とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

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前回のあらすじ:妹「祐美ちゃん大丈夫かな?」兄「……今は彼女達を信じるしかあるまい」


少女達の過去/これから

 □ 加藤(かとう)祐美(ゆみ)

 

 ……あれは今から約一年程前、私が小学校に入学してから少し経った頃の話です。当時の私は武術などは学んでおらず、自分が『戦闘における異常な才能』を持っている事にも気付かずごく普通の子供として生活していました。

 まあ、無意識の内に肉体の最適な使い方などは分かっていたので運動能力は他の子と比べても図抜けており、そのせいで周りからやや浮いてしまう事もありましたが所詮は幼稚園や小学生の中での事だったのでそこまで問題にはなっていませんでした。

 

『わあ! すごいねゆみちゃん! バク転とか出来るんだ!!!』

『まりあちゃん……ありがとうなのです』

 

 ……ですが、そんな少し浮いていた私にも話しかけてくれて友達になってくれた人──赤城(あかぎ)真里亞(まりあ)ちゃんが居たのです。

 彼女とは幼稚園の頃からの付き合いで、自分の才能を自覚出来ていない所為で周りからやや浮いていてボッチ気味だった私に声を掛けてくれた、私の初めての友達でした。

 

『うぐぐ、このままだと見たいテレビの時間に間に合わない……祐美、ちょっと近道しようか』

『別に良いですよ』

 

 ある日、私と彼女は一緒に学校から帰っていたのですが、その時彼女がそう言って家への近道となる脇道に入っていったので、私もついて行ったのです……学校からは『登下校には監視カメラや警備ロボットがあるところを行きなさい』と言われていましたが、私も彼女も少しぐらいなら大丈夫だろうと思ってしまったのです。

 ……今の時代、街中には監視カメラがあり警備ロボットが巡回する様になっていますが、それらにだってどうしても死角というものがあり、そして悪意を持った人間や事件が無くなる訳でもないにも関わらず……。

 

『……これは……? 真里亞ちゃん直ぐに引き返して『…………“光ノモノ”ノ気配ガスル……』

『え? 何……?』

 

 その道を歩いてからしばらくした時、私は前方から嫌な気配を感じたのですが私達はそのまま前に進んでしまい……その先で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()異様な雰囲気を放っているフードを被った怪しい男と遭遇してしまったのです。

 ……それを私は本能的に『この男は危険過ぎる』と感じ取って慌てて彼女を連れて引き返そうとしましたが、それよりも早くその男は手にナイフを持ってこちらに突っ込んで来ました。

 

『“光ノモノ”ノ縁者ヨ! 我ラノ怨ミ思イ知レ!!!』

『いっ、いやァァァァァァッ!!?』

『ッ⁉︎ …………させません』

 

 異常な怨嗟の声を上げながら迫り来る真っ黒なフードの男と、その場に響き渡る真里亞ちゃんの悲鳴……そして今までズレていた“ナニカ”がぴったりとハマって()()()()私自身の恐ろしく冷たい声を最後に、私のこの時に何があったのかの記憶は一部途切れています。

 

『……グゥ……ガァ……⁉︎』

『…………』

 

 気がついた時には私は無表情で棒立ちしながら男が持っていたナイフが血塗れになって握られており、その目の前にはフードの男が全身を切り刻まれた上で路上に蹲っていました……今なら分かりますが、私の武術の才能は初めて武器を握った時でもその最適な使い方をある程度は理解でき、敵がどう動くかを完全に見切る事も出来て、そしてその武器をどう使えば人体を的確に破壊出来るかも解ってしまう程のモノだったのです。

 この時はおそらく突っ込んでくるフードの男の小指辺りを掴んでへし折り、そのままナイフを奪って筋肉の筋や腱などを斬り裂いて行動不能に持って行ったのでしょう。当時の私は武術を学んでいなかったのですが、兄様の剣を少し見る機会があったので対人戦における手加減などがギリギリ出来ていた事と、人殺しに対する一般的な忌避感そのものは持っていた事でどうにか男を殺さずに済んだのでしょう。

 

『……あっ⁉︎ 真里亞ちゃんは!?』

 

 それからしばらく、私は蹲る男を見ながら目の前の現実を受け入れられず放心していましたが、一緒に居た真里亞ちゃんの事を思い出して慌てて後ろを向くと、そこには腰を抜かして地面に座り込んでいる彼女の姿がありました。

 ……私は彼女が無事に事に安心しつつ、手を伸ばしながら彼女の元へと歩いて行き……。

 

『嫌! 来ないで!』

『え……?』

 

 そうして近づいて来た私に対して掛けられたのは、彼女の私に対する明確な拒絶の声と恐怖の表情……そして彼女の瞳に写る血塗れのナイフを持って全身が返り血に塗れた私の姿でした。

 ……今なら理解出来ますが、あの時の彼女に取って私は『異様な雰囲気を持つフードの男を機械の様な無表情で八つ裂きにする少女』だったのでそんな反応をされるのは当然だった訳ですが、その時の私は友人からの拒絶の感情を受けてどうして良いのか分からず呆然としてしまっており……背後の男が“暗黒のオーラの様にすら見える”異様な雰囲気を更に膨れ上がらせて立ち上がるのに気付くのが遅れたのです。

 

『……オノレヨクモ! 死ネェ小ムス『テメェ人の妹に何してくれてんじゃこのクソがァ!!!』ヒデブゥッ⁉︎』

 

 まあ、フードの男が襲い掛かってくる直前に颯爽と現れた兄様が怒りの声を上げながら物凄い勢いの飛び蹴りをその顔面に叩き込んでくれたので、その男の魔の手が私や真里亞ちゃんに襲い掛かる事は無かったのですが。

 

『大丈夫祐美ちゃん⁉︎ お兄ちゃんと姫乃さんを連れて来たよ!!!』

『……ふむ、その血は返り血みたいね。人払いは解除したしとにかくここを離れましょう。……蓮、“ソレ”は任せて良いわよね』

『ああ、その二人は任せるぞ姫乃。……どうやら『影法師』の残骸が取り付いているみたいだが、このぐらいなら今の俺の『借り物の光の残滓』でも払えるだろう』

『……オオノレエエエェェェッ!!!』

 

 その後に私は初めて肉体を最高効率で動かした負荷による疲労で倒れてしまったので余り記憶に残っていませんが、再び襲い掛かって来た男は兄様がカウンターの拳の一発を見舞って打ち倒していました……まあ、その時に兄様の拳が“光っていた”様な気もしましたが、その辺りの事を兄様は私や姉様には出来るだけ話さない様にしていると姉様から言われたので深くは聞いていません。

 ……一応その後は警察にも連れて行かれましたが、男に前科があった事と何より姫乃さんと兄様が()()()動いたようなのであの場に居た私達に関してはお咎め無しになりました。

 

『あ、真里亞ちゃん……』

『ッ⁉︎ 〜〜〜〜ッ⁉︎』

 

 ……ですが、それ以来彼女はあの時の私に対する恐怖が忘れられないのか、私を見かけても近づく事が無く直ぐに離れてしまう様になり……私の方も情け無い事にあの時の彼女の表情がトラウマになってしまって、彼女に近づこうとすると身体が竦んでしまう様になってしまっていたのです。

 ……所詮、私に与えられた戦闘の才能なんてモノは他者を傷つける事に長けるだけのモノでしかなく、何かのキッカケになればと兄様の紹介で学び始めた水面流古武術も自分の才能の制御には役立ちましたがそれだけでした。これは私の心の問題なので当然と言えば当然ですが。

 そして今は<Infinite Dendrogram>の世界で遊びながらも、敢えて自身の才能を活かせる戦いの場に身を置きながら己の才能の“意味”を探し続けていますが……それでも、未だに私と彼女の関係は途切れたままなのです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □ニッサ辺境伯領 【魔導拳(マジック・フィスト)】ミュウ・ウィステリア

 

「……それで今度は私が逃げてれば世話無いですよね……」

 

 そんな風に過去の事を思い返しながらも、私はニッサ辺境伯領の人気のない街角で蹲りながら自嘲の溜息を吐いていたのです……あれだけ毎回逃げられて落ち込んでるのに、幾らいきなりな遭遇だったとは言え全速力で逃げてしまうとか……。

 ……あああああああ〜! 本当にもう何やってるんでしょうか私。自分の肉体を代謝機能レベルで制御出来るのが自慢じゃなかったでしたっけ⁉︎

 

「……ハァ、駄目ですね、混乱して頭が上手く纏まりません。……本当に私の才能は“戦闘”という事象にのみ特化しているので、こう言った日常的な極普通の事についてはそこらの小学生と何も変わらないんですよね……」

 

 いきなり逃げ出した所為で兄様やひめひめさん達にも迷惑を掛けまくってますし、特に今回の依頼主であるペルシナさんには多大過ぎるご迷惑を……ああああああ〜ホントに色々とやらかしてしまったのです、どうしましょう……。

 

「うぐぐ……とりあえず戻るしかないでしょうかねぇ……ううう、でも「やれやれ、こんな所に居たのか。やっと見つけたよミュウ」うおう⁉︎ ……って、なんだミメですか」

 

 そんな感じで私はしょげ込みつつどうしようか悩んでいたのですが、いきなり声を掛けられたので思わず驚いてしまいました……まあ、声を掛けてきたのはミメだったんですがね。

 私の<エンブリオ>である彼女なら私の居所を探し当てるぐらいは出来るでしょうから、多分探し出して連れ戻す様に言われて来たんでしょう……普段ならここまで近付かれる前に気が付ける筈なんですが、やはり今の私は相当に参っているんでしょうかね。

 

「……それで? 私を連れ戻す様に言われたんですか? 言われなくてもそろそろ行こうかと……」

「いや? 僕はミュウと話をしたいって言う()()をここまで連れて来ただけだから。……ほら」

「……えーっと、久しぶりだね祐美」

 

 そう言いながらミメの後ろから出て来たのは、先程私が全力で逃げてしまったアリマ──真里亞ちゃんでした……そうしてオドオドとした様子ながらも迷いの無い歩きで前に出て来た彼女を見て、色々と混乱していた私は思わず後ずさってしまいましたが……。

 

「待って⁉︎ 《催眠暗示・忘却》!!!」

「え⁉︎ 身体が……⁉︎」

 

 次の瞬間に彼女がこちら向けて何かのスキルを行使した瞬間、私の肉体は自分の意思で動かせないかの様に殆ど停止していました……咄嗟に自身のステータス欄を見ると【忘却】の状態異常に掛かっている事が分かりました。

 

「【忘……却】? 身体の動かし方を忘れたとでも……⁉︎」

「あ、つい……ご、ゴメンね! 祐美! ……後、【忘却】の状態異常は<マスター>相手だと保護システムに引っかかって記憶の消去とか出来ないから、その代わりに肉体の動きが阻害される形になるだけだから!」

 

 成る程、確かに<マスター>にはリアルの自分に影響を及ぼさない精神保護システムの様な物があると以前聞いた事がありますね……しかし、こうもあっさりと状態異常に掛かってしまうとは。

 ……私の状態異常対策は基本的にミメ頼りですから融合していなければこんな物と言えるのでしょうかね……しかし……。

 

「ここまで容赦なく状態異常を掛けて来るとは……強くなりましたね、真里亞ちゃん」

「ッ⁉︎ ……うん、この世界で祐美ちゃんと()()()()()()()()()()()()()()()に色々と頑張って来たから。まあ今も祐美から逃げ出さない様に自分自身の行動を縛る精神干渉を使ってるけど……後、いきなり状態異常にしたのはホントゴメン」

 

 ここまで綺麗に状態異常へと嵌められたのは初めてなのでついついそんな変な感想が出てしまいましたが、それに対して彼女は真剣な表情で今までは合わせてくれなかった目を合わせながらそう言ってくれたのです。

 ……彼女がここまでしてくれているのですし、私もいつまでも逃げている訳には行きませんよね。普段は何気なくやってる身体制御を今だけは全力で使用して『今度は絶対に逃げない』と言う意思を持って彼女を見据えて、まずは謝罪しようと……。

 

「……ごめんなさい!」

「ふぇえ⁉︎」

 

 ……思っていたら、それよりも早く真里亞ちゃんが頭を下げて謝って来たのでめっちゃビックリして変な声が出てしまいました……お、落ち着け私! こういう時は深呼吸するんだ! ヒッヒッフーって、それは違うやつなのです! ええい、戦闘の時には常時平静でいられる私の脳もこういう時には役立たずですね!

 ……私が突然の事態に内心物凄くテンパっている(それを見ているミメはやや呆れている)のを他所に、頭を上げた彼女は引き続き真剣な表情で話を続けました。

 

「……一年前のあの日、祐美は必死に戦って私を守ろうとしてくれたのに、私は祐美ちゃんを見て怖くなって拒絶してしまって本当にごめんなさい。この世界で戦って漸くその事が分かったんだ。……あれからずっと謝りたかったけど、ずっと勇気が出せなくて……」

「あ……」

 

 ……ああ、そうだったのですね。彼女も私と同じ様にこれまでずっと一歩を踏み出せずに悩んでいたのですか……なら、私も勇気を出して……。

 

「……こちらこそ、ごめんなさいなのです。……あの日、真里亞ちゃんを怖がらせてしまった事、そしてそれ以来ずっとあなたを避けてしまった事……本当はすぐにお話がしたかったのですが、どうしても貴女に嫌われるのが怖くて勇気が持てなかったのです……」

「祐美ちゃん……」

 

 そうして、或いは一年ぶりに真っ直ぐ見た彼女の顔は目に涙を滲ませての泣き笑いの様な表情でした……まあ、私も同じくそんな変な表情なのでしょうが。

 ……そして、私はこの一年間ずっと言いたかった言葉を改めて彼女に伝えました。

 

「……真里亞ちゃん、もう一度私と友達になってほしいのです」

「……はい!」

 

 そう泣き笑いの顔で頷いた真里亞ちゃんが勢いよく抱きついて来たので、私も彼女を受け止めて抱きしめ返しました……ただちょっとステータスだと『アリマちゃん』の方が幾らか高いみたいなので、重心移動とかを駆使して受け止める必要があったりしましたが(苦笑)

 ……こうして、私達の一年間にも渡るすれ違いは傍目から見れば実にあっさりと、私達にとっては漸く解消されたのでした。

 

「うん良かったね二人共。まあちゃんと話さえすればいつでも解決出来た問題なんだけどさ」

「まあそうなんですけどね。……後、ミメもありがとう。私の背中を押してくれて」

「それが僕の生まれた意味だからね。……それと出来ればさっさと戻った方が良いよ。みんなに心配を掛けてるし」

 

 ……そうですよねー。ちゃんと兄様や姉様、ひめひめさんのパーティーメンバーにも謝らないといけませんよね。頑張りましょう。




あとがき・各種設定解説

末妹:無事に和解
・過去話の披露から和解まで実にスピード解決だったが、これは元より二人とも仲直りしたいと思っていた故に話さえすれば解決出来た問題だからである。
・今回の一件で自分の『戦闘の才能』への拒否感がある程度薄まったので、戦闘技術面で今まであった“枷”が幾らか外れた。
(メタ)的に言うとパワーアップイベント。

ミメーシス:為すべき事を果たせた
・今回で末妹のパーソナルに変化が生じたので、彼女の今後の進化にも影響が出る……かもしれない。

真里亞ちゃん:感極まってうっかりステータスを戦闘モードにしちゃった
・彼女の【シャカ】のスキル《悟りの境地(マインド・セット)》は自身の精神影響の有害・無害のフィルターをある程度操作可能。
・また《悟りし者の御業(ソウル・コントローラー)》による精神系スキル操作もコストと時間を掛ければ単純に効果範囲を設定するだけでない複雑な『精神スキル改造』も可能なので、今回はそれらを組み合わせて『ミメーシスの後を自身の意思によらず付いていく』設定の状態異常を自分に掛けた。
・更に《悟りし者の御業》には『一度使った精神スキル改造のパターンを記録・学習して、次に同じパターンの効果発動の時にその所要時間を減少させる』効果もあり、後述のスキル使用時に活かされている。

《催眠暗示・忘却》:アリマのサブジョブである【催眠術師】のスキル
・指定した対象の記憶を消す【忘却】の状態異常を掛けるスキルで、本来このスキルを始めとする【催眠術師】の精神系状態異常を掛けるスキルは長時間・持続的に掛け続ける必要がある。
・しかし、今回アリマは《悟りし者の御業》を中心に《瞬間催眠》などの補助パッシブスキルを組み合わせて『超短時間しか効果が無い代わり、相手を瞬時かつ高確率で【忘却】の状態異常にする』と言う、一種の“スキル効果圧縮”の形にして使った。

兄:妹達の和解の為に裏で謝り倒していた
・妹達に『本気の悪意』を向ける様な連中には一切の容赦はしないが、ゲーム内のお遊びのPKとかならそこまで怒らない。
・尚、フードの男の『黒いオーラ』や兄が使った『光』とかは“ジャンル違い”のお話なので、この作品の中では語られないフレーバー要素だと思って下さい。


読了ありがとうございました。
末妹の問題はスピード解決。まあ、この章の本題って訳じゃないサブイベントなので長引かせるのもあれかなと。次回から本題の<UBM>討伐の話に移ります。
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