五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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帝様がフラれてしまった……。



美城は、かぐやは、早坂愛は進みたい

「眞妃様、進学は当然秀知院大学になさいますよね?」

「何よ、突然」

 

 眞妃が丁度周りに誰もいない廊下を歩いていた時、不意に早坂愛が飛び出してきたかと思えば、急にそんな事を言ってきた。刺客の動きである。

 

「今日三者面談だからって聞き方が雑すぎない?」

「いえ、そのような事は……」

「言っておくけど、内部進学はしないわよ。私は経済系を学びたいから、そのあたりで何校か考えてるの」

「そ……そうでしたか」

「何で愛がそんな落ち込むの。言っちゃ何だけど私達そんな進学先一緒にしようって程仲良しじゃ……あー……」

 

 素早く動いてきた刺客が、急にしょんぼりしてしまった。もしかして私のせい? と何も彼女は悪くないのに申し訳なく思って考えると、自分と目の前の少女を結ぶ線を思いだした。

 

「ふうん。ま、そういう事よね」

「どういたしましたか?」

「いえ? ただ……ふふっ、愛ったら可愛いのね。あの子の言ってた通り」

「何を仰いますか眞妃様」

「だって美城と一緒の大学に行きたいんでしょ?」

「それは……まぁ否定はしませんが」

「あははは」

 

 ぽつりと呟かれた言葉があまりにも恋する乙女だったので、申し訳なく思いつつも眞妃は笑うのを堪えられなかった。

 普段かぐやと自分にはクールぶっているくせに、こう言う所が可愛いのだ。美城の言う通りであるし、早坂の主人の”おばさま”にも通じる所がある。

 

「けど、自分の進路を人のせいにしたら駄目よ」

 

 話の流れついでに眞妃は一言申し添えた。余計なお世話かもしれないが。

 

「せいになど……」

「私だって翼くんと同じ所に進学したいけど、まさか医学部に入る訳にもいかないわよね」

「同じ大学の経済学部に行けばよろしいのでは?」

「そこに私の求めるレベルの物だったり教授がいるかしら」

「難しいかもしれませんね」

「でしょう?」

 

 もちろん秀知院大学も知の巨人を集めてはいるものの、それが眞妃のお眼鏡にかなうかどうかと言えば分からない。少なくとも今の口ぶりでは他に目を向けたくなるくらいの教授しかいないようだ。

 

「そこは妥協したくないの。失敗したとしても、自分が決めた事なら後悔も少なそうじゃない? だから愛もよーく考えた方がいいわよ。納得した上で一緒の大学に行けるならそれに越したことはないけど」

「はい」

 

 極めて真面目くさった顔で早坂は首肯するが、微妙に納得していない内面を見破った眞妃はもう一言。

 

「とにかく、人に自分の人生の選択を委ねちゃ駄目って事! じゃあね」

 

 きっぱりと端的に言い換えると、自分の面談の番が近いので眞妃は小走りで教室へと向かって行った。

 

「……それは自由な眞妃様だから言える言葉ですよ」

 

 彼女の言う事は正しい。

 しかし、世間の言う正しさとはかけ離れたルートを生かされている早坂にとって、自分で選べとの言葉は残酷にも聞こえた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

三者面談!

 

 各々が提出した進路調査と成績を踏まえ、進学か就職か親を交えて相談する皆さまご存知の面談である。

 いくら天才と呼ばれる者が多い秀知院生であっても子供な事には変わりなく、親の意向を無視する事は出来ない。秀知院において三者面談とは、多忙に追われがちな親に子供の進路と向き合わせる意味合いが他の学校に比べて強かった。

 

「今日お父様……は、来るはずないですよね」

「変わりの人を出すって話ですよ」

 

 しかし、四宮かぐやはその恩恵に預かれない生徒であった。

 四宮家の総帥ともなれば仕方ないのでしょうか。と、聡明な彼女は思考をそこに向けるが、窮屈な暮らしを強いられて、時には気まぐれで京都の本家にまで向かわされた過去のせいで感情的に納得は出来そうも無かった。

 なにしろデート一回分損したのだから。今、白銀と自分が付き合っていないのはアレのせいに違いない。

 

「奈央さんが来るんでしょうか?」

 

 彼女は馴染みある名前を一つ口にした。隣にいる従者の母、早坂奈央の名前である。

 

「ママ? ママは来ないですよ。忙しい人だし、冷たい人だし、娘に興味ない人だから」

「今日の早坂なんだか荒んでいませんか?」

「事実を言ったまでです。体育祭の時も来なかったし、私の進路なんてどうでもいいと思って……」

 

 青い瞳を心なしか釣り上げながら従者はキツイ口調でそう言った。

 早坂愛を一つの事を除いて知っているかぐやは、早坂が相当なママ好き好きっ子である事も当然知っているが、これが可愛さ余って憎さ百倍と言った所かと思う。

 会えない母親に会えそうで会えないというストレスが、知らず知らず彼女の言葉を刺々しくさせるのかもしれない。

 

「そんな事は無いと思いますよ」

 

 そんな冷たく尖った言葉をふわりと受け止めるような、優し気な声が二人を包み込むように響いた。

 かぐやは早坂の横顔から、早坂はスマホから顔を上げて声の主を探すと、すぐそこに声の印象を裏切らない見た目の人が立っている。五条美城だった。

 

「美城に何が分かるの? 会った事もない人を分かったように言うけど」

 

 いつもなら美城が声をかければ柔らかくなる早坂の雰囲気が、今日ばかりは珍しく刺々しいままである。

 

 

「会った事があれば分かったように言って良いのですね」

「えっ?」

「では、改めて言わせていただきます。そんな事はありませんよ」

 

「御無沙汰しておりますかぐやお嬢様。僭越ながら本日は私が雁庵様の名代を務めさせて頂きます」

 

 早坂が何を、と聞く暇もなく、今度は澄んだ大人の女性の声が聞こえた。

 それは忘れるなどあり得ない、彼女にとって一番信頼を置いていて一番親愛を向けている女性の物だ。

 

 一瞬で早坂の周りを覆っていた棘がなくなり、吊り上がった目も歓喜にまん丸へと見開かれた。

 かぐやと早坂の会話にも出て来た、彼女は早坂愛の母親の早坂奈央である。

 子と同じく金髪碧眼の美女で、とても一児の母とは思えない若々しい美貌を四宮の威光の如く輝かせる人であった。

 

「学園ではこうして仲良くしてくれる人を見つけたのね。嬉しいわ」

 

 主人の娘への挨拶をまず終えると、奈央は次いで娘の方を見る。不思議な存在感を放っている美城を認めながら、そう言って愛の頭をぐしぐしと撫でて、控えめに娘を褒めてあげるのだった。

 

 愛から毎日行われる報告を間接的に聞いている奈央であるが、それは主に『かぐや』に重きを置いた報告であるので、こうして会ってみるまで娘本人の様子は詳細は分からない。そこで今日来てみれば、非常に親しそうな人がいたので一安心した、そんな親心である。

 

「そぉだよ」

 

 愛はと言えば普段のシャキっとした姿も、恋人と母親の二大自分を愛してくれる存在に当てられ火を通しすぎた野菜みたいにクタクタになっていた。

 どこかダラダラした、甘ったるい言葉が彼女の口から聞こえてくる。

 

「ところで愛。こちらの方を紹介していただけますか?」

 

 心底嬉しそうな彼女を微笑ましく見つめながら、美城はあえて分かりきった事を質問した。

 

「えっとね……」

 

 それに愛は気恥ずかしくなりながらも、どこか誇らしげに奈央を『私のママだよ』と口にしよう……

 

「妹です」

「は?」

「妹です」

 

「はー!?」

 

 ……とはしたのだが、先に奈央の方がとんでもない事を言いだした。

 二十ちかく鯖読みである。

 うわキツ。そのマダムしか被らないハットで妹は無理でしょ……。

 最愛の母であっても娘はそう思うので、当然美城もツッコんでくれるだろうと思った。

 

「なんと。私より年下なのに四宮家当主の信頼が厚いのですね。素晴らしいです」

 

 しかし愛にとって悪かったのは、美城はボケにはツッコむより乗っかるタイプである事だ。

 

「そうですか? 家が良いだけと思いませんか?」

「家が良くても人が良くなければ信頼を寄せられることなどあり得ません」

「五条さん、良い事を仰いますね」

「いえ、当たり前の事を申したまでです」

 

 あっけにとられた愛を前に、美城は奈央が年下であるというトンデモ設定を前提に会話を繰り広げ始めた。宇宙の真理に気付きかける猫のような表情を浮かべるしかない。

 奈央もあまりに自然に年下として扱われるので錯覚を起こしかけるほどだった。

 もしかして自分まだ制服イケる感じですか?

 

 いけません(無慈悲)

 

「どうでしょう。一度早坂家に来られてみては」

「それは身に余る光栄です」

「今なら早坂の女の子が付いてきてお得ですよ」

 

 秀知院随一のツッコミマスターである愛でも匙を投げる空間がそこにあったが、聞き逃せない言葉にピクリと肩が震えた。五条美城の外堀を埋める土にされようとしている。

 

(もう、ママってば将来有望な人を引き込むためとは言え娘を差し出そうなんて)

 

 だいぶキている事をまんざらでもない感じで愛は考えていた。母親の方はそこまで言っていない。

 

「私です」

「なんでー!!?」

 

 100自分の事だと思っていただけに奈央の言葉の衝撃は、計り知れないダメージとなって愛に襲い掛かった。

 NTRやんけー!!

 

「どうですか? 私ではお気に召しませんか」

「あの……早坂さんはとてもお美しい方だとは思いますが」

「では決まりですね。あと、申し訳ありません。実は私はこの子の妹ではなく母なんです」

「それはより一層驚きです。とてもお若いのでそうとは思いませんでした」

 

 嘘である。

 この男、会った瞬間から気付いている。

 

「ほら愛。新しいパパよ」

「愛……」

 

 神妙な顔をしながら美城はじっと愛の顔を見つめた。

 いつもは安心感と一緒に恋するドキドキをもたらしてくれる彼の白皙の美貌だが、悪ノリ中の彼は悪い意味でこちらをドキドキさせてくる。

 

パパと呼んでくれますか?」

「二つの意味でやだー!!」

 

 せっかく出来た恋人が母親のせいで父親になろうとしていた。

 お前がパパになるんだよ!(再婚)

 

「ママがみぃ取ったー!」

 

 同級生のパパというパワーワードに愛も冷静ではいられない。奈央が来てから冷静だったかどうかは置いておいて、必死のツッコミが廊下に冴えわたるのであった。ちょっと涙目になっている。

 

「あら、冗談が過ぎましたね」

「よしよし。愛、嘘ですから安心してください」

 

 さすがに愛する人が涙目になっているのにふざけ続けるほど面の皮が厚くはない二人は総出で愛を慰めていた。

 

(図らずしも親子みたいになってる!?)

 

 見た目は完全に美女が三人集まっている様子だが、会話の流れを聞いているかぐやが見れば泣いてる娘を慰めているママとパパの構図である。泣かせたのは奈央と美城という事実は無視しよう。

 

(でも早坂、奈央さんが来て嬉しそう。親が来るというのはとても嬉しい事なのでしょうね。私の父親は……)

 

 奈央が嫌と言う訳ではない。乳母として育ててくれたし、むしろ好きである。

 しかし実父が健在であるなら、その人に自分を見てもらいたいと言う気持ちが僅かながらにあるかぐやは、少しモヤっとするのだ。

 

「やあかぐやちゃん。調子はどう?」

「!!」

 

 そんな気持ちも霧散する厄介な中年が現れた。

 体育祭の時に自分を散々イジってくれた、白銀の父親である。

 この度はニヤッと獲物を見つけたかのような顔をして、かぐやに恐れ知らずに話しかけて来た。他の親は四宮が怖くてそんな事しない。

 

「か、会長のお父様……。あの、私はお陰様で健康そのもの……」

「そうじゃなくて、御行とその後どうなのって話」

 

 ぶっこむ所に余念のない白銀父は真っ先に息子の恋模様を詮索しだした。御行がここにいたら『やめてくれ!』と絶叫しただろう。

 

「……何もありませんよ」

「いやいやそんな照れなくていいから。ちゅーは? ちゅー位した? もうそろそろその段階じゃない?」

「し……してません……! もー!」

 

 恋に悩める子牛がもーもー鳴いていた。

 巧みな弁論術を持っているかぐやだが、論理の及ばない感情という舞台ではその術も無用の長物であった。むしろ弱点である。

 

「かぐや様と随分親し気ですがどちら様?」

「えっとね」

 

 その様子を見ていた従家の二人は顔を寄せ合ってひそひそ話を始めた。愛はあんな感じの主人に慣れてしまったが、奈央にとっては初めての光景だ。かぐやが感情的になる相手はどんな人間だろう、そう思って娘の話を欲しがる。

 面白そうというのが理由の大半である事は内緒だ。

 

「し……白銀お兄たま……」

 

「お兄たま!?」

 

 簡単に『かぐや様が好きな人のお父さん』と言うつもりだった愛より先に美城が口走った。聞いたこともない謎単語を。

 

 お兄たま!

 それは兄貴の呼び名の中で最も位が高く兄貴に対して最上級の敬意を表す語句!!

 その序列は

 

 お兄たま

  ↑

 兄者

 ポセイドン

 兄さま

  ↑

 アニキ

  ↑

 イノキ

 

 

 となる!!

 この序列を知ってからの白銀圭は、兄と喧嘩してから数日はイノキと呼ぶ日々が続いており、御行の新たな悩みの種となっていた。今ギリでイノキ寄りのアニキと呼ばれている。

 完全に美城のせいであった。

 

「白銀という珍しい苗字……。『お兄たま』とまで呼ばれるこの男性……本当に現生徒会長・白銀御行の兄なのでしょうね」

「納得しちゃった!?」

 

 隣にいた美城が迫真な様子で言う物だから、奈央も納得したように頷く。

 

「お兄たま!」

「おお、美城ちゃんじゃないか。調子はどうだ?」

「はい。お陰様で元気に過ごせています」

 

 美城がお兄たまに向かって駆け出すと、白銀父は臆面もなく当然といった素振りで応えた。

 分からない事が新たに増えたかぐやだったが、今はとりあえず美城が厄介中年を引き取ってくれた事実に少し感謝しながら息を吐いた。

 しかし、あの言葉は自分が言った物と同じだから自分のように厄介な質問を投げかけられるだろう。振り回された溜飲を、同じく振り回される美城で下げようと顔は二人の方を向いていた。

 

「そうか。体質で不便な事もあるだろう。俺に出来る事なら何でも言ってくれ」

「私の時と違う!」

 

 何故あんな素直に心配されてるのだろう。納得がいかない。

 

「圭ちゃんも美城ちゃんに会いたがっていたぞ。前一緒に行ったプラネタリウムのお礼が出来てないとな」

「気にしなくていいですよ。あれは知り合いのキャンセル分なので無駄にするのは忍びなかっただけですから」

「かぐや様あれ夏休みの時に立ち消えになったプラネタリウムの事ですかね」

「そうかし……いや早坂の目怖!」

 

 三徹かました夜明けくらい目バッキバキだった。選挙対策を考えて寝不足になった白銀か、犯人を見つけたウサ美ちゃんくらい目怖!加減である。

 本来なら自分が一緒に行っていたはずのデートだから、物惜しさも一塩だ。特に用事もないのに呼びつけてくれた本家のせいでしかない。

 ともあれ四宮は滅ぶべきであると考える次第である。ローマの政治家、大カトーの志が愛の中に芽吹いていた。

 

「ほらもう! 見てママ! ああやってすぐ他の人に良いカッコするんだから!」

「まあ……」

 

 掴んだ奈央の腕をぐわんぐわん揺らしながら愛は声高に叫んだ。その必死な様子に七割がた中りをつけながら娘に質問する。

 

「彼とはどういう関係なの?」

 

 始め会った時はただ仲が良いだけかと思ったが、『ママがみぃ取った』発言や他人にいいカッコする事を快く思わない所を見ると、それだけではないようだ。

 

「えぇっとね……」

 

「私と愛さんはお付き合いさせていただいている関係です」

 

 分かりやすく口ごもった愛に助け船を出したのは、話題の渦中にいる美城本人だった。

 

「まあ! この子にそんな人が」

「で、ちゅーは? ちゅー位した?」

 

 奈央と白銀父は分かりやすく食いついた。特に白銀父など女子高生のコイバナに食いつく激キモおじさんでしかなかったが、美城は嫌な顔一つせず応える。

 

「はい」

「もう……みぃってば……」

 

 真っすぐ答えた彼に、愛は恥ずかしさから恨めしい視線を向けた。しかし、それはそれとして自分と交際している事をこうも誇らしげに言ってくれるのは悪い気はしない。

 

「じゃあ恋人のはは……ゴホン……妹にあんな悪ノリしたのですか?」

「その設定まだ引っ張るつもりなんだ」

「引くわー」

「引くわー」

「ハッ! お兄たままで!?」

 

 愛が悪い気はしないでもないとか思ってる間に、美城の方はどんどん悪い立場に落ちていっている。

 

「悪ノリ陽キャの悪い所―」

「可愛いで世の中渡っていけないぞー」

「うわぁぁぁ」

 

 可愛い女の子(男)を中年が寄ってたかってイジメる地獄みたいな光景が広がりつつあった。

 出来れば無関係を装いたい所ですね。

 

「あぁもう! 五条くんがあんなになったら誰が場を纏めるの。早坂なんとかしなさいよ」

「駄目ですよかぐや様。ママは私より性格が悪いんですから」

「そうだったわね……」

 

 能力の面で言えば奈央は愛の上位互換である。性格の悪さで言ってもだ。

 この場は沈黙して場が流れるのを待つのが正解だろう。

 

「久しぶりに会えたかと思えば、随分楽しそうな事してくれてるじゃない」

 

 永遠続くかと思われた美城イジリに終止符を打ったのは、聞いたことのないはずなのに、何故か聞いた事がある気にさせる女性の声だった。

 少し栗色を混ぜた黒髪をベリーショートにしており活動的な様を思わせる。意思の強そうな柳眉が大きな目と相まって物を言っているかのようだ。不審と言っている。

 どこかで見た事が……と愛が思いだそうとしていると、女性は白銀父の方を向いて会釈をした。

 

「どうも圭ちゃんのお父様。去年の中学の三者面談でお会いして以来ですね」

「いえ。まさか要ちゃんと美城ちゃんが兄妹だったとは」

「娘は夫に似てカッコよく育ってくれましたから分かりませんよね」

 

(あ、そうだ、美城が見せてくれた家族写真にこの人がいたんだ)

 

 五条静花と言う名前のはずだ。

 ようやく目の前の女性が美城の母親である事を思いだすと、確かに彼女のそこかしこに美城を感じる所である。

 まず顔立ちが似ていて、背丈も同じくらいで、声の響きも似ていた。氷見沙織と能戸麻美子くらい。

 美城が健康的に生まれたifを見ている気がしてくるほどだった。

 

「ねえ早坂。五条くんと妹さんってそんなに似てないのですか?」

 

 この中で一人美城の家族と接点が無いかぐやは、とりあえず気になった所を愛に聞いた。圭と仲良くなりたい彼女にとって、彼女の友人かもしれない少女の事は一番に気になる。

 

「はい。これが写真です」

「……お姉さんかしら?」

 

 美城は愛より背が高いが160センチ台の恋愛人権がない男であるが、その妹は10センチは高く、170センチ台に悠々乗る高身長女子であった。

 おまけに服の上からでも分かるスタイルの持ち主で、初めて姉妹……ではなく兄妹の写真を見た人はほぼ全員が美城を指して『可愛い妹さんですね』と言うだろう。現にかぐやもそんな気持ちになっている。

 

「それで、奈央。久しぶりに会った同級生が自分の子供をいじめていた現場に立ち会った私がどんな気持ちか分かるかしら?」

 

 かぐやが呑気してる間に五条母……静花は怒りを高めた様子で奈央に物々しく質問した。

 

「『うわっ、二十年前を思い出す~。なっつ~』」

 

 奈央の答えがどうしようもなかった。

 

「ママ、さすがに真面目に答えようよ」

「正解」

「昔からこんなんなんだねママ……」

 

 愛は自分の母親の振り見て我が振り直せの境地に至ろうとしていた。十何年か何十年か経ってギャルのノリで覚えられているのはキツイ。特に愛は陽でイケイケな見せかけよりも、落ち着いた性格なのだから。

 

「あなたは昔から人を食ったような人間だったけど、昔は生徒会役員として、今は人の親として言ってあげるわ」

 

 自らを省みる素振りを見せない奈央に益々怒ったのか、静花はキッと眉を吊り上げながら言った。

 

「みー君をいじめていいのは私だけなんだから!」

 

 自分の息子を大事そうに抱きしめながら。なんなら絹糸のような白髪にすりすりしながら。

 

「あー。そういう感じ?」

「お恥ずかしながら」

 

 急にギュッとされた美城に、愛は同情の念を抱かずにはいられなかった。鬱陶しいくらい愛されてそうな所は少々羨ましくはあるけど。

 

「大体何子供の悪ノるかノらないかでギャーギャー言ってるの」

「何ってなんですか。静花さんご自慢のみー君に乗られてこっちは娘を傷物にされているんですよ」

「みー君に付けられた傷でしょ? 天使の付けた傷よ。聖痕(スティグマ)と呼びなさい。ていうかむしろ誇りなさい」

「で、どうなんですか? 美城くんのロンギヌスの槍は?」

 

 親たちが急にセクシャルな事を聞いてきた。

 だいぶ最低だった。

 

「えっ……や、やめてよ……」

「まったく、生娘じゃないんですから」

 

 ゴリゴリのセクハラだ。

 

「やめてください二人とも。私は愛さんと清くお付き合いさせていただいています」

 

 返事に困る質問から助けるべく、美城は母親たちに割り込んでいった。愛の美城のここ好きポイントが追加された。

 

「つまらんな。高校生なら若さと勢いに任せてガンガンいっとけ」

「そうですよ。特に最初の交際なんて勢い100%ですからね」

「別れるまでやりきるべきなのよ」

 

 しかし白・早・五の三家同盟が急速に組まれて逃げ場が無くなっていく。目の前の相手は最低でも異性と結婚して子供を産み育てた人間なので、経験値の絶対量で負けている戦いだ。

 

「私がカナちゃんから聞いたのが半年前くらいだから……」

「そんなに。……美城さん、娘の何がお気に召さなかったのでしょう」

「ちょっとぉ!」

 

 高校生の半年は大人の半年より何倍も価値がある。にも拘わらず、それだけの時間一緒で手を出してこないのは何か問題でもあるのか奈央は不安になって来た。ご期待できないマグロなのかもしれない。

 

「気に入らない所なんてありません。愛さんは可愛らしくてとても良く気が付く女性です」

「でもエッチな事してないんですよね?」

 

 もう少しこう何と言うか。手心と言うか……。

 

「意気地なし」

「ヘタレてるぞー」

「もっと男らしい所見せていいとお母さん思うわよ?」

 

 今度は自分を一番愛してくれているはずの母まで入り混じって、美城の恋愛模様大反省裁判が行われようとしていた。とりあえず異議を申し立てる。

 

「親の三連星はルールで禁止スよね」

「三者面談はルール無用だろ」

 

 とりあえず異議を却下します。

 タフな戦いになりそうな予感が今からする美城である。

 何で戦っているのか分かりませんが!

 

 

 

 

 

「四宮さんと保護者の方―」

 

「チッ。命拾いしましたね美城さん」

「舌打ちされた……?」

 

 戦いの火は教師の言葉によって静まったようだ。

 そもそも教師を交えて子供と話すためにお休みを貰った奈央であるから、ここは矛を収めてかぐやのために話しをせねばなるまい。

 

「では行きましょうかぐや様」

「ん? かぐやちゃんのご両親は?」

「ヒェッ……。う、うちの両親は今日来ていません」

 

 白銀父に話しかけられてかぐやは変な声が出た。またぞろ三人がかりで寄ってたかられたら泣いてしまうかもしれない。純粋に恐怖であった。

 

「ちょっと早坂何とかして」

「畏まりました」

 

 こういう時はとりあえず早坂である。あの有能なメイドに任せておけば大体の事は上手くいくのだ。

 返事をしたのはその母だったが。

 

「白銀様、私がかぐや様の父君から名代を任された者です」

「代わりですか」

「そうです。義理の母のような物とお考えください」

「そうでしたか……。俺は義理の父みたいなものだけどな」

「黙ってぇ……」

 

 この大人たちは余計な事を言わなければ死ぬ呪いにでもかかっているのだろうか? かぐやは真剣にそんな事を考え始める。

 あれよあれよと言う間にキャリアコンサルタントの資格を持つという白銀父がかぐやの三者面談に参加する事になってしまうと、考え込んだ自分を恨んだほどだった。

 

 言っても地獄、黙っても地獄の協力な親空間に、珍しく何もできない子供たちであった。

 

 

 本日の勝敗 子供達の負け

 

 

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