□<サウダーテ霊林>深部
本気で“敵”を排除する気になった【冥樹屍界 バイオハーデス】が使用した
「……ぐぐ、少し【気絶】してましたか……アリマちゃん! 大丈夫ですか?」
「おおう、まだちょっと頭がフラフラするけど何とか……《
「はーい、みんな無事〜? 死んだ人は返事して〜」
「……死んだら返事出来ないだろ……」
『【死兵】とか取ってれば出来るかもドラ……』
……しかし、そんな大爆破の真っ只中に居た筈の<マスター>達はズタボロになりながらも辛うじて生存していたのだ。
「スキルのコストでHP減ってた私は死ぬかと思ったんだけど……付けてて良かった【救命のブローチ】」
「うう、でも呪怨系状態異常が……アンデッドの<UBM>と戦う予定だったから【高位聖水】は準備してあるけど……」
「《フィフスヒール》《ディスペル・カース》……とりあえず自分は動ける程度には治したが、他は……」
「私は特典武具のバリアのお陰でダメージは一番少ないから他優先で……後、助かったわよレント。貴方達が
『《ピットフォール》を使ったのはワシじゃがのう。どうにか直撃だけは回避出来たらしい』
そう、彼等が助かった最大のは《デッドリー・ワールドエンド》が防御を抜いて自分達に当たる寸前、レントとネリルが“落とし穴を掘って敵を落とす”土属性魔法《ピットフォール》を真下の地面に使い、その場に居たメンバー全てを深さ30メテルぐらいの穴の中に落とす事でギリギリ直撃だけは回避したのだ。
それに加えて全員が総掛かりで展開した各種防御によって《ワールドエンド》の威力が少しは下がっていた事と、ネリルが追加で穴の上に聖属性障壁を展開した事でその後に起こった大爆発の威力が穴の中に届き難くなったお陰でギリギリ彼等は生存出来たのである。
『こんな事もあろうかと買っておいた【高位聖水】だ!』
「状態異常耐性高くて助かったのです」
「《ディスペル・カース》《ディスペル・カース》《ディスペル・カース》っと」
「……ただ、HPは何とか回復出来ても全員MPとSPは枯渇寸前なのよね」
「流石に古代伝説級<
「ダンジョン攻略にもそれなりに消耗してたしね……」
だが、事前に準備していた回復アイテムなどでHPや呪怨系状態異常を回復させたとしても、これまでの戦闘により既に彼等の残りMP・SPは殆ど残っておらずこれ以上の戦闘を行うのは厳しいと言わざるを得ない状況であった。
……彼等は全員腕の立つ<マスター>なので現状を正確に把握しており、故にその場には『やはりダメだったか』と言った諦念と落胆の雰囲気が立ち込めていた。
『さて、今は先程の闇と呪怨属性の爆発の余波で誤魔化せておるが、時期我らが生きておる事はアンデッドの《生命感知》で知られるじゃろう。ちなみに今の攻撃で《
「<UBM>の規格外さは【ドラグリーフ】で知ってたつもりだったが、まさか古代伝説級だとここまでのバケモノになるとは……」
「元からデスペナ覚悟で来たつもりだけど殆ど嫌がらせしか出来てないわね……もう少し削れると思ってたんだけど」
「せめて時間は稼げたと思いたいけど……」
「後はデスペナになってリアル側で詳しい情報を伝えるしかないかしらね」
防衛戦の切り札であった《魂の森》も《デッドリー・ワールドエンド》の彼等<マスター>へのダメージと呪怨系状態異常の効果を大幅に下げると言う最後の役割を果たした後、効果範囲のフィールドが破壊し尽くすされた事で消失しており……端的に言えば『もう打つ手がバンザイ特効ぐらいしか思いつかない』と言うのが、その場にいるメンバーの
「……姉様、何か手は無いんですか?」
『…………』
そして、ようやく友人と仲直りした直後の共同クエストが失敗に終わるのは嫌だと思っていたミュウは、こんな時には何時も事件を解決出来る道筋を指し示してくれる姉のミカに最後の希望を込めて問い掛けたが、彼女は着ぐるみの中で黙して何も語らなかった……否、語
『ゴメンねミュウ、偉そうな事を言った割に今回は役に立たなくて……』
「せっかくのミュウちゃんとの初クエストがこんな結果だったのは残念だけど……」
「…………うぐぐ……ええいっ! 二人ともそんな空気でどうするのですか! 確かにアリマちゃんとの初クエストがクソ難度なのは思うところありますが、だからこそ最後まで全力で後悔ない様に挑むべきなのです! せめて一矢ぐらいは報いましょう!!!」
暗い雰囲気になっている相棒と親友を見たミュウはとうとう我慢の限界になった様に勢い立ち上がりながら、周りのメンバーから注目されるのも気にせずやけっぱちになったかの様にそう叫んだ……尚、これまでの彼女の性格とは明らかに違う行動だと思うかもしれないが、むしろメンタル面では基本的に普通の小学生である
単に今まではかつての“事件”のトラウマから周りに合わせた『良い子』の様に振舞っていただけであり、そんなある種の『枷』が親友との仲直りで緩んで本来の子供っぽい性格が戻ってきた感じと言った所だ。
……そして現実では一人の小学生でしかない彼女の変化は、この<Infinte Dendrogram>のプレイヤーの一人であるミュウ・ウィステリア──
『……えっとミュウ、演説中に悪いけどコレを見てくれる?』
「別に演説はしてないんですが……何です?」
……そんなミュウのやけっぱち宣言の直後、彼女はミメが展開したウィンドウの中に見知らぬ赤いウィンドウがある事に気が付いた。
【
【同調者生存意思感知】
【<エンブリオ>TYPE:メイデン【模倣天女 ミメーシス】の蓄積経験値──グリーン】
【■■■実行可能】
【■■■起動準備中】
【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】
【停止しますか? Y/N】
「……え? 何ですかコレ『来たァァァァァァ!!! やっとこの状況で勝利出来る可能性が掴めたよおう!!!』ひゃぁ⁉︎」
ミュウがその表示をもっと詳しく見ようとした矢先、いきなりミカが飛び上がりながらそんな事を叫んだので思わず驚いてしまい、その姉の奇行に注意を向けてしまったが故に彼女はそのままウィンドウを放置してしまった。
【カウント終了】
【■■■による緊急進化プロセス実行の意思を認めます】
【現状蓄積経験より採りうる一五八パターンより現状最適解を算出】
【対象<エンブリオ>:【模倣天女 ミメーシス】に対して■■■による緊急進化を実行します】
【負荷軽減のため次回進化までの蓄積期間を延長します】
『コレは……! まさか進化⁉︎ でもコレなら……!』
「ちょっと待ってください! なんかいきなり何かが始まったんですが姉様⁉︎」
『うんうんナイスだよミメちゃん、ミュウちゃん! これであの【バイオハーデス】に勝てる目が出て来たから!』
自分と融合している【ミメーシス】が何か変化しようとしており、それによって名状しがたい感覚を味わっているミュウは何か知ってそうなミカを問いただしたが、彼女はまるで『攻略に必要な低乱数のイベントが発生する様に乱数調整して、それがようやく発生してくれたのでハイテンションになったRTA走者』の如き有様だったので見事にスルーされた。
……尚、穴の中でそんな彼女達を見ている他のメンバーは、事情をある程度察しているレントとひめひめ以外一様に困惑した表情になっていたが。
【■■■──完了しました】
【──FormⅤ 【The Identify You And Me】】
「……終わったみたいですね。大丈夫ですかミメ。……後姉様は事情説明」
『私も何が起こってるのかは分からないよ? ミュウちゃんとミメちゃんに起きた現象がこの状況を打開するのに必要なのは分かるけど……詳しくはミメちゃんの方が良く知ってると思うよ』
虫食いの表示があるウィンドウが“何か”を終えた事を示し、更に融合している【ミメーシス】の変化が終わった事を感じ取った事でミュウは“何か”が終わった事を察してミメの安否を確認した。
……後、姉にジト目を向けながら説明要求したが『詳しくは知らん』と返されたので、溜息を吐きながらも【ミメーシス】からの話を聞く事にした。
『うん大丈夫だよミュウ。……それでだけど、どうも僕は“第五形態”に進化したみたい』
「まあ『緊急進化プロセス』云々と表示されてましたものね。……それで姉様の喜びようがアレな事になる感じな凄いスキルでも覚えましたか?」
『うん、進化によって既存のスキルはだいぶ使いやすく調整されたし、僕自身のステータスもかなり上がったけど……まあ、それらはオマケみたいなものだね。多分ミカが期待してるのは新しく覚えた
ミュウは姉のハイテンションを見た所為で一周回って冷静になりながら、相棒である【ミメーシス】が進化した事と新たに覚えた“必殺スキル”の詳細を聞き……確かにこのスキルであれば【バイオハーデス】に
『一つ目の発動条件である“対象との最低五分以上の戦闘”──古代伝説級である【バイオハーデス】相手だと十五分は戦う必要があったみたいだけど、これまでの戦いでその条件は満たしてる』
「後は二つ目の条件である“対象との接触状態”を達成すれば必殺スキルは使用出来ますね。その後に相応のデメリットも課せられますが。……そういう訳で皆様、あの【バイオハーデス】を倒す目処が立ったので、私がアイツに接触してスキルを使用出来る様に援護をお願いするのです」
「「「え、マジで?」」」
かなりの絶望的な状況に対していきなり齎された福音に、状況が理解出来ず成り行きを見守っていた他のメンバーは思わず聞き返していた……だが、ミュウから彼女達の必殺スキルの詳細を聞いていく内に『確かにそれならワンチャンあるかも』と考え、どのみちこのままではデスペナ確定だった事もあって彼等はそれに残った余力の全てを賭けた乾坤一擲の反撃を行う事に決めたのだった。
「ネリル、今の【バイオハーデス】の様子は?」
『ふむん……どうやらワシらが生きておる事を知ったみたいじゃな。地中から根を伸ばしてこちらに向かわせつつ、吹き飛ばされた地上に再びアンデッド樹木を生やしてこちらを包囲するつもりのようじゃな』
「成る程、向こうからこっちに近づいて来るなら高都合だ。……あの【バイオハーデス】にどれでも良いから触れられれば良いんだな?」
「はい、ミメ曰く『アレらは全部繋がってるから一つの個体扱いで行けると思う』そうです」
「それじゃあ最後の攻撃に移ろうか! 作戦はシンプルに地上に上がったらミュウちゃんが【バイオハーデス】に触れてスキルを発動させるのを全力で援護で!!!」
……そうしてひめひめの号令の下で彼等<マスター>達と古代伝説級<UBM>【冥樹屍界 バイオハーデス】の最後の攻防が幕を上げたのだった。
◇◇◇
□【模倣天女 ミメーシス】について
ミュウ・ウィステリアの<エンブリオ>TYPE:メイデンwithアドバンス・ガーディアン(進化により上位カテゴリ化)【模倣天女 ミメーシス】だが、そのモチーフである“ミメーシス”とは模倣・再現を意味する単語であり、西洋哲学においては『人・物の言葉・動作・形態の特徴を模倣することによってその対象を如実に表現しようとする行為』という意味でも使われている。
……まあ、哲学に纏わる言葉なのでそれ以上詳しい意味を理解するのは難しく、ミュウ自身も以前ネットで自分の<エンブリオ>のモチーフを調べようとした時は『……つまり何かを真似する意味の単語なのですね!』と思考放棄して詳しく調べなかったぐらいなので意味はそこまで重要では無いが、それ故に【ミメーシス】の能力特性は他者のステータス・状態異常・攻撃などをコピーして自身に運用する『模倣』……
そもそも【ミメーシス】の『他者の性質のコピー』という特性は、
……その際に抱いた『何故自分は他の子と同じではないのか』という憤り、それが転じて『自分が他人と同じ“普通”なら誰かと共にいられるのでは』という願望が根幹となり『他者の性質を自身に貼り付ける』という
また【ミメーシス】が意思を持ったメイデンであるのも孵化時の感情以外にも『異常な私と共にある誰かが欲しい』という思いも原因になっており、更にTYPEが能力的により適した
……故に【ミメーシス】は常にミュウの側に侍り、時には彼女の思い通り成したい事に向けて背を押したり、或いは異常な戦闘能力を忌避しながらも兄姉について行く力は欲しいという願いに応えて
例えば《
だが、今回のアリマとの和解によってミュウが自分のパーソナルに向き合うきっかけが出来た事、そして■■■による状況を打開する為の強制進化なので余らせていたリソースも全て使わざるを得なくなった事により【ミメーシス】はその本質である『自他を同じにする同一化』の特性を最大限に適用した、メイデンとしての
……友人との復縁を果たし頼りになる兄姉がいる今の<マスター>ならば、己の本質の暗い部分──『何故誰も私と同じになってくれないのか』という負の感情の一端を具現化した必殺スキルと向き合っても大丈夫だと考えて【ミメーシス】はその進化を許容したのだ。
◇
『◼️◼️◼️『◾️◾️◾️◾️『■■■『⬛️⬛️⬛️……』
先程の最終奥義ですら排除対象が消えていない事を知った【バイオハーデス】だったが、それでも特に動揺する事無く──そもそも動揺する様な精神では無い事もあって引き続き対象を排除する為、根や枝を操作してその周辺に再び自身でもある木々を生やし対象を包囲しようとしていた。
……それは損耗した排除対象を包囲して倒せればそれで良し、それが無理なら足止めしつつ再びの【デッドリー・ワールドエンド】か別の上級魔法を叩き込めば良いという考えであり……。
「《フリーダム・ランパード》!」
「全員やる事は分かってるわね! 一瞬で良いから【バイオハーデス】を引きつけるわよ! 《光炎の矢》!」
「《
「《
『■■■『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Curse Bullet》『《Curse Bind》『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Curse Bullet》『《Curse Bind》』
故にエレベーターの様に地下からせり上がらせた【パラスアテナ】に乗った<マスター>達が自身に攻撃を仕掛けてきた時も、ただ機械的に彼等を対象に全方位からの下級スキルによる一斉攻撃による足止めからの上級魔法の使用準備に取り掛かったのだ。
「ミュウちゃんを対象に《ダメージコンバート》! これでダメージは私が引き受けるわよ!」
『《ハイ・キネティック・レジスト》……残りMPから効果時間は短いが物理耐性はこれで良しじゃ』
「《ホーリー・ブレッシング》……呪怨系もこれで良し」
「ありがとうございます……姉様、ステータスをお借りします」
『《
『オッケー、道中は壁になるよ!』
だが、この時【バイオハーデス】は真っ先に出て来て自身へと戦闘行為を行ったメンバーへの攻撃を優先してしまったが故に、その少し後ろで反撃の要であるミュウに可能な限りのバフを掛けていたメンバーへの対応が遅れてしまったのだ。
……そうして残されたリソースで可能な限りのバフを掛けられたミュウは、進化により
『■■■『《Branch Needle》『《Vine Whip》『《Curse Bullet》『《Curse Bind》』
「遅い上に数が少ないですね、これなら突破は容易です」
『私も居るしね! 普段はやらないけど今回はタンク役!』
当然【バイオハーデス】は向かって来たミュウとミカにも攻撃を仕掛けていくが、それらの遠距離攻撃はクロードのスキルによって大きく減速している上、先のひめひめの狙撃やアリマの精神汚染などによって攻撃を行う木々が減っていたのでこの時だけは彼女達の進行を阻害出来るだけの物量を出せない。
加えてそれらの攻撃も前に出たミカが【ドラグテイル】の強度と【クインバース】の状態異常置換を頼りに壁となった事で後ろのミュウには届かなかった。
『■■■■……』
「遅い! ……触れましたよミメ!!!」
『ああやろう!!!』
そうして皆の働きによって出来た一瞬の隙を突き、彼女は強化されたSTRによる踏み込みとAGIによる機動を組み合わせた移動術で一気に【バイオハーデス】である一本の木々へと接近してそれに触れ……相手が何かをするよりも早く必殺スキルを発動させた。
「『《
そうして彼女達のその宣言の直後、ミメとの融合によって桃色に染まっていたいたミュウの髪と目の色が元の茶髪と黒目に戻り……それと同時に<サウダーテ霊林>を侵食していた【バイオハーデス】が
『■■■⁉︎『◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⁉︎』
「成る程、自分の身体を動かすのも植物操作のスキルによるものでしたかね? ……だとすればどれだけ喚こうがもう貴方は何も出来ませんよ。何せ
自身が持っていた筈の《
そう、これこそが彼女達の必殺スキル《汝は正しく我を模倣せよ》の効果──『【ミメーシス】を条件を満たした対象一体に強制憑依させ、ミュウの元々のステータス・スキル・耐性をその対象に上書きして同一のものにする』効果なのだ。
『⬛️⬛️⬛️! 『■■■■! 『◾️◾️◾️! 『◼️◼️◼️◼️! 『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』
「ふむ、初めての必殺スキルで効果の程は不安でしたが、少なくとも古代伝説級<UBM>であれ解除不可能な様ですね。……まあ、今のスキルとステータスが
これが《汝は正しく我を模倣せよ》の最も恐ろしい部分……ミュウと同じステータスとスキルに上書きされるが故に、元々持っていた<マスター>や<UBM>を強者足らしめる各々の固有スキルが完全に使えなくなってしまう所なのだ。
……必殺スキルとはその<エンブリオ>の集大成。だからこそ“相手を自分と同じ領域に引きずり降ろす”このスキルは『模倣と同一化』を能力特性とし『相手と同じ能力であればマスターの技量があれば勝てる』という意味での強者打破の性質を有する【ミメーシス】の“必殺”に相応しい強力なスキルだと言えるだろう。
「まあ、今現在だと効果時間は十分程なので、余り悠長にはしていられませんが……」
『つまり後はカンストティアン程度のスペックになった<UBM>を殴り倒す簡単な作業って事だね! 《インパクト・ストライク》!!!』
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎』
そうして初の必殺スキルが問題なく通用していると確認出来たミュウが必殺スキルの時間切れ前に仕掛け様とした時、未だにハイテンションが続行しているミカが全力で【バイオハーデス】である木の一本に殴りかかり……その一撃は殴った木を砕いて【バイオハーデス】のHPを僅かに減らしたに留まった。
『……アルェ〜?』
「むむ、ステータスは確かに私と同じになっている筈なのに……?」
『おそらく体積=HPだから減った体積分しかHPが削れんだけじゃろ。スライムとかのコレはスキルではなく生物としての“生態”じゃからな』
「《液状生命体》ってスキルもあるがソレが無くなってもスライムがいきなり固体になる事は無い、或いは生態に纏わるスキルは完全に消せる訳じゃ無いとかか……その辺りは後日検証が必要だな」
その結果に疑問を抱く二人に答えたのはレントとネリルだった……まあ、元々のステータスとスキルと耐性を同一化させるだけであり、生物としての生態や体積が変動する訳では無いのでしょうがないのだが。
「じゃあ結局この森を全部伐採しないと倒せないのでは……間に合いませんよ」
「いや、HPの最大値が減ってるのは確かなんだから、HPを直接減らす固定ダメージか状態異常なら削れるんじゃないか? ……そういう訳で固定ダメージ【ジェム】をどーん」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎!?』
それを聞いて少し不安がるミュウに対してレントは軽い調子で答えながら適当な木に500程の固定ダメージを与える魔法が篭った【ジェム】を投げつけると付近に存在した【バイオハーデス】がごっそりと消え去ったのだ……これがHP=体積故に減らされたHPと同じ割合の体積分【バイオハーデス】の肉体が吹き飛んだ結果起こった現象である。
……それを見たレントは予想通りだと頷き、同じくそれを見た他のメンバーもこぞって【バイオハーデス】への固定ダメージ攻撃を仕掛けた。
『成る程! ここは折角買った【高濃度除草剤】の出番だね。喰らえー!』
「確か【吸命】の状態異常にする【吸命牙の矢】を買ってあったかしら」
「闇属性にも固定ダメージ魔法があったな……だがもうMPが……」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⁉︎』
「あ、HPを回復して……? ……そういえば私【
「でも低級の回復魔法じゃ木をいきなり生やすって訳にもいかないみたいよ。HPだけが減ったのと傷痍系状態異常を治すなら後者の方が手間取るし」
だが、薬品や矢による【枯死】【吸命】の状態異常はこれまた大質量によって効きが悪く、固定ダメージ魔法が使えるクロードもMPが足りず、更には自身の使えるスキルを把握した【バイオハーデス】がミュウも覚えている自己回復魔法まで使い始めた事でダメージを稼ぎ難くなっていた。
「どうしましょう兄様! このままだと時間切れですが!」
「……安心しろ問題ない、準備は整ったしな。ネリル」
『うむ、対アンデッド用聖属性固定ダメージ魔法《
折角の必殺スキルなのにこのままでは無意味に効果時間を終了すると思って焦り始めたミュウに対して、レントは落ち着く様に声を掛けながら掌の上に光輝く小さな十字架──ネリルがたった今開発した対アンデッド用固定ダメージ魔法を浮かべながら手近な【バイオハーデス】へと近づいて行く。
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!』
『しかし、今のワシの残り魔力ではHPを完全に削るには少し足りんかの……と言うわけで主人殿、スキルとしては登録したでな』
「ああ……《
その十字架を見た【バイオハーデス】は『それが自分を滅ぼすモノである』と判断してどうにか抵抗しようと叫び声を上げるが、体術系のスキルが殆どなミュウの能力を上書きされているせいで文字通り“手も足も出ず”、レベルを捧げた事で更なる輝きを放ち始めた十字架を持ったレントが向かってくる事に対して何も出来ず……。
「じゃあさようなら……《
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……!!!』
その光輝く十字架が木の幹に押し付けられると同時に発生した二十万以上の固定ダメージが【バイオハーデス】の現在のHPを跡形もなく消し飛ばし、それによって<サウダーテ霊林>を半径数キロにまで侵食していた全ての【バイオハーデス】の身体も跡形も無く消滅して光の塵となったのだ。
【<UBM>【冥樹屍界 バイオハーデス】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミュウ・ウィステリア】がMVPに選出されました】
【【ミュウ・ウィステリア】にMVP特典【霊樹冥冠 バイオハーデス】を贈与します】
「……おや、トドメを刺した兄様では無く私がMVPですか。……まあ今はとにかくお疲れ様でした、ミメ」
そんなアナウンスの内容に少し驚いたミュウだったが連戦の疲れもあってスルーしつつ、必殺スキルの代価として『24時間の休眠状態』となった【ミメーシス】を労わるように自身の“手を取り合う二人の少女”の紋章を優しい表情で撫でたのだった。
あとがき・各種設定解説
《
・発動条件である『対象との最低五分の戦闘時間』は対象の能力と【ミメーシス】の到達形態及び末妹のステータス・スキル数次第で五分以上になる事があり、今回の【バイオハーデス】相手では十五分以上の時間が必要だった。
・要するに対象がどれだけ弱くても最低五分は戦闘する必要があり、対象の実力が一定以上ならそれと自分の能力に応じて必要時間が延長される感じ。
・もう一つの条件である『対象との接触』は直接では無く保持している装備への接触でも問題無く、<マスター>の半身である<エンブリオ>とかの場合は独立したガードナーなどに触れても本体である<マスター>にまで憑依されて効果が及ぶ仕様。
・能力の同一化に関しては基本ステータスとHPなどの場合は最大値が反映される形であり、お互いに装備の効果やバフ・デバフなどは基本的に反映されない。
・ただし、HP・MP・SPの最大値を減らす・基本ステータスそのものを削る・スキルを一時的に失うなどの特殊な効果の場合は、それによる末妹側の効果が対象に及ぶ事もある。
・対象に末妹のスキルが上書きされた場合、元々持っていたスキルは無かったものとして扱われて効果も消えるが、一部生態に纏わるスキルの効果は僅かに残る事もある。
・具体的にはスライムの《液状生命体》の場合は無くなってもいきなり液体スライムが個体に変わる事はないが、物理攻撃無効などの効果が正しく働かなくなると言った感じ。
・効果時間である十分が過ぎるか憑依した対象の死亡(蘇生可能時間経過含む)すると、憑依していた【ミメーシス】は紋章の中に強制収納されて24時間休眠状態になり、当然その間末妹は【ミメーシス】のスキルを一切行使不可のデメリットを課せられる。
・かなり仕様が複雑なスキルなのでまだ妹やミメも正確には効果を把握しておらず、今後時間を見て使っていき色々と検証しようと思っている。
末妹&ミメーシス:進化&MVP
・第五形態への進化の際に《天威模倣》《転位模倣》のスキル対象が『敵のみ』から『敵味方問わない効果範囲内の対象一体』に変更された。
・また《攻撃纒装》の方もストックが一つ増えて七つになり、更にストック使用後のストック使用不能時間が『五分間』から『ストックしたスキルに応じた可変式』に変更された。
・具体的には弱いスキルをストックした場合はすぐにストックが再使用出来る様になって手軽に使える様になり、強すぎるスキルだと大幅に使用不能時間が増える代わりに五分間固定の時と比べてスキルの再現率が上がっている。
・これまでの経験から使い難くて余り役に立たなかった固有スキルを大幅に使いやすくした形だが、必殺スキル習得と合わせて今まで余らせていた進化時のリソースをほぼスキルの方に振ったのでステータスはほぼ上がっていない。
・獲得した特典武具の詳細は次回。
妹:【バイオハーデス】討伐RTA成功
・今回は微妙に曖昧な“直感”に従って乱数調整しながらランダムイベント(末妹の緊急進化)を狙ってたので実は相当疲れており、その反動で途中から変なテンションになってた。
【冥樹屍界 バイオハーデス】:メタ能力をその場で獲得されて撃破された。
・分体を作るのでは無く全て本体であるタイプで、肉体も樹木操作スキルで動かしていたので末妹の必殺スキルがブッ刺さった(そうなる様に進化したとも言うが)
・また末妹がMVPになったのは彼女が条件特化型としての真髄であるスキルとステータスを封じた事以外にも、HPを全損させた兄と最も強い部位を消滅させたひめひめの二人でダメージ面での貢献度が分散した所為でもある。
・ちなみに撃破後は侵食された森やモンスターも全て本体扱いで一緒に消滅したので、<サウダーテ霊林>深部は草木一つない荒れ果てた荒野になった模様。
読了ありがとうございました。
九十話超えてようやく末妹の必殺スキルお披露目ということで、つい筆が乗って文字数が多くなってしまった件。