五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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早坂愛は占いたい

「……」

 

 四宮別邸。

 かぐやは部屋で早坂お手製タブレットの画面を、今日の空に浮かんだ三日月のような鋭い眼差しで睨みつけていた。異次元の通信速度と脅威の処理能力によってサクサク動くこの世に二台とない代物だが、かぐやの手に掛かれば大して性能を活かせずちょっと光る板に早変わりである。

 本日の仕事が粗方終わって主人の話相手になるべくやって来た早坂は、そんな不機嫌というかへそを曲げたようなかぐやにゆっくりと話しかける。

 

「かぐや様、いかがされました? 本日のデザートに乗っていたマロングラッセの皮が苦かったりでもしましたか?」

「子供ですか私は」

 

 勝手に部屋に入って来ておいてこの無遠慮な物言い。かぐやは自分の従者がやって来た事に気が付いて画面から視線を外し、ピシッと収まりの良い金髪をサイドでくくった早坂を視界に収める。

 

「……そうではなくて……会長の誕生日の事よ」

「あー……。そういえばそろそろですね。で、何か妙案が思い浮かびましたか?」

「微妙……」

「微妙? かぐや様らしくありませんね。そこは嘘でも画期的なアイディアがありますけど語りつくすには余白が少なすぎるくらい言って頂かないと、私も調子が狂うのですが」

 

 ポンとタブレットを放り投げ、意味深で物憂げな態度を取られてしまってはこちらとしても困ってしまうと言う物だ。

 いつもみたいに元気でいてくれないと。エクストリームバーサスの筐体前にいるオタクくらい。

 

「それフェルマーの逸話でしょう。……会長の誕生日が微妙なのよ!」

「誕生日差別ですか? やめてください今どきのご時世敏感なんですから」

「そういう不謹慎な事じゃなくて……」

「なんでしょう」

「相性占いが、よ」

 

 はあ~。

 

「ため息!?」

「いえ。誕生日に向けて策を凝らしているのかと思えば、くだらない占いサイトに現を抜かしていると分かったからと言って、まさか私がそんな事……。はぁ……」

「またため息!」

 

 はあやれやれ、と一昔前のラノベの主人公のように首を横に振りながら呆れる従者にかぐやは食って掛かる。ムキになられても、話しの流れからいって期待できる成果は上げられていないだろう、という予感を早坂は抱いていた。

 

「そもそも、占いなんて思わせぶりな事を言って受け手が都合よく受け取るバーナム効果でしかありませんよ」

「会長みたいな事言ってる! そんな事言ってますがコミュニケーションツールの一つとしてですね……」

「ではかぐや様。そのツールを使って会長から何か情報を引き出せましたか?」

 

 ないでしょう。

 早坂はかぐやの優秀さを疑った事はないが、白銀を前にするとその優秀さをどこかに放り投げて世界新を叩き出す事もまた疑ってないのだ。

 早坂の中で放り投げる事に関しては室伏とかぐやが争っていて、いまだ決着がついていない程である。

 

「それがですね……会長は私だけに誕生日をお祝いして欲しそうなのよ!」 ※不正解

 

「本当ですか……!?」 ※勘違い

 

 早坂の顔が驚愕の色に染まる。かぐやの事を上方修正しなければ。

まさかそんな白銀の内面を大胆にも明らかにしてしまうとは露ほどにも思っていなかったからだ。

 何故それをもっと早くできない。なぜ角を取らない。

 

「次の休みには藤原姉妹と会長の妹さんで買い物に行きますから、そこでのリサーチでプレゼントを完璧な物にすれば、これはもう勝ったも同然じゃないかしら?」

「そうですね。おっしゃる通りだと思います」

 

 ただ問題はかぐやが自信満々な時はかなりの確率で上手く行かないので、後になって自分が奔走する羽目になるのではないかという不安が滅茶苦茶あった。

 まあそうなったとしても美城が友人の事だからと手を貸してくれるだろうという甘い公算が早坂にはある。

 ……失敗してくれた方がいいのでは?

 主人のわがままに振り回されるのはいつもの事。それに美城が付き添って手伝ってくれるくらいの美味しい目に会ってもバチは当たらないのではなかろうか。

 早坂はちょっとよろしくない事を考えた。

 

「今日の所はこんな感じかしら。では私は少し考え事に入りますので、早坂ももうお休みなさい」

「ではお言葉に甘えて。お休みなさいませ」

「あ、ちょっと待って!」

「な……なんですか急に叫んで」

「五条くんの事よ」

「へ……? あ、えっと……みぃがどうかしましたか?」

 

 不意に出て来た恋人の名前に早坂の息が詰まった。

 なんとか、努めて気取られないように普段を意識して言葉を返すが、それがかぐやの『二人は神ってる』疑惑の火に油を注いでいる事は彼女の知る由もない。

 

「どうせあの子の事ですから、プレゼントなり何なりを用意してるのでしょう?」

「そう……ですね……。楽しそうに話してましたよ」

「分かる範囲で良いから教えてくれるかしら。もしプレゼントが被っていよう物なら効果半減だわ」

「ホームプラネタリウムを贈ると言ってましたが……」

「えっ何それ普通に良い……。今からでも私が考えた事にならないかしら?」

「だめです」

 

 早坂怒りの同担拒否。

 もし美城に言えば『いいですよ』と言うに決まっているのでかぐやの思惑を完全に断ち切る必要があった。

 

「他人の案にただ乗りして、それで恥ずかしくないんですか」

「は、早坂……? そんな、私は冗談で……」

「冗談とは皆で愉快に笑い合えるものの事を言うのですよ」

 

―― ―――――

 

「本当にかぐや様は会長が関わるとロクな事を考えない」

 

 早坂は自室に戻りながら独りごちる。

 厳正な『話し合い』の末にかぐやには分かって貰えたのだが、何となく胸の奥にわだかまりのような何かがつっかえたような、そんな気持ちで普段より足音荒く自室へと向かっていた。

 それを見かけた他の使用人は『おやすみなさい』の一声をかける事もなくスッと視界から消えた。触らぬ神に祟りなしである。

 

「こんな、占いにも頼る始末では……」

 

 自室に入って厳重に鍵を閉めた早坂はタイを解いて首回りをくつろげ、ふぅ、と一息吐く。行儀が悪いかもしれないが、これから行う業務の事を思えば、少しの堅苦しさも解いておきたいのが彼女の心情だった。

 

 

…………

……

 

 

『それで今日もいつものお仕事ですか?』

「はい……毎日の事ですし」

『よしよし。電話でなければ抱きしめてあげたい所なんですけど』

「冗談はよしてください」

 

 早坂は一日の最後に控えている仕事を終えると、五条美城へと電話を繋いでいた。

 何か言いたい事があったら遠慮しないでください、という以前彼が言った言葉をそのまま受け取る事にした彼女は、時々こうして話をしている。

 仕事の愚痴、かぐやの遅々として進まない恋愛頭脳戦の事、自分の事、他愛もない話。

 たまに『あなたが話してください』と言って無茶ぶりをするが、そんな言い草でも嬉しそうに声を弾ませて喋ってくれる美城に、ふつふつとある感情が湧いてくるのだ。

 ああ、この人には甘えていいんだ、と。

 一しきりいつもの仕事へ文句を言うと、幾ばくかすっきりとした心持ちで息を吐いて、先ほどまで話していたかぐやとの会話の事を話し始めた。

 

「かぐや様ったらあなたのホームプラネタリウムの案を自分の物に出来ないか、何て言ってたんですよ?」

『いいですよ』

「やっぱり言うと思った」

『ふふっ、それはすみません。ですが私の短慮が役に立つなら、いくらでも使ってくれてかまいませんのに』

「遠慮と言う物を覚えませんと、かぐや様のためになりません」

 

 そろそろ深慮とはかけ離れたアホっぷりになじみつつある主人を想えばこそだ。

 ただでさえ新手のバカなのか、バカと言う名の新しい生物へと変貌を遂げつつあるのか分からない程に天才とバカの間にある紙一重が無くなっていっているのに。

 

「短慮と言えば、とうとうかぐや様が安直な占いサイトなんて物に手を出してしまってですね……。こんなのもう……駄目ですよね」

『う~ん。愛には申し訳ありませんが、私は占いは結構重要だと思っていますよ?』

「えっ? どうしてですか」

『建築には今でも占いとか風水が付き物ですからね』

「ちょっと意外です」

『そうですね……風水なんて言うと少しオカルト臭いですが、言ってみれば、人が快適にすごすための学問ですから。愛だって統計などは信じるでしょう?』

「それは、まあ……」

『占いだって同じようなものですよ。まあ、信じたい事なら信じて、信じたくない事は信じなければいいんです』

「何と言うか……テキトーですね」

『当たるも八卦当たらぬも八卦ですから。なら楽しい方がいいではありませんか』

「そんな物ですか」

『そんなもの……ふぁ……』

 

 電話口から美城のあくびが漏れ聞こえ始めた。

 時計を見ればそろそろ十二時に差し掛かろうかという時間帯だ。美城がそろそろお眠の時間を迎える頃だと、早坂はまだ数回の通話だが彼の生態を理解している。

 

「眠いですか?」

『いえ……まだおつきあいしますよ……』

「本当に?」

『ほんとーです。あいのつらさに……くぅ……』

 

 それきり美城は黙ってしまった。くぅくぅと穏やかな寝息しか聞こえてこない。

 

「おやすみなさい、みぃ」

 

 夢の世界に入ってしまった彼の邪魔をしないように通話口にそっと囁きかけると、早坂は自分の行動がとても恋人っぽかった事に気が付いて赤面した。

 

(まだ! まだ好きかもしれない、ですから!)

 

 ぶんぶんと頭を振って煩悩を追い払うと、他の誰でもない自分に言い訳する。

 こいつかもしれないとか言ってますよ。本当は好きなんすねえ~。

 

 実際の所、早坂も自覚はあるのだが、あえて言葉にすると甘える事に歯止めが利かなくなってしまうのではないか、と自分の事ながら恐ろしくて『まだ』などと予防線を張っているのだ。

 早坂が『かぐや様を笑えない』と言うのは、素直になれない所が姉妹のように育って来ただけあって同じという性格面を自嘲しているからだった。

 

 一旦頭を落ち着かせると、早坂はベッドに横になっていつもの癖で動画サイトを開く。普段ならここで物がプレス機に潰される動画や動物が大暴れする動画でも見るのだが。

 もうグー〇ル側も「いい動画、アップされてますよ」とトップ画面にそう言った動画を表示するほど分かってしまっている。

 彼女の破滅願望の表れというか、より正確に言うと彼女自身を取り巻く環境を破壊してほしいという衝動の表れと言うべきか。分かりやすい解放の欲望が現れた動画のセレクトである。

 力みなくして解放のカタルシスはありえねえ。そんな範馬勇次郎理論に最も近い女が早坂であった。

 

 だが今は美城と話せてふわふわと心地いい気分なので、珍しく動画を見る気分にならなかった。

 〇ーグルが「プレミアム会員ですけど言わせてください。正気ですか!?」と驚いている。

 

 今日はいいかな、と思い始めた所で操作をすると、変な所でも押したのか動画サイトからブラウザに飛んで少しばかり彼女をげんなりさせる。

 ネットを見てたら画面真ん中にドーンと出てくる広告を踏んでげんなりするアレと同じくらいげんなりした。

 

「これ……さっきかぐや様がやってた相性占いの……」

 

 表示されたのは『いかにも』といった感じの占いサイトだった。簡素なフォントの安っぽさが隠しきれない、一山いくらの手合いだろう。

 

「うわ……微妙……」

 

 かぐやが見てそのままだった画面には、かぐやと白銀の相性占いの診断結果が表示されていた。

 

 その数値……50%!

 微妙!!

 

 

 これくらいの事私でも言えますよと早坂は何か逆に悲しい気持ちになった程である。

 

「みぃはああ言ってましたけど……こんなバーナム効果の極みみたいなサイトに縋り出したら終わりですね……」

 

 主人にとって不名誉だろう、気遣いを忘れない早坂はきちんと履歴を消しておいてあげようと全履歴の欄を開くと、すぐ下にいくつかの占いサイトを巡っている事が表示されていた。

 占いセカンドオピニオン……では無かった。

 一月一日、九月九日の診断ではなく、四月二日、四月六日の占い結果だったからだ。

 

「まさか私とみぃというサンプルを踏んでからご自身の相性占いに?」

 

 背中が痒くなった。知らない所で占われている身にもなって欲しい。

 

「馬鹿馬鹿しい……」

 

 範囲選択、消去。その2ステップで主人の恥は早坂の心の中だけに永遠に封じられる……のだが、

 

「え? これ名前まで入れるちょっと本格的なサイトでは……?」

 

 『五条美城さんと早坂愛さんの相性……』という文字が、どうしてか早坂の目から離れてくれそうになかった。

 

 ゴクリ……

 

 早坂は生唾を飲み込むと、そろりそろりとサイトへ指を伸ばし始めた。

 

「仕方ありません。かぐや様が変なサイトを見ていないかという、これは調査ですから。ええもちろん私はこんなサイト微塵も信じていませんが、かぐや様がもし信じ込むような事があればよくありませんから」

 

 指を一センチ動かすごとに百の文字が彼女の口からあふれ出る。

 誰も聞いてないから早く押せばいいのに。

 

「能力主義で実力主義かつ血統主義をこじらせた四宮家の長女がスピリチュアルにはまり込んでいる何て知られたらどうなる事やら想像もつきません」

 

 あと一ミリで画面にタップするという所に迫った状況で、早坂は一旦指を止めた。

 見たい、見たくない、せめぎ合い(突然のラップ)。

 彼女はそんな戦いに打ち勝つために叫んだ。

 

「かぐや様! 困ります!! 困ります!! かぐや様! あーっ! かぐや様!! かぐや様困り!! 困りますあーっ! かぐ困っー!!」

 

 はよ押せ。

 

 トン……

 

 騒がしいひと悶着あってようやく早坂は占いサイトを開く事ができた。

 言い訳がないと占いもロクに出来ないのか。そう言う所はやはりかぐやとよく似ていた。

 

「開いてしまった……こんなバーナム効果の極み……」

 

 早坂は後悔しながらも開いた物はしょうがない、と開き直って占い結果を見ることにした。

 美城も言っていたではないか、楽しんだ方がいいと。

 

――まず五条美城さんの性格から理解していきましょう。

  あなたは積極的で社交的な人でしょう。

  そのため交友関係が広がっていくタイプで、そのうえ他人のために努力できる人です。

  自然と人と関わる機会も増えて行きますから、人脈に恵まれるでしょう。

 

 

「当たってる!!?」

 

 早坂はこのサイトに強く興味を惹かれた。

 

――自然と人脈が広がっていく中でも、特に女性との縁が深いようです。

  その関わりからあなたは幸せを呼び込めるでしょう。

  あなたは自由に恋愛をするタイプなので相手を探しに行く方が向いています。

  もしかしたら運命の人はすぐ傍にいるかも……?

 

 

「えっ……それってもしかして……」

 

 早坂はドキドキした。

 

――では早坂愛さんはどういう人でしょうか。

  あの人は非常に頭のいい女性です。常に一歩未来の事を考え行動しています。

 

 

「ふふっ、分かってるじゃないですか」

 

 早坂は誇らしげになった。

 

――準備を忘れず計画をきちんと立てる人なので臆病に見えるかもしれません。

  しかしそれはあの人の良さです。

  自分の事だけでなく他人の事もしっかりと考えている思慮深い女性という事を分かってあげてください。

 

 

「えっ……怖……。どっかから見てる……?」

 

 早坂さん、バーナム効果って知ってますか?

 あなたが言ってた事ですよ?

 

――では本題の二人の相性を見て行きましょう。

  五条美城さんが早坂愛さんが恋人として良好な関係を築けるかどうか、

  お二人が幸せになれるかどうかを見ていきたいと思います。

 

  単純に楽しい恋をしたいならお二人の相性はよくありません。

 

 

 

「どうしてそんな事言うの?」 じわっ……

 

 早坂、泣いた!

 

――ただ、結婚となれば二人の相性は完璧です。

 

 

「えっ……ちょっと、そんな……急に結婚とか言われても///」

 

 早坂、デレた!

 

――五条美城さんと早坂愛さんはお互いに誠実な性格ですから非常に相性がいいでしょう。

  嘘や隠し事もほとんどなく、互いへの信頼が高まっていきます。

  心から信じあえる人間関係というのは一番大事でありながら非常に得難いものです。

  お二人の関係は真剣に将来を考えてこそ、真の意味が出てきますよ。

 

 

「……」

 

 早坂は輿入れの可能性を考え始めた。

 もう彼女の頭からバーナム効果という単語は飛んでいってしまっていた。

 

――お互いに真面目な気持ちで家庭生活を送っていけますし、

  何か問題があれば真剣に話し合うこともできる。

  必要なら自ら反省もするので、トラブルは大きくなる前に解決するでしょう。

 

「はえーすっごい……」

 

 早坂は女性が占いに嵌る理由を見出してしまいつつある。

 初めて占いサイトを見たので気が付かないが、これは美辞麗句タイプのサイトにありがちな言い回しで、それこそ正に彼女の言っていた……

|B0)<……

 バーナム効果さん!?ナズェミテルンディス!!

 

――長く生活を共にする相手として、あの人ほどあなたと合っている人もそういないでしょう。

  あの人との夫婦生活は実に快適ですし、安心できるものになるでしょう。

  本気で結婚を考えるなら、あの人は最高の相手ですから、見逃すのはもったいないですよ。

 

 

「さ……最高の……」

 

 早鐘を打ち始めた心臓を落ち着かせるようにベッドに倒れ込んだ。

 

(そんな……これは、この気持ちは出来たばかりなのに……)

 

 早坂は金色の前髪を弄びながら、自分の中に新たに出来た『恋』という感情が、一気に『愛』という未来に向かう一本道に定められたような気がして、少し怖いと思った。

 

「嫌って訳じゃないけど……」

 

 そう呟いて思い浮かべるのは、いつもニコニコ笑っている、女と見まがう男の子。優男という言葉すら勇ましすぎるような可憐な見た目を思い出すと、胸の奥がズキリと痛んだ。

 冷たい心を蕩けさせるような、甘い痛み。

 

「いやいや、もう少し考えてみないと……本当に好きなのかどうか……。こんなサイトの結果に右往左往するようでは……」

 

 そう言いながら、早坂は美城との事を思い返す。

 

(全ての始まりは私の金髪に美城が見惚れた所からで……十数年して再会した私達は主人の仲を取り持つために仮初の恋人を演じて……一番近くで彼の事を見ていると、次第にそれが……ぅぅ……)

 

 あまりにも出来過ぎな出来事に、早坂はこっぱずかしくも運命という言葉を信じそうになった。

 早坂好みの『エモい』というやつである。

 

 もしかしたら、もっと何か……。という期待半分に占いの画面をチラリと見ると、

 

――恋愛にも結婚にも、男女の仲にはセックスがつきものです。

  ここでは五条美城さんと早坂愛さんの体の相性についても占っていきます。

 

 

「――ッ!?」

 

 あーもうこれじゃエモいじゃなくてエロいだよ……。

 さっきまで繊細な乙女心が揺れ動く感じだったのに……。

 

 その文字を見た瞬間、早坂は画面に飛びついた。ベッドの右往から画面に左往していた。

 普段かぐやに偉そうに言っているが、彼女の経験値はそのかぐやとほとんど変わらない。手を繋ぐくらいはしているが、そんな事は偉そうに言うほどの事でもないので、まあほぼ変わらないと言って差し支えないだろう。

 そこは彼女も箱入り娘である。

 

 しかし早坂は性的な事に興味があるお年頃であった。

 

「いやちょっとこんな項目があるなんて聞いてませんよかぐや様。あーこれは検閲ですね。フィルタリングですねこれはあー仕方ない」

 

 たった数センチフリックするのに言い訳がましかった。

 エロ本を一冊目と三冊目の間に挟んでレジに持っていく男くらい言い訳がましい。

 

 早坂はドキドキしながら続きの文言を見ようとした。

 

「結婚の相性が最高なら体の相性も……って! 何を言ってるんですか私は! えっと……その、そんなつもりじゃなくて……」

 

 ぐむわぁー、と頭を抱えながら一回ゴロゴロすると興奮冷めやらぬまま一気に画面をスクロールさせ

【この先有料(2980円)】

 ……た?

 

【お試し三十行はいかがでしたか?詳細は有料会員様に提供致します】

 

「~~っ!」

 

 早坂はタブレットを掛布団の上にぶん投げて体を抱きしめる様に腕に力を込めて叫んだ。

 

「どうして『三十行』だけなんですかァアア~~~~~ッ!!」

 

 想いのこもった良いシャウトだった。

 不合理に振り回されているように見えるが仕方がない。

 四宮かぐやは恋をしてポンコツになってるのだから、早坂愛だって恋をすればそれに振り回される事だってある。

 

「ど……どうしましょう……? 払う……? いやこんな事の為に約三千円も……うーん……」

 

 早坂愛の眠れない夜が始まる。

 

 

本日の勝敗 早坂の敗北

 




相性占いをいくつか見たんですけど、あるサイトでは恋人として最高夫婦としては微妙、なのに別のサイトでは真逆になったり。やっぱバーナム効果なんやなって……。

あとバレンタイン短編も投稿する予定でしたが、修学旅行で早坂がどうなったのか?とかいう先の展開のネタバレが酷かったので諦めました。
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