「ねえ美城。本当におば様のとこの早坂と付き合ってるの?」
「ですから眞妃様、何回もそう申し上げているではありませんか。私の事、疑っておいでですか?」
「いや、まあ、そんな事ないんだけど……」
「ねえ早坂。本当にあの五条さんと付き合ってるのよね?」
「かぐや様、それ何度目の確認ですか。昨日勝手に私とみぃのラインを見たじゃないですか」
「み……みぃ……」
人を好きになり、告白し、結ばれる。それはとても素晴らしい事だと誰もが言う。
「あ、噂をすれば。ほら。行ってきなさい」
「はい、お心遣い感謝します、眞妃様」
「早坂。彼がいますよ。行ってきなさい」
「いいんですか? かぐや様」
「速く、行ってきなさい」
「ありがとうございます」
だが……
『『契約条項一 甲は乙に乙は甲に対して両丙の関係の改善または決定的な決裂が明らかになるまでこれを継続する』』
「はい、おはようございます」
「おはようございます」
それは真に好き合った者たちに対しての話である!
実利を求めて打算の下に付き合うという契約を交わしたこの二人には、全く当てはまらない事であった!
「「何あの挨拶の前の一瞬の間」」
それを見ていた彼と彼女の主人はそれぞれ同じ事を考える。まさか恋人同士と思っている二人が規約の確認をしているとは夢にも思わなかった。
「愛ちゃ~ん。何かいい事あった?」
「えー? なに急に」
早坂愛はいつものように友人の駿河すばると火ノ口三鈴の二人と情報収集も兼ねて話していると、駿河すばるがそんな風に会話を切り出してきた。
「そうそう。なーんか怪しくない?」
「いや、そんな事ないしー」
「はいうそー」
「ひゃっ!?」
ひしっと火ノ口が早坂の細い腰に手を回して、言い逃れようとするのを許さない。
それにしたってわきわきと手を動かしておなか周りを揉みほぐしてくるのはセクハラではないのか、早坂はくすぐったさに身悶えしながらそう思う。
「知ってるよぉ~。昨日の放課後端っこの空き教室に行ってたでしょー」
「えー、何で知ってるのー」
「ふっふーん」
二人は顔を見合わせて得意気に笑った。
お喋りで噂が好きで耳が早いから早坂は彼女達と友人関係を構築したのだから、放課後に人気のない教室に向かう早坂の事を早速聞きつけてもおかしくはない。この時くらいはそのアンテナはお休みしていて欲しかった。
「ねーなんでなんでー」
二人はゴネた。ゴネにゴネた。
学校のあらゆる噂話に目がない彼女らにとって、友達の面白い話を聞き逃す手はない。
マスコミ部よりも情報集めに熱心かもしれなかった。かれん聞いてる?
「実は……」
「「ゴクリ……」」
もとより隠す気もそんなになかったので、早坂は形だけもったいぶってみせる。二人はもったいぶる早坂からの言葉を固唾を呑んで待っていた。
「彼氏ができましたー」
「「きゃー!!」」
ぱちぱちと手を叩いて大げさに二人は喜び合った。
実際の所、早坂はノリは良いし可愛いしチャラくて重い所がない(ように演じている)しでモテるのだが、浮いた話は全くなかったので、意外な一面を見れたように感じて二人は嬉しくなっていた。
「え、だれだれ?」
「クラスの奴? それとも他のクラス?」
「えーっと。そうだ、彼ピが会長に用事があるから来てって言ってたしー、一緒に来る?」
「「行く行く~」」
バタバタと三人娘は騒がしく教室を後にした。
一騒動さった後で二年A組内では早坂を狙っていた男子達の阿鼻叫喚と、女子達の噂話に花が咲いていた。
(彼ピ! 彼ピて!)
四宮かぐやが涼しい顔してこんな事を考えていたとは、その場にいる誰も予想だにしていない。
「会長、今お時間よろしいですか?」
「ん? 構わないぞ」
「ありがとうございます」
目つきが悪くて近寄りがたい生徒会長と、見た目が良すぎて近寄りがたい転校生が、仲が良くて近寄りがたい空気を出している。二年B組ではおなじみになってしまった光景だった。
他の生徒達は少しだけ意識を向けて横目で見ながらも、慣れてきた物でそれぞれの用事を済ませていた。
「それで、何か話があるのか?」
「はい。私、部活を作ろうと思っておりまして」
「いいじゃないか。だが部活として認められるには最低でも二人の部員と顧問になってくれる先生が必要だぞ」
二人の会話が聞こえてきた周りの生徒は、そう言えばそろそろ部活連の会合で部費が決められるな、などと呑気に考えていた。と同時に、部活が増えたら部費が削られるんじゃないかという危機感も抱いていた。
「それはもうどちらも準備済みです」
「仕事が速いな。用紙はあるか? あるなら放課後の生徒会活動で判を押して教員からの承認をもらっておくぞ」
「はい。……それで会長。実はその部員を紹介したいのですが……」
「何だ改まって」
「こっちこっち」
「B組なんだ」
キャッキャッと賑やかな声が教室の扉の前でし始めて、白銀は思わずそちらの方へ目をやった。
制服を着崩した、一目でギャルだという事が分かる少女達が教室の前で騒いでいる。
あれは昨日の……早坂愛とか言ったか?
白銀は昨日の正直あまり思い返したくない余興の事を、少女達の中に同じ苦労を分かちあった金髪の少女の姿を見た事で思い出した。その元凶の藤原は友達とどっかへふらふら遊びに行ってしまったのでいなかったが、それで良かった気もする。また彼女を引っ掴まえて面倒な事に巻き込んでは可哀そうだ。
白銀が目線を体の正面に戻すと、目の前の美城も早坂達の方を向いていた。一瞬、美城は白銀の目を見ると、また早坂達の方を向いて大きく手を振った。
「愛―」
「愛!?」
白銀は美城の口から急に飛び出した親しみを込めた呼び方に目を真ん丸にする。
「みぃー」
「「みぃ!?」」
駿河すばると火ノ口三鈴は早坂の口から急に飛び出した親しみを込めた呼び方に目を真ん丸にする。
美城はその白い小さな手で手招きすると、早坂は他クラスにも関わらず遠慮なしにB組に入って行った。ついて来る友人二人を後目にスタスタと歩いて美城の席まで行くと、仲が良さそうに座っている彼の肩に手を置く。
白髪と金髪の見た目美少女が揃って並ぶと中々壮観な物があった。
「みぃー、来たよ」
「ありがと。会長、紹介します。部活のメンバーの早坂愛さんです」
「どもー会長さん」
「あ……ああ。しかしなんだ。一日でずいぶんと仲良くなったな」
「はい。私達付き合う事にしたんです」
事も無げに美城は言った。余りにもあっさり言うので一瞬その言葉を飲み込めなかったほどである。
「はぁーそうか、付き合うこと……に……」
「「ええー!!」」
白銀と同じように近くで聞いていたすばると三鈴が、先に大声を上げた。
完全にマークの外から降ってわいたような話で、晴天の霹靂に一閃されたようなとにかく信じられないという声だった。
「愛ちゃん白サギ嬢と付き合ってたの!?」
「早坂、落ち着いて聞いて欲しいんだけど五条さんは女の子に見えて実は男の子なんだよ!? あれ? じゃあ問題ないの……?」
二人は混乱で自分でも良く分からずにしゃべっていた。
ちなみに「愛ちゃん」と呼ぶ事が多いいのが駿河すばるで「早坂」と呼ぶ事が多いのが火ノ口三鈴である。たぶん覚えなくていい。原作では早坂の出番減ってるし……。もっと出して♡出せ(豹変)
「そだよー。昨日からね」
「何で何で!?」
「会ってすぐでしょ!?」
「実は初めてでは無いんです。私、小さいころ秀知院の幼稚園に通っていまして、体が弱くて一日で辞めてしまったのですが」
「ふんふん」
「ほう」
あーそんな話聞いたな。
白銀は昨日の遊びで眞妃が言った事を思い出した。
「その時に見かけた金髪の子に一目惚れしてしまい、いつか会えないかと思っていましたらこうして再会する事が出来たので、私から告白いたしました」
「おー……」
聞いていた三人の口から納得したような圧倒されたような声が漏れる。
普通の人間だったら小学校、中学校、高校と行く先が変動するのだろうが、秀知院は人の流動が少ない所である。それが功を奏した……と美城の視点ではなるのだろう。そんな風に三人は同じ事を思った。
「最初は断るつもりだったんだけど……でもみぃがどうしてもって言うから」
「私はとっても嬉しかったですよ」
「そう? ……えへへ」
あまーーーーーーーーーい!!
素っ気ない顔をしている早坂の手を美城が両手で包み込むように握ると、胸元まで持ってきて彼女に向かって柔らかく微笑んだ。それを見た早坂はまんざらでもない表情を浮かべて、そしてくすぐったそうに笑う。
見ていて背中が痒くなりそうな光景だった。
控えめに言ってラブラブだった。
「会長」
「はい!?」
半ば呆然としていた白銀は突然かけられた声に過剰に反応し、意図せず大きな声を出してしまう。それを目の前のカップルがおかしそうにくすくす笑うので、余計に居た堪れない気持ちになりながら返事をし直した。
「何だ」
「部活の事、よろしくお願いいたしますね」
美城はそう言うと、クリアファイルに挟んだ部活動設立申請用紙を手渡す。白銀は受け取るとさっと目を通して不備が無いか確認した。
「ん。問題ないぞ。二三日すれば正式に部として承認されるだろう」
「やったね、みぃ」
「ありがとう、愛」
美城と早坂の二人は手を取り合って喜びを露わにする。
白銀などは、何か……こう……わちゃわちゃしてるのを見ると何とも言えない気分になるよね、みたいな事を思っていた。
「大した恋人ぶりではありませんか」
「それはどうも」
当の本人達はというと、人気のない中庭のベンチに一緒に座りながらそんな色気のない会話をしていた。傍から見れば仲睦まじい様子に見えただろうが、二人の関係性の実態はこんな所である。
「フリをするのはいいんですが、みぃ、近くないですか」
「愛、付き合い立てのころにベタベタしないでいつするんですか? それに先に私の肩に手を置いて身を寄せて来たのは誰でしたっけ」
「言い逃れようとしていませんか」
「どこまで接触していいかを決めるイニシアティブは愛が持つと決めたではありませんか。私は同じレベルの接触にとどめたつもりですけど」
「女の後に続くのは情けなくないんですか」
「契約を遵守していると言って欲しいですね」
「ああ言えばこう言う。やっぱり契約恋人なんてするものではありませんね」
「それは残念。私はこんなに愛の事が好きなのに」
「はいはい。私も愛してますよー」
「ありがとうございます。今、早坂さんから愛を頂きましたけど。こんなんなんぼあっても良いですからね」
「ちょっと髪色ミルクボーイやめてください」
「何だか卑猥な響きですね」
「怒られてください。あらゆる所から」
「先に言ったのはそちらですよ?」
「ほんとこの人は……」
早坂は話ながら、美城がなよなよしてそうに見えて意外と頑固というか自分を曲げない所をひしひしと感じていた。むしろ家と学校で態度を180度変える自分の方がなよなよしてるかも、とすら思ったほどである。
「まだ目的を何一つとして果たしていないじゃないですか。これからも従者同士仲良くしていきましょう」
「あなたのそれは自称で看板に偽り有りですけどね」
「お支えしたいという気持ちに嘘はありませんよ」
「気持ちに嘘は無くても立場は嘘なんですよねえ……」
「もう! 愛、何でそんな事言うんですか!」
「あなたが五条の長男だからでは?」
「私はこんなにも奉仕精神にあふれているというのに」
「部活で我慢してください」
早坂は弁当をつつきながらそんなしょうもない会話をしていた。
この弁当はいつも友人と食堂に行くか、購買で買ったパンを手早く腹に入れて昼食を済ませるのが常であった早坂だが、恋人と言えば仲良く席に並んでお弁当を食べるというイメージの彼女が、わざわざ四宮別邸のシェフに造らせた弁当である。『あーん』の一つでもしてあげようかと思っていたのだが……。
「愛、早くしてください。これからボランティア部室(仮)で作戦会議を始めますよ」
当の本人がこれである。
美少女と二人きりで昼食をとるシチュエーションに、少しくらい動揺するものではないのだろうか。トマトを口に放り込んだ箸を休めて顔を上げる。窓ガラスに映った少女もそうだよと頷いていた。
「聞いていますか?」
ぼうっとしている早坂に業を煮やしたのか、美城は顔を近づけてはきはきと言葉を口にする。白くて長い睫毛が瞬いて、春風に雪が舞うかのように白髪がたなびく。
こんな顔してる人では、ね。
ピックを差してそのまま誰かさんにあげられるよう工夫したハンバーグを、早坂は無言で口にした。
「あ、シロちゃん。早坂さんも」
「千花」
校舎に入って部室予定地に向かっていると、今日の休憩時間はいつもどこかに行っていた藤原千花と出くわした。大人しくしておけば大好きな恋バナにありつけたというのに、こういう日に限って、というやつだ。
それでラブ探偵とか言ってるの? そんなんじゃ甘いよ。
「どうしたんですかー、今日は二人で」
「実は私達付き合う事になりまして」
「そうだったんですねー……」
「ね、愛」
「そうなんだよねー。ごめんね書記ちゃん、言うのが遅く……書記ちゃん?」
「……」
「千花?」
「ええええええええええ!!!」
藤原は叫んだ。中庭の木から鳥達が飛び去って行くほどにそれはそれは大きな声だった。
「だ、大丈夫?千花」
「聞いてない! シロちゃん私聞いてませんよ!!」
「は……はい、今言いましたし……」
「何で!?」
「面白いかと思って……」
今まさに面白い。
「うわーん! シロちゃん私の事好きじゃないんですかー!」
藤原は悲しみ……とは少し違う寂しさのような疎外感で瞳を潤ませながら美城に縋りついた。言うに事を欠いてこれであるし、彼女持ちの男にやるに事を欠いてこれである。
栄養が胸ばかりに行っている脳カラ……。早坂は主人と同じ事を思った。
「そんな事。初めて会った時から大切な友達ですし、もちろん今も好きに
「……」
「
澄ました顔をしながら早坂は美城の頬を摘まんだ。ふがふがと言葉にならない何かを口から漏らしながら、美城は彼女の方を不満そうに見つめる。早坂も同じように見つめ返して、ペチッとか音をたてそうなほど荒っぽく摘まんだ指を離し、むっと口を尖らせた。
若干赤くなった頬をさすりながら、美城は首を傾げる。
「どうしたんですか」
「別に。ただ誰にでも好きとか言っちゃう口はいらないって思っただけだし」
「は、はわわ……」
こ……これがホントの痴話げんかやぁ~!
藤原は興奮した。
「誰にでも、ではありません」
「じゃあ誰だし」
「帝様と眞妃様と千花です」
「三人も!? てか男混じってなかった!?」
「もちろん愛もですよ」
「あ、ありがと……じゃないし! ついでじゃん!」
「ついでではありません。追加です」
「なお悪いんだけど!」
「あ、あの~早坂さん、怒るのはその辺で……」
「書記ちゃんは黙ってて!」
「ひゃい!」
「あ、そっか。……ふーん、いいよね、ずっと友達の幼馴染だから私より先にみぃの好き貰ってるんだもんね?」
「は……早坂さん……? 目が怖いですけど」
「えー、そんな事ないしー。そう見えるんならー」
カツン、とわざとらしく固い足音を響かせて早坂は一歩前に出た。
カツン……カツン……。
早坂が一歩、二歩と進む度、藤原は言い知れようの無い感覚に鳥肌が立ってきていた。
カッ! 足音が目の前で止まったので、藤原はおずおずと金髪の友人の顔色を窺う。いつものようなチャラついた笑み、が、すっと目を細めて静かな怒りの顔になるのはすぐだった
「やましい事でもあるんじゃないの?」
「ひぃぃぃ! ごめんなさいぃぃ!」
恋愛大好きラブ探偵千花も、雷に打たれてまで突き詰めたくは無いらしい。さっと踵を返すと二人とは明後日の方角に走り出した。
「厳しくない?」
「ない! ねえ私が何言いたいか分かる?みぃ」
「分かってますよ」
「ホントに?」
「ええ」
厳しい顔つきの彼女に微笑みながら近づくと、耳元に顔を寄せて言った。
「つけられてます」
「さすが」
美城は一瞬後ろに目線をやると、早坂は満足そうに笑みを浮かべた。
「何人いますか? 愛」
「六人。離れた所に一人で計七人です」
「では八人につけられてますね」
「八人……? もう一人は」
「さ、行きましょう」
「えっ、ちょっと……!」
どこか楽しそうに早坂の手を取ると、一気に駈け出した。後ろから男女入り混じった「あっ」という声を置き去りにして。
向かう先は決まっているし、尾行まがいな事をしている人物にも分かり切っているのでこの行為に意味はない。ないが、楽しそうと青春っぽいという理由で美城は走っていた。
「すぐ着くんですから本当に意味ないですね」
「無意味に走り出すのは私嫌いじゃありませんけど」
「前の学校ではどうだったか知りませんけど、ここには厳しい風紀委員がいるんですよ」
「お世話になってます」
「なってるんですね……」
階段を一階上った階層にあるボランティア部候補室に入って、尾行者達が来るであろう方を見ながら二人は隠れんぼでもしているように囁きあった。
「それで、誰につけられてたんでしょう?」
「会長、かぐや様、眞妃様とその彼氏、私のクラスメート二人、あと遠くに一人足音が続いてました。この七人は分かったんですけど」
「あの時私達がいた所の対角線上の校舎に、一人私の知り合いがいました。これで八人ですね」
「気が付きませんでした」
「あの時間帯だと光が丁度反射して見えにくいですから。あの子もそれを分かって見てたんだと思います」
「何なんですか、五条建設はスナイパーを派遣する会社でしたか?」
「どちらかというと四宮の方がそうではありません?」
「そんな事……ない……はず」
ある(無慈悲)
「それで、どうしましょうか。もうそろそろ昼休みも終わりますが、休憩時間の度に着けられては仕事になりません」
「簡単ですよ」
「何です?」
「こうするんです」
「もう! 見失っちゃったじゃない!」
「大きな声出さないでください、眞妃さん。あなたが前に出過ぎてたのではないですか?」
「まあまあマキちゃん」
「行き先は恐らくボランティア部の部室になる予定の空き教室だろう。そう慌てる事はない。……で、君達はどうして」
「だって愛ちゃんが」
「あのバイトで忙しくて付き合い悪くなりがちな早坂が心配で」
廊下には早坂が察していた通りの六人が集まっていた。
もちろん最初から集まって五条美城と早坂愛の二人を追いかけようと考えていた訳ではない。各々が勝手に気になるからといって尾行していたのだ。彼らが移動すると当然尾行してる者も移動せざるを得ない訳で、そうするとバラバラに行動していた彼ら彼女らは次第に目的地に向かって集まって行く。
結果。
「こんな大所帯連れてバレない訳ないじゃない」
そういう事だった。
「まあもう良いんじゃないか。仲良さそうだし」
「まだです会長」
「ウチらの愛ちゃんをきちんと幸せに出来るかどうか、この目で確かめないと」
何か覚えあるー。
何度昨日のアレを思い出せばいいのだろうか、白銀はしわを寄せた眉間を揉みながら思った。
当人達にとっては真剣だから始末に負えない
彼女達は早坂の彼ピがなつき度で彼ピッピに進化してゆびをふる(意味深)からつのドリル(意味深)をしないか不安でしょうがないのだ。
「速く行きましょう。お昼休みが終わっちゃうわ」
「お、四条さん話が分かるねえ」
「愛ちゃん意外と初心だから心配~」
眞妃、駿河、火ノ口の三人は時間を気にして慌てて駆けだす。
乙女は誰でもラブ探偵なのだろうか。後ろ姿に藤原千花の興味本位でグイグイ行くところを幻視しても文句を言われる筋合いはないはずだ。
白銀とかぐや、あとついでに田沼翼は顔を見合わせて肩をすくめた。
「ここよ。ボランティア部予定地は」
「しー。四条さん、しー」
「あ、二人ともいるよ」
先に着いた三人は身を隠しながら、ドアに付いている窓ガラスから教室の中を覗き見た。
声は聞こえないが金髪の頭と白髪の頭がふわりと揺れて、何やら話している様子は見て取れる。
「五条達、付き合ってすぐ……」
「あ! 手を繋いでる!」
「いや、手を繋ぐ所お前達見てただろ」
「か、会長……五条さんが早坂の肩に手を!」
「四宮は見てないだろうが、あれは前の休み時間に早坂がやった事を五条がやり返しているだけ……」
何故か美城たちの弁護をしていた白銀は、次に飛び込んできた光景に口をつぐんだ。
早坂より少しだけ背の高い美城が彼女を見下ろして、そっと顎を持ち上げる仕草をして、そして……
「あー! チューした! あれ絶対チューしたよ!」
「五条さんあんな見た目して結構行くタイプなんだ……」
「うぅぅ……わ、私だって翼君とまだなのに……」
「早坂のはれんち!」
「言いたい放題だな」
「さすがに五条さんに同情しますね」
女性陣の情緒は滅茶苦茶だった。
自分達が隠れているという自覚を忘れてきゃあきゃあ騒いでいる。
その騒々しさを聞きつけたのか、止まっていた白髪の頭がゆらりと揺れた。
「もういいだろう。早く教室に戻るぞ」
「み……美城に先こされた……」
「は……早坂に先こされた……」
同じような反応をしているかぐやと眞妃を早坂の友人二人に任せて、六人はぞろぞろとその場を後にした。
「上手くいきましたね」
騒がしさが去った後、ボランティア部室の扉が静かに開いた。
そこからひょっこりと白い髪をした美城が顔を出して皆が立ち去った方向を確認する。
「眞妃様もそうですが、皆さん私達がどのような付き合いをしているか気になっていらっしゃったんでしょうね」
「……」
「ですからああして見せれば満足して帰ってくださると思っていました」
「……」
「これでさすがに休み時間の度に尾行される事は無いと思いますよ、愛」
「……」
「愛?」
目的は果たしたのに早坂はむっつりと黙ったままだったので、美城は心配になって彼女の顔をのぞき込む。
ポケーっと呆けている青色の目の前で、美城は白い手を軽くふった。パンッと柏手を打つとようやく呆然の霧が晴れたようで、瞳に光が戻って来る。
「はっ!」
「気が付きました?」
「気が付きました? じゃありません! 何するんですか!」
「そんな事言われましても……あの窓からキスのように見える位置に行っただけ……」
「だけ!?」
光が戻って来たというより火がついたようだ。早坂は顔を真っ赤にしながら美城の事を攻め立てる。烈火の如く攻め立てる。
「大体どうして見せつけなくてはいけないんですか! こう……私には私なりのプランがあってですね……」
「長くなります?」
「ええ」
恋人関係の上っ面だけ掬ってお互いに利益を分かち合うはずの契約恋人は、ただの女の子のように愚痴りながら、付き合いという物はうんぬんかんぬんと、美城は長々しく訓示をいただく羽目になった。
本日の勝敗 早坂&美城の勝利(ただし試合に勝って勝負に負け状態)