五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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この話を投稿するか悩んでいたら間隔が開いてしまいました
とりあえず投稿して皆さまの反応を見たいと思います


白銀御行は成立させたい

「何か飲むか?」

「ありがとうございます」

「気にするな。コーヒーは俺がセイロンと四宮だがお前はブルーマウンテンだ」

「だ……大丈夫ですか会長。言葉が変ですけど」

「ははは、何を言っている。俺はいつでも冷静だ」

 

 冷静じゃねーよ! 何だこの状況!

 

 白銀御行は初めて直面する事態に混乱していた。

 田沼翼が相談に来るのはまだいい。それは事前に五条美城が狙っていた事なので気持ちは出来ていた。事前に策も少しばかり考えておいた。

 

「で、誰が気になるんだって?」

「はい。転校生の五条美城さんです」

 

 だがこれは聞いてない。私聞いてない!

 男子高校生なんて誰しも彼女が欲しい生き物なのだから、その背中をそっと押してやればいいと思っていたのだが、相手が五条美城となると話は全く変わってくる。

 

「ふー……まずは話を聞こうか。えーっと、どういう風に気になるなんだ?」

 

 しかし白銀はまだ望みを捨てたくなかった。前に美城が来た時も、翼に告らせたいという所だけ聞いて勘違いしたではないか。そういった感じで美城が気になるという言葉の裏に、そこから仲の良い眞妃に繋げたいという思いがあるかもしれない。

 

「最近仲良くしてるんですけど、五条さんって可愛いなと」

「あっ……フーン。そうなんだ……」

 

 全然裏など無かった。どこまでも真っすぐだった。

 

「ちなみにどんな所が?」

 

 これ以上聞くと藪をつついて蛇を出すどころでは済まなさそうな予感すらしたが、とりあえず聞いてみる事にする。

 話しているうちに違うなと思ってくれるかもしれないという一縷の望みをかけて。

 

「はい……例えばあの白い髪とか。僕あんな髪の人初めて見ました」

「あーそれな」

 

 まあそれは……と白銀も頷いた。アルビノが生まれる確率は二万分の一。単純に考えると二万人と出会って一人いるかどうかという割合だ。

 白銀の妹、白銀圭も銀色の明るい髪色をしているが、もし二人が並んだとしたら圭の髪色の方が色素混じりな事に気が付くだろう。そもそも色素を作る組織に異常があるから美城の髪は白いし、瞳は赤いのだから。

 

「あといつも笑顔な所とかいいですよね」

「あーうん……うん……」

 

 確かに五条美城はいつもニコニコと笑っている。

 彼は優しくて穏やかで寛容であると思われている。初めて来た時から笑顔で、一人一人に懇切丁寧にあいさつしていく中で『混院が』と蔑まれる事がない訳でもなかったが、あの浮世離れした美貌で微笑まれるとなぜだかバツの悪い気分になって、そういう輩は黙ってしまう。

 笑顔は穏やかな彼の性格を映す鏡でもあり、武器でもあるのだろう。

 その武器がハートに突き刺さってしまうのも無理からぬ事なのかもしれない。

 ……男同士でなければ白銀も頷けたのだが。

 

「言葉遣いも丁寧で、他の子とは違いますよね」

「うん……うん?」

 

 丁寧な言葉遣いな例として「です・ます調」というのがあるが、美城はそれを越えて「でございます・であります調」だった。

 秀知院に通う生徒はお坊ちゃまお嬢様と呼ばれる人種が多く、教育も行き届いているが、基本彼ら彼女らは頭を下げられる側の人間である。頭を下げる事を良しとしないので、結果対等な言葉遣いに、つまりは普通の高校生な言葉遣いに落ち着いてしまう。もちろん本当に普通の高校生と比べたら言葉は丁寧な物になるのは当然の事だが。

 そんな中で誰に対しても腰が低く、頭を下げる事に抵抗のない五条美城は特異な存在であると言える。零細企業などではなく大企業の息子として考えればさらに異常だ。

 自分を上に見せようというプライドが無い分、一歩引いた所から下手に話してくる美城は大和撫子と言えない事もない。

 

 いや言えねーよ!あいつ一瞬忘れそうになるけど男だよ!こいつ他の子とは違いますよねって五条の事完全に女だと思ってるじゃねーか!

 

 白銀は心の中で絶叫した。

 ここで彼に託された「お願い」を念頭に置いて状況を考え直してみよう。

 お願いの前提として、四条眞妃は田沼翼が好きである。それを五条美城は応援したくて、生徒会長にまで話を持って来た。自分が、田沼翼が『眞妃様』を気になるように策を巡らすので、彼がその気になって相談に来たら眞妃を薦めるように、と。

 

 しかし田沼翼は五条美城の事が気になるようである。

 

 ここ数日、美城は翼のそばについて仲良く振る舞っていた。移動教室の度に「一緒に行きませんか?」と、にっこり笑いながら問いかけ、いつの間にか隣に眞妃を陣取らせておく。

 近くに眞妃がいない場合は、美城が自分の口でいかに四条眞妃という人物が素晴らしいかを、押しつけがましくない程度に話していた。その声優みたいな声で、にこやかに微笑みかけながら、何とも楽しそうに話していたのを白銀も聞いている。

 

 その結果田沼翼は五条美城の事が気になるようである。

 

 つまり美城のした事を総合するとこうなる。

 滅多に見ないレベルの美貌の持ち主が、いつ見ても可憐な笑みを浮かべていて、その口から紡がれる丁寧な言葉遣いは、人を貶める事に使われる事はない。

 何故だかよくわからないが、最近は自分の所に来て移動教室を一緒にしたり、彼女(と田沼翼は思っている)の身の上話とか世間話とかを交わす日々を過ごしている。

 

 いやこれは絶対勘違いするやつ。

 

 言葉にするだけで白銀もちょっと好きになりそうだった。長男だったから耐えられたが次男だったら耐えられなかった。

 美城の距離感の近さは男同士だから、という事を知っているので性癖がねじ曲がりそうな翼に同情を禁じ得ない部分はあるのだが。

 体育の着替えの時に気が付けよ、と思われる読者諸兄の方々の為に補足しておくが、美城は体育の授業は全休している。彼が着替えるのは外の競技が終わって体育館で行うバレーボールが始まるまで待たなければならない。

 

「どうすっかなー……」

「会長?」

「いや。なんでもない」

 

 いや本当にどうしよう……。白銀は持ちかけられた事を達成しなければというプライドと、しかし目の前に横たわっている現実の板挟みに押しつぶされそうだった。

 

「仲の良い女友達のマキちゃんにも相談しようかと思ってるんですけど、やっぱり女の子に頼るのはちょっとカッコ悪いじゃないですか」

「あーそうだな! うん! お前は正しいぞ!(この世の地獄じゃん!)」

 

 美城の眞妃が気になるであろうという予測は外れたが、先に男の白銀を頼ってくるという所は当たっていた。もし外れていたらぽっと出の女(ですらなく男)に長年好きな男を浚われかねない相談を眞妃は受けていたのだろう。

 これが地獄でなくて何なのだ。

 

「マキちゃんは五条さんといつも一緒にいる幼馴染だから相談相手にぴったりかと思ったんですが」

「そうだないつも一緒に……」

 

 その時白銀に電流奔る……!

 

「……なあ、いつも一緒に、って言ったか?」

「はい。それがどうかしましたか?」

「五条といる時は大抵隣に四条がいるんだよな」

「そうですけど……」

 

「お前、本当は五条じゃなくて四条の事が気になってるんじゃないか?」

 

 意識のすり替え!(ミスディレクション!)

 これはマジックにおいて見られたくない所、意識させたくない要素から目をそらさせる技術の事である。

 白銀は美城がいつも四条眞妃と一緒にいる状況を利用し、好意のピントを少しずらしてやる事にした。

 

「そんな事は」

「まあ聞け。確かに五条を見たらドキドキするさ。皆アルビノなんて初めて見ただろうしな」

 

 まずは、白銀は美城を見て生じるドキドキを物珍しい何かを見た時のドキドキであるとすり替えを行おうとしていた。動物園でライオンや象を見た時の高揚と似た物であると。雨上がりの空に架かる虹と同じであると。

 

「そんな……僕はただ物珍しさにドキドキしていたと言うんですか……」

「早とちりするな。ここから俺の言った事に繋がるんだ」

「マキちゃんを気になっている……っていう」

「そうだ! お前が五条をドキドキ気になっていた時、必ず傍にいた人間は誰だ!」

「マキちゃんです。五条さんがいつも『眞妃様、眞妃様』って呼んでいたから」

「分かってるじゃないか」

「いやでも、マキちゃんが隣にいない時でもドキドキしてましたよ!」

「あと一歩踏み込みが足りないな。ではその時五条の口から出てくる人物とは誰だったか、言ってみろ!」

「マキちゃんです。五条さんはマキちゃんと物心ついた頃からの幼馴染だとか、色々話してくれました」

 

 いける!

 白銀はここが好機と攻め立てる。

 

「そうだ! お前が感情をかき乱されている時、いつも中心には四条がいた! 隣にいる時に意中の女子の顔を見れず、目線を反らした先にいた五条をドキドキの相手だと勘違いしたんだ! 四条の話題が出てドキッとした瞬間、話している五条を意識しているのでは? とお前は思ったんだ!!」

 

「そ……そんな……」

「五条の見た目が人並み外れているのは俺も認めよう。だが見た目に惑わされて自分の中の本当の愛に気が付かないのは愚の骨頂と言わざるを得ないな」

「なるほど……さすが会長です!」

「ははは、まあそれほどでもないさ。だが、分かったんならお前のやるべき事は理解できるだろう」

「こ……告白ですか!?」

「そうだ」

「でもマキちゃんの事が好きなのか心の整理が……」

「何甘っちょろい事言ってるんだ!」

 

 気持ちを整理されたら『やっぱ五条さんの方が……』ってなるかもしれねーだろうが!俺の気持ちも考えて!?

 

 白銀の胸中はかつてないグダグダの中にあった。

 頼み事を果たしたいという気持ちと、目の前のクラスメートをどうにかこうにか誘導しなければという気持ち。あと交際経験無しであるという事が露呈するのは絶対に避けなければならない、という個人的な事情。

 全てを上手い事納めるために、翼には有意義な時間を過ごせたな感を抱きつつ帰路についてもらわねば。

 

「四条を思い出せ! あいつはかなりの美少女だろ!」

「確かにマキちゃんは可愛いです。……五じょ「そうだろそうだろ!」

 

 白銀ここで割り込み!(インターセプト!)

 相手が口にして思考する間を与えない攻めの一手を打つ。

 そのまま放置していたら五条美城の白い髪と赤い目とその微笑みを思い出していただろう。

 

「他の誰かに取られても良いのか!? 仲の良い女友達のままでいいのか! それでお前の高校生活は良いのか!」

「よ……よくありません」

「声が小さいぞ! それで良いのか!?」

「よくありません!」

「良い高校生活には彼女がいるよな! お前は誰が気になってる!」

「え、ま……マキちゃんです!」

 

 っしゃオラァ! 勝った! 第三部完!

 

「ふー……では告白を考えねばならないな。お前、告白するとしたらどうする?」

「えっと……どう告白したらいいでしょうか? 僕そういう事初めてで……」

「ふむ」

 

 白銀は深呼吸してソファーに深く座りなおす。思考を巡らして、告白の成功率を上げるための案を幾つか考える。

 正直翼が『気になっている』という目線を四条に向けさせた時点で美城のお願いは充分果たした事にはなると思うが、しかしそこはプライドの高い白銀御行、告白の一つも考えられないと思われるのは心外であった。

そうして一つ思いついた物を、じろりと睨むような目線で言った。

 

「俺にいいアイディアがある」

 

 白銀はすっくと立ちあがると扉の前まで歩いて行く。

 

「ここに四条がいるとするだろう」

「はい」

「それをこう!」

 

「失礼しま(ダァン!)ひゃあ!」

 

 扉を用いた壁ドンの実践を行おうとしていた所に、タイミングが良いのか悪いのか五条美城が入室してきた。

 観音開きの扉の左方を開けて入って来た美城が、右方の扉に手をついた白銀と疑似壁ドンになるのは必然の流れだった。

 

「か……会長、困ります……」

(クソややこしい奴が来ちまったー!)

 

 ぽっと頬を赤らめて恥ずかしそうに口元に手をやる美城。並の男ならDANDAN心惹かれかねない状況だったが、白銀は並の男ではないし、一目見た時からかぐや一筋だしでうろたえる事なく冷静に分析した。

 何やら悩ましい立ち姿の美城は無視する事にする。短い付き合いで分かった事だが、この男は見た目にふさわしい振る舞いをして相手が困惑しているのを見て楽しんでいる節があった。

 とりあえずこの状況を打破する方法は無いか。白銀は刹那の思考を巡らした。

 

 その刹那の思考は凡人の熟考に匹敵する。

 

「五条、丁度良い所に来てくれたな」

「あら、つれないですね」

「今はお前と遊ぶより重要な検証を行っている所だからな」

「と言いますと?」

「壁ダァンだ」

「ん……? 壁ドンの事ですか?」

「違う壁ダァンだ」

「まあどちらでも構いませんが」

 

 美城は生徒会室に来ていた田沼翼の存在に気が付くと、そちらに顔を向けて小さく礼を……しようとした所で白銀がそれを遮った。

 

「会長?」

「俺が言うまで田沼翼の視界に入るな」

「えっと」

「必要な事だ」

「はあ」

 

 不審に思ったので小声で白銀に問いかけると、言葉短めにそう言うので美城は頷く事にした。

 ここで上手い方向に転がらなければ、もう後はどうにでもな~れと天才の白銀でも言わざるを得ない。人の気持ちは理屈ではないのだから。

 

「どうしたぼうっとして。さては壁ダァンに疑問でもあるのか」

「いえそうでは」

「分かるぞ。ただ壁際に追い詰めただけで告白の成功率が上がる物か、と疑うのは当然の事だ」

「ですから」

「理論は実践を経なければな」

 

 白銀は力強く一歩を踏み出した。また一歩、もう一歩、鋭い目つきを更に尖らせて、威圧感を纏った姿のまま、翼の方へ歩いて行く。

 思わず翼は後ずさるが、逃がさないとばかりに白銀の歩みは止まらない。

 

「か、かかか……!?」

 

 と、言葉にならない呻きを漏らしながら後ずさりを続ける翼だが、下がるスペースが無限であろうはずもない。あっという間に壁際に追い詰め、ダァン!と音をたてて翼の顔のすぐ横に白銀は手を着いた。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 恐怖に顔を引きつらせながら、とにかく謝る事に決めた翼は誠心誠意ごめんなさいと言い続ける。

 

「どうだ。ドキドキしただろう」

「へ……?」

 

 反応を値踏みするような鋭い視線から一転、笑いながら白銀は壁に追い詰めた彼の肩を叩いた。

 

「この恐怖のドキドキを味わせてから『俺と付き合え』と告白する。すると不安がときめきへと変わり告白の成功率が上がるという寸法だ」

「な、なるほど……」

「もう一例試してみるか。今度は俺とは真逆の顔立ちの五条で行う。これでお前がドキドキすればこの理論はどんな顔立ちでも効果が得られるという証左になるだろう」

 

 これが白銀の狙いだった。

恐怖のドキドキを恋愛のドキドキと勘違いするのはつり橋効果を始めよく言われる事だ。それをこの場合は先に白銀による壁ダァンで平静を奪い、次に美城による壁ダァンを行い、二種類のドキドキを引き起こす。

 それにより上記とは逆に、恋愛のドキドキを恐怖のドキドキだったのかと目をそらさせる事が出来る……はずだ。と白銀は考えている。

 

「始めよう」

 

 そう言って白銀は右手を上げると、すっと音もなく美城は後ろに着けた。翼の視界に入るなという言葉を守りながらである。忍者かと疑う動きだった。

 

「会長」

「何だ」

「私の身長では上目遣いの形になってしまいますが」

「かわいいかよ」

 

 白銀の策では見上げられようが見下されようが、翼がドキドキすればそれで良かったので、構わん、やれと命令を下す。

 

「高圧的にいけよ。あと顔はあんまり近づけるな」

「いまいち理解しかねますが了解しました」

 

 頭を下げ慣れている、命令を聞き慣れている美城は白銀の言葉に疑問符を浮かべながらも迅速に行動に移した。一歩横に飛び出し翼の前に姿を見せると、まだ壁に縫い付けられたようにもたれかかっている彼の傍に詰め寄って、掌底を食らわせるような振りぬきで顔のすぐ横に手をついた。

 傍から見ていれば剣呑な雰囲気にも見えそうな状況だったが、当の田沼翼はいつもニコニコ笑っている美城が氷の様な表情で見つめてくることに良くないドキドキを感じていた。

 

「そこまで」

 

 パン、と白銀は軽く手を叩く。それと同時に美城は壁ドンの体勢を解き、翼の視界から消えた。若干、残念そうな顔をしている彼に白銀は考える暇を与えないように声をかける。

 

「ドキドキしたか?」

「え、まあ、はい」

「だろう。これでこの手法を使えばドキドキを引き起こす事が出来るとお前は身をもって知ったんだ。この技を引っ提げて告白に向かうんだ。成功を祈っているぞ」

 

 まあ四条はこいつの事好きなようだし……よっぽど変な事しない限り成功するって分かってるんだよな。

 

 そんな事を考えてるそぶりは一切見せず、白銀はあくまで一応援者としての体で彼の背中を押した。

 

「はい! ありがとうございました! さすがあの四宮さんを落とした会長ですね!」

 

 失礼しました! そう爆弾発言を残した後に田沼翼は満足気な顔をして生徒会室を後にした。

 白銀の背中に隠れていた美城は彼が立ち去った事を確認してから顔を出した。

 

「会長はかぐや様とお付き合いされているのですか?」

「い、いや……俺と四宮は別に付き合ってないぞ……?」

「そうですか。お似合いだと思いますのに」

「はは……」

 

 にこやかに話す美城とは対照的に、どこかこわ張った顔で白銀は笑った。

 

「好かれてるというより、むしろ嫌われてるんじゃないかって思うんだよな……」

「会長でも不安になる事があるのですね」

「人を何だと思ってるんだ」

「かぐや様との仲を深めたいのでしたら、今度は私が応援させていただきます。協力していただいたお礼に何でも致しますよ。お忙しい会長にお手数かけていただいたのですから、当然の事です」

「考えておく」

 

 こいつが何でも、と言うと洒落にならない感が凄いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――後日

 

 壁ダァンを習得した田沼翼はこれを用いて告白し、見事四条眞妃と交際を始める事ができたそうである。

 

「どうやら上手くいったようだな」

 

 中庭を歩いている、まだ隣にいる人に慣れていない様子の初々しいカップルを白銀は見下ろしていた。鳶色の髪の二つ結びが犬の尻尾のように嬉しそうに揺れている。

 彼女の恋愛の成就を誰よりも望んでいた五条美城はさぞ嬉しいだろう、と思いながら一緒に様子を見ていた彼に声をかけた。

 

「良かったな。これでお前も……」

 

 あの真っ赤で子犬のような円らな瞳をきらきらさせながら、心底うれしそうに『はい!』とでも言ってくるのだろう、と思っていた白銀の予想は裏切られる。

 

 

「……眞妃様……」

 

 今まで聞いたことの無い様な弱々しい声が美城の口から漏れ出た。かすかに震えるような言葉を押さえるように口元を手で隠していた。

 大きな目は伏せがちに開かれて、白い睫毛がけぶるように赤い瞳にかかる。少しだけ潤んだその赤色を悟られないように、そっと静かに目元を拭った。

 

 こいつ、もしかして……

 

 白銀の中で、美城が以前相談に来た時の言葉の珠が感情の糸で一つに繋がったような感覚が起きた。

 つまり『望みを叶えてあげたい』というのも『眞妃に告白されておきながら断る人間の存在を信じられない』というのも、彼の心の底からの言葉だったのだろう。

 自分が恋焦がれていながら、相手の幸せのために私心を捨てるとは、大した忠心ではないか。

 いつも毅然とした態度で微笑みを崩さない、理想的すぎてどこか現実味が薄いとすら思っていた美城の人間らしさを見て、白銀はこの五条美城という人間に親近感と敬意を抱いた。

 

「大した男だよ、お前」

 

 

 

 

 

 

本日の勝敗

 

 四条眞妃の大勝利!

 




幸せな眞妃ちゃんが生まれると不憫かわいい眞妃ちゃんが見られないというジレンマを乗り越えた先にこの作品は生まれました
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