THE IDOLM@STER Glitter of Platinum   作:織部よよ

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すんませんりっちゃんの存在を普通に忘れてました。大丈夫ですわ、出ますもの。


私思うんです、TS+転生+お嬢様キャラってかなり人を選ぶなと。それなのにもう20人の人に評価をもらって、日間まで入ったんですよ。めっちゃありがたいです。ちなみに日間に入った日と翌日は、あまりのUA数の伸びにずっとびっくりしてました。

あと、会話の詳細とかうろ覚えなので微妙に差異が生まれるかもしれませんがご容赦下せえ。

え?フランス人なのにプラチナブロンドはおかしいって?そんなもん多少は許してヒヤシンス。私が好きなだけです。








自分らしさ

 

 

 

 

 

 

 

「うーん………これは……」

 

 

ある日。

 

今日は特に仕事の予定が入っていないため事務所でお茶を飲んだりしていると、不意にデスクの方からうなり声が聞こえてきた。プロデューサーのものだ。

 

 

結局、あの日の取材が実は嘘で、カメラマン=新しいプロデューサーだということを知らされた皆は…かなり驚いていたなあ。今でもあの絶叫っぷりは覚えている。私は知ってたから叫ばなかったけど。

 

ああ、そう言えば聞かれたっけ、「プロデューサーさんだということを知ってたのか」って。バネPに言ったことと同じことを皆に話すと、何故か皆から尊敬の眼差しを向けられた。気持ちはわからいでもないけど。

 

さて、そんなプロデューサーが今何に悩んでいるのか。ちょっと気になったので聞きに行こう。 

 

 

「プロデューサーさん、何をそんなにうなり声をあげていらっしゃいますの?」

 

「あ、ああ、百合か。実は、先日撮った宣材写真の出来が……お世辞にもいいとは言えなくてだな……」

 

「宣材の、って、ああ…これですの………ああー…」

 

 

Pの机にある、小さい写真群。それらはすべて数日前に撮った宣材写真であり、一番上には……サルの恰好をした双海姉妹だったり、かなりぶりっ子をしたいおりんだったり、微妙に笑えず結果的にすごい変な顔+ダブルピースで撮られたやよいちゃんの無残な姿がばら撒かれていた……。

 

 

「……何があったら、こんなイロモノばかり撮れてしまいますの?」

 

「わからん……どうしてこうなった…」

 

 

もちろん、真ちゃんや姫ちゃんなど普通に撮れている子らもいる……いやごめん姫ちゃんは今日も“決まってる”わ。

 

それを置いても、中学生組のあまりの奇天烈さに盛大に頭を抱えるバネPであった。それにしても、この写真たちがここで見られるってことは______2話くらいに差し掛かったのか。早いもんだなあ。ここ最近はほとんどレッスンとかしかやってないし。

 

 

「これがどしたのにいちゃん?」

 

「亜美たちのすごさが出てて良いじゃん!ね、ゆーりん!」

 

 

するとどこからともなく現れる、“やばい写真”の筆頭勢。

 

いや、これを見てすごさが表れてるって言えるなら一回他のアイドルのやつとか見てきてほしい____という言葉が出かかったが抑え込む。

 

 

「正直に言いますと、宣材写真としてはあまりよろしくないと思いますわ。何と言いますか、わたくしが先方ならこれを見て起用したいとは思えませんので……」

 

「ええっ、そんなぁ!嘘だと言ってよゆーりん!」

 

「そうだよ、真美たちこんなに頑張ったのにー!」

 

 

いや、私に抗議されても…。

 

軽いノリの口調とはいえ、割かしショックを受けている双海姉妹。ごめんね。

 

 

「私は悪くないと思うがねぇ」

 

 

するとまたしても後ろから声が。この渋いオジサマボイスは…しゃっちょさんだな?

 

 

「ごきげんよう、社長さん……それ、マジモンで言ってますの?」

 

「おはようございます社長…流石に、百合の言うことに一理あるかと」

 

「おはよう諸君。そりゃあ、私が双海君たちにアドバイスしたのだから当然だ」

 

 

な、なんだってー!?

 

と一瞬驚きかけたが、前世の記憶と照合しそういえばそうだったなと一瞬で冷静になった。社長、めっちゃドヤ顔してるじゃん……。

 

だけど、プロデューサーは十分に驚いたのちまたすぐに頭を抱えてしまった。気持ちはわかる。

 

 

「これ、撮り直した方が良いですよね…でもうちの懐も結構寂しいし…」

 

 

ついでりっちゃんまでこちらに参加してきた。

 

りっちゃん____秋月律子。元アイドルで、私たちのプロデューサー第一号。私がスカウトされたころには既に業を移していた。

 

彼女を一言で表すなら「生真面目」。アイドルとしての経験を持ちながら今はプロデューサー業に徹している、きっちりとした性格だ。私と同い年なのに、私よりもはるかにしっかりとしているのは本当にすごいと思う_____そうならざるを得なかったのも、あるかもしれないけれど。

 

りっちゃんは、バネPが来てからいくらか肩の力を抜いたように見える。そりゃあそうだ。()()()()()()プロデューサーはイケメンの大人の男なのだから、能力の有無にかかわらず多少は頼りにもなる。

 

……まあ、今はその生真面目さを持って宣材を撮り直すかどうかだいぶ頭を悩ませているが。

 

 

「わたくしは撮り直した方がいいと思いますわ。下手に印象の良くなさそうなもので挑むより、しっかり武器を揃え直してから勝負した方が見てもらえる確率は上がりますから。先行投資としても悪くはないと思います」

 

「う……これ以上ないくらいの正論…ええ、分かってはいるんですよ百合さん」

 

「いいんじゃないですか、撮り直しても」

 

「小鳥さんまで……」

 

 

ピヨちゃんまで参加してくる。まあ仕方ない、宣材の出来はうちみたいな弱小事務所には結構響くからね。

 

方々からの発言を受けて、更に撮り直すかどうかで揺れるりっちゃん。あともう一息といったところか…?

 

そして当然、鬼軍曹(りっちゃん)のそんな姿を見逃すような双子ではなく。

 

 

「りっちゃ~ん、撮り直そうよぉ~?」

 

「そうだよ~。もしかしたらそれのおかげでいっぱい仕事が来るようになってがっぽがっぽかもしれないんだよ~?」

 

「仕事……がっぽがっぽ…」

 

 

だ、ダメだりっちゃん…!そんな甘言を真に受けてしまっては…!いやごめんやっぱり真に受けて。流石にこれで勝負するのはちょっとヤバすぎる。

 

ああ、りっちゃんの両目にいつの間にか¥マークが浮かんでいるぞ…幻覚なんじゃないのか?

 

やがて、意を決したように、厳かにりっちゃんが口を開いた。

 

 

「……撮り直しましょう。そしてがっぽがっぽ仕事を取りに行くわよ…!!」

 

 

あダメですねこれ。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「うーん……どれがいいかしら…」

 

 

後日。

 

 

もう一度撮影スタジオを借り、人に来てもらい…普通に撮れていた子らも含めて、全員分を撮り直すことになった。私的にはまたいろいろ服で遊べるだろうから楽しみだけど。

 

今私は、持ってきた私服の数々(4つくらい)の中からどれを着ようかめちゃくちゃ迷っている。楽屋で。

 

 

「百合、何を悩んでいるのですか?」

 

「ああ、貴音さん。見ての通り、どれを着て撮影に望もうかと頭を悩ませていますの…」

 

 

うんうん唸っていると、横から既に撮影用の私服に着替え終えていた姫ちゃんに声をかけられた。

 

今日の姫ちゃんの服装は、紫の七分のブラウス(胸元にフリルがついている)に黒のフレア、それから同色のハイヒールだ。は、あーた似合いすぎ……かわいい…。

 

さて。

 

 

「どうしたものかしら…」

 

 

私は写真を撮るとき__自分が撮られること以外に、個人的に撮るときも__に、いつも考えていることがある。たいていの場合はなんとなくその場のノリで決めているが、今はどうにも思いつかないのだ。

 

どうしようかなぁ……これも着たいけど今日は“私服”だからなあ……もういっそ()()()()()()か?いやそれは流石に……。

 

 

「うーん……」

 

(わたくし)は、どちらも百合の雰囲気を高めてくれるものだと思いますが…」

 

「…ありがとうございますわ、貴音さん…しかし、もう少しだけ考えることにします」

 

「ふふぅ、百合は相変わらず真面目ですね」

 

 

そう言って姫ちゃんは去っていった。

 

いや、まあ、ね?

 

自分の性癖だから真面目になるのは決まってるじゃん。でもいくら姫ちゃん相手でも「自分の外見容姿がドチャクゥソ・セイヘキ・ササリンティウスだからどれも可愛いくて迷う」なんてさあ…言えるわけないよね。てへっ。

 

 

「ううーん……」

 

 

 

 

 

………よし、決めた。これで行こう。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「お待たせしましたわ」

 

 

ようやっと着る服が決まったので、楽屋を出てスタジオの扉を開ける。丁度春香ちゃんが撮影に望んでいたところだった。

 

挨拶とは言えない挨拶をかますと、すかさずこちらに気が付いたプロデューサーがやってくる。

 

 

「ああ、来たのか百合……って、それ…」

 

「私服…というより私物ですわ」

 

「いや、まあそれならいいんだが……結構、フリフリなのを着てきたんだな」

 

 

そう、今私が着ているのは黒を基調としたゴリゴリのゴスロリドレス。ご丁寧に下には黒タイツとパンプスも履いている。まだこれでもフリルの量は控えめな方だろうけど、私服と呼ぶには些かグレーな感じになった。やめろそんな目で見ないでくれさい。

 

 

「大丈夫ですわ、似合わないものは持ってきていませんし。それに仕掛けもありますから」

 

 

私は左手に持ってきていた()()()()をひらひらと見せつける。それを目にしたプロデューサーは、どうして私がスタジオにこれを持ってきたのかが理解できていないようだ。

 

 

「…百合?どうしてハンガーを手に持ってるんだ?」

 

「これが仕掛けですわ。まあ、詳しくはわたくしの撮影の時に理解してくださいまし。それにこれ単体でも十分に可愛いでしょう?」

 

 

くるりとその場で一回転。

 

 

「まあ、それは確かにそうなんだが」

 

「ぷろでゅうさぁ……おまたせしました」

 

「あら、貴音さんそこにいらっしゃいましたのね」

 

 

突然後ろからかけられる声。振り返ると、フィッティングスペースからカーテンを開けて姫ちゃんが出てきていた。何か調整でもしていたのだろう。

 

そのまま姫ちゃんは__私ではなく、プロデューサーの前までやって来た。

 

 

「ぷろでゅうさぁの目には、(わたくし)はどう見えていますか?」

 

「あ、ああ。すごく似合っていると思う」

 

「ふふ、真良き言葉です」

 

 

と、バネPに感想をもらった姫ちゃんがこちらに体ごと向けてくる。笑顔だ。かわいい。

 

 

「それにしたのですね、百合」

 

「そうですわね。どうです?」

 

(わたくし)には合わないかもしれませんが…百合が着用すると、装飾が百合に付随していくようですね」

 

「…それは流石に言いすぎ飯田謙信ですわよ」

 

「…言いすぎ飯田謙信……?」

 

 

やば、ついどこかで見たフレーズが出てしまった。スラングじみているのに言いやすいフレーズって結構油断して使っちゃうと思うの。まーた私の身バレへの道が…。

 

案の定姫ちゃんがきょとんとしてる。可愛いけど。

 

 

「…まあ、いいですわ。そろそろ春香さんの撮影が終わりそうなので、次はわたくしを撮っていただくことにします」

 

 

そう言って私は、春香ちゃんの撮影が終わるタイミングを見計らって左手のハンガーを手で弄びながらカメラマンさんのところまで歩いて行った。

 

 

 

 

 

さ、今日も良く撮ってもらいますか。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「ぷろでゅうさぁ…百合の撮影を見るのは初めてでしょうか?」

 

「ああ、言われてみればそうかもしれないな。何かあるのか?」

 

 

百合が俺たちの元を離れて撮影に望もうとしているとき。隣に立っている貴音からおもむろに話しかけられた。

 

 

「それならば、今がとても良い機会です。しかと目に焼き付けておくべきだと思いますよ」

 

「え、そ、そんなに巧いのか…?確かに、元有名なティーンズモデルだという話は前に彼女から聞いたが…」

 

 

というより、百合についてはそれくらいしか知らない。実際に活動していたときにどういうことがあったのかとか、いい思い出はとかの詳しい内容はあまり聞いたことがないな。

 

貴音の顔を見ると、今更ながら彼女の顔がわずかに笑っていることがわかる。しかもこれは、ワクワクしているときに出そうな表情……とても挑戦的な笑みだ。貴音がこういう顔をするのは珍しい気がするな。

 

 

「あれは、確固たる世界を創造しています。見ていると、まるで百合のいるところだけ別の景色が見える様です」

 

「……それは、確かにすごいが…」

 

 

それはもう自分の見せ方を知っている、というレベルじゃないだろう。かつて彼女の名が知れていたのは、それが間違いなく大きな理由だろうな。

 

とはいえ、俺は実際に見たことはない。貴音の言う「世界」がどういうものなのか……見てみたい。

 

 

百合の撮影が始まる。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「今日はよろしくお願いいたしますわ」

 

「よろしくお願いしまーす……あれ、織部さんの服はそれで良いんですか?」

 

「………ふざけてるのかしら」

 

 

おおっとぉ、早速カメラマンさんの隣にいる女性から厳しいコメントをもらった。気持ちはわかる。だってこれ私服じゃないし。

 

 

「全くふざけていませんわ。数ある私服の中から今日はこれで行こうと思っただけですの。可愛いでしょう?………さて、ではまずは普通に撮っていただいた後、床に座りますのでそのまま続けてくださいな」

 

「あ、はい。わかりました…」

 

 

半分自覚があるとはいえ、開幕でふざけてるのかな発言はちょっとだけプチっと来た。それなら今日は元モデルの杵柄を見せびらかしてやろうか。おうおう。

 

 

内心でそう悪態をつきながらも、表情は一切崩すことはなく手馴れた笑顔を見せる。それだけで、心なしかカメラマンさんが__ひいては隣の女性まで少し呆けたように見えた。

 

ざまみろオッパッピー。いっけないまた。

 

 

そして何枚か撮り終えた後、事前に言っていた通り私は床に座る。

 

 

「もう少し斜めか……そうですわね、おおよそ40度ほど右に向きますから、カメラマンさんはそのまま正面で続けてくださいまし」

 

 

_____パシャ、パシャ。

 

 

小気味良く鳴るカメラのシャッター音。それはつまり私の撮影がうまくいっていることを表している。ちらりに女性の方を盗み見ると、特に文句があるわけじゃないらしく黙ってくれている。その表情はとても複雑そうだったけど。

 

 

そうして角度やアングルを変えて10枚ほど撮った後。

 

 

「__さて、ここまで撮っていただいたわけですが…衣装チェンジしますので、ほんのちょっとだけ時間をくださいな」

 

「衣装チェンジ?!駄目よ、そんな数分も待てな……え?」

 

 

女性が何か言うのを半ば無視して、撮影前に脇に置いたハンガーを取りに行く。

 

戻ってきてから、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ちょ、ちょっと何やってるの!?こんなところで脱がないで頂戴…って」

 

「……ふぅ。さて、それではもう少しだけ撮影していただきますわ?」

 

 

そのまま脱いだドレスを手持ちのハンガーに掛けた私は、()()()()()()()()()()の具合なんかを調整するべくその場でくるくると回ったりしていた。

 

さしものこれには、一同度肝を抜かれたらしく、女性やカメラマンさんはおろかその奥にいるプロデューサーや他のアイドルまでもが口を開けてこちらを見ていたのが視認できる。

 

 

 

着る服を迷いに迷って、結局どっちにも決められなかった優柔不断未開通女(自虐)が取った最終手段__“どっちも着る”であった。

 

はー暑かった。

 

 

ちなみに今日持ってきたのは、以前掛川さんに一押しだと語った白ブラウス+青のフレアという王道の組み合わせだ。かの騎士王が来ていたのとほぼ同じやつである。

 

そして今回の撮影においては姫ちゃんと微妙に2Pカラーのようになっている。いや、いいけどね?

 

 

ま、それはともかく第二ラウンド行きましょう!撮影が楽しくて、さっきから笑顔が絶えないゼ。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「……なるほど、これは確かに…」

 

 

撮影スペースでは、さっきまで着用していたフリルの多用されたドレスを体の前に当てていい笑顔を見せている百合がいる。ここだけを切り取れば__一瞬、「服屋に来て楽しそうに服を選んでいる良家のお嬢様」というワンシーンがありありと目の前に見えてしまっていた。

 

もちろん、それがあくまで錯覚だということは分かってはいるんだが…。

 

ちらりと隣を見やると、貴音も随分と百合の撮影に真剣な眼差しを向けていた。

 

 

「…あのように、百合は撮影のたびに自分の世界を展開しているのです。その都度てーまを決めているように見えますが」

 

「……ああ、成程な。百合はすごいなぁ」

 

「真、そうだと思います。加えて、立っているだけで老若男女を惹きつける容姿…百合のような傑物が事務所に所属する理由は、未だに不明です」

 

「………」

 

 

俺にあんな子のプロデュースをちゃんと出来るだろうか…まだ駆け出しである、俺に。

 

 

「…(わたくし)は、ぷろでゅうさぁなら皆を導いていただけると感じています……第六感というものです」

 

 

すると内心の不安を見透かされたように、貴音に励ましの言葉をもらう。が、励ましというよりも冗談のように聞こえてしまうのは彼女の雰囲気とは合わないからだろうか。

 

 

「……貴音って、冗談とかも言うんだな。ありがとう、おかげでちょっと気が楽になったよ」

 

「むぅ、冗句などではありませんが……」

 

 

むくれたような表情を浮かべる貴音は、普段の気品の高さがなりを潜めて少しだけ年相応の雰囲気が出ているように見えた。そのギャップに、少しだけ見惚れてしまう……って、いかんいかん。担当アイドルにぼうっとするなんて、分不相応にもほどがあるしな。まあ、見惚れるほど綺麗だってことだから、改めてプロデュースのしがいがあると実感するが。

 

 

「待たせたわね!」

 

 

突然、その溌溂とした声が後ろから聞こえる。スタジオの扉からだ。この声は…伊織だな、ようやっと準備が出来たらしい。さて、どんな服装をしてきたのか_____

 

 

「やっと来たな、いお…り……?」

 

 

……は?

 

 

「…何やってるんだ?」

 

 

……扉には、伊織、亜美、真美、やよいが立っている。

 

だが、その顔には厚すぎる化粧が施されていて、胸には何か詰め物をたくさんしている。おまけに変なポーズまで取っているんだが…。

 

 

「これぞ、亜美たちが考えた最強のオトナの色気!」

 

「どうかなにいちゃ~ん?真美たち、せくしぃに見える?」

 

 

……いや、駄目だろう。

 

 

「…何ふざけてるんだ!?早く着替えてこい…!」

 

 

あんまりにも派手な格好をしてきた4人に、すぐに手直しするように促す。

 

これには流石に貴音も驚いたのか、さっきから目をわずかに見開いてる。いや、普段毅然としている貴音がこうなるって結構よっぽどなんじゃじゃないか…?

 

 

「なっ…!ふ、ふざけてるわけじゃないわよ!私たちは本気で…!」

 

 

しかし俺の言葉が何か癇に障ってしまったのか、ひどく伊織がかみついてきた。

 

 

「流石にそれで宣材を撮れるわけないだろう!良いから早く着替えてきてくれ!」

 

「何よ、これのどこが悪いってのよ!」

 

「そうだよにいちゃん!亜美たちすごく頑張ったのに!」

 

「無下にするなんてあんまりだよぅ!」

 

「頑張りの方向が違うところに行ってるんだ…良いからとにかく着替えてこい。話はそれからいくらでも聞くさ」

 

「なぁ……っ!?」

 

 

くそっ、まずい。口論に発展しかけている。間違いなくプロデューサーとしてはあまり良くないコミュニケーションだろう。どうすればいい…!?

 

 

「あのっ、伊織ちゃんもプロデューサーさんも、喧嘩はダメですぅ~……ふぇっ、あ、あれ~~体がふらふらします~~?!」

 

「あっ、おい、やよい?!」

 

 

俺とヒートアップしていた伊織や亜美真美から、少し離れたところに立っていたやよいが、胸の詰め物のせいでバランスが取れなくて千鳥足になっていた。そのままどんどんと後ろにふらついていって、今から支えに行こうとも…惜しくも間に合わず。

 

 

「ふ、ふええええぇぇぇぇ~?あぅ~、真っ暗で何も見えないです~~~!!」

 

 

「……とりあえず、やよいを起こしに行こうか」

 

「……そうね」

 

 

 

 

 

……やよいが段ボールに吸い込まれて、ここでようやく伊織との口論が休戦となった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「これにて撮影は終了でーす。お疲れ様でしたー」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

んーーっ。今日も割とやりたいようにやらせてもらえたかな。

 

 

「お疲れ様です、百合」

 

「あら、貴音さん。ありがとうございますわ」

 

 

軽く伸びをしながらプロデューサーのところへ向かおうとすると、ちょうど真正面から姫ちゃんが向かってきていた。次の撮影はあーたか。楽しみだ。

 

 

「まさか下に別のものを着用していたとは思いませんでした。百合はいつも(わたくし)たちの想像を超えてくるのですね」

 

「まさか。どちらも着たいと思った結果、両方捨てられずに同時に着用しようという阿呆な考えをなんとか形にしただけですわ」

 

「ええ、貴方がそう言うのならきっとそうなのでしょう。(わたくし)も負けていられません」

 

「これは勝ち負けではないですわよ」

 

「ふふっ、理解しています。それでは」

 

 

……行っちゃった。

 

姫ちゃんはなんだか随分とやる気に満ち溢れているようだった。何かプロデューサーと話でもしたのかな。なんにせよ、姫ちゃんの綺麗さならたぶん大丈夫だと思うけど。

 

さて、プロデューサーに感想を聞きに行こーっと……って、あれ?

 

 

「…伊織さんに亜美真美さん、やよいさんにプロデューサーさんまで。揃ってそんなところに座り込んで、どうされましたの?」

 

 

そう。

 

何故か中学生組とプロデューサーさんが段ボールなどに座り込んで、一様に暗い表情を浮かべていたのである。ここだけ空気が数段重たい…()()()()()()()()()

 

あれ、そういえば2話ってこんな描写あったよな……ええっと、確か。

 

 

「もしかして、どういうスタンスで宣材を撮ればいいか分からなくて困っていますの?」

 

「……!な、なんでアンタがそれを……」

 

「…いえ、まあ。事務所で何か話し合っていたなとは思っていたので」

 

「……百合みたいなオトナにはわからないでしょ。私たちが滑稽に見えるんじゃないの?」

 

 

…確か、人を惹きつけるのは大人の色気だ!じゃあ化粧とかボンキュッボンとかすればいいんじゃね?服もセクシーにするために裾を破いたりしよう!ってなって、それが裏目に出たんだっけ。難儀だよね、それって。

 

まあ年齢も負ってきた過去も…なんなら性別まで差異がある私がどうこう言って響くことはないだろうけど、一応年長者としてアドバイスしておきたい。

 

というか、伊織ちゃんは未だに私に妙に突っかかってくるんだけど。まあいいか。

 

 

「大人に憧れる気持ちはわからいでもないですわ。ですが今この場においては、それは意味を成しえませんわ」

 

「……どういうことよ」

 

「“自分”というアイドル…いえ、“アイドル”の自分を売りに出すときに、自分にないものを付け焼刃で武器にするのは失策だということですの。そんなものよりも、今自分が持っている自分だけのもので勝負する方が余程いい結果をもたらせるのですわ」

 

「……これ以上ないくらい正論だけど…じゃあ、私たちの努力が無駄ってわけ?」

 

 

うーん……無駄ってわけじゃないんだけどね。

 

どうにも話が飛躍しているような気がする。

 

 

「お待たせなのー!」

 

 

とその時、うちの中で最強クラスのカリスマを誇るミキミキがフィッティングスペースから出てきた。いつの間にいたんだ。

 

ミキミキは、わかば色のチェックのワンピース(ただし七分袖)とブーツを着用している。全体的にシンプルにまとまっていながら彼女の雰囲気に合っているのを見ると___やっぱり、才能ってすごいなとしか思えない。私にはないものだ。

 

そんな彼女は姿が見えてからというものの、りっちゃんのところへ行くわけでもなく私たちのところへとやって来た。正確に言うと、おそらくいつものように私のところへと来たのだろう。

 

 

「ね、今日の衣装どうかな、百合さん!」

 

「え、ええ。とても似合っていると思いますわ。美希さんの素体の良さが存分に発揮されていると思います」

 

「にひっ、ありがとうなの!美希、百合さんに褒めてもらえるとやる気出てきちゃうって感じ!」

 

 

そう残して、今度はりっちゃんの方へと向かうミキミキ。

 

撮影のときが特に顕著なのだが、ミキミキは何故か違う衣装を身にまとうたびに、私のところへとやってきて感想をもらいに来る。

 

私が元モデルだからなのかもしれないが、それに関してはいつか「私はフェチズムに従ってるだけであって、ミキミキの方が圧倒的にセンスが上だから私よりも凄いよ」と言ってやりたい。わざわざ私に感想を聞きに来なくてもよくね?とは思ってしまう。もしかしたらその性格故に承認欲求が高いのかもしれんけども。

 

いやそもそも自分の外見にフェチズムを感じているって時点で「何言ってんだこいつ」って言われるな…。

 

 

「ちょうど美希さんの撮影が始まりますわね。いいタイミングですわ、彼女の雄姿をご覧になればいいと思いますの。きっと何かヒントが見つかるはずですわ」

 

 

____美希さんは、天才ですから。

 

 

未だにうなだれている4人に向かって、そう告げた。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「…ミキミキ、すごいね…」

 

「うん……おんなじ中学生とは思えないよ…」

 

「美希ちゃん、オトナです…」

 

「……悔しいけど、あれは凄いわ…」

 

 

星井美希という、どこまでもアイドルに向いているアイドル。

 

その輝きを目の当たりにした4人は、ものの見事に劣等感に苛まれていた____そう、劣等感(持つ必要のない感情)に。

 

 

悪いとは言わない。むしろ誰しもが一度は持つものだし、それをバネにして一層高みに登ろうとする人もごまんといる。私も大昔に感じていた。

 

でも、殊アイドルという職業で言えばそれは捨て置いてもいいだろう、と思っている。

 

だから私は、そんな彼女らに対して言葉を投げかけるのだ。

 

 

()()が別格で天才すぎるだけですわ。普通はあんなこと出来ませんもの」

 

「……それは、確かにそうだけど」

 

「あれと比べてしまうのはやめた方がいいですの。そんなことよりも、自分について理解を深めた方がずっと有意義ですわね」

 

「百合の言う通りだ。伊織、亜美、真美、やよい。皆違った個性を持っていて、それぞれにしか出来ないことがある。“自分らしく”いることが大事だと、俺は思うぞ」

 

 

ここで、先ほどから黙っていたプロデューサーがようやく口を開いた。

 

もう大丈夫ね。

 

 

「それじゃあ、後はプロデューサーさんに任せますわ。頑張ってくださいまし」

 

「ああ、ありがとうな」

 

 

ひらひらと手を振ってようやく中学生組から離れる。やれやれ、あんまり本筋に関わるようなことはしたくないんだけどな。

 

でも、あれは昔の私に良く似ていた。ずっと前、1周目の()に。それを見れば、少しばかり助言をしたくなるのも当然だった。

 

 

「なあ百合、さっきあの4人とプロデューサーと何を話してたんだ?」

 

「あら、はろーですわ響さん。まあ、アイドルとしても人としても必要なことを、少しばかり」

 

「んん?いまいち要領を得ないぞ…」

 

「響さんは既に持っていらっしゃいますから、気にすることではありませんわ。それより、ここからの撮影は見物ですわよ」

 

 

 

 

 

結局その日の宣材の撮影は、中学生組も自分らしさを発揮できていたこともありつつがなく、それでも確かな手ごたえを持って終了した。良かった良かった。

 

 

 

 




今回あとがき長めです。すみません。





前回の敬語について補足しておきます。

百合の通常の口調であるお嬢様言葉は、この世界でも一応たぶん(「ですます」が入っているので)丁寧語の部類には入ると認識されると思います。ですが百合にとっては、お嬢様口調自体が敬体ではなく常体のような感覚を持っている(≒文字通り普段使いの口調である)ので、スタンスとしては「マジの敬語を使いたいと思ったときは敬語を使っているが、口調自体丁寧語のような印象を受けるものであるとは認識しているため大概の場面は普段通りで通している」ということになります。

ややこしいですね。つまり

一般人のため口「僕(私)は中学生だ」
百合のため口「わたくしは中学生ですの」←お嬢様口調

一般人の敬語「私は中学生です」
百合の敬語「私は中学生です」←普通の敬語


ということです。つまり、慣れこそすれど百合は目上の人にお嬢様口調で通すときに(ため口の感覚なので)若干後ろめたく思っています。じゃあ敬語使えよって話になりますが、それもまた違って来るんです。百合は既に「お嬢様キャラ」が確立していてそれが武器になり得るので、変に敬語を使うより素の口調で通した方が(特にアイドルの仕事関連の)話はうまくいくこともあるということです。事務所の人は例外みたいなもんです。


ほんとややこしくてすみません(;´Д`)

ちなみになんですが、単語と口調は切り離せるものなので、お嬢様口調でありながら「言いすぎ飯田謙信」「マジモン」などスラングじみた言葉も出てきます。身バレが加速していく…。


ちなみに作中でも言及されていましたが、百合の名前の由来は母親のジャンヌが「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花」に感銘を受けて父と話し合って決まった、ということになっています。

いずれ百合のビジュアルについても公開したいですね。





あと、百合の過去話についてはいずれ回を取って書きます。今はまだ“とっぷしーくれっと”というやつです。



あともう一つだけ。百合の体重とスリーサイズを変えます。些細な変化なので物語に支障は出ませんので、悪しからず。

変更前  50㎏ 86/59/85

変更後  49㎏ 81/58/82




おや、美希の様子が……?



9/1 誤字報告を受けました。報告してくださった方、ありがとうございます。


追記
また日間に乗ってました。もしかして皆TSお嬢様好きなのか?(錯覚)
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