また逃げちゃった……」

 

 ……さて、全速力で姉妹から逃げていった赤城真里亞だったが、彼女は自宅に駆け込んだ後に自室のベッドに沈んで雰囲気で倒れ込んでいた。

 

「……ううう……今度こそ話かけようと思ってたのにいきなり遭遇なんて……いや、どの道怖くて動けないんじゃ同じだよね……」

 

 ……実を言うと彼女の方も祐美と話したいと思っているのだが、かつての事件のトラウマから思わず逃げてしまって未だに仲直り出来ずにいるのだ。

 

「……ハァ、気分転換にデンドロでもやろうかな。……こっちの私──アリマ・スカーレットなら【恐怖】で身体が動かなくなる事は無いのにね……」

 

 そうして彼女は<Infinite Dendrogram>のハードを起動し、決して精神系状態異常(身を縛る恐怖)に負ける事がない自分(アリマ)としてあれる世界へと向かっていったのだった……彼女達二人の運命が交差するのはまだ少しだけ先の事である……。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:現実の人間関係は結構混沌としている
・兄と姫乃は昔一緒に色々と死線を潜っているので両思い通り越して殆ど熟年夫婦みたいなノリになってるが、今は“色々”面倒なので付き合ってはいない。
・妹は“直感”によって危険には敏感なのだが、その反動か“危険では無い分野”においては結構鈍感だったり。

大学のクラブメンバー:変な宗教とかは無い普通のクラブ
・他にもクラブメンバーは何人かおり、気が向いた時に部室に集まって駄弁る感じ。
・苗字から分かる通り譲治は後述の真里亞の兄であり、兄程シスコンでは無いが色々悩んでるっぽい彼女にデンドロを勧めるぐらいには仲が良い。

新垣貴志:その正体はシュバルツ・ブラック
・妹はバレてないと思っているがイジメられそうになっていた時にフォローしてくれた事を彼は勘付いており、それによって彼には好意を抱かれている。
・それでデンドロをやってる事を聞きつけて話を振ったのだが、実は既にPK仕掛けていたり妹さんを付けねらってた事に気がついて頭を抱えている。

赤城真里亞:末妹の友人だった
・彼女の【正心偽脳 シャカ】は『恐怖で竦む自分への嫌悪』から生まれた『精神の異常を受けても問題なく行動出来る』<エンブリオ>である。


読了ありがとうございました。
とりあえず現実側の人間関係を書いてみましたが、この作品の基本はデンドロ内での話になるので今後ここで言った設定は少ししか出てこないと思います。
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