THE IDOLM@STER Glitter of Platinum   作:織部よよ

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こんな遅い時間の投稿になってしまってすみません。昨日は引っ越しだったので。




このあたりから何かがずれてくる。

結構雪歩の歌うテクノ系が好きです。それこそ3話EDの「First Stage」とか。あとはコスモスとか。何故か懐かしくて泣きそうになるんですよね。






現実

 

 

 

 

 

私は自然が好きだ。

 

 

それは別に、何も都会の街並みを裏切ったとかそういうわけではない。自分の生まれの地由来の下町への愛も別に衰えたわけではない。それを置いておいて、“自然”というまさに本質と呼ぶべき概念や情景に心が躍るというだけ。

 

自然はいい。空気は鉄の街に比べて格段に澄んでいて美味しいし、目に映る色彩の幅も比べるべくもない。ありのまま、自然光の変化を何よりも色濃く映し出す木々や清流の数々も、私に対して魂の純化を働きかけてくるような感覚さえ感じる。

 

 

自然とは本質。自然とは魂の浄水場。自然とは____人が築いた文明の原点。すなわち、心と体は自然に晒されることでその身を浄化することが出来る。

 

 

けれど、私たちはいつの間にか文明の中で生活することに慣れきってしまい、もはや「自然豊かな土地に立つこと」自体が珍しいものとなってしまった。まあ、だからこそその時がやってくるとひとしお心の浄化を感じるのだが。

 

 

 

 

 

さて、何故今こんなことをつらつらと考えていたかというと。

 

 

「降郷村が、わたくしを待っていますわ……」

 

「随分と心待ちにしているようですね、百合」

 

「……自然とビル群と下町はわたくしの心の故郷ですので!」

 

 

現代ではすっかり馴染みのなくなった山村という舞台で、私たち765プロの全員でのステージイベントをさせてもらえることになったのである。

 

 

ビバ、大自然。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

まだ空も完全には白みきっていない時間。古語で言うところの「暁」だとかそういう時間帯。

 

どうやら件の降郷村はそれなりの山奥にあるみたいで、全日のイベントということでこんな早い時間に出発する運びとなったのだ。こんな明朝から中学生とか高校生に頑張って起きてもらうというのは、ちょっと酷な気もするけど。

 

まあ、皆ほぼ初めての大型の全員参加イベントだし皆気合入ってるだろうなあ。かく言う私も、前世の記憶を引っ張り出しては降郷村で待ち受けている雄大な自然を想像すると、顔がにやけずにはいられないんだけどね。

 

 

「皆、準備は出来た?今日のステージは久しぶりに全員参加のイベント!ここでがつんと成功させて、勢いをつけていくわよ!」

 

『はーい!』

 

「それじゃあ、皆車に乗り込んで」

 

 

 

うんうん。りっちゃんの掛け声を中心に、皆のテンションも徐々に高まってきている気がする。

 

 

 

 

 

「今日行くところってどんな感じかなぁ…わくわくするね!」

 

「お、男の人がいっぱいいたらどうしよう……」

 

「流石にそんなに多くはないと思うよ」

 

 

一番後ろの座席に座るのは春香ちゃん、真ちゃん、雪歩ちゃん。3人とも相変わらずというか、雪歩ちゃんはこれから待ち受けている地獄(彼女にとっては)を考えると今から「おいたわしや……」という感想しか出てこない。おいたわしや……。

 

なんせ、雪歩ちゃんの男嫌いは折り紙付き。まだ会って日も浅いとはいえ、仕事上密な連絡の取り合いなんかが必須なプロデューサーにもまだ慣れていないし。外での仕事のときの掘削芸は、半ば噂になっているほどだ。

 

何があったかは知らないけど、()()私からしてみれば、明確な拒絶反応が出るくらいの男性恐怖症なのにアイドルを志すのはいまいち理解できないままだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかもしれないけどね。

 

 

 

「あら、降郷村は、びわが有名なのね~」

 

「……歌えれば、それでいいのだけれど……お土産くらいは買ってもいいかしら」

 

「……百合?そんなに窓の外を見て何をしているのですか?」

 

「わたくし、こうして車窓から景色を見るのがとても好きなんですの。一刻一刻と移り変わる未知の景色は、見ていて楽しいのですわ」

 

 

春香ちゃんらの前の座席に座るのは、姫ちゃん、あずささん、千早ちゃん、私。ここだけ4人座るような形になっているので、結構ぎゅうぎゅうである。それでも皆は細いから言うほど密着してるわけではない。皆は。

 

()()()()()()()()()()()()()()()私からすれば、隣が姫ちゃんだったのがせめてもの救いか。それはそれで緊張するけど。

 

仕方ない、景色を見るふりをして時折自分の顔を見て心を落ち着けるか……おっ、今日も「同じ学校にいるけど高嶺の花過ぎて話しかけられないが、何かの奇跡が起きて偶然接点が出来ないかと妄想しながら遠めに見る」のに適した顔だな……へへ。想定シチュエーションが長い。

 

 

なお車酔いの危険性。

 

 

「割と田舎にあるのね……本当に大丈夫かしら?」

 

「うっうー!皆と一緒だから大丈夫だよ!」

 

「そうだぞ伊織!なんにも心配はいらないさー!」

 

「……あんたたちはお気楽でいいわねぇ」

 

 

そして私たちの前に座るのが、いおりん、やよいちゃん、響ちゃん。近いうちにやよいちゃんの家に突撃隣の晩ごはんするメンバーである。私は行くことはないだろうけど、この3人の相性は結構いい気がするね。1人高校生なのに違和感ないのは本当にどうなんだとは思う。

 

そしていおりん、君の予感は当たっているよ。これから行くのは文明に慣れきった君にはきっときついものになるだろう……冷静に考えて、この年代からスマホ持ってるって相当に最先端よな。っぱ金持ちってすごいわ。

 

 

「わかるよいおりん!にーちゃんが初めて取ってきた仕事だからね、多少は不安になるのもやむなしですな」

 

「ですな」

 

 

最後に、アイドル組の一番前に座るのが亜美真美とミキミキである。ただしミキミキは今日も今日とてぐっすりと寝ている。いやまあ、流石に時間的にまだ早いから今日は仕方ないか。

 

にしても、ミキミキは本当に中学生とは思えないプロポーションを持っている。いや、プロポーションだけで言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からとんとんではあるのだけど、彼女はここからまだ成長する気配がある……それが一番規格外だ。寝る子は育つってあれマジなんだね。

 

 

「……悪かったな、未熟で」

 

「でも、プロデューサーさんにとっては大きな一歩じゃないですか。まずは今日のイベントを頑張りましょうよ」

 

「ああ、それはもちろんさ」

 

 

私たちを降郷村に____物語の舞台(ステージ)に連れて行ってくれるのはプロデューサー。その傍らにはりっちゃん。2人とも、私たちの生命線と言えるような人たちだ。主にアイドル人生的な意味で。

 

けどこの先きっと竜宮小町が出来て、りっちゃんは私たちをメインにはプロデュースはしなくなる。そうなれば10人をバネPが受け持つことになるので、これからが大変なのだ、ということに彼はまだ気が付いていない。

 

なら私もある程度自分で動くくらいはしておく方がいいかもね…任せなさい、自己PRは得意な方ですのよ。

 

 

車の中でこれから待ち受ける舞台に期待を寄せながら歓談すること数時間。もうすっかり辺りは木々が生い茂っていて、沿って走っている川が陽光を受けて煌めいているのを見ると「もうすぐ降郷村なんだ」という皆とは別の期待が膨らんできた。窓に映る白金の端正な顔もとてもご機嫌である。まあ私なんだけどさ。

 

 

「そろそろ降郷村ですわよ、貴音さん!楽しみですわね!」

 

「そうですね、百合のそのような顔を見るのは初めてかもしれません」

 

「え、そうです?わたくしは割かし感情が顔に出るタイプですから、今までも似たような表情はしていたと思いますが……!」

 

「少なくとも、事務所ではあまり」

 

「あら、そうですの……まあ何はともあれ、今から対面するであろう一面の緑にわたくしの心はとてもとても躍っているのですわ!きっと皆さんも驚きますわよ!」

 

「……一面の緑?」

 

「あら?」

 

「はて?」

 

 

認識のずれを感じる。いやいや、流石にこんな山深くまで来たらさ、なんとなくわかるじゃん。「ああ、めちゃくちゃなド田舎でやるんだな」って。私は知ってたし事前にある程度調べていたからむしろ楽しみだけども。

 

 

「ま、着いたらわかりますわ。いろんな意味で驚きますわよ」

 

 

とりあえず、きっと聞こえているであろう他の人たちにも喚起するくらいのテンションでそう言った。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「えと……ここは……」

 

 

山。

 

 

「なによ、ここ……」

 

 

川。

 

 

「ここが、降郷村……?」

 

 

ついでに、牛。

 

 

「ん、んーーーっ……やっと着きましたわね!待ちくたびれましたわ!」

 

 

その中に咲く、一輪の白金色の花。いやごめんこれは違うわ。

 

 

都会からはるばるやって来た私たちを出迎えたのは、一面の緑____だけ。それだけ。

 

 

「ねぇ、プロデューサー……本当にここで合ってるの?間違えてない?」

 

「いや、地図だとここだって言ってるんだが……」

 

「あ!どーも!ええと……ナゴムプロさん!」

 

 

いおりんとバネさんが最早口論する気すら起きないほどに理解不能な状態に陥っていると、遠くで作業していたツナギでムキムキの兄ちゃんたち……この村の青年団の人たちが一斉にこちらへと駆け寄ってきた。暑苦しいことを除けばとてもいい人たちである。

 

けれど、その光景はとあるアイドルには到底許容できるものではなく。

 

 

「お、お、おおおおお男の、ひと、が、いっぱひ……!!」

 

「雪歩!?大丈夫!?」

 

 

大勢の筋肉が目の前に現れて、雪歩ちゃんはものの見事に失神寸前だった。真ちゃんがとっさに支えるも、あまりに衝撃的な光景なもんで相当効いただろう……おいたわしや……。

 

 

「どうもこんにちは、今日はよろしくお願いします……」

 

「ええ、皆さんがこの祭りを盛り上げてくれることを、期待してますよ!」

 

「い、いたっ……」

 

 

こういう人たち特有の気さくさというか馴れ馴れしさというか、そんな感じの空気でバネPの背中をバシバシと叩く青年団団長と思しき人。

 

前世じゃあんまり気にならなかったけど、よくよく見たら青年団の人たちって結構ハンサムだよね。というよりも、男という種自体、年を重ねれば(余程ひどくなければ)割かしハンサムにもなるのかもしれない。あずささんここですよ。

 

 

「おまえらだれだー?ぜんぜんテレビとかでも見たことないぞ!」

 

「すっげぇ、おで外人とか初めて見た……」

 

 

おっ、村の子供たちも私たちを見ては物珍しそうにしてるね。まあそりゃそうだろうな。そんでもって、2人目の子供は明らかに私を見て驚嘆している。よーし、ここは1つ持ちネタをやっちゃおうかな。

 

2人目の、ちょっと抜けてそうな男の子のそばまで歩いていく。

 

 

Ravi de vous rencontrer. Je viens de France.(初めまして。私はフランスから来たのですわ)

 

「えっ、あっ、その……」

 

「ふふっ、ビックリしましたか?わたくし実は日本生まれ日本育ちですの」

 

「……え、あ、ほんとだ!おでてっきり外国の人かと……」

 

「確かに、一見そう見えるのも仕方ないですから、謝る必要はありませんわ。今日のステージ、是非見に来てくださいませ」

 

 

秘技「初対面でフランス語をかまして本当に外国人だと思わせるドッキリムーヴ」。これをやるとほぼ100%の確率で相手は騙される。私の持ちネタである。

 

私の美貌は、普通の大人にはもちろん子供にも通用するようで、笑顔を見せた件の少年はそれはもう面白いように顔を赤くさせていた。ここだけ切り取ればやってることは完全に悪女のそれである。

 

 

ちらりとバネPたちの方を見ると、ちょうど青年団の人たちに肩に手を置かれた雪歩ちゃんがどこかへ走り去っていくところだった。あーあ。

 

本当に今日でバネPとの関係は改善されるのか、もしされるとしたら……()()()()()()()()()()()()()()、あのシリーズ屈指の名シーンできっと私は泣いてしまうだろう。何度見ても泣けると言われている例のシーンが間近で見られるのだから。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

私たちが案内されたのは、どこかの小学校のような場所だった。ご丁寧に楽屋替わりの教室の扉には「756プロ御一行」と少々乱雑な字が書かれた張り紙が。改めて見るとちょっとクスッと来る。

 

 

ひとまず中に入って持ってきた荷物等を机に置いたら、会場の時間までステージの準備だったりおひるごはんの調理の手伝いだったりといろいろなことをする運びになった。なんでも青年団の人たちだけでは人手が足りないらしい。いいよ、やってやろうず。

 

 

「機材が古すぎてよく分からないわ……」

 

 

そういうわけで私が割り当てられたのは、ステージに使用する音響周辺の機器の準備。コードが絡まり過ぎたり見た目で用途の分からない機器があったりでなかなか大変である。

 

もういっそ機材なしでいいんじゃないかな……。

 

 

「歌は機械ではなく心で歌うものですよ、千早」

 

「ですわね。そも合理的な観点から見ても、演劇とかでは響かせる声の出し方などをして観客に届かせているわけですし」

 

「……それは、そうだけど……」

 

「うがーーっ!全然コードが解けないぞ!」

 

「響さん、あまり無茶をしてはいけませんよ。わたくしにお任せくださいな」

 

 

……うーん、このころの千早ちゃんって、“自分で歌う歌”に結構固執してる気がする。自分の好きなこととか得意なことにのみ特化したりするのは全然悪くはないんだけど、今の時代のアイドルって歌えるだけじゃ多分すぐ他に台頭されそうなんだよな……。

 

まあこればっかりは自分で改善しないといけないことで、私がどうこう言うものじゃないし。やるとしても春香ちゃんの役割でしょう。

 

標高もそれなりに高いのか、季節のわりにそれほど野外は暑くはない。2010年代初頭というのも相まって私にとっては非常に過ごしやすい気温だ。聞いて驚け、今日の関東の気温って軒並み29とか28なんだぜ?ウハウハよね。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

そのままゆるりと、けれどすべき準備を確実に進めていき、さあそろそろステージに出るための準備だってなった時間。

 

 

例の事件が起きた。

 

 

「亜美が持ってきた衣装ケースってこれか?」

 

「そうだと思うYO!」

 

「ありがとう………って、な、なんだこれ……?!」

 

 

プロデューサーが開けたトランクの中には、本来今日着る予定だった衣装ではなく……それとは真逆の方向性の、ドクロやらシルバーアクセやらがド派手に飾られた超パンクなものだった……。ご丁寧にとげとげしい赤の首輪までデフォルトである。いやもうここまで来るとコンセプト的に狙い撃ち過ぎるわ。

 

 

「え、これ……ちょっといかつすぎないですか?今日の衣装ってこれじゃないですよね」

 

「あ、ああ……亜美、一体これは?」

 

「だ、だって兄ちゃんが“赤いやつ”って言うから、これだーと思って……ごめんね、兄ちゃん……」

 

 

この重大なミスには、さしもの普段から軽い言動の多い亜美ちゃんでも素直に縮こまって謝らざるを得なかったみたいだ。まあ、ステージの命運がかかっていたと言っても過言じゃないし、仕方ない。

 

その事実は当然、こんな中程度の空間では瞬く間に周知のものになるわけで。

 

ものの数分後には、皆明らかにモチベーションが下がっていた。

 

 

「……仕方ない、今日のステージは、皆私服で立ってくれ。納得できない部分もあるかもしれないが、まずはこのイベントを成功させることを第一に考えよう」

 

『……はーい』

 

「はーいですわ」

 

 

いやテンション低すぎか。

 

 

「ほ、ほら、どうした皆!気合入れていくぞ!」

 

『……はぁーい!』

 

「………」

 

 

はぁ……見ていられないわ。流石にちょっとだれすぎてて、若干イラっとする。おかしいな、前世でおんなじシーンを見たときはあんまりこういう感情は抱かなかった気がするんだけど。

 

まあいい、いろいろ面倒なのでこの空気を木っ端みじんにする爆弾を放り込んでやろう。

 

 

 

 

 

「そんなに落ち込んで、一体ステージが成功するとお思いで?」

 

 

能面ばりの無の表情を作って、無造作に告げた。

 

 

『………』

 

 

瞬間、自分でもわかるくらい明らかに空気が凍ったのを感じた。言い放ってからもう少し後悔してるけど、後には引けん。

 

 

「何をそんなに俯いているのです?たかが衣装が()()()()だけではないですか。どうして一様に暗い顔をしていらっしゃるの?」

 

「なに……って、逆になんであんたはそんなに毅然としていられるのよ!」

 

「ステージ自体が中止になったとか、誰かが怪我したとか、ステージ進行にあたってあまり差支えがないからですが。それにトラブルが起こる可能性は0ではありませんし」

 

「………っ!」

 

 

噛みついてきた伊織ちゃんの言葉に、切って捨てるように答える。

 

そう、本質的にはともかく、客観視すればただ「ステージで着る衣装が変わった」だけ。しかもそれがクソださジャージとかTシャツとかならまだしも、私含めて皆それぞれそういうわけじゃない。

 

じゃあ、何も問題ない。

 

 

「良いこと?何か勝負をするときに重要なのは、いい手札を引き当てることではなく自分の持つ手札を最大限に生かすことですわ。なら考えましょう、“今の”わたくしたちには何が出来るか……今日のステージは、間違いなくわたくしたちにとってとても大きな経験になります、どうせならトラブルまで愛して、めいいっぱい楽しんでやるくらいの気概で行きましょう?」

 

 

なお、「初見の観客たちにはこちらのミスはあまり伝わらないから割かし気軽にステージに挑める」という身もふたもプライドもない話は出さないでおいた。

 

 

だが、一応理屈の通った私の主張には皆思うところがあったようで、各々下に向けていた顔を上げては考え込むような仕草をしている。

 

やがて、1人が口を開いた。

 

 

「百合の言う通りです。既に過ぎたことを悔いても今は如何様にもなりません。ステージ開始まで残り数時間ほどですが、(わたくし)たちがこれからどうすれば良いかを、皆で考えましょう」

 

 

____そう、やはりここで賛同するのは姫ちゃん。

 

彼女の言葉には、不思議な魔力が宿っている。私にはせいぜい論理を投げつけることしかできないが、姫ちゃんは他人へ明確に影響を及ぼすことが出来る。

 

()()()()()()()()()()()()、人と歩みを並べようとする彼女の言葉に、ようやく他のアイドルたちも暗い顔をやめて気概に満ち溢れた雰囲気を醸し出していく。

 

 

「よーし!みんな、もう一回スケジュールを確認しよう!」

 

「「はるるんさっすがー!」」

 

「ええと、確か私は、イケメンコンテストの進行だったかしら……」

 

 

やがて、春香ちゃんを中心に私と姫ちゃん以外のメンバーが一斉に動き出した。もう先ほどまでのような陰鬱な空気はない。

 

はぁ……姫ちゃんが乗ってくれて良かった。前世だと姫ちゃんも落ち込んでたような感じだった覚えがあるからどうなるか不安だったけど。

 

さて、私は前半の総合進行役として確認していきますかね。

 

 

 

 

 

そのとき、美希ちゃんが私の方に意味深な視線を向けていたことに、私は気が付かなかった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「えー……皆様、ごきげんよう。本日はわたくしたち765プロオールスターのステージにお集まりいただき、誠に感謝いたしますわ。こんなにたくさんの人にお越しいただいて、こちらも身の引き締まる思いですの。本日前半の総合進行役を務めさせていただく、織部百合と申しますわ。どうぞ、よしなに」

 

 

18時。

 

既にステージには、大勢の村民さんたちが集まって来てくれていた。それこそ、文字通り老若男女である。山村ゆえに娯楽が少ないのか、はたまた私たちのルックスの良さにとりあえずは惹かれたか。それとも……と考えるのは無駄だ。今はステージに集中する。

 

 

と、前方右側、おばあちゃんが子犬を抱えてパイプ椅子に座っているのを視界にいれる。例の子犬である。今頃裏で雪歩ちゃんはびびってるんだろうな……大変だね。

 

 

「さて、それでは早速イベントに移りましょう。まず最初は“イケメンコンテスト”!ここからは我らが765プロのお姉さん枠である三浦あずささんにコーナーを進めていただきますわ!あずささん!」

 

「はい~」

 

 

観客の声援を受けつつコーナーを進めていく。基本的にコーナーごとに違うアイドルが担当していて、そのときは私の出番はない。舞台裏へと舞い戻っていく。ああ、早く屋台の焼きそばとかたこ焼きとか食べたい……。

 

 

「あら、雪歩さんは?」

 

「あー…それが、お客さんの中に犬がいるってわかって、耐え切れなかったみたいで」

 

「……なるほど、ではプロデューサーさんにお任せしましょう。あの人ならきっとなんとかしてくれますわ」

 

「……なんだか、百合さんってプロデューサーさんへの信頼が厚いですよね」

 

「そうです?普通だと思いますが」

 

「そうかなぁ……?」

 

 

春香ちゃんにはどうも不可解に思えるらしい。そうかな、結構見てれば“イケメン・声が良い・仕事に熱心で優しい”の三拍子が揃ったハイパー良い人なのはわかると思うけど。

 

 

『嬢ちゃん!是非うちに嫁に来てくれねえか?』

 

『あらあらあら~。いろいろと落ち着いたらいいかもしれませんね』

 

『ハハハハハ!』

 

 

うーんこの安定したマイペースムーヴ。姫ちゃんと並んで最強の一角ですらあるかもしれない。というかうちのアイドルは皆個性が強い。

 

そろそろコーナーが終わりそうなので舞台に出る準備をしておこう。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

そして、例のときがやってきた。

 

突如楽屋に戻ったと思ったら、間違えて持ってきてしまったあの超パンクでロックな衣装を着てきた雪歩ちゃん。これには春香ちゃんと真ちゃんもたいそう度肝を抜かれたらしく双眸を大きく見開いていたが、その後の雪歩ちゃんのシャウトで会場一同困惑。けれど叫び続けているうちにだんだんと観客もノッてきたみたいで、4回目くらいのシャウトで会場のお客さんもつられてシャウトをするまでに場のボルテージが高まった。いやシャウトじゃねえなこれ。

 

 

そして流れるは、伝説の曲「ALRIGHT*」。大丈夫だと勇気づけ、自分に自信を持つための曲。敢えてイメージをぶっ壊した衣装を着て、苦手な犬とか男の人とかも視界に入れながら、それでもしっかりと芯を持ってステージに挑む雪歩ちゃんの姿はとてもキラキラしていてかっこよい。

 

 

でも、私の目からは何も流れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、やっぱり?

 

そうだよね、唯一の懸念って言っても、その懸念材料が規模としては大きすぎるんだもの。

 

 

雪歩ちゃんのステージに、私は改めてわからされた。

 

今目の前で起きていることが、紛れもなく私の住む世界(現実)で起きていること。前世で見たアニメのように画面越しじゃなく、すぐそこで起きている()()()()()()()の出来事なんだと。

 

そうであれば、私がこの雪歩ちゃんの目ざましい成長を見て何の涙も流さないのも納得がいく。

 

 

「…………」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だから、他人がどんな凄いことを起こそうが文字通り「他人事」のような感覚を拭えないし、他人の感情を推し量ることがあまり出来ない。家族を含めて、自分以外の他人に対して似たようなスタンスを取っている。

 

自分か、自分以外か。そういう分け方で生きている。もちろん他人を全く区別しないとか、そういうわけじゃないけど。

 

 

こういうある意味公平なスタンスになってしまったのは、ひとえに前世のせいだとしか言いようがない…………けど。

 

ことこの場においては、それだけが私の無感動の理由ではない気がする。

 

 

それは、自分が異物(部外者)なんだという純然たる事実。

 

 

本来ならいるはずのなかった正史に、私は何の因果か介入した。介入してしまった。

 

高木社長にスカウトされてからはや10ヶ月ほど。私は、自分が異物であるという認識をずっと持ち続けていた。前世で何度も見返した、少女たちの成功の物語。13人が織りなす、笑いあり涙ありの超王道ストーリー。

 

 

 

 

 

その完成された物語を意図せずして歪めてしまったんだと、この舞台が何よりも私に言い放っている気がした。

 

 

 

 

 

………今更考えても仕方ないので、この雪歩ちゃんのステージが終わってMCの仕事が終わり次第屋台に行こう。やけ食いしよう。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「皆、今日はお疲れ様。もう夜も遅いから、ゆっくり休んでくれ」

 

『お疲れ様でしたー!』

 

 

無事にステージも成功させ、村からようやく事務所へと帰ってきた。もう23時近いので、本当に夜遅くになってしまっていた。

 

さて、私もなんかご飯を買ってゆっくりシャワーでも浴びようかな。

 

 

「あ、そうだ。百合、貴音、ちょっとこっち来てくれ」

 

 

うん?

 

 

「はい?」

 

「なんでしょう」

 

「明日の……そうだな、昼くらいでいいから、事務所に来てくれ。話がある」

 

 

話……?ちょっと何言ってるか分からないって感じだけど、呼び出されたなら仕方ない。行くしかあるまいて。

 

 

「了解しましたわ」

 

「承知しました」

 

「それだけだ。じゃ、2人とも今日はお疲れさん」

 

 

……話ってなんだろう。まあ何かやらかした記憶とかはないし、この前受けたオーディションの結果だろうか。

 

考えてもわからないので、今日はひとまず帰ることにしよう。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「____百合と貴音で、ユニットを組ませたいと思っている」

 

「………ゑ?」

 

「………はぁ」

 

 

 

 

 

ここから、本当の意味で正史とはずれていくのをしっかりと感じ取ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 






織部 百合 19歳 イメージカラーはとても薄い黄色


前世での体験により、自分以外のことに関してあまり気を向けない性格になった。その副次効果として誰にでも公平なスタンスで接するようになったため、傍から見れば「分け隔てなく接するフレンドリーな性格」と思われている。




急ピッチで書いたのでどこかおかしいところがあるかもしれませんがご容赦ください。

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