□ ペルシナ・デミテル
……懐かしい夢を見ていた。
『いいかいペルシナ、私達【
『はい、師匠』
……この会話は私がまだ師匠の元へと来たばかりの頃だったか……この頃の私は、様々な自然干渉魔法に長けたエルフの母とレジェンダリア有数の天属性の攻撃魔術師である父の間に生まれたハーフエルフなのに、その二人の才能を一切受け継がず死霊術師系のジョブにのみ適正があって死霊術師ギルドに通わされていた事でやさぐれていた。
……まあ、父方の祖父は生前腕の立つ【死霊術師】であり私は隔世遺伝的にその才能を受け継いだのだろうし、死霊術師ギルドに通わせられたのも父と母なりに私の将来の事を考えてくれていたのだと今なら分かるが、当時の私は父と母がモンスターとの戦いの果てに帰らぬ人になった事もあって心配してくれた死霊術師ギルドの面々に当たり散らす様な愚か者であったのだが。
『ふむ、君がピスティアの娘か。……私は【
『え……?』
……そんな時にいきなりこの世界における超越者である
確かこの時の師匠は《ネクロ・オーラ》の応用でこっちを威圧する雰囲気を出していたし……後から聞いた話だと『やさぐれている相手なら初手で威圧するのが手っ取り早い』と言っていたか。
……無論、死霊術師ギルドの方も死霊術師の最高峰である【冥王】に文句をつけられる訳がなく、むしろ超級職の指導を受けられるのだからと大歓迎ですと私は師匠の元へと送り出されたのだが。
『ほう、やはりスジがいいな。かつて共に研鑽を積んだジュリオの事を思い出すアンデッド捌きだ』
『……祖父の事を知っているんですか?』
『ああ、君の祖父とはかつて共に死霊術師として研鑽を積んだ中でな。君の父と母の馴れ初めなども知っているよ』
……衝撃的なファーストコンタクトとは打って変わって師匠の元での生活は実に穏やかなものだった。昔の両親達についての話も色々と聞く事が出来て、それが改めて両親が私をどう思っていたかを考えさせられる事にも繋がり徐々に私は更生していったのだ。
『ペルシナお姉ちゃん! 一緒に遊ぼう!』
『……はぁ、分かったわよ』
『ふふふ、いつもありがとうねペルシナちゃん』
……それから師匠の奥さんと娘さんとも仲良くなってもう一つの“家族”として思えるようになって、それにより過去の自分の身勝手さを理解出来るぐらいに成長も出来た。
『成る程、死霊術師ギルドで働きたいと』
『はい。……昔あそこには色々と迷惑を掛けてしまいましたし、何より師匠の下で学んだ死霊術を祖父の様に誰かの為に使いたいと思って』
『そうか……成長したな、ペルシナ。いいだろう、行ってこい』
……それからは師匠の名に恥じない様にギルドで働き続け、いつしか私は死霊術師ギルドのエースとして名を馳せる様になった……まあ、私がギルドに来たお陰で余り首都に寄り付かなかった師匠が偶に訪れる様になった事の方がギルドにとっては重要だったかもしれないが。
……そんな大変だけど幸せな日々が続くと私は心の何処かで思ってしまっていたが、父と母が死んだ様にこの世界はいつも思いも寄らぬカタチで悲劇を運んでくるのだった。
『………………』
『………………』
……あの時、まるで時が止まったかの様に静まり返ったあの村で、目の前で魂が抜けた様に奥さんと娘さんの死体を抱えて蹲る師匠に私は何も言えなかった……その時の師匠の顔が、まるで感情の全てが無くなった“真性のアンデッド”にでもなったかの様なその顔を見てしまった私はなんと声をかければいいか分からなかったのだ。
……その後の私は師匠が村を離れる依頼を議会から持って来てしまった負い目もあって彼とは疎遠になり、この事件から目を逸らす様にギルドの仕事に邁進した。同時期に<マスター>の急速な増加が起きた事もそれに拍車を掛けたのだろう。
……或いは伝説の<マスター>なら村を襲ったと思われる『魂喰らい』を見つけ出せるかもしれない、そうすればもう一度師匠と……などと思ってギルドに働きかけて<マスター>の取り込みを行ない、いくらかの(性癖はともかく)有用な協力者も得る事に成功はした。
『【冥王】ヘイデス氏が【アムニールの枝】を奪う為に首都の保管庫を襲撃しました。その際に彼は<
『………………へ?』
……だからこそ、ある意味自分とは違う至高の存在とさえ思っていた師匠がそこまで追い詰められていた事にまるで気が付かなかったのだ……結局、私は大切な人達の為に何も出来ずにいる単なる無能でしか無かったという訳である。
……だが、だからこそ、師匠が教えてくれた死霊術師としての在り方に則って、今度こそ私はこの手で師匠を……。
◇◇◇
□レジェンダリア国境地帯 【
「……ペルシナさん、ペルシナさん、もうすぐニッサ辺境伯領に着きますよ」
「……んん……すみません、どうやら少し眠ってしまっていた様です」
レジェンダリアからアルター王国へと向かう山岳地帯の街道、そこを馬車に乗った私達パーティーとペルシナさんは進んでいた……この世界の馬車は魔法的な加工で《振動軽減》や《重量軽減》があるからこんな山道でも問題なく移動出来る上に振動も殆ど無いから寝る事だって出来るのよね。
……まあ、今回の馬車は引いている“馬”も含めて死霊術師ギルドが用意してくれた、山道や林道すら余裕で進める結構な高級品だからと言うのもあるけど。
「大丈夫? ペルシナちゃん。最近疲れてるみたいだからもっと寝てていいのよ?」
「いえ、大丈夫ですシズカさん。……それにこの馬車を動かしているのは私のアンデッドですし、余り長い時間目を向けていない訳にも行きません……《シャイン・レジスト》」
馬車の中で
……今は日中だから何の対策も無いとアンデッドのステータスは大幅に下がるからね。あの馬にも光属性耐性・日光耐性の使役アンデッド用アイテムを装備させているらしいし。
「そういえばひめひめさん、なんかアルター王国側の知り合いの<マスター>に声を掛けたと聞きましたが」
「そうよアリマちゃん、ちょっと頼み込んで今回のクエストに協力して貰う事にしたのよ。……ああ、人格面でも実力面でも申し分無いから、その辺りは安心してね」
「まあ確かに、今回のクエストを俺たちのパーティーだけで達成するのは困難だろうからな。折悪くレジェンダリアにいる他の<マスター>やティアンは捕まらなかったし」
でぃふぇ〜んど君の言う通り、私があの三兄妹に援軍を頼んだのは今回のクエストに協力してくれそうな実力を持ったレジェンダリアの<マスター>が悉く都合が付かなかったからなのよね。
……と、私達がそんな話をしていたら馬車の隅っこに座っていたアリマちゃんと同じぐらいの年頃の少年──私のパーティーメンバーである<マスター>の一人【
「でもよー、そんな援軍なんて連れて来たら俺達の分の報酬が下がるんじゃね? そもそも伝説級<UBM>なら俺たちだって倒してるし、その知り合いってのが使えるか分からないし」
「こらクロード、今回のクエストで援軍を呼ぶ事は既に決まっていたでしょう? 今更文句を言うんじゃないよ」
「でも姉ちゃん……」
そんな彼を咎めたのは隣に座っている金髪の女性<マスター>──クロード君の実姉である【
……まあ、援軍の事に関しては今回のターゲットである【ハデスブランチ】の事を聞いた際に『このパーティーメンバーじゃちょっとキツイ』と思って私が無理にねじ込んだからねぇ。不満が出るのもしょうがないか。
「一応、今回援軍を頼んだ三人の<マスター>は今まで五体の<UBM>と戦ってその内四回ぐらいMVPに選ばれてるらしいから実力は本物よ」
「うさんくせぇ……幾ら何でも盛りすぎだろ。俺らでも今まで<UBM>に勝てたのは【ドラグリーフ】一回だけだったじゃんか。まだデンドロ始まってからこっちの時間でも半年がやっと過ぎたのに、<UBM>にそんなに出会える訳がないじゃん」
「クロード!」
んんー、実際あの三人の事を知らなければそう思うのも仕方ないわよねぇ……巫女である私の視点から言わせてもらうと『才ある者』『選ばれた者』には“運命”が収束する性質があったりするから、そういう人達にはトラブルが多く舞い込んで来る事はままあるんだけど。
……さてどう説明したものかと悩んでいると、ずっと話を聞いていたペルシナさんから助け舟が出された。
「クロード君、今回の援軍に関しては私がひめひめさんとシズカさんに『【ハデスブランチ】を確実に倒せる様に協力して欲しい』と頼んだのがきっかけです。当然報酬に関しても援軍の有無に関わらず当初の予定通りの額を支払います。……どうか、私の師匠を今度こそ終わらせる為に御助力をお願い致します」
「うぐ……」
「…………」
そう言って真剣な表情で頭を下げたペルシナさんを見てクロード君は非常に気まずそうにして黙り込んでしまった……まあ、彼は自分の力でこの
……それに対してものすごく真剣な表情で答えたペルシナさん相手に居たたまれなくなった事と、横から凄い怖い視線で睨みつけてるクラリスさんの事があるからこんな感じになってると。
「……うう、もう決まった事に関して文句を言ったのは悪かったよ。……でも、相手がアンデッドなら前の【ドラグリーフ】の時みたいに、初手ひめひめの必殺スキルでなんとかなるんじゃ……」
「あの戦術は事前に何時間かチャージしておく必要があるから突発的な戦闘には対応して無いのよ。【ドラグリーフ】の時は相手が余り動かず自分の縄張りに籠るタイプだったから使えた戦術だし」
「それに忘れたのクロード。ひめひめの必殺スキルが直撃しても【ドラグリーフ】は完全には仕留めきれずに、その後10分くらい私達が総掛かりで攻撃してようやく倒せたって事を」
以前【ドラグリーフ】を倒した方法は戦闘開始
……アンデッドである【ハデスブランチ】にも対アンデッド聖属性の《聖浄之矢》を使った必殺スキルなら勝算はあるんだけど、やっぱり事前準備が必要な戦術だから使えない状況も考えるとねぇ。
「……ええ、師匠……【ハデスブランチ】はあの【妖精女王】からも逃げ切ったレベルの相手ですから。可能な限り戦力は多い方がいいでしょう」
「相手がアンデッドのプロだと幽霊である私は不利になるしねー」
「アンデッドは精神系状態異常が効きにくい事も多いので、私も余り有利に戦える相手では無いです」
「光や聖属性が使える私やひめひめなら有利に戦えるけど、<UBM>を格殺出来るかどうかは怪しいわよ」
「あーもう! 分かったよ! 援軍が必要なのは理解したし、もう文句は言わないよ!」
うんうん、クロード君も納得してくれた様で何より(笑)……それにさっきログアウトした時に確認したメールに『美希ちゃんの“直感”に反応があった』と書いてあったし、多分私達が協力しなくても彼等だけで勝手に【ハデスブランチ】の所に行くだろうからね。
「……皆さん、どうやらそろそろニッサ辺境伯領に着きますよ」
「ありがとうペルシナさん」
とまあ、私達がそんな会話をしているとペルシナさんが目的地への到着を教えてくれた……さて、三兄妹との合流に各種打ち合わせ、後は肝心の【ハデスブランチ】の捜索とやる事は沢山あるからね。頑張ろうか。
あとがき・各種設定解説
ペルシナ・デミテル:覚悟完了済み
・とにかく連続で不幸が襲い続けて、その度に何も出来なかった後悔から割とガチ目に覚悟を完了してしまった人。
・ただ、それでも自分程度の実力では伝説級<UBM>を倒せないだろう事は分かっているので、とにかく実績のあって信用出来る<マスター>達であるひめひめ達に協力を頼んでいる。
・攻撃魔法の適正や自然干渉魔法の適正は皆無だが、死霊術や補助魔法の適正が高いタイプなので使役したアンデッドに補助魔法を掛けて戦うスタイル。
ひめひめ:初手大出力技ぶっぱは正義
・必殺スキル《天地一切大祓之矢》の準備段階の光球は自身の頭上の“一定の相対距離”で静止するので、発動後に自身が移動すればそれに合わせて移動する。
・現在だと三時間もチャージすれば超級職奥義に数倍する威力になるが、それでも【ドラグリーフ】を仕留めきれなかったのは単に相手が光エネルギーを吸収して自己回復したり蓄積した光を使って《竜王気》による防御を展開出来る耐久型だったから。
シズカ・クロード・クラリス:ひめひめのパーティーメンバー
・基本的に仲は良いが方針に関して議論する事もある極普通のまともで善良な<マスター>パーティー。
・尚、レジェンダリアでは“善良”はともかく“まとも”な<マスター>でパーティーを組める確率が低いので、まともな人は彼等の様に最初に出会ったまともな人同士で固定パーティーを組み続ける事が多い。
【
・死霊術師系統の中でも霊体系アンデッドの使役・運用に特化した上級職で、転職条件に『霊』に纏わる要素があるレア上級職。
・主なスキルは霊体系アンデッドの火・光属性耐性を引き上げて日照下でも活動出来る様になるパッシブ《ゴースト・コンサベーション》や、霊体を物質に憑依させたりドレイン系スキルを強化したりする物を覚える。
・また、奥義である怨念を霊体系アンデッドに宿らせて強化する《デッドリー・グラッジレイス》を始めとして霊体を介した呪怨系スキルや、アンデッドでない幽霊を知覚・干渉出来るスキルなどにも習得する。
・シズカの場合、転職条件は自分が幽霊なので問題なく満たせて、前述のスキルによって霊体系アンデッドである自分が日照下でも問題なく活動出来る様になるので重宝している。
【減速領域 スロウス】
<マスター>:クロード
TYPE:ワールド
到達形態:Ⅳ
能力特性:減速
固有スキル:《
・モチーフは七つの大罪の一つである怠惰を意味する言葉“スロウス”。
・《足引きの呪縛域》は効果範囲内の敵対対象のAGI及びそれらが使う魔法や飛び道具などの速度にデバフを掛けるスキルで、現時点では最大で八分の一に出来る(対象との実力差で効果は変動する)
・《届かじの闇衣》は自分の身体を中心とした狭い範囲に『自分への攻撃の運動エネルギーや熱エネルギーなどを大幅に減
・スキルは全てMP消費制でありステータス補正もMPに特化しているので、彼のジョブビルドもMPに特化した魔法型。
・ちなみに彼は小学生ながら結構なゲーマーなのでジョブも考えられており、メインの【白氷術師】はパーティーで被らない攻撃魔法で減速効果と合わせて動きを封じる事と氷属性耐性スキルによって《闇衣》が機能しない氷属性攻撃についての対策が狙い。
・また、サブに【暗黒術師】を入れて減速と合わせて闇属性攻撃を確実に当てたり同じく《闇衣》が機能しない闇属性攻撃に対応したり、スキルがそれぞれ呪怨・エネルギー減衰系なので【呪術師】【抵抗術師】を入れて補助したりしている。
読了ありがとうございました。ひめひめパーティーの残り設定は随時開示していくのでお楽しみに。