「……と。これでリストにある備品はチェックできましたね」
放課後、美城と早坂の二人は体育館の倉庫に居て備品を一つ一つ数えていた。そして今しがた全てを確認した所である。
事の重要性から言えば、ここは一番低い場所だった。体育祭は外で行われるのだから、内の備品はほとんど使わない。しかしほとんど、である。部活対抗リレー等で使う物も多少あり、生徒会としては把握しない訳にもいかない微妙な箇所だ。
「なら信頼できる業者に頼めば?」みたいなノリでボランティア部が駆り出されたという訳だった。おそらく藤原あたりが言い出したのだろう。
「はい。狭いので大した労力でもありませんでしたが」
棚の下を数えていた早坂もそう言ってリストにチェックを入れる。
放課後にまでなれば彼女の態度も多少は軟化してくれるでしょうか、という甘い目論見は露と消えるような冷たい声を変わらず発していた。
「愛。どうかしたんですか?」
「どうとは?」
用事を終えた息つく暇を計って美城は話題を切り出した。
大きく吊り上がったまなじりに収まった早坂のブルーの瞳が、無感動に彼を映し出している。かぐやと二人でいる時は大体こんな感じだが、もう少し敬意……というか、好意のある目をしているはずだ。
今自分に向けられるこれを好意と受け取りきれないからこそ、美城は二人で話す場所が欲しかった。
「その話し方です」
「嫌でしたか」
「嫌とかではありませんが、昨日までのくだけた喋り方から敬語にされると、何か気を悪くしたのかと思いますよ」
移動距離の短い質問を投げかけると、早坂も少し思う所があったのかようやく表情らしい色を浮かべて小首をかしげた。
「そうさせたのなら申し訳ありません。別に気を悪くした、とかでは無いですから。というより敬語なら美城が普段から使っているじゃありませんか」
「普段から一貫して使っている私と、敬語からくだけてまた敬語の愛とは受け取り方も違うでしょう」
「……まあ、それもそうですね」
「例えば私がいきなり口調を変えたら困るでしょ?」
「立花祐実さんじゃないですか」
「よく覚えていましたね。花火大会の日に変装して行った私の設定」
「それはもう」
美城に自覚の程は全くないが、花火大会の日から早坂は彼の事を意識するようになったのだから、その日を忘れるなどありえないのだ。
「明日からこれでいこっか? ね~愛。どうかな」
「絶対に嫌です。可及的速やかに戻してください」
「そこまで言わなくても……。でしたら愛も元に戻ってくださいよ」
「それは……」
美城の言う事は、本人にしてみれば簡単な提案のつもりだろうが、早坂としては簡単に頷くわけにもいかない。彼女にとっては重大な事なのだから。
凛然として黙ってしまった早坂に、美城の方はと言えば破綻の危機をはっきりと感じたような気がした。
彼女は確かに気を悪くしたのではない、と言った。しかし、呆れた、諦めた、熱を失ったとなればその言葉に嘘がないまま今のような態度を取るのだろう。
つまり、気を悪くしたのではなく、気を無くしたのだ。
恋人として先のステップに行かないのなら、どうして私はこの女みたいな男と付き合っているのだろう、と冷静になられてもおかしくない。美城は早坂の澄ました顔にそんな危機感を覚えるのだ。
「……? どうかしました?」
黙っていた冷たい面のそのままで、早坂は一歩近づいてきた彼に問いかける。
対して美城は、もう言葉ではないのだろうと覚悟を決めて彼女の問いかけに見つめ返すだけで応じた。
「美城?」
いつも柔らかく言葉を尽くしてくれる恋人が、急に黙って自分を見つめてくる初めての状況に、早坂は多少落ち着かない物を感じながら再び問いかけた。
――ポン
「え?」
返事は響かず、ただ静かに触れてくる手があるだけだった。金色の髪で瀟洒に彩られた頭を美城は何も言わず撫でている。
「あの……」
突然謎の行動を取り出した彼に戸惑いながら、自分より少しだけ背の高い恋人を見上げた。
「どういうつもりですか?」
「どういう……?」
今度は人を変えて先ほどと同じ言葉が出て来た。
やっと開いた美城の口から立ち昇ってきた言葉は、不思議な色香を放って鼻先をくすぐるような気がするのである。
「分かりませんか」
そう言って髪を撫でる手を頭の上の方から前髪へと動かすと、そっとかき分けて――
「ひゃっ……!」
——チュッ、と額に口づけて、また意味ありげに微笑む美城だった。
不意打ちに小さく声をあげて驚いた早坂は、抗議の意味も込めて目の前の紅い瞳を睨む。
しかし、彼は歯牙にもかけない素振りで、今度は早坂の頬に手を移した。真っ白で柔らかい頬に指先を滑らせると、彼女は小さく「んっ……」とくすぐったそうに声をあげて身じろぎする。
全く無視するように、美城は右手を添えた彼女の頬に唇を押し付けた。
「もーーー!!」
緩やかに溶かされるような、そんな甘やかな雰囲気に耐えられないように早坂は大声をあげて美城の胸を突き押しした。
驚いた吐息を「わっ」と零しながら、美城は後ろにたたらを踏む。
「急に何ですか! いつものようなからかいにしては度が過ぎてますよ」
下がらせた彼に向かって強気な姿勢で叫んだ。金に華やかな柳眉を釣り上げて、誰が見ても怒っていますと感じるような怒り方だった。
彼女の怒り心頭な様子を目の前に、さすがの美城も気落ちしたような表情を浮かべて嘆きの色に染まった。他に男がいるという予想が彼女の態度で明らかになったように彼には思えたのだ。
「……愛、申し訳ありませんでした……」
さっきまでの威勢はどこに行ったのか。美城は風船の口が開いたかのように急激にしぼんで、弱弱しく頭を下げている。
「あの……自分で言っておいて何ですが、そんなに落ち込まないでください」
「いえ。どうか他の人とお付き合いする事になってもお幸せに……」
「他の!? ちょっと待ってください何でそんな事言うんですか。いつものあなたらしくないですよ」
急に別れの土俵際に立たされた早坂は、さすがに待ったをかけていつになく落ち込んだ様子の彼に問いかけた。
「ですが……碌に恋人らしい事をしない私に愛想を尽かしたから、そんな態度をとるのではありませんか? 私より恰好よくて男らしい人はいくらでもいますし」
「……。誰がそんな事を言ったんですか? そんな嫌に物分かりが良くて生々しい考え、美城の物ではありませんよね」
細い眉を今度は別の意味で釣り上げながら、早坂は彼を問い詰めた。美城の言ってる事が自信と献身に溢れた彼の言葉とは思えなかったからである。女が冷たくし出したら他の男に乗り換える準備という露悪的な発想は、きっと五条美城という人間からは出てこない。
「駿河さんと火ノ口さんが」
「やっぱり」
桜のような色合いの唇から出て来た名前は、早坂が一番『利用』している生徒二人の物だった。少々の怒りと共に納得の気持ちもあった。
おバカで単純なギャルのようでありつつ、あれで世間の擦れた所も知っている人間だからだ。彼女達ならこういう事を言ってもおかしくない。
「あの二人の言う事は一般論であって、私達のような一般的でない関係には当てはめられないとは思いませんか」
「普通でない始まりな事は理解していますが……」
「そうでしょう?」
「なら、どうして急に敬語になったり私を避けるような素振りを見せるんですか?」
結局話題が一周してしまった。
「昨日頬にキスしてしまった事を怒っているのでしょうか?」
「別に怒ってはいません」
「ではどうしてですか。『くらい』と軽んじるのは嫌ですが、あれくらい周りの大人にされる物でしょう? もちろん私だって誰彼構わずやったりしませんが、私たちは恋人なのですから」
早坂はあまりの自分たちの違いに瞠目せざるを得ない。お堅い家風の支配下にいた彼女は、愛情表現のためにキスをするなど考えられないからだ。
「ですから……」
それは彼も同じなのだろう。四宮の家風はどんな物か知っているが、そこで育った自分がどんな意識で、その意識が彼の行動に対してどんな風に思うのか、分かりようがないのだ。
つまり、自分の口でつぶさに言わなくては、この愛情たっぷり性善説の下で育った彼に早坂の本当の所は分からない。分からなければ、彼は他に好きな人でも出来たのだろうと思いながら身を引くのだろう。
早坂にとって、それは望む所ではない。彼の不安分、自分は言葉を尽くさなくては。
これまでの氷の表情が嘘のように赤くなった頬をわななかせて、早坂はぶつけるように美城に向かって言った。
「私は美城と違って素直に愛情表現をしてくれる家庭に育ってないから、そういうの恥ずかしいの! 分かってよ! ……ばか」
威勢がいいのは最初だけで、言っているうちにだんだんと言葉尻が小さくなっていく。自分が恥ずかしい事を言っている自覚が芽を出したのだろう。
俗に言う好き避けという物だった。
「……くすっ」
美城は彼女の言葉を聞いた終わりしな、楽しそうな笑い声が零れてしまう。
「何で笑うの」
「いえ……ふふっ……愛は可愛いなぁと思いまして」
「からかってる?」
「とんでもない。本気ですよ」
とは言いつつもクスクスと笑い声が止まらない彼に、恨みがましい視線を早坂は送り続けた。彼女にしてみれば、恥ずかしさを抑えて告白したのに笑いの種にされては面白くないのである。
「……本当にそれだけですよね?」
「言わせたいんですかー?」
「すみません。無粋という物ですね」
早坂のからかうような余裕そうな口ぶりを、全く余裕のない表情でされては言葉はもういらない。波打つように揺れる瞳が嘘なら、この世に本物はないと思わせるに十分だった。
美城は言いながら、再び早坂の頬に触れた。白磁に赤のうわぐすりを塗ったように、滑らかで綺麗に色づいた恋人の可愛らしい頬をふにふにと弄んだ。
先ほどと同じようにされるという予感を覚えた彼女は、羞恥と期待に赤色の彩度を一つ上げて顔を少しだけ上げる。
「目に何か入ったかも。美城、取って」
自分からしたわけじゃない、彼が勝手にした事、と言い訳するように彼女は蒼の相貌をまぶたに収めてされるがままの体制を取った。
唇の端が高揚感に持ち上がっていて、けれどそれをおくびにも出さないよう振舞っているのが、また可愛らしいと美城は思う。
「愛」
柔らかな頬に指先を少し埋めながら、今自分に対して全幅の信頼を置いて目を閉じる恋人の名前を呼ぶと、「むぅ」と彼女は少しだけ不機嫌になった。ここまで来て焦らさないで、と思っているのかもしれない。
普段の装いである、あっけらかんとしたギャルでも、冷静なメイドでも、どちらかを知っている人がいたとしても、この早坂を見たら驚くだろう。
腑抜けと言うか間抜けと言うかは知らないが、あまりに無防備な姿である。
これを見せてくれるのは私だけでしょうか。
ちらり、と美城の胸の奥から顔を出すのは優越感だった。
他の誰であっても知らないような彼女の秘密を知っているのは自分だけで、だからこそこうして無防備な姿を晒してくれる。
早坂愛の友人は表のギャルの面しか知らなくて、彼女の主人の四宮かぐやは裏の従者の面を知っているがそれを手繰る存在の事は知らない。親は裏の面は全て知っているだろうが、学校で被っている面がどのような物か知らないだろう。つまり全てを知っているのは美城だけという事になる。
その事が少しだけ彼を嬉しくさせた。彼女にとって自分は特別だと自惚れさせるには十分な要素を含んでいる。
次いでちくりと彼の胸を刺したのは焦燥感だった。
彼が尊敬する四条眞妃が言った事を信じれば、一度付き合った女性は簡単に二度目を探してしまうそうだ。女の恋は上書き保存とよく言われるが、早坂の心には美城を通じて恋愛のフォルダが作られてしまったはずである。
つまり、上書き保存されてしまう下地が出来たと言う事だ。
自分に男性的な魅力があるとはこれっぽっちも信じていない美城にしてみれば、自分を新しい恋人で上書きする事など非常に安易な事に思えた。
五条美城より恰好いい男など吐いて捨てるほどいるのだから、その中から適度に口が堅くて、それなりに誠実で、なし崩されない程度に芯のある人間を選べばいいのだ。
美しく聡明な彼女に出来ない道理はない。
そう思うと、最後に胸を焦がすのは独占欲だった。
今まで美城は幼馴染の帝や眞妃、その他にも人に何かを与える事で人生を過ごしてきた人間で、逆はほとんど無いと言っていい。
その中で早坂は自分に対して何かしようとしてくれた数少ない人だった。ソーラン節を皆の前で踊る、という言葉にすると小さな事に思えるが、大切なのは自分のために労を惜しまないでくれたと言う事だ。
何事においても受け取る人は多いが、与える人は少ない。彼女はその数少ない人なのだ。
そんな女の子を、みすみす失ってしまっていいのか?
いや、いいはずがない。
この女の子は自分の物だ。
胸を焦がしていた物に火が付くと、途端にそんな事を思う自分がいた。
いつもは明鏡止水の心の水面は、沸騰したようにふつふつと泡立ち揺れるようだった。
早坂愛を渡さないために、自分は何をしないといけないだろう。いつになく不安に思うのと、それに合わせて焦りもある。何故か、と言われれば眞妃もそうだし、あの早坂の友人二人が念押しするからだ。
『恋人らしい事をしているのか?』と。
……していないのである。
それは契約という形で始まった二人の関係から言えば誠実さの表れなのだが、周りから見れば臆病とそしられても仕方のないことだと理解していた。
いつまでも関係の始まりを言っては、早坂が切り開いてくれた新しい関係は始まらないだろう。ここで逃げていては、それこそ本当に彼女に逃げられてしまいかねない。
(恋人にしか出来ない事……)
美城の視線は、自然と早坂の顔の中心少し下に向けられていた。
すぐそばでそんな事を考えられているとは露ほども知らない早坂の胸の内は呑気な物である。
右の頬か、左の頬か、それとも額にしてくるのか。三つの予想の内から、どれだろうとそわそわする心境で待っていた。
ゆっくりと美城が動く。早坂もそれを感じ取ったのか、少し身じろぎして彼を待つ。
細い指が撫でた先、そして彼が口付けた先は、三つの選択肢のどれでもなく――
――早坂愛の唇だった。
人生で初めて感じる感触に、早坂は目を開けた。
まさか……と言うような気持ちで焦点を合わせると、目の前にはさっきまでの自分と同じように目を閉じた美城がいる。
影が落ちようが煌めくように眩しい白いまつ毛が、自分の物と絡まりそうなほどに近い。
きちんと生きているのか偶に疑わしくなるほどに綺麗な彼の、生々しい息遣いが聞こえた。
シルクで口を押えられたような、きめ細かな感触が唇を襲っている。
あまりに現実味のないような状況に、早坂の頭は一瞬固まった。
息も忘れてそうしていた時間はほんの僅かだったが、彼女には永遠に近い長さに感じられた。
ふわっ……と羽が肌を撫ぜたように軽やかな感覚で唇に感じていた感触は失われて、半ば呆然とした早坂に、美城は閉じていたまぶたから赤い瞳を覗かせて、それで恋人を見据えながら噛みしめるように言った。
「……しちゃいましたね」
そっと指先で愛おしそうに撫でる先の彼の唇に、早坂は自分の唇に塗っているリップが付いている事にようやく気が付いた。
「~~~~っ!」
美城は今、何をした?
私は今、何をされた?
全てを自覚すると彼女の身体はかっと熱くなって、胸がドキドキして痛くなる。
ぼんやりとした憧れにあったキスが、いざ為されるとどうしていいか分からなくなった。
「愛?」
ただ分かるのは、自分の名前を優しく呼んでくれる彼の事が好きだと言う気持ちだけ。早鐘を打つ心臓に運ばれる血潮に乗せて、その思いが体中を駆け巡った。
「みぃ……」
名前を呼ぶつもりが、舌が回らず子猫が甘えるような鳴き声しか出てこない。
「どうかしましたか」
「…………」
(どうかしましたか、じゃありません。いきなり何て事をするんですか。キスをするにしても、もっとシチュエーションと言う物があるでしょう。するならこちらにも準備があってですね……)
正直な所、文句が無いわけではない。上の言葉は早坂の中に溢れたほんの一部だ。
強引。性急。構成不足。
彼のキスの問題点と言えば、この三つに集約されるだろう。彼女も、それを言いたいのだが。
「……も……」
それよりも遥かに嫌だったのが、何をされたのかよく分からない事だった。
一生に一度しかないファーストキスを覚えていないなんて、そんな事があっていいのだろうか。
いや、いいはずが無い。
もう一回して。
それが早坂の今の望みだった。
だが、そんな事を言ってはしたない女と思われないだろうか。少しの不安を持って、じっと彼に目線で思いを訴えかける。
恋人がじっと何か言いたそうに見つめてくると、美城の頭は彼女が何をして欲しいか自然と考え出した。煽られた不安と焦りから、早坂の行動の不可解さを読み解く事が出来なかったが、落ち着いた視座に立てば彼女がして欲しい事はある程度分かる。
「愛」
美城は早坂の細いあごに手をやった。
心持ちあご先を持ち上げて少しだけ背の高い自分に合わせると、期待に揺れるブルーの視線にぶつかった。
「―――――」
小さく、ほんの小さく美城が彼女の耳元に囁く。小さな音色は早坂の頭に殴られたかのような衝撃を与えて、電撃のように刺し貫いた。
それと同時に、美城は唇を重ねた。
二回目のキスは覚悟を決めて待っていても、想像を絶する感覚が言葉によって呼び起こされた神経の上を滑り落ちていく。
「ん……」
……きもちいい。すごい。やばい。
語彙もへったくれも無い言葉が少女の頭を埋め尽くした。
先ほどのような、何をされたのか分からない不安が無い分、キスに集中しているので、もたらされる幸福を自らでつぶさに観察できてしまうのだ。
なんかすごい。やば。
しっかり時間をかけて考えても、それしか言葉が見つからなかったが。
「……そろそろ戻りましょうか?」
長いキスの後に離れた二人はしばらく余韻を味わうと、先に正気に戻った美城がファイルを抱えてそう言った。
「戻る……?」
「はい。会長たちも生徒会室に戻っている頃合いかもしれませんし」
キスの興奮に昂っていた早坂もようやく思い出した。そういえば自分たちは生徒会の仕事の手伝いでここに来ていたのだと言う事を。
「……そうですね」
「忘れていましたか?」
「いえ、そんな事は……」
再び敬語に戻ってしまった彼女の心境がどんな物なのか、その言葉を聞くだけで察するに余りある。今度は不安に思う事なく、その真意が美城にもはっきり捉えられた。要するに、彼女は恥ずかしがっているのだ。
笑ってしまいそうになるのを堪えながら、彼女の分のファイルも抱えて体育館倉庫の重い扉に手をかけた。
「美城」
鍵をかけていない扉が横滑りする前、この二人だけの秘密の世界が外に繋がってしまう前に早坂は彼の名前を呼んだ。
「はい。何かありますか、愛?」
穏やかな顔をして優しい声で、そこへ新たに愛しさのような色が含まれている事に気が付いた早坂は、気恥ずかしさに苛まれながら、抑えきれない気持ちを表した。
「私も―――――」
本日の勝敗 二人の勝利