五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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本編では全然出てこないのに二次創作界隈でよく見かける女、龍珠桃登場……!

選挙編が一つ大きな山になるので早くそこに行きたい……



夜空を見上げるどころじゃない

「十五夜! お月見するぞー!」

 

 生徒会の静寂を振り切るカオスの一言を放つのは、大抵において藤原千花であるが、今日は様子が違った。

 

「うわっ……会長テンション高いですね……。突然何を言い出すんですか……」

 

 そう。藤原千花も呆れるくらいにゴキゲンな事を言いだしたのは白銀御行だった。

 寝不足の隈の上に無駄に爛々と輝いた瞳がテンションの上がりようを表している。

 

「藤原書記、お前にだけは言われたくなかったがまあいい。今日は中秋の名月! こんな日に夜空を見上げないなどもったいないぞ!」

「えー、でも会長シロちゃんからプラネタリウム貰ったって言ってたじゃないですか。毎日見てる上に今日も見るんですか?」

「バカお前、アレは南半球の星空なんだよ!」

 

 白銀は違いの分かる男だった。

 ここ最近は眠りにつく前の五分ほど五条美城に貰ったホームプラネタリウムを眺める日々が続いていた。

 なので白銀の星空を見たい欲が急上昇! そしておあつらえ向きに今日は中秋の名月!

 無類の天体好きである彼がテンション上がるのは仕方がない事である!

 

「南半球というと、南斗十字星が見えるんですか?」

 

 石上優は南と星のワードから出した言葉はヒャッハー世界な男達の事であった。

 あの、どれが天翔十字鳳ですか、とか言い出しそうなくらい石上の星知識は薄い。ちなみにほうおう座は……ありまぁす!

 

「北斗の拳が混ざってるんだよなあ……。南十字星な。じゃなくて、今日の星空指数めっちゃ良いんだって! この数値出たら見るしかないから!」

「急ですね~」

「いいじゃないですか藤原先輩。僕は乗りますよ。もうすぐ生徒会も解散。皆で何かできるのも、これが最後かもしれないんですから」

 

 ☆☆★

 

……

 

 

 

「という訳で私達もお月見しましょうか?」

「いいんですか?」

 

 生徒会棟から旧校舎を挟んで新校舎の二階、今はボランティア部の部室として使われている部屋で美城はそんな事を言いだした。別に変な電波を受信した訳ではない。

 今日は帰りが遅くなるという事を、早坂愛の主人である四宮かぐやがメールしてきたのだ。

 『会長からのお誘い』という事にウキウキの様子。だが本人は天体観測の何が面白いのか理解し難いとも書かれていた。

 それを読んだ早坂も同じ様な気持ちである。

 星空の下というシチュエーションは非常にエモだが、彼女にとって星空は方位を知る術であった。

 この優秀な近従はサハラ砂漠に放り込んだとしてもオリオン座を頼りに街に戻ってくるゴルゴみたいな事が出来る。やった事は無いが明日にでも出来るだろう。

 

「もちろんです。会長達は屋上の使用許可を取っているそうですから、私達はもっと上の時計台で皆さんの動向を窺いながら空を見上げるとしましょう」

「まあ、いいですけど……。ですが今日いきなり時計台の鍵を貸してくれるでしょうか?」

「まかせてください。こういう時に力になってくれる人を知っていますから」

 

 ふふん、と得意気に美城は鼻を鳴らした。

 

「誰ですか? その人は」

「それは……」

 

 ★☆☆

 

「遊びましょー」

 

 美城に連れて来られた部屋はひっそりとした雰囲気の漂うある部室だった。

 その扉を非情にラフな感じで彼はノックしている。中島がカツオを野球に誘うラフさと丁度同じだった。

 

「……いないんですかね」

「そんな事ありませんよ」

「いやでも、もう帰ったんじゃないですか? 生徒会活動も終わる時間ですから大抵の部員は帰ってますよ。屋上でなくても星は見れますから、それで妥協しましょう」

 

 嘘である!

 この女、美城と二人きりの状況を邪魔されたくないのである!

 さきほども言ったが早坂は星空の下にエモを感じる質であり、その状況で妥協はしたくない。彼の知り合いが誰だか知らないが、もう帰っていて欲しかった。

 しかし美城は『まあまあ』と早坂をたしなめてもう一度扉をノックする。

 

「桃ちゃん桃ちゃん桃ちゃんちゃん♪ ちゃんちゃん桃ちゃん桃ちゃんちゃん♪」

 

 あーラップやってるんだあ……。フリースタイルダ〇ジョンとか見てた系男子?

 繰り返される『ちゃん』のリズムに早坂はそんな事を思った。

 美城にそんなつもりは全然無いし、というより後半はバカボンのOPのリズムだったが。

 

「……なにして……」

「しー。静かに」

 

 タッ……タッ……

 

「うるせええええええ!!」

 

 部室の奥からタタッと音して横引きドアをドーン!!

 そんな備品が壊れそうな所作で荒々しく部屋から飛び出してきたのは一人の少女だった。

 

 早坂と同じくらいの背丈の小柄な姿。クセのない真っすぐな明るい髪は襟足短めに切られてその上に帽子を被っている。吊り上がった目元は他人を威圧して止まないが、その美麗さに人目を集めて止まない少女でもある。

 彼女が指定暴力団『龍珠組』組長の愛娘、龍珠桃その人である。

 早坂がマークしている秀知院要注意人物の一人であり、その美貌から難題女子としても名高い少女だ。

 美城が訪ねた天文部に所属している。

 

「ほら出て来た。桃ちゃんお久しぶりです」

 

 イライラと眉毛を釣り上げた桃に何ら臆することなく、美城はいつものようなニコニコ笑顔で話しかけた。

 

「だと思ったよこの野郎。静かに人も呼べねえのか」

「静かに呼んだんですよ? 一回は。ですが出て来てくれなかったのでこう、桃ちゃんちゃん桃桃ちゃん……」

 

 空中にシャドーノックをしてみせるがその速度が尋常ではなかった。どこかの名人のように十六連射は下らない速さである。

 

「うっせえ!」

 

 桃は削岩機と同じ理屈で繰り出されるノックを想像して叫んだ。

 

「ちょ、桃ちゃんやめてください。歌詞引用はちょっと面倒くさいんですよ?」

「Ad●のうっせえわじゃねーよ」

「あぁよかったせっかく会えた友人にそんな事を思われたら私もショックで夜も……」

「そのうっせえわじゃねーけどお前がうるさくない訳じゃないからな!?」

 

 つらつら喋り出した美城を制して桃は裂帛のツッコミを入れる。

 手を出してこない事が奇跡に思えるほどの気迫に、少々早坂はたじろぎながらも素直な疑問を口にした。

 

「あのー……二人はどういう関係だし?」

「あぁ? ……はっ、こいつが噂のお前の(スケ)か?」

「スケって……」

「愛、桃ちゃんと私は幼馴染です。私達の親の会社は鎬を削り合うライバルなんですよ」

「よく言うな。シノギを削られてんのはこっちだっての」

 

 その『しのぎ』という言葉の若干のかみ合って無さに聞いてる早坂は小首を傾げながらも、話の腰を折るのも悪いので黙っていた。

 ちなみに美城の言っていた『しのぎ』は剣を打ち合う姿から生まれた慣用句『鎬を削る』の『鎬』であり、桃の言った『しのぎ』はヤクザ言葉で収入そのものやそれを得る手段の事を言う『シノギ』である。

 

「ヤクザといえば建設業みたいなイメージでしょう? 龍珠組も建設業を収入の柱としていますから、工事の札を度々争ってきたんです」

「最近じゃ大型の工事は取られてるけどな」

「それは仕方ありません。こちらの後ろには四条が付いていますから」

「金周りがいい事で」

「え? 眞妃様の事ですけど」

 

 桃の言葉にきょとんとして美城は返す。五条建設は基本的に赤を出した事の無い企業で、四条家もそこに口出しをする事はほとんど無い。つまり金は五条の持っている金なのだ。

 だったら五条の何が他の会社と違うのか。

 眞妃という存在である。

 企業努力とか人材育成以外に説明を求められたらそう美城は答える心構えが出来ていた。当の本人はまっっっったく預かり知らぬ所だが。

 

「そんな勝利の女神的な心持に負けてんのかよウチの奴らは」

「眞妃様と桃ちゃんの女神度を比べると……。眞妃様を敵に回すには、桃ちゃんはまだ……未熟!」

「未熟だとテメーぶっ殺すぞ」

 

 桃も年ごろの女の子である。威張り散らす訳ではないが、自分の容姿の良さは自覚しているし、何より組の構成員から可愛いだの綺麗だの言われる事はしょっちゅうだ。言った奴らは後でボコボコにされていたが。

 そんな完成された容姿の自分に未熟? こいつに目ん玉は付いていないのか。

 桃はそんな思いを込めて美城を睨みつける。怯えた仕草で彼は早坂の影に隠れた。

 

「ひぃぃ……や、優しい基礎にして……」

「優しい基礎にしてって何!? ド〇カムか! ……いやドリ〇ムでもねえんだよ。あれはキスをしてだから」

「は?」

 

 何だこの人彼女持ちの男にキスをしてとか常識が欠如しているのか?

 

 怒り心頭、早坂愛は桃に負けず劣らずのつり目で睨み返した。龍虎相まみえるとはこの事か。ただ早坂は猫が嫌いなので虎の立場を返上するかもしれない。

 じゃあ龍犬(りゅうけん)相まみえるにしとく? ……おじいさん(リュウケン)は『ないな』と思いました。

 

「あーもーお前の女がめんどくせーって。お前もよくこんな尻の軽そうな女を隣に置こうって思ったな」

「ちょっと、桃ちゃんでも今の言葉は見過ごせませんよ」

「何だやるか?」

「愛はこういう見た目ですがお堅い人なんです! 私が初カレなんですよ」

「うわあ、お前これが初めての男かよ……」

「哀れみの目!?」

 

 桃の目が優しくなった。それは不良が雨に濡れた子犬に向ける物に近い。拾ってあげたいくらいだった。

 

「いつもバイトが忙しくてあまり遊べないですし、少しの通話と動画サイトが日々の癒しなくらい頑張っているんですから」

「何だよその行き遅れ一歩手前な女子の生態は……」

「すっごい納得いかない! いやみぃの言ってる事は本当なんだけど!」

 

 早坂は自分の置かれた状況に反論する。

 そんな言われるほど酷くないでしょう。……酷くないよね? え? ……実はそんなに酷いの……?

 

「悪かったな……」

「ひいい……学園要注意人物の龍珠桃が私に謝ってるし……」

 

 あの舐められる事が大嫌いな、三連だんごの兄弟の真ん中みたいな性格をしている龍珠桃が自分に謝ってきている状況に早坂の白い肌は粟立った。恐怖(ザ・フィアー)

 

「桃ちゃん、訂正してくれますか。愛はめんどくさくなんか無いです」

「早坂はめんどくさくない」

「愛は尻軽じゃありません」

「早坂のケツはデカい」

 

  げん

  こつ

 

「ちょーっと頭冷やそっか? 尻軽の反対語はケツデカじゃないからね?」

 

 美城に教わったかのようなニッコリ笑顔で龍珠桃の事を見下ろした。振るったげんこつから煙がしゅうと上がっている……そんな錯覚を見そうなほどに不可避の一撃だった。

 

「親父にもぶたれた事ないのに」

「殴られずに大きくなった人間なんていないし!!」

「……」

 

「? 私の顔に何かついてますか?」←殴られずに大きくなった人間

 

「……ほとんどいないし!」

「予防線張りやがったなこいつ」

「まあまあ。愛、今はケツとタッパがデカい方が流行りだそう……」

 

  げん

  こつ

 

「うぅ……痛い……」

 

 美城は頭を押さえてうずくまる。彼の人生で初めて殴られた瞬間であった。

 

「だからー! ウチのお尻の話はどうでもいいでしょ! 気遣いの場所が違うし!」

「人生二痛い……」

「お前どんだけ痛みの無い人生を送ってきたんだよ。ちなみに一位は?」

「股間を強打した時……」

「そこはしっかり男の子なんだ……」

 

 早坂は少し気恥ずかしそうに美城のスラックスの二又の部分に視線を送る。

 こんな顔をしていても付いているのか……。そうじゃないと困るけど……。

 にわかには信じがたい事実がそこにぶら下がっていた。

 

「てめー何そこに男感じてんだ」

「ちょっと、感じたとかえっちじゃ?」

 

 強烈な指摘をされた早坂はしれっと桃にえっちのレッテルを貼りつけた。

 チラチラ見てなんかいないし。ていうか何で見る必要があるんですか(正論)

 

「桃ちゃん知らない間にオトナの女性に……?」

「どう考えてもちげーだろバカ。……お前ら何しに来たんだ。まさか冷やかしに来た訳じゃねぇだろーな?」

 

 桃はようやく美城達がここに来た目的を尋ねる事にした。

 何て遠い回り道をしたのだろう。遠回りこそ近道とは言うがこの状況では絶対に当てはまらない。最初に聞いときゃよかったと後悔する程だ。

 

「冷やかしと言ったら?」

「殺ちゅ♡(鋼の意思)」

「ひぃぃ……優しい基礎にして……」

「だから優しい基礎にしてって何!? 基礎が優しかったら欠陥工事だろ!」

 

 相変わらずふざける美城に、桃は堪忍袋の緒が切れたように叫んだ。

 

   ☆

 

 

「はあ、十五夜だからお月見をしたい、ねえ……」

「天文部の桃ちゃんなら星を見るためによく屋上に上がっているかと思いまして」

 

 天文部の部室に入って桃の向かいに美城は座り(隣に早坂)、どうして今日ここを訪ねたのか語り始める。

 今日が中秋の名月であること、そして星空指数が非常に良いことの二点を軸に美城は何故今日天体観測をしたいか説明した。

 ……が、

 

「ハッ! お断りだね」

 

 龍珠桃は知った事ではないとせせら笑って、一笑の下に切り伏せた。

 調子が戻って来たようにイキイキしている。

 お前お願いする人。私お願いされる人。

 そのような状況下で彼女の真価は発揮されるのだから。

 

「えーどうしてだし! 星を見るのが天文部の仕事でしょ!?」

「ま、確かに見はするだろうけど、そんなの家の庭からでも見りゃいい話だ。今日九月にしては(さみ)いし、わざわざビル風に吹かれてまで見たいって奴の気が知れないね」

「どうしても駄目ですか」

「駄目だね……どうしてもって言うんなら、それなりの頼み方ってもんがあるんじゃねぇの?」

 

 ふんっと鼻を鳴らして勝ちほこったような笑みを浮かべるのは桃である。秀知院に来るような人間はプライドの高い奴らばかりなので、こう言えば簡単に引き下がる事を彼女は知っているのだ(フラグ)

 

「ちょっ! いくら何でもそんな……」

「いいんです愛」

「でも……」

「桃ちゃん」

「彼女の為に殊勝な心掛けじゃねえか。ちゃんと手を着いて頼めよ?」

「この……」

 

 キッと早坂は宝刀のような碧眼を突き刺すように桃の事を睨みつけた。

 

「おー怖い怖い」

 

 それを受けても柳のように受け流して、腕を組みながら壁に背を預けて美城が頭を下げる瞬間を今か今かと待ち構えていた。

 美城は桃の目の前に立ち、じっと彼女の顔を見つめて言葉を探す。

 

 ダァン!

 

 と勢いよく彼は手を着いた。

 

 

 

 

 

 桃のすぐ横の壁に。

 

「この学校の一番高い所で、一緒に星を見ませんか?」

 

 これぞミユキ・シロガネが考え出した告白ジツ、壁ダァンであった!

 恐怖のドキドキを恋のドキドキに誤変換させ要求を呑みやすくさせる効果がある!

 

ゆ!か!に! 手を着けっつってんだよ!!」

 

 だが桃はそんなドキドキに惑わされる女ではない。急接近した幼馴染の顔を前に少し頬を赤らめながらも、毅然とツッコミで返した。

 

「あなたの力が必要なんです」

「聞いてた!? 聞いてたかお前!?」

「むむ……」

「ほらお前の彼女がむくれてんぞ」

 

 服の後ろ側が突っ張るような感覚がするので振り返ると、すぐそばに早坂が来ていて背中を引っ張っていた。むっつり膨れて怒っているようにも見える。かわいい。

 はよ離れろと桃が言うので、壁に着いていた手を離して二歩ほど後ろに下がった。

 

「では協力してくれるんですね?」

「何が『では』だ! どうしていけると思ってんだよ」

「ちゃんと手を着きましたし……」

「壁にな!? 普通手ぇついて頼み事しろっつったら床に手を着いて頭を下げるんだよ!」

「……ちょっとさっきから聞いてたら龍珠さんチョーシに乗りすぎじゃない?」

「なんだよ」

 

 今の早坂はギャルの仮面もその下も憤懣やる方無い。今まで会って来た美城の幼馴染は基本的に心優しい人達だったので、桃の刺々しさが一層腹に据えかねるようだ。

 

「マジでウチの彼氏の友達にヤクザいるから。その人呼んだら終わりだよ」

「愛その事は」

「ちょっとみぃが優しいからって……」

「ほぉー。誰だよそのヤクザってのは? 知り合い多いから言ってみろよ」

 

 出た。ヤンキー、暴走族、ヤクザを持ち出してくる奴。

 桃は逆に感動に近い物を感じながら早坂の言葉を聞いていた。漫画やアニメでそう言う輩がいるのは知っていたが実物を見るのは初めてだったからだ。

 秀知院の生徒にそんな繋がりがあれば、威張るとかじゃなくて不祥事である。

 

「みぃが言うには明るい髪色で、いつも帽子を被ってるらしいんだよね」

 

 へえ。と言いながら桃は視線をちょっと動かす。部室の鏡が明るい髪色で帽子を被っている少女を映していた。

 ……ん?

 

「おい言ったな? 目の前にいる人間の事見ながら言ってんな?」

「どんな恰好でも足をあっぴろげにしちゃうからハラハラしてるって」

 

 あぁ? とダルそうに椅子の上で組んでいた胡坐を組みなおそうとパンツだけには気を付けて……

 ……んん?

 

「おい私だな? 私の事言ってんな?」

「生徒会役員として頑張ってたのに何でこんな恐れられているか分からないって」

「んだとこのヤロー人が気にして……」

 

 桃はハッと口をつぐんだ。気にしていたら凄い寂しんぼみたいではないか。

 

「VIPとして暗躍する暇があるならその人達と仲良くなればいい事がある……」

 

「余計なお世話だっての! 私だなぁ! 私の事言ってんなぁ!」

 

「みぃのサイドエフェクトがそう言ってるって」

 

「え? 何? お前の彼氏未来見えてんの? こっわ」

 

「その人剣道部の小島君と喧嘩してるらしいしー」

 

「アイツが突っかかってくるんだよ。おい小島の名前出たらもう私で確定だろ!」

 

「いつもダりぃって言ってないで外に出なさいって」

 

「はあー? 私のお母さんかアイツは? ……だから私じゃねーか! お前知り合いのヤクザ呼ぶって私に啖呵切っといて私呼ぶってどういう情緒してんだ!?」

 

「そんな関東最大組織の大物」

 

「えっ私じゃないじゃん。うわ恥っず……滅茶苦茶自意識過剰な奴じゃん私」

 

「……のゲームが好きな女の子」

 

「おいやってくれたなてめぇ! 一回桐生さん挟んで私に来たな! 揚げ物に添えたキャベツ感覚で四代目挟むんじゃねえ!」

 

「謝るなら今の内だけど? ちょっとみぃ電話して」

「その強気はどこから来るんだ!?」

「はい。……あ、もしもし?」

「ふざけ……え? 通話してる……? もしかして私って二人いるのか……?」

 

 そうだとしたらここに居る自分は……?

 桃は急に家に帰りたくなった。いや逆に帰るのが怖くなった。

 自宅にもう一人の自分がいたら正気値がピンチで誰かの家に転がりこみかねない。候補は尊敬できる先輩の子安つばめの所か、非常に不本意ながら五条美城の所の二つだった。

 桃は友達が少ない。

 

「桃ちゃん意地張ってないで星空見に行きましょうよ」

「ほんとお前懲りねーな……今の流れ見てどこに行ける確信があったんだよ……」

 

 ちょっと怖くて若干かわいめになりつつある桃はぐったりとうな垂れて机に突っ伏した。

 もう見に行けばいいんじゃね? そんな気にすらなっている。

 いやそれは私のプライドが……。相手の頼みをぶった切り、よりよい条件でこちらの要求をのみ込ませる。そのため龍珠桃は断る系女子なのだ。

 控えめに言ってヤクザの手口だった。

 

「ねえ桃ちゃん」

「あぁ?」

「これは何でしょーか?」

 

 顔を上げた桃を待っていたのは書面だった。

 使用届とあり、今日の日付が書かれている。そして何より……

 

「なっ……それは顧問の判……」

 

 ここ天文部の顧問は桃がロクに部活動をしなくても文句を言ってこないような人物だが、それ故に彼女はたまの頼みを断れない弱点があった。

 

「桃ちゃんは今日天体観測をしなければなりません。理由はもちろんお分かりですね? それは顧問の先生が私にボランティア部部長として依頼した、決められた事なのです。一緒に来てくれますね?」

 

 勝負は始まる前に決まっている。

 美城はここを訪れる前から桃が断ってくる事を考え、しっかりと事前に準備をしておいたのだ。

 ロクに活動しない天文部員の幼馴染である事を主張し、屋上の使用許可をとるようにお願いして……。桃が頷いてくれたらそれでいい段階まで用意していたのである。

 もし駄目ならボランティア部へ依頼するという書面も作ったが、これは最終手段。彼女が了承してくれたらこの二の矢は使う事はなかったのに。

 これ以上ない程に二の矢がぶっ刺さって戻るも地獄進むも地獄の状況に、桃はまなじりを釣り上げる。

 

 

「最初から出しやがれぇぇぇぇぇーーーー!!!」

 

 

 『うがぁぁ!』と龍の咆哮がクラブ棟中に響き渡った。

 

 

 

 ☆

 

「わぁ……。よく見えますね」ガー……

「東京湾が傍だから、ビルの明かりが少しだけ少ねえからな」

「詳しいですね、桃ちゃん」ピー……ガー

「私じゃねえ。あの天体オタクだよ」

「会長の事ですね」ガー……ガー

 

 時計台を上がると満天の星空が美城と早坂と、まだ渋面の桃を迎えてくれた。

 街の明かりが六等星より暗い星の光をかき消してしまうため万全とは言えないが、都内でこれ以上のロケーションは中々存在しないだろう。

 

「おい早坂。お前どれくらい星座知ってんだ?」

 

 全部知ってる。

 だが軽そうなギャルが全部の星座を把握しているとなると、滅茶苦茶なロマンチストであると疑われかねない。テキトーな事を言っておく。

 

「え? 池〇エライ座?」

「バカ丸出し……」

 

 一気に早坂に対する興味関心の項目が1で埋まっていくのを肌で感じることができた。

 

 興味なさそうで怒った……? え、好きじゃん星。

 

「ではシートを敷いておきますね」ガー……ピー……

「というかお前、何ださっきからガーガーピーピーうるせえのは」

「ラジオですよ。確か天体観測にはベルトにラジオを結ぶのが正装だとか」

「……誰だよそんなテキトーな事言った奴。まあいい。天気は心配ねぇだろうけど少し聞かせろ」

「はい」

 

 美城は腰に下げているラジオの音量を上げた。スマホで聞けばいいのにわざわざポケットラジオである。

 桃は古株の組員がこんな感じの物で野球中継を聞いているのを思い出した。

 

『……第三球投げました。打ったー!ピッチャー横、センターに……抜けない!取っています二塁転送アウト一塁転送……アウト! 463のダブルプレー!』

 

「そこは天気予報聞いとけ!!」

「あれ桃ちゃん野球嫌いでしたっけ?」

「いや嫌いじゃねーよ!? だけど状況ってのがあるだろ! 今は中継聞いてる場合か!」

「見てください愛。あれが秋の四辺形ですよ」

「無視!?」

「ほんとだー」

「そのすぐ傍にある星座が外のスライダーを引っかける新井のツライ座―です」

「嘘だろこいつあの四辺形をストライクゾーンだと思ってるのか……?」

「463のダブルプレー……」

「何でダブルプレーにうっとりできんの!? イカレてんのかこいつら!?」

 

 恋をすると人はバカになると桃は聞いた事があったが、こいつらはバカとか言う次元じゃない、と空恐ろしいものを感じた。

 

「あ、小さいですけど望遠鏡も持ってきましたから準備しますね」

 

 隣り合っていた状況からそっと美城が離れると、早坂は少しばかり面白くないが肩を寄せ合って『みぃ、星の事教えて?』はちょっとラブ度が高すぎるのでこれでいい。

 それに本来の目的はかぐや達生徒会の面々を監視する事なのだから、早坂にとってはこちらの方がオマケである。

 生徒会棟の方へ目を向けると小さな影が二つほど見えた。かぐやがどうにかこうにかして藤原と石上をどこかへやったのだろう、と一安心して順調そうな二人の天体観測に幸あれと祈りをささげた。

 

「少しは……」

 

 ほっとしたのも束の間、早坂は肩を強く掴まれて抱きすくめられるような形になった。

 

 ちょ、ちょっとみぃってば開放的だからって強引……

 

 

「星を覚えて帰ってけよ。ほら、親指と人差し指の先を繋いだ先にある明るい星、あれがアルフェラッツだ」

 

 

 龍珠桃(おまえ)かよぉぉぉ!

 

 早坂は思わず銀魂みたいなツッコミをした。

 

「秋の四辺形はペガススの四辺形って言われてるけど、一番明るいのはアンドロメダ座のアルフェラッツなんだよな」

「へ……へえー……龍珠さん物知りだね……」

 

 バイオリズムが下降調子になっているのがすぐに理解できた。

 何で女の子と肩をくっつけ合ってロマンティックな空の煌めきに思いを馳せなければいけないのか。これが分からない。

 

「あら、いつの間に二人は仲良くなったんですか?」

「みぃ」

「仲良くなんかなってねぇっつの。ただあんまり何も知らないとつまんねえだろ」

「桃ちゃん優しい……」

「止めろその生暖かい目」

 

 ぬるい目をしやがって……。それが微妙に許せない桃は美城をひっ捕らえて頬を抓ってやった。

 

「いてて……。設置できたので桃ちゃんに見てもらおうかと思いまして」

「へえ、出来たのかお前に」

「もちろんです。こちらに」

 

 頬をさすりながら先ほどまで組んでいた望遠鏡まで案内すると、桃はとりあえずそれを覗いてみた。

 それを見ていた早坂はやはり幼馴染には付き合いの一日の長がある、などと勝手に対抗心を燃やしていた。

 

 二人が望遠鏡に夢中になりだしたので手持ち無沙汰になった彼女は特に目的もなく夜空を見上げる。

 天頂にある北極星の煌めきを見ながら、段々と他の星へと目を移していくと、果てしない空の天球に足がすくみそうになって少しだけ足の幅を広く取りなおした。

 

「北極星?」

 

 とん……と何かが肩にぶつかると、意識を空に持っていかれていた早坂はふらついて、そばにあった物にぎゅっとしがみついた。

 

 今度こそ、今度こそみぃ……

 

 

「知ってるか? 北極星は不変じゃねぇって事。自転軸のずれであれは時代によって変わるらしい。二千年後にケフェウス座γ星……」

 

 

 龍珠桃(おまえ)かよぉぉぉ!

 

 

 早坂は同じ事を繰り返すお笑いの技法、天丼を身をもって学んだ。これっぽっちも愉快ではなかったが。

 

「せっかくシート敷いてんだから座ればいいじゃねえか」

 

 桃はそう言うと早坂の肩を掴み、そっと押し倒すようにシートの上に体を横たえさせた。

 

「今寝っ転がると丁度夏の大三角形が目の前に来んだけど、秋だってのに夏の三角の方が見つけやすいってのはおかしな話だよな」

 

 

 初押し倒されが龍珠桃(おまえ)かよぉぉぉ!

 

 しかも固いコンクリの上にシート置いただけの場所。早坂はやるせない気持ちになった。

 

「やっぱり仲良しじゃないですか。妬けちゃいます」

「もー!そういうんじゃないし!」

「誰でもお前みてぇに少し話したら友達ってなると思うなよ」

「そうですか?」

 

 美城は月明かりで燦然と輝く白髪を揺らしながら、どこかおかしそうにクスクスと声をあげて笑った。それを聞いていたたまれない気持ちになるのは桃の方である。

 一匹狼を気取って……いや、気取らざるを得ない彼女の立ち位置は複雑だからだ。

 

「あー……やっぱ寒いな。何か飲み物でも買ってくるか」

「私が払いますよ」

「当たり前だろ早く来い」

「すみません、愛。留守番を頼んでいいですか」

「おっけー」

 

 本当なら彼女を放って他の女の子と買い物など言語同断だが、しかし早坂はここでかぐやの動向を窺っておく仕事があるのだから文句も言えない。

 二人で階段を下って行く美城と桃に向かって一つため息を吐きながら、また生徒会棟の方へ目を向けた。

 二つの人影が一つになる程に近づき合って寝転んでいる姿が何とか見える。さっきまでの早坂のようにシートか何かの上に寝転んで星を見上げているのだろう。

 

 滅茶苦茶いい感じじゃないですか。

 

 軽い嫉妬を覚える程だ。これだけ接近して何もなかったらもう……『もうっ!』である。小言の一つや五つ言いたくなるだろう。

 

 ヒュウ、と風が一つ通り過ぎると、その九月に似合わない乾いた風が一気に熱を奪い去って早坂は体を震わせた。

 

 この気温なら上着か何か着てくるべきだったでしょうか?

 

 体を抱きしめるように身を縮めると、鳥肌の立った二の腕をこすって暖をとろうとする。

 はあ、と一人で震えている侘しさに息を漏らすと、

 パサッ……

 と何かが早坂の肩にかけられた。人肌の温かさを持った、恐らく上着だろうが。

 

 はいはいまた龍珠桃また龍珠桃。

 

 もうパターン入ってるんですよねぇ、と呆れながら一応礼を言っておこうかと顔を上げる。

 

「愛、一人で残してすみませんでした。寒いでしょう? 私の上着を使ってください」

 

 は……はれぇ―――――??

 パターンじゃない!?

 

 はやさかはこんらんしている。

 

「はい、温かいお茶も買ってきました。わ、指先が冷たいですよ愛」

 

 美城はホットのペットボトルを早坂に持たせると、その上から指先を包み込むように両手を添えた。

 

 は……はれぇ――――??

 

 その単純な温かさだけではなく、そっと労わってくれる優しさに胸の奥がトクンと小さく跳ねると、いけないと思いながら甘えそうになる。

 

「あ、えっと、そうだ、龍珠さんは?」

「桃ちゃんですか? 残業していた先生に捕まって小言を貰っていましたけど」

「放っておいて来たんですか? 悪い人」

「愛の方が大事ですから」

「……ほんと、そう言う……」

 

 傾いた精神のバランスを取り戻そうとからかってみるが、見事にカウンターを顎に貰ってしまった。そのまま、何と言えば良いか分からずに少しの沈黙の後誤魔化すようにペットボトルを開けて口をつけた。

 

「ふふっ、本当に今日は綺麗な空ですね」

 

 彼女の沈黙をどう受け取ったのか、少なくとも悪感情は持っていない口ぶりで美城は話始める。

 

「私にとって見上げる空というのは夜空の事でした。太陽の昇っている空を見上げるなんて怖くて出来ませんし。だからちょっとだけ星の事を知ってるんですよ?」

 

 早坂は星に対してそんなに興味はないが……しかし、このシチュエーションは良いなと隣にいる美城を見ながら改めて思った。

 肌が白くて髪まで白い彼は、月明かり星明り程度の明かりでもはっきりとその存在を浮き彫りにさせる。その浮世離れした容貌に目を惹かれると、そうっと優しさでもって手を引いてくれる所が何ともむずがゆくて、そして嬉しいのだ。

 

「でも本当に今日は年に数回あるか無いかのいい夜空ですね。ほら、愛」

「何ですか?」

 

「月が綺麗ですね」

 

 は……はれぇ―――――!??

 

 何を言ったのか、優秀な早坂の頭脳でもそれを理解するのに少しの時間を要した。

 

 あまりにも創作界隈で使われ、こすられ続けてもはや陳腐の域に達してしまいそうなほどの有名な言葉。

 英語教師だった夏目漱石が授業で“I love you”を訳させた時に、『私は君を愛する』と訳した生徒に『日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい』と言ったとされる逸話がある。

 真偽の程は定かではないが、そんな事は重要ではなく、つまり『月が綺麗ですね』にはその額面以上の意味が込められているのだ。

 

「あ……その、えっと……」

 

 突然の愛の告白に、ようやく美城が何を言ったか理解した早坂の頭が真っ白になる。

 

 美城が、私に、告白?

 

 胸が痛いほど締め付けられるような感覚と、心臓が鼓動を打つ度に喜びが体中を駆け巡るようなふわふわして落ち着かない感情で真っ白だった頭が塗りつぶされた。

 

「あの……みぃ……いや、美城」

 

 答えなくては。応えなくては。

 

 早坂はきらりと輝くような彼に何かを言おうと……

 

 

「あ……えっと、すみません。紛らわしい事を言って。額面どおり受け取ってください」

 

 したが、思いっきり梯子を外されてしまった。

 

「本当にすみません。今日は空も澄んでますし、雲も無いので素直に綺麗にお月見できますねという意味で言ったのですが……そう言えばあの言葉には逸話がありましたね」

 

 美城が謝ったりする事はいつもの事だが、今日はいつにも増してペコペコしていた。言葉の洒落にならなさに気が付いたからだろうか。

 手を着いて深々と頭を下げていた。もちろん床に、である。

 

「いえ、そんな、別に謝るような事ではありません。今日は月が一年で一番綺麗に見える日なんですから、そういう言葉がポロっと出てくるのは仕方ない事です。私は気にしてませんから、頭を上げてください」

 

 そう早坂が言うと、美城はおずおずと顔を上げた。意図した所ではないだろうが、意味する所に平然としていられないのだろう。さすがの彼もバカだったという自覚があるのか照れくさそうに頬を赤らめて、困ったように笑った。

 

 やっぱりこれが私の物にならなかったのは口惜しい……。

 

「か、かぐや様の様子を見てきます」

 

 バカだという自覚があるのはこちらもであった。

 本来なら美城のように素直な感想として用いる方が適切な言葉なのに、なまじ知っているだけに平然としていられないのだ。

 

「きゃっ! は……早坂!?」

「か……かぐや様……!?」

 

 無心で階段を駆け下りていると生徒会棟へ繋がる廊下の方向から主人の四宮かぐやが飛び出して来た。丁度同じように恥ずかしい言葉に耐えきれず、屋上から駆け下りた所まで同じである。

 

「早坂! 何か会長が……会長が変なの! 止めてって言ってるのに全っ然恥ずかしい事を言うの止めてくれないのよ!」

 

 かぐやは恥ずかしセリフの過剰摂取によりパニック状態であった。

 早坂も負けず劣らずではあったが、自分よりパニクってる人を目の前にすると段々落ち着いてきた。かぐやを前にすると従者モードが入ってしまう所も落ち着きに一役かっている。

 

「どうされました? 落ち着いて一つずつ話してください」

「だから会長がぁ……あれ? 早坂、五条くんとお月見してるはずじゃありませんでしたか?」

「はい。ですがかぐや様が屋上から逃げて行く姿を拝見しましたので、こうして馳せ参じたという訳です。それで、今回はどんな事をやらかしたんですか?」

「何で私が悪い前提なのよ!」

 

 

 

 

「俺はなんて恥ずかしい事を……」ぁぁぁぁぁ……

 

 

 本日の勝敗 全員敗北

 

 

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