ウマ娘にハマって週一更新に間に合わない作者の屑なのユルシテ……ユルシテ……。
最推しはオグリキャップなんだけど私服バクシンオーの彼女感すごい。しゅき。
「ふふふ……」
「かぐや様、いかがされました?」
夕暮れの東京は人でごった返している。そんな街中の賑わうとある書店にて、四宮かぐやは何ともいえない笑い声を零していた。
勢い任せに従者である早坂愛に『会長を落としてみなさいよ』と言ったはいいが、その言葉の誤謬性に今更ながら気が付いたからだ。
自分が落とす前に早坂に落とされては意味が無いのだし、仮に早坂が成功でもしようものなら、四宮かぐやという少女の恋愛における無能を一番の味方によって明かされる事になる。
いかに世紀末覇者のメンタリティーを手に入れたとは言え、傷つかない訳ではない。複雑な乙女心だった。
「こちらにお座りください。そろそろ愛が会長と接触しますよ」
「どうして五条くんは平気な顔して座っていられるのよ!?」
そして更に笑うしかないのは早坂愛の恋人である五条美城もこの場にいるという事だ。
え? 何なの? そういう趣味があるの?
「それにあなたの恰好……」
「そういえば風邪をお召しになられていたかぐや様は記憶が無いのでしたね。今の私はミーア・ゲオルギー・ハーサカという設定です」
そういって微笑む同級生の男は普段と全く異なる金色の髪をして、青い瞳が輝いていた。かぐやが風邪を引いたときお見舞いに来ていた美城が、白銀に対して『愛のお見舞いに行ってきます』と言っていた美城が四宮別邸に来ているという事実から、かぐやと早坂の繋がりに行き当たらないようにした変装……ハーサカの腹違いの妹という設定のミーアちゃんだった。
見事な女装である。
え? 何なの? そういう趣味があるの?
かぐやはそう思わずにはいられない。
「何!? 何が起きたらそうなってるんですか!」
「それは『早坂愛を誘いたい』をご覧ください」
突然のメタネタはギャグ作品の特権!
「あ、レジに並んだ会長に愛が接触しました」
「何でそんな平気な顔できるんですか!」
「え? かぐや様の要望を叶えようと必死な愛ですよ? 可愛いじゃないですか」
「そ……そうよね、私が言った事よね」
滅茶苦茶な煽りかと思った。
そうで無いならこの五条美城という男は他の男に自分の恋人を弄ばれて平気な変態なのかもしれない。
(ま、まさか!)
その時かぐやに電流奔る……!
(これは高度な早坂達のプレイと言うやつなのでは!?)
自由に時間が取れない早坂が、かぐやの命令という建前を手にして行うイチャイチャだと想像した。今日は来客もないので時間を充分に使っていいとは言ったが……。
そんな事を考えている間にも状況は変化していく。
「ちょっとどれがいいか教えてよ♪」
「まぁ少しの間なら……」
「やったあ!」
早坂……いや、ハーサカが明るい猫撫で声で白銀に『教えて』作戦を実行に移していた所だった。
「さすが愛。上手いですね」
「ねえそれだけ!? 何か他にいう事があるんじゃないの!?」
「私の可愛い愛に何てことさせるんですか!」
「うわあああああああああ」
悪辣な手段でも恥じる事なく振るって来た過去を持つかぐやではあるが、正面切って啖呵を切られるとさすがに傷つく。今回ばかりは早坂に悪い事したかな、と負い目があるだけになおさらであった。
(これは恋愛映画で見た他の男にアプローチっぽい事をする女性にその恋人が嫉妬で何かこう……イチャイチャするやつだわ!)
かぐやは混乱した。なまじ色事の知識を得だしてしまっているが故に恋愛の筋道を立てられるのが厄介な所である。普通だったらそうかもしれなかったが、彼等の関係は普通ではなかった。美城にそのつもりは無い。早坂は普通のラインの方をチラチラ窺っているが。
パソコンの事教えて作戦から、勉強教えて作戦に切り替えた早坂は相槌多めに白銀の教え方に聞き入っていた。
そこからポワポワ眠そうな声を出して、『本番では全然駄目で』と弱音を吐き出す。
「毎日十時間くらい頑張ってるんだけど……だから今も眠いんだぁ……」
「でも睡眠不足は健康に……」
「すぅ…………すぅ…………」
「あの……。参ったな」
ふわぁ……と大あくびをする金髪碧眼の美少女は、そのままカフェの机に突っ伏して寝てしまった。計画の最終段階に突入した事を美城は理解する。
「勝ったな」
「ああ」
そんな超有名アニメの指令官みたいな会話が彼の脳内で繰り広げられていた。早くシンエヴァを見たいのだが美城は暗い所で明るい物を見るのが極端に苦手なのでソフト化が待たれる。
ただ彼はネタバレが平気な人間なので見た感想を語り合う友人のグループに平然と入って行くタイプだった。年上の知り合いからこの世の終末のネタバレをまとめた本をお薦めされて目を通している彼にとって、ネタバレは恐れるに足りないのだ。
聖書って言うんですけどそれ。
「寝てしまいましたね。長丁場になりそうなので飲み物を買ってきます。少々お待ちください」
事前に作戦を聞いていた美城は慌てる事なく席を立ち、いつものような感じで話しかけるのだが、それがかぐやには不気味に思えてならなかった。
彼女は喜ぶと口数が減り、怒ると口数が増える。培われた教養によって美しい物につらつらと品評を述べる事が出来るが、もしそれが無かったら『むり……とうとい……』とか言っているサブカル女と同列の存在になっていたかもしれない。
そんなかぐやは美城が自分と逆の、つまり喜ぶと口数が増えて怒ると減る人間だと分かって……いるつもりだった。磁石の反対の極がくっつくのと理論的には同じだと思う。
……くっつく? 早坂にクソほど怒られそう。かぐやは物騒な考えをしまい込んだ。
とにかく、会話をスパッと切って飲み物の注文に行った彼は、とても怒っているのではないか。
可愛い愛(これは言った)の可愛い可愛い寝顔(これは言ってない)を他の男に晒す事に対して怒りという感情が表面に現れてもおかしくないと、聡い彼女は考えるのだ。
『愛、さきほど会長に話しかけている姿……とても可愛らしかったですよ?』
『しょうがないでしょう? かぐや様が言った事なんですから』
『本当にそうですか? 会長はカッコいいですし、頭も良くて将来有望ですから、相手がその気なら乗り換えようかな、なーんて思ってたり』
『ばか。そんな事言うみぃなんて知りません』
『ふふっ、すみません。どうしたら許してくれますか?』
『分かってるでしょう? ……んっ……』
(みたいな事する気なんだわ!!)
しません。
「いかがされました、かぐや様?」
げえっ五条!
「な、何でもないわよ五条くん。お金は……」
「もちろん私が払いますよ。かぐや様のような美しいお方の糧になれた方が、お金も幸せと言う物でしょうから」
美城は見慣れない金髪のカツラの下でにこりと微笑んで、主人(という設定)に恭しく紅茶を差し出した。かぐやは彼の褒め言葉の達者さがホステスみたいだと思う。いや、一応男なのだからホストか。
世の中には二種類の人間しかいない。私か私以外か。
……いやあなたはそうでしょうよ。
お水の世界のようにもてなされて、かぐやは早坂のピキりポイントを着実に積み重ねている気がした。
寝入ってるふりをしている早坂が、白銀の事を薄目で窺っているのが自分と美城を観察しているような錯覚を覚えるほどに。
(早坂……早く起きなさい。どうせ会長を落とす事なんかできないんですから……!)
…………
「ん……あれ? 私寝ちゃってた!?」
かぐやの願いが通じたのかどうか、早坂は一時間後に目を覚ました。もっと早く起きろ。かぐやは美城が前の学校で四条帝に見合う女子を学校中から探していた、という女衒染みた事をしていた過去を話されてどんな顔をすればいいのか分からなかった所なのだから。
「何度か起こしたんだが……」
「えっ。もうやだ……恥ずかしいぃ」
きゃー。
恥ずかしさで真っ赤になった顔を掌で覆ったハーサカちゃんはか細くて可憐な声を漏らした。その弱々しさは男の本能に訴えかけるような、庇護欲をそそる可愛らしさに満ちている。
「私なんか放って帰っても良かったのに……」
「いや、無防備な女の子放って帰る訳にはいかんだろ。勉強疲れは努力の証だ」
白銀は気にした風でもなく、寝入った女子をそう慰めた。
本当にそう思っているから出る、彼の気取らない優しさだ。
「白銀くん……」
か細く、そして震えるような声でハーサカは白銀の名前を呼んだ。その顔は真っ赤に染まって、驚いたようにも感じ入るようにも見える見開いた目が、少し潤んで彼の事を見上げていた。さっきまでとは異なり、単なる恥ずかしさ以外の色が混じった頬の赤は、甘酸っぱい感情の迸りのように彼女の頬を染めている。
恋に落ちた瞬間っぽい顔!!
『この人は今まで出会ったどんな男とも違う』みたいな純情っぽい顔を早坂は自在に作り出す事が出来る。
「あの……えっと、ね? 白銀くん……」
顔を赤らめた女子。言いよどむ口ぶり。こちらを気にして欲しそうな仕草。
もしかしてこいつ俺の事好きなんじゃね?
「勝ったな」
「ああ」
世の男子なら脳内でそのような会話が繰り広げられて人類補完計画(意味深)のコマを一つ進める決意を固めたに違いない。
白銀でさえ『もしかして』と思う程だ。
「その……」
赤い頬に、潤んだ青の瞳で訴えかける早坂。ただここで彼女が己に課した縛りが次の一手を封じていた。
自分から告白はしない、という物だ。白銀から来てもらい、それをすげなく断り、傷心になった所を主人に美味しくいただいてもらう、というのが早坂が甘く見積もったこの計画の全容なので、自分から行ってしまってはそれが崩れてしまう。
(さて、どうしたものでしょうか?)
早坂はじっと白銀の方向を見つめながら頭を回していると、
「あ、目が合いました。かぐや様、帽子を目深に」
白銀の肩ごしに、堂々と変装した恋人の事が目に入った。
美城は見つめ合ったその視線に対して、にこっと笑いながら小さく手を振る。
(あ……)
早坂の表情が変わった。
上手く『作っていた』表情が崩れていく。
柔らかく何かを言いたそうな唇をきゅっと固く結んで、大きな青い瞳の奥にある黒目の部分が開くと、青色の持つ刺々しさが穏やかになった。
恋に落ちている人の顔!!
どんな人間であっても、瞳孔の大きさを自分の意思で変える事は出来ない。それの大きさを変える事が出来るのは、光の明暗と、好きな人を見ている時という非常に限定された状況でしかありえない。
それは、嘘だらけのハーサカが今日初めて見せた本当の感情だった。
「あの、白銀くん」
早坂が美城の方を向いたのは一瞬、その後にすぐ白銀の方向へと向き直ったので、変わった表情のままで目の前の男の事を見つめていた。
ぽい、ではない本物の感情に一瞬だけ彩られた少女に白銀はあっけにとられると、何かを言いたそうな口元が言葉を発する前に、慌てたように先に口を開いた。
「ごめん。俺、好きな人いるから」
こちらを見つめる顔が明らかに変化した事に当然ながら気が付いた白銀は、それがどういう意味なのか考える。
思いつめたように大きな瞳を揺らしながら、真っ赤な頬をして何か言いたいけど言えない口元、そんな顔をして男の顔を見つめる女の子はどういう感情ですか、という問題と考えれば……
もしかしてこいつ俺の事好きなんじゃね? となるのは必然だった。
そいつが好きなのはお前の向こうにいる男だぞ。
「あ……会長がお断りされましたね」
「そうですね」
早坂の目論見は潰えて、かぐやの言った通り『会長を落とすなんて出来っこない』だったのだが、色々と状況が重なり過ぎてほっと息を吐く気持ちにもならない。
とにかくこれで終わりね……、と辟易したように肩を落として席を立とうとするが、早坂はまだ何か仕掛けるようだった。
「え? 何言ってるの白銀くん」
「はい?」
「お友達にならないかって言おうと思ってたのに……ふふっ♪ そっかそっか、白銀くんは私が告白してくるって思ったんだ~♪」
あろう事か、白銀をからかいだしたのだ。美城のよくない所が似てきている。
「連絡先交換しようかなって思ってたんだけど、そんな自意識過剰な君には教えられないかなぁ」
「いや、そんな。俺は」
「あははっ! 白銀くん、今日はありがと。また機会があったら会うかもね」
「……ああ」
「じゃあね~。あ、モテてるって自信はあっていいと思うよ?」
「だからあれはそういうんじゃないから!」
もう一度あははと笑うと、今度こそ早坂は席を立って店を後にした。金髪をなびかせて去っていく白いセーラー服の後ろ姿を見ながら、白銀はポツリと呟く。
「女ってのは分からん……」
白銀の女子に対する警戒度が上がった。
☆
「よかったあぁぁ」
早坂が出た後ろに続いて店を出たかぐやは、作戦後の待ち合わせ場所に指定していたスペースでようやく一息吐けた。
「ほれ見た事ですか! やっぱり会長は手ごわいでしょ! 早坂に会長を落とすなんて……」
「ええ、そうですね」
「……あれ?」
かぐやとしては少しくらい悔しそうな反応を返してくると思っていたのだが、いかにも平然として髪をサイドに結び始めた従者を見て首を傾げる。
「よかったじゃないですか。会長が簡単に他の女になびくようなお方でなくて」
「ええ……まあ」
「今は……五時ですか。かぐや様、今日は時間を使ってもいいと仰っていましたが、余ってしまいましたね」
「それってあなたの匙加減でしたよね?」
「あー傷つきました。彼氏がいるのに他の男の人に色目使わせる、なんて酷い命令でしょう」
「悪かったとはね! 悪かったとは思ってますけどね!」
「そこで傷ついた私にご褒美を取らせるのが良き主人という物ではないでしょうか?」
「何よご褒美って」
かぐやに第六感と言う物があれば未来予知かもしれない。彼女は次に早坂が何を言うか分かっている気がしたからだ。
「みぃと遊びに行ってもいいですか」
(やっぱりーーーーー!! この後にイチャイチャするやつだわ!!)
何という事だ。人物の洞察に自信のあるかぐやではあるが、こうも予想通りだとある種の恐怖すら覚える。話の持って行き方が淀みなさすぎて、最初からこのためにかぐやのわがままを聞き入れたのではと疑心暗鬼に陥った。
「愛、そんな勝手な事を」
「いいんですよ。いつもこき使ってくださっているんですから、たまには役得がないと」
金髪で同じくらいの背格好。並んでいると早坂の姉妹にしか見えない美城はぼそぼそと彼女に耳打ちした。ひゃっ、と叫びそうになるのを堪えながら、じんじんと熱を持つ耳を押さえて隣の彼に囁き返す。
「い……いいでしょう。早坂、五条くんと楽しんでらっしゃい」
そんな様子をイチャついてると勘違いしたかぐやは、苦い笑顔を浮かべながら答えた。諦めからの投げやりな言葉であった。
「ありがとうございます、かぐや様」
「ほら行きましょう? みぃ。まずその恰好からどうにかしないといけませんね」
「着替えをあのホテルのそばにあるコインロッカーに預けているので、先にそちらに行かせてください」
「いいですよ」
美城の方が慇懃に礼をかぐやにすると、気が逸っているような早坂が、彼の袖をくいっと引いて早く行こうと急かしている。いきなり手を掴めない辺りがクソかわであった。
恋人達がそのまま東京の人混みの中に消えていくのを、かぐやはただただ見送っていた。九月の風はまだ温かいはずなのに、一人で受けるその風は冷たい気がして、かぐやは早く会長に告白させようと決意を新たに帰路に着くのである。
本日の勝敗 痛み分け(恥ずかしい思いをした早坂。気を揉んだかぐや。巻き込まれた白銀)
☆
「ただいま戻りました」
「早坂、お帰りなさい。どうでしたか? 五条くんとのお出かけ……は……」
七時を回って帰宅してきた早坂が、いつものエプロンドレスに身を包んでかぐやの自室に訪れた事で、そろそろ夕食の時間かと勉強していたかぐやは顔を上げる。
私のお願いをダシに遊ぶ時間は楽しかったですか?くらいの嫌味でも言ってやろうかと思っていたのだが、早坂の顔を見ると言葉に詰まった。
(あれ……なんだかつやつやしてませんか?)
白い肌がちょっとだけ血色よさそうな桃色に色づいていて、それがどういう事かすぐに思い当たる。
(髪も少しぺったりしていて……シャワーを浴びた!?)
「は……早坂、ずいぶんと楽しかったという様な顔をしていますが、何をしてたんですか?」
「そうですね。ストレス解消のためにバットを振り回してきましたよ」
(バットですって!?)
性的疑心暗鬼!!
まず早坂の状況を確認してみよう。
濡れているという事は無いが、充分にセットの時間を取れていないのか普段よりぺったりとした髪。どこか満足そうな表情。つやつやと血色のいい肌。
やったのか!!
軒下に置かれた鉈を見た美津代さんのように察せざるを得ない。ヤッてんなこれ。
ただでさえかぐやの中で早坂達は主人のベッドで神ってるという疑惑があるのだ。そのような疑いを持たれても仕方がないかもしれない。
しかしバットという単語だけでセッ……を連想するのは行き過ぎた性的疑心暗鬼の表れのようにも思われる。かぐやは基本的に疑り深い性格をしているので他の意見を求めた。自分の中にいるフロイトに聞いてみる事にする。
【夢診断的には棒状の物や出っ張った物は男根のメタファーなのでバットはおちんちんと言って差し支えない】
世界的権威に認められた事でかぐやの精神はより強固になった。もうなにも怖くない。もはやこれは疑心暗鬼ではなく確信へと移り変わっている。
待って、という事はピョコっと飛び出たサイドテールも男根のメタファー? 早坂はえっちだなぁ。
(バットで何をするというの!)
バッティングでしょ(ピュア)。
「いきなり何を言い出してるの早坂!」
「そんなに怒るような事ですか?」
「当たり前でしょう。そんな、バットをどうこう……」
「行った事がないからそう思われるだけですよ。今度一緒に行きますか?」
「正気!?」
「今どき女友達同士で行くなんて珍しくもないですよ」
「どういう事!?」
数日前に藤原が持って来たすごろく以来のどういう事!?であった。それだとバットがないではないか。お嬢様の疑問は尽きない。
「メインの客層でない事は確かですけど」
「そうよね……そんな事がそうそう……」
「今日は野球部の中学生が沢山来てましたね」
「どうなってるの!! 青少年健全育成条例に反していますよそんなの!」
「何怒ってるんですか。むしろ健全でしょう」
「中学生が(えっちなホテルに)来てるのよね?」
「中学生が(バッティングセンターに)来てるんですよ?」
「「は?」」
二人は致命的なすれ違いをしたまま、互いに信じられないような物を見た目をしていた
何を言っているのだろうこの女は。かぐやは思った。
四宮の覚えめでたき早坂の末裔の娘がこの有り様では未来が偲ばれる。将来は自分の母が早坂奈央に頼んだように、早坂愛にも乳母の役目を頼むかもしれないと思っていたが……。
どうせ近々白銀御行は自分に告白してくるのだろうし、そうなれば白銀を婿に迎えて大学を卒業したくらいに子供をもうけるだろう。
早坂も美城を嫁に迎えて大学を出たくらいに子供をもうけるだろうから、歳の近い子供を家の事を任せる彼女に役割を担ってもらうのが効率的ではないだろうか。
何かとても重大な論理の欠陥があった気がする。しかし過去に同じような事を言った記憶があるような気がするので自分は間違っていない。
一方の早坂はあまりに物を知らなすぎると呆れていた。
なにもバッセンくらいで……。
「知らないからと言って過剰に怖がるのもどうかと思いますよ」
「私そんなおかしい事言ってますか?」
「そんな二百円三百円くらいの事で……」
「小銭で行けるの!?」
「駄目ですよかぐや様、何でも万札で解決しようとしては」
「最低二千円三千円の世界だと思ってました」
「月間パスとかの値段ですね、それは」
「パス……!」
「みぃが持ってるので今度借りてきましょうか?」
「いいわよそんな……え!? 五条くんそんなの持ってるんですか!?」
「意外と体動かすのが好きなんですよ、彼」
「ちょ、ちょっと待って……そんな『彼の意外な一面知っちゃった』で済ませていいの?」
そこまで来ると感性を疑う。
昔、激烈に喧嘩した時の事を思い出すほどだった。
『家に帰ってママのおっぱい吸ってたらどうです』
『何よ早坂。私の吸ったおっぱいはあなたの母親のおっぱいですけどそれでもいいんですか』
『いい訳ないでしょう常識と言う物が無いんですか』
という会話を繰り広げた時くらいに感性を疑う。幼い頃とは言え罵倒のエッジが利きすぎていた。
「みぃ凄かったなぁ……」
「ちょっとうっとりしないで」
きっつ。
身近な人の性的な話きっつ……。かぐやはげんなりしてきた。
「一番大きなバットで」
「大きいの!?」
「凄い飛ばすんですよ? カッコいい……」
「カッコいいと評するあなたが今から心配なんだけど」
「しかも連発ですよ」
「え!? 男の人って一回しか出せないんじゃ?」
「そうですね。というより一回も出せない人だって珍しくありませんし」
「それは病気を疑った方がいいんじゃないかしら」
「そんな中みぃは六連発を放つと」
「六連発!?」
イキスギィ! (≧Д≦)ンアッー!
「私もさすがに興奮しました」
「もっと早い段階からしてあげて!?」
「ギャラリーも集まってきてちょっとしたお祭り騒ぎでしたよ」
「はあー!? 他の人が来れたら駄目じゃない!」
「そう言われましても、ネットくらいしか遮る物が無いんですし、仕方ありませんよ」
「ネットくらいしか遮る物がない!? そんな所だから二百円くらいなんじゃ……」
「二桁に乗った辺りからどよめきは歓声に変わりましたね」
「何で普通にギャラリーがいる前提で……あ、もういいですそこは……」
「終わると皆で拍手でしたよ。私も一番前で見ていた甲斐があると言う物です」
「ん? んん??? 一緒の部屋にいないで早坂はどの立場で物申してたのよ!」
「いや一緒の部屋にいるとか危ないですし……」
「何の為にお金を払ってるの!」
「バッティングでしょう」
「………………??」
んー……? えーっと?
「ちょっと何言ってるか分からない」
「何で分からないんですか」
分からないのだとしたらこのお嬢様は何に騒いでいたと言うのか。早坂はそこが分からない。まあ分かるはずが無いのだが。
バット(意味深)で凄い飛ばす(意味深)からの連発(意味深)、の流れが完璧に理解できたらそれはもう人間を止めている。早坂は叡智と従者の術をギッチリ詰め込まれているがちゃんと人間なので、かぐやの性的疑心暗鬼を分かろうはずもなかった。
「ホームラン出し過ぎで係の人も困ってましたね。ふふふ。店長まで呼び出して……」
そんな事よりも今は美城の話である。早坂は珍しくかぐやが自分の話を聞いてくれるので口先のエンジンは全開、ペラ回しが冴えわたっていた。
これは罰……。
恋人がいる人間に他の人を落としてみせなさいとか言った私への罰……。
美城がホームラン賞で貰ったぬいぐるみの一つを小さな子供にあげた事を『一番最初に私にくれればいいのに』と膨れて、けれど少し嬉しそうに話す早坂を見ながら、かぐやは少~~~しだけ上手くいっていない自分の恋路と重ね合わせて辛い気持ちになっていた。
最終戦績 かぐやの敗北