五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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最近圭ちゃんと誕生日が同じな事に気付いたのでいっぱいちゅき♡


早坂愛はオトしたい

 早坂愛の持っているスマートフォンのカメラには、普段は淑やか静謐可憐のかぐやの笑顔で溢れてる。

 それは弱ったかぐやの無邪気な笑みや、アホみたいなケーキを誇らしげに眺める横顔だったり。そしてなにより、隣に白銀がいる時の花の咲いたような明るい笑顔。

 ここ一年でぐっと明るくなられたと、早坂は主人の変化に手を挙げて喜びたい思いはあるのだが、

 

「お見舞い、花火大会、誕生日、月見……これだけイベントがあって進展が無いってどういう事ですか」

 

 その明るくなられた先を結ぶ恋心の赤い糸がまだまだ意中の人とは遠い現状を嘆かずにはいられないのも、また彼女の中にある真実なのだ。

 

「文化祭マジックという言葉もあるように、イベントが起これば人との距離なんて詰まって行く物なのに。こんなの四回は付き合えてますよ四回」

「そんな……」

 

 カメラロールに収まった写真を眺めながら、早坂はちくちくとかぐやを攻め立てた。その棘から身を守るようにベッドの上のかぐやはシュンと小さくなる。

 

「生徒会ももうすぐ解散なのにどうするんですか? あーもう本当にダメダメですね。どうしてここまで下手を打てるんでしょうか」

「じゃあなに……? 早坂は色んなイベントがあったから経験豊富って事?」

「私、彼氏持ちですよ」

 

 事も無げに早坂は言ってのけた。

 容赦ないマウントであった。これほどのマウントは野生のボスゴドラかボスゴリラかでしかお目にかかれないだろう。

 というよりも上記四つのイベント全てに顔を出している五条美城を失念するなど、どうやら彼女も結構まいっているらしい。

 

「くっ……そうだったわね」

 

 かぐやは悔しそうに顔を歪めた。

 

「実際問題として生徒会が解散したらどうするんですか。会長は家庭環境がありますから出費の必要な部活には参加しないと思いますし、そうなると会う機会は激減かと」

「どうしろって言うのよ」

「早い所素直になられてみてはいかがでしょうか」

 

 そろそろ好きじゃないと言い通すには無茶な時期に来ている。いや最初からか。裏表なく接する早坂相手にはバレバレの筒抜けなのだから。

 眞妃にもバレている。紀かれんにもバレ……あれは置いておこう。

 

「そうやって簡単に言いますけどね! 仮に私が会長の事を好きだとして! じゃあ素直になったら上手く行くなんてそんな都合のいい事そうそう転がってませんから!」

「みぃが昔会って気になってましたと素直に言って来たから私達は付き合っていますが」

 

 まさにそんな都合のいい事が目の前に転がっていた。

 

「くっ……そうだったわね」

 

 かぐやは再び顔を歪めた。

 

「でも、だからこそ早坂が私を責める道理はないんじゃないかしら! あなたは別に何もしていないんですからね!」

 

 何もしていない。その言葉に早坂はピキッた。こめかみの辺りに青筋が浮かんでいる。

 何もしていないなど酷い言いがかりだ。

 彼が転校してきた当初あらゆる手段で情報を集め、四条家との繋がりが見えるとあまり関わらないようにして、何故か告白されていた自分は…………何もしていなかった。

 

「なんですか、髪の毛がキンキラキンだから脳みその方はつんつるてんだとでも言いたいんですか」

「そこまでは言ってなくない!?」

「髪の毛がおめでたいと頭の中もおめでたいと、そう仰りたいのですね」

「だからそこまでは言ってないでしょ!? ……え、何か嫌な事でもあった?」

「別に……」

 

 主人の問いかけにも関わらず、早坂は素っ気なく返した。

 これほど素っ気ない『別に』は沢〇エリカ以来二人目と言っても過言ではないかもしれない。

 

 嫌な事、というほどでもないのだが、早坂は少しばかり考える事があった。

 美城に平身低頭された十五夜の出来事である。

 『月が綺麗ですね』と言って来た後に、額面以上の意味はありませんと申し訳なさそうに彼が頭を下げて来た出来事。それを受け取る早坂の気持ちたるや。

 

(何もあそこまで謝らなくてもいいじゃありませんか。あれだとまるで私がああいう言葉を言われて迷惑みたい……)

 

「もしかして五条くんと何かあった?」

「何も」

「ならいいんだけど……」

 

 むしろ何もないのが問題だった。

 美城と会話をしている時、流れで「私も愛の事好きですよ?」はセーフなのに「月が綺麗ですね」はアウトなのは、その根底に流れる本気度の違いだろうという事に早坂は気が付いてしまったのだ。

 五条美城という人柄をみれば、正面切って『好きですよ』は単純な褒め言葉という事が分かる。対して『月が綺麗ですね』は普段好意を表に出すだけに、秘めた言葉は勘繰られるという事で……。

 そうではないと丁寧に説明されるのは、『そういう』好意ではないと証明するに充分だった。

 

「早坂、聞いてるの?」

「あ……はい。何でしょう」

 

 考え事をしていたせいか、かぐやの言葉を聞き逃していたようだ。何たる失態。腑抜けていると自分を叱咤して早坂は背筋をピンと伸ばした。

 

「相手の方から何でもしてくれる早坂に私の苦労は分からないでしょう、って話です。それとも何? あなたなら会長が告白してくるとでも言うのかしら?」

 

 ……これなら聞き逃していた方が良かったかもしれない。

 ぷんすか怒りながらドえらい挑戦を突きつけてくれたものである。

 

「それは……まあ、恐らく」

 

 出来ないとは思わないが。

 これは自意識過剰でも傲慢でもないつもりだった。

 ただ単純な事実として、早坂は可愛いとか美人とかいう褒め言葉が不足した事は無い程度には恵まれた容姿をしており、心理学の一つ二つ学んでいる下地から生み出される手練手管は並の男を一網打尽するに容易い。

 プライドの高さ故に動けないかぐやと比べれば、動きやすい早坂が攻略できる道理の方が通っているだろう。

 

「言ったわね! じゃあやってみなさいよ!」

「かぐや様」

「私にかかればどんな男もイチコロって言うなら会長を一日で落としてみなさいよ!!」

「かぐや様……」

「あなたはしてもらった側だから他人事だと思って簡単に言ってくれますけどね!」

「かぐや様っ」

「実際やってみれば私の苦労も判るってものですよ!」

「かぐや様?」

「口では幾らでも言えますからね。大言壮語も程々にして欲しいわ!」

「かぐや様ー!」

「……びっくりした、何よ早坂」

「倫理観を疑うような言葉を使うのは止めてください」

「はい?」

「私、彼氏持ちですよ?」

「くっ……そうだったわね」

 

 かぐやは三度苦い顔をした。

 

「しかしかぐや様の仰りたい事は理解できました」

「……早坂?」

「つまり現状に満足されてないという事ですね」

「早坂」

「そう言う事でしたらお任せください」

「早坂っ」

「私、早坂愛は五条美城の恋人である前にかぐや様の近従(ヴァレット)。そこまで言うならやりますよ」

「早坂―!」

「何ですか騒々しい」

「あなた自分が何を言ってるか分かってるの!? もし、仮に、万が一、例えば、よしんば会長が告白してきたら五条くんの事はどうするつもりですか!」

「安心してください。会長の事はきちんとフッておきますので」

「それのどこに安心できる要素が!?」

「かぐや様。恋愛が成就しやすい時期と言う物は存在します」

「急になに? そんな時期があるの? だったら早く教えて……」

「失恋時です」

「……!」

「私にフラれて傷心の会長を慰め、彼女の地位を手にお入れなさってください」

「ちょっと早坂……」

「では私は準備をさせていただくので」

 

 待ちなさい! というかぐやの言葉を聞かないまま早坂は主人の部屋を後にした。

 一人残されたかぐやは落ち着きなく部屋中を歩き回り始める。歩いたからと言って何か名案が浮かんでくるかもという、明日の朝一で白銀が告白してこないかくらいの淡い期待を抱いて。

 

(もし……もし仮に早坂の案が成功したら、会長の心は一回他の女の物になるという事に……。いやいや、まさかそんな。私を横に置いておきながら今更別の女の所へ行こうというの?

 もしかして会長……私の事嫌いになったんじゃ……。だから告白もしてこない……)

 

 考え出すとかぐやは一歩進む度に一回り小さくなっていく錯覚に襲われた。

 普段の彼女は強固な自信と絶対の才能の上に自己を確立しているが、右も左も分からない恋愛の事に関してはよわよわになりがちであった。

 

(はっ! まさか早坂は五条くんも差し出すつもりじゃ!?)

 

 かぐやはとんでもない事を考え始めた。

 目つきが鋭くてプライドの高い女性キャラのア〇ルは弱いという通説が一部ネット界隈でまことしやかにささやかれているが、目つきが鋭くてプライドの高い男性キャラもそうであるかは要審議である。する方なのかさせる方なのか、それが問題だ。

 会長が食いしん坊すぎる……。

 紀かれんがこの場に居たらそう言ってかぐやのこの想像を肯定してくれただろうが。

 

……

……

 

 

 くどい!! 誰を愛そうがどんなに汚れようが構わぬ。最後にこのかぐやの横に居ればいい!!

 

 

 長い思考の末、かぐやはとうとう世紀末覇者と同じメンタリティーに到達した。これでいつ早坂が白銀にちょっかいをかけても『まあ最後に私の所に居るなら良いし……』と耐えきる事が出来る。

 

 非常に危険な精神修行だった。

 長女だったから耐えられたけど次女だったら耐えられなかった。

 今なら恋心を剛掌波で解き放つ事が出来る気がする。

 

(やれるものならやってみなさい、早坂。四宮かぐやの心は砕けない。折れない。朽ちない。何をしたって……)

 

「かぐや様、明日はこの恰好で仕掛けますので」

「えっ……それフィリスのセーラー服?」

「はい。余計な用事を入れないようお願いします」

 

 かぐやの部屋がサッと開くと、早坂がチラッと顔を出して、服をパッと見せて来た。

 突然の事にかぐやは凡百の反応を返してしまった。QHK(急に早坂が来たので)

 それだけ言うと早坂はすぐに引き下がる。

 明日も早いので。というより早くない日が無いので。

 

「は、早坂……? やっぱりやめにしないかしら?」

 

 かぐやは日和った。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「今日会長に色仕掛けをするつもりなのですが」

 

 聞きようによってはNTR同人誌の導入みたいなことを早坂は言い出した。

 あっ、脳が破壊される、あっ。

 

「まあ、とうとう愛想を尽かされてしまいましたか?」

 

 そんな事を突如恋人から言われた美城は、何とも呑気に笑いながら彼女の言葉を聞いていた。ノートに落としていた視線をちょっとだけ上げて、早坂がどんな顔して言っているのだろうと気にする素振りをみせる。

 

「そういう訳ではありませんが……かぐや様のお言葉ですし」

「それなら仕方ありませんね」

「……もうちょっと無いんですか?」

 

 そう言う早坂はいつもの平静な様子とは異なっていた。

 冷たい美貌の面を、眉をハの字に下げて口元をきゅっと結んでいる。すこし困惑したようにも懇願するようにも見えるその顔に、美城は何か言葉を探した。

 もうちょっと?

 主人の命令に応える理不尽な貴婦人な状態に純情?正常?亀参上という事だろうか。

 

「え? んー……っと。私の可愛い愛にそんな事させられません!」

 

 下がっていた早坂の眉が元通りになった。美城には良く分からないがお気に召したらしい。

 

「……まあいいでしょう」

 

 嘘である!

 まあいいどころかだいぶ良かった。男らしい言葉が普段とのギャップで威力倍増といった所であった。

 こうして平気な顔をしていられるのは、幼少のころから受けていた教育の賜物である。早坂はかぐやを悲しませる四宮家の暗い所を憎んでいるが、この時だけはそれによって得られた精神力に感謝していた。

 もしそれが無かったら今頃美城の言葉にもんどり打って倒れて床の上をゴロゴロ恥ずかしさで転げまわっていたに違いない。

 

「それでどうしたんですか? 私に話してきたという事は、何か協力して欲しいという事でしょうか?」

「そうです。私もこんな事をするのは初めてなので……、もし会長がオイタしようものなら止めて欲しいのですが」

「えっ、普段からそんな短いスカートで全男子を術中に陥れている愛が色仕掛けは初めて?」

「これはお洒落です!」

「ふふっ、分かっていますとも」

 

 普段からお色気の術を使っているとは甚だ心外であった。秀知院の制服は真っ黒なセーラー服で、プリーツスカートではなく、かといってタイトな物でもないので長く丈を取ると野暮ったく見えがちだ。自分の武器である腰の位置が高くて手足が長いという点を生かすには、スカートは短い方が都合がいい。

 ただ、その結果晒した素足に他人がどう思うかはという所は、彼女の都合よく行くとは限らない訳で。

 もちろん早坂も美少女として十七年生きて来たので、自分が立っているだけで欲情の眼差しで見られる事は当然理解しているが、それは相手が勝手にしている事である。

 

「要するに自分から仕掛けるのは恥ずかしいという所ですか?」

 

 そういう事だった。

 

「……ですから、来てくれますか?」

「私で力になれるのでしたら、喜んで」

 

 その言葉通り嬉しそうな笑みを美城は浮かべると、少し首を傾げて早坂の目を上目遣いに覗き込んだ。あざとい。

 早坂はその赤い瞳に数秒間ほど時を奪われたように見入っていると、こほんと咳払いを一つしてある提案をした。

 

「それで……ですね、男の人が喜ぶような仕草はないか教えてもらおうと思いまして」

 

 内心の揺らめきを悟られないよう努めながら、今までの分をやり返すように早坂の方から美城のほっそりとした白魚のような手を取った。

 

 この提案が今日の早坂の主目的である!

 昨日、四宮かぐやが会長を落としてみなさいという挑戦を聞いてから、ずっと考えていた事であった。

 早坂愛という少女は、命令に唯々諾々と従ってそれで良しとする女ではない。主人の望みを果たしつつ、自分の欲望をも叶える悪魔的手法を考えていたのだ。

 

「そんなの目と目が合ったらある程度喜ばれるのではないですか?」

「……その魔族みたいな恋愛観やめません?」

「?」

「いやキョトンとされても」

「ですが愛だって目と目が合ったら喜ばれるような人生を歩んできたでしょう?」

「それはそうですけど」

 

 のるな早坂! 戻れ!

 彼女の中の16番隊長が本来の目的から外れ始めた会話のレールを正してくれたので、はっとして今の会話を打ち切った。

 

 居住まいを直して、早坂は美城に改めて言う。

 

「みぃは、どんな女の子の仕草が好きですか? 参考までに」

 

 その主目的というのは、特訓である。

 早坂は異性を篭絡するためのあらゆる術を手中に収めているが、実践となるとからっきしだった。

 そこを一応生物学的には男の美城に相手になってもらって精度を高め、より高めた色仕掛けを行うつもりだ。

 

 ……というのは建前!

 早坂はここで美城の好みの女になり切り、彼に意識をさせる事こそが目的なのだ!

 

 特訓を称して色香で、もしくは可愛らしさで美城の心に爪痕を残して彼に『特別な女性』と思ってもらって……そのすぐ後に他の男に愛想を振りまけば、いかに美城と言えど嫉妬の一つ二つするのではないだろうか。

 そうなったら今度は美城の方から自発的に『私の可愛い愛にそんな事させられません!』と言ってくるはずだ。そうに違いない。そうであってくれ。

 ここまでくれば後は簡単だ。今も付き合っているという体裁はあるのだから、そのまましれっと付き合ってしまえばいい。

 これが早坂の描く三方(かぐや、早坂、美城)一両得作戦であった。

 そのためにはまず美城にドキドキしてもらう必要があった。戦いはすでに始まっている。

 

 ここまで見て何か既視感を抱いた読者諸兄もおられるだろう。

 作戦の一つ一つは頷ける物もあるのに、それを繋ぐ糸が砂糖菓子で出来ているような危うさを感じる発想は……。

 

 早坂が『新手のバカですか?』とか言っているかぐやの発想とかなり近しい物なのである!

 四宮家侍従の叡智は地に堕したのかもしれない。

 

「女の子の仕草ですか……」

「難しく考えなくても、こういう感じが良いなとかありませんか。声が凛とした方がいいとか、逆に柔らかい感じの方がいいとか。髪をかき上げる姿がいいとか、上げて見えるうなじがいいとか」

「女の子というだけで可愛いのですから、よほどみっともない姿でない限りは気にしませんけど」

「それでは何の参考にもなりません」

 

 女の子というだけで気になるなら、今現在一番近くにいる女の子の事を気にして欲しい。

 しろ(威圧)。

 

「仕草ではありませんが、一つ求めるとすれば」

「はい」

 

 早坂は前のめりになって美城の言葉を待った。

 

「私の容姿に勝手に敗北感を覚えないで欲しいですね……」

「あっ……」

 

 その言葉で彼女は五条美城という男がどれだけ見目麗しいか改めて思い出した。

 平凡とは言わないが、世界にありふれた金髪の早坂でさえ嫉妬混じりの奇異の目で見られるのだ。そうそうお目にかかれないアルビノの美城など、どのような目で見られるのか。

 

「それで五人にフラれてますから、私」

「ちょっと待ってください」

 

 今この顔に最もふさわしくない言葉が出て来た気がする。

 初耳だった。

 というより美城も秀知院に来てからは白銀にしか話していないので、初耳でなかったら彼の良識を疑わなければならない。

 

「詳しく……」

「説明してください」

「今、私は冷静さを欠こうとしてます」

 ずい。

 ずいっ。

 ずずいっと早坂はとんでもない事を言った美城ににじり寄ると、今にもつかみかかりそうな距離まで顔を近づけた。

 

「ど、どうしたんですか愛。自分で言うのもなんですが、私って結構レアな人間ですから、興味本位で近づいて来る人なんて珍しく無いんですよ?」

「それでホイホイ五人の女と付き合ったと」

「まあデート一回目の待ち合わせでフラれていますけどね」

 

(ふんっ……所詮は物珍しさだけで近づく短慮な女など、その程度でしょう)

 

 早坂の機嫌は良くなった。

 

「そうですか。ふふふ……そーですか♪」

「何か楽しそう。性格悪いですよ愛」

「すみません」

 

 もう少しいじめてあげても良かったのだが、あんまりいじめすぎて嫌われてしまっては本末転倒である。上手く気持ちが表現できなくていじめる小学生よりは賢い自覚があるのなら、手法を変えるのが正しい大人の姿と言う物だ。

 

「私の事よりも、今は会長に仕掛ける方法でしょう。いつ仕掛ける? 私も同行する」

「五条院」

 

 そのままエジプトに飛び立ちそうな意気込みだが、決戦は駅前にある本屋で行われるので三分で着ける。

 

「まずどういうプランか聞いていいですか?」

「はい。会長が本屋に訪れてレジに並んだ所をまずは狙います」

「上手いですね。並んでいる時だと逃げれませんし」

「パソコンのガイドブックでも持って会長に『教えて』と併設されているカフェに」

「さすが愛。人間の心理にまで踏み込んだ深い一手ですね」

 

 教えて作戦!

 片付けをしない子供に『片付けなさい』ではなく『どこに片付けるの?』と質問形式で指示すれば、子供は親に『教え』ながら片付けをする!

 人間の本能的な教えたがりの心理を巧みに利用した策略に、美城も思わず舌を巻くほどであった。

 

「ですが愛を満足させるような情報を取り扱っていますかね?」

「カフェに行ったら機械オンチな女子を演じますよ。パソコンやらに詳しい女子なんて男にとっては奇妙というか、面白くないでしょうし」

「私にはそう言う心理はいまいち理解できませんね……。愛が電子機器に詳しいのは努力の結実ではありませんか」

 

 突然の褒め言葉に、早坂はむずがゆくなって肩を竦めた。

 何であれ努力を認めてくれるのは嬉しいのですが……、と褒められる事に乏しい彼女は良く分からない感情に困ったまま強引に話を進めようとする。

 

「あなたはそうだとしても、私が言っているのは一般論の話です」

「会長も同じような事を言うと思いますが」

「……こほん。それでバイト……ああ、かぐや様のメイドはそういう設定で行きますので。そこで溜めたお金でパソコンを買うという話をします」

「そうすると話がそこで終わってしまいますよ?」

「パソコンで何をするかと言う話でもします。犬とか猫の動画を見ているというのは、男性の好感度高めでしょう?」

「もっと可愛らしくいきませんか」

「と言いますと?」

「『猫の動画とかよく見るんです。にゃーん♪ ……なーんちゃって……』みたいな」

「あざとさの極み……!」

 

 あざとさ全開で挑むつもりだった早坂もたじろぐほどのあざとさだった。この男普段からそんな事してんの?

 

「猫の動画や画像を見せながらやると効果抜群です。私は前の学校でこんな感じの事をしていたら『五条美城にゃーんと言うの禁止令』が学年集会で可決されました」

「生徒会は暇なんですか?」

「公立高なもので……」

 

 悲しくも無いし完全にトチ狂ってるとしか思えない過去だが、当の美城を前にすると冗談にも思えない不思議な説得力があった。

 

「話を戻しますけど、パソコンの話を終えても勉強を教えてもらいますよ。会長の一番の得意分野でしょうし、一気に親密度が上がると思います」

「なるほど。会長も切磋琢磨しあい高め合う人ですから、とてもいい作戦ですね」

 

 なお白銀は並々ならぬ思いで一位に懸けているためライバルは蹴落としたいと思っている人物である。ただ、他校という設定のハーサカにはそんな事をする必要も無いので、彼の生来の性格通りきちんと教えてくれるだろうが。

 

「そして勉強で疲れたと言いながら居眠りして寝顔まで晒す……無防備な姿の女子にさしもの会長もドキッとせずにはいられないはずです。これはもう落ちたでしょう」

 

 堕ちろ! 堕ちたな(確信)

 

「付き合ってよ、と言いたげな素振りでもすれば会長も男ですから食いつくと思います」

「ごめん俺好きな人いるから……」

「詳しく……」

「説明してください」

「今、私は冷静さを欠こうとしてます」

 

「いえ、会長ならそう言うだろうなと思いまして」

「あ、会長の……ですね」

 

 美城が何を当たり前の事をと言いたげな顔になった。

 現国の成績1の者の思考回路に落ちたのかと早坂の頭を少し心配し始めた所だ。あるいは余りの忙しさに脳が溶けているのかもしれない。早坂あなた疲れてるのよ。

 

「では以上を踏まえてシミュレーションに付き合ってください」

「会長役をすればいいですか?」

「いえ、立ち位置はそうですが、男役としていてくれればいいので演じなくていいです」

「うぅっ……」

「泣いた!?」

「男扱いしてくれる……」

「何を言ってるんですか。仮にも私の、こ……恋人でしょう?」

 

 恋人、という言葉を発する時にするりと出てこなかった事を早坂は自分で驚いていた。

 それが本当の関係ではないからなのか、認める事に抵抗があるからなのか、けれどその胸を締め付ける苦しさは、不思議と不快ではなかった。

 なお美城は泣き真似をしていたせいで言葉に詰まって少し恥ずかし気な早坂の顔を見ていない模様。は? 死ね(重曹ちゃん並の感想)

 

「そうでしたね。では愛のお手並みを拝見させていただきます」

「では…………」

 

 と言って早坂は目を瞑ると、一回深呼吸してゆっくりと目を開いた。

 

「あ~。やっぱり五条くんだ~」

 

 次の瞬間そこに居たのは、普段の凛とした声色の早坂でも、軽い調子のギャル子ちゃんの早坂でもなくて、レモンのキャンディーにはちみつを垂らして綿菓子で包んだみたいな全体的に甘ったるい雰囲気の少女・ハーサカだった。

 いつも吊り上がっている目元を少し和らげて、一文字に結んでいる口を笑みいっぱいに彩っていて、金色の髪のような明るい少女だろうという印象を与えるには充分だ。

 

 ただ……

 

「ピンポーン! 良かった~覚えててくれたんだ~!」

「それに比べて私の買う本は俗っぽくてはずかしいなぁ……。参考書の一つでも買っておけばよかったよ」

「あ! よかった! じゃあデザインで選んじゃお~♪」

 

 

 甘い猫なで声で上に記した事を情感たっぷりに演じる早坂を、美城は非常に感心したような面持で見つめている。ただそれは技法に感心しているのであって、ただ良し悪しを見極める目線に、特に感情が湧いていない事に演じている方は気が付いた。

 早坂はそんな彼を見て不安になって演技を途中でやめてしまった。そもそも彼女にとってリハーサルもシミュレーションもいまさら必要ない。なのに美城の前で恥ずかしい姿を見せるのは、彼の好みかもしれないと期待を抱いていたからだ。

 そうでないなら、ただでさえ恥ずかしい姿をまじまじと見られたくはない。ただの恥さらしにはなりたくないのだから。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、駄目でしょうか?」

 

 少女は砂糖の衣を脱ぎ捨てていつもの早坂愛に戻った。

 

「そんな事はありません。とても可愛らしいと思いましたけど」

「ですがあなたは特に心動かされた感じはしなかったのですが」

「それは私がハーサカさんと愛が同一人物だと知っているから、どうしても違いようを比較してしまうだけですよ。会長には通じると思います」

 

 当たり前だ。

 早坂は思う。世の他の男子に対してああいう可愛い女子が通用するのは理解している。今彼女が焦点を当てているのは美城に通用するかどうか、その一点のみだ。

 

「ただ、恥ずかしがっている感じはありましたね。どうしてもそこで演技っぽさが出てしまうというか。いっそ普段の愛で挑んでみてはどうでしょう? 会長はギャルモードの愛しか知らない訳ですし」

「そう……ですね」

 

 それがこうも通用しないとなると、さすがの早坂と言えど少しくらい落ち込む。十五夜で謝られた意味を振り返った時のように、五条美城は早坂愛に協力者以上の好意を抱いていないと突きつけられるようで。

 悲しいのか、悔しいのか、彼女自身もはっきりと決められない感情に、心の水面がさざめき波打つ。

 

「みぃは、どんな私がいいんですか?」

「どんな愛も好きですよ」

 

 ほらこれだ。

 彼がどんなに愛を与えられて過ごして来たにしろ、どんなに愛を振りまいて生きて来たにしろ、男女の意味で好意を抱く相手にこんな事が言えるはずがない。

 

「もしかして、私に見せていない素敵な愛の一面がありますか?」

 

 あはは、とからかうような笑顔を零した美城にふと言ってみたい事が思い浮かぶ。浮かんでしまう。

 

「そうですよ」

「どんな一面でしょう?」

 

 わくわくした顔になった彼が、キラキラ瞳を輝かせて見上げてくるので一旦落ち着かせようとコホンと早坂は咳払いをした。

 

 一息に言ってやろうと思った。その天使の横顔に叩きつけてやれ、と。

 

「あなたの事が……」

 

 好きな私、とか。

 

 そう言ってやるつもりだったのに、口を開いた瞬間に、『嬉しいです』と平然として受け止められる未来が容易に想像できて、単純な口先だけでの言葉にどれほどの意味があるのか、ここまで来て懊悩する。

 

 今まさに何かを言う所だった早坂が急に止まってしまったので、戸惑うのは美城も同じであった。特に自分の事を指して何かを言おうとしているのだ。嫌われていないと信じているとは言え、何故か不安になる気持ちは人並に美城も持っている。

 

「あ、かぐや様からメールです。生徒会が終わったと。私は今から準備しますので、後ほど」

「へ? 愛?」

 

 早坂が壊れた時計のように止まってしまい、そのまま見つめ合っていると、突如として動きだした彼女は言葉少なくそんな事を言って帰り支度を初めてしまった。

 何が何だか、急に動き始めた時について行けないように戸惑う美城は理解不能な早坂の言葉に、首を捻って名前を呼び掛ける事しか出来ない。

 

「駅前の本屋ですよ」

 

 振り返りもせずに早坂は言い、そのまま部室を飛び出した。

 

 何か気に障ったのでしょうか。

 まさか特別な気持ちを抱いて欲しいと彼女が思っているとは知る由もない美城は、もう一度首を捻るしかなかった。

 

 

本日の勝敗 早坂の敗北

 




『五条美城にゃーんと言うの禁止令』の発案者は甲斐甲斐しく世話を焼いて来る男の娘のせいでホモ疑惑が持ち上がっていた四条帝という生徒だそうです
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