五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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早坂愛はまだ離れられない

 恋愛を成就させたとしても、それはゴールではなくスタートである。

 友人から恋人へのスタート。その先にある結婚というゴールも、新たな夫婦という関係のスタートに過ぎないのだ。

 もちろん一つの関係性が望んだゴールを得られない場合もある。

 

「母さんは愛を反四宮派への手土産くらいにしか思っていないようです」

 

 五条美城との恋愛の先にあるゴールが、そのような物になりそうな事を早坂愛は少し受け入れ難い気持ちで聞いていた。

 天蓋付きのフワフワのベッドの上で、というシチュエーションの甘さとは裏腹に辛い現実が恋人の口から出てくる。

 

「早坂家には跡継ぎ候補が一人しかいません。つまり愛の事ですが、その人が家を出てこちらに来てくれたら、強固な帝国に穴が空いたと喜ぶ人間もいますからね」

「……でも、普通怖くない? 裏切って五条家の情報を横流しするかもしれないよ」

「まあ、愛ったらそんな事したいのですか?」

「そんな事しないから! 例えばの話!」

 

 ついでに意地の悪い言葉も出て来て、早坂は思わず食って掛かった。自分の置かれた状況を分かっている彼が言うと聞こえ方が悪い。

 

「いじわる言ってしまいましたね。ごめんなさい」

「……もぉ……」

 

 楽しくない話をしてしまったお詫びという訳でも無いが、美城は恋人の隣に座ってサイドテールを解いてストレートにした髪をそっと梳いた。

 オフモードに入っている早坂は素直にそれを受け入れて、指先から感じる優しさにうっとりと目を細める。

 チョロっ……。

 さっきまでの真剣な話題が霧散していた。不安になる。

 

「愛は本当に可愛いですね」

「そう……? えへへ……」

「ですから母さんも、逆にあなたを受け入れる決断をしたのですよ?」

「んー……? どういうこと?」

 

 甘えたがりの顔が現れ出しているが、何とか残った理性が疑問を口にさせた。辛うじてといった感じだ。

 

「わざわざ時間を取ったのに自己アピールしかしてこない愛に、この子に裏事は向いていないと見抜いたんですよ母さんは。さすが、と言うのは身内びいき過ぎますかね」

「……私だって美城に言えないような事してるもん」

「会長を落とすためのお可愛い企みでしょう?」

「……そうだけど」

「ふふっ」

 

 くすくすと愛おしそうに美城は笑って、しかしすぐに思い詰めた顔をする。

 

「ですから、殊更に五条家の嫁になるように、と言ったのですよ」

「うん?」

「恐らく母さんは、まず愛に四宮との関係を断たせると思います」

「それって……」

「はい。四宮家が今の形である限り、愛は二度とかぐや様と連絡は取らせてもらえないでしょう」

 

 『?』と可愛らしく浮かんだ疑問に、痛烈な予想を美城はぶつける。早坂にとって、悪い意味で眼が冴える言葉だった。

 

「もちろん四条家も本懐を果たすべく日々工作に勤しんでいらっしゃいますから、そう遠くない未来に四宮は力を落とすと思いますが……」

「でも、それって何年も先の話になるよね」

「そうなるでしょうね」

「そんな……」

 

 かぐや様に、二度と会えなくなるかもしれない。

 それは早坂にとって世界が終わると言っても過言ではないかもしれなかった。

 

「もし愛が五条に来てくれるなら、私はずっとあなたの味方です。友人を沢山呼んで、寂しい思いはさせません」

 

 ……と同時に、新しい世界の始まりを意味するのも、また過言ではないかもしれない。

 ここに来れば五条邸の主となって君臨するのも難しくないだろう。愛に飢えた自分が、愛に満ちて育った恋人と、愛の結晶を育てる未来なんて容易に想像できる。

 

 

「かぐや様を失った先に、ですけどね」

 

 数日前の事を思い返しながら、早坂は四宮別邸の廊下で独り言をつぶやいた。

 呑気に美城とイチャイチャできると思って泊りに出たはいいが、まさかこんな人生の岐路に立たされるとは思っていなかった。

 

(それなりにイチャイチャはできたけど……)

 

 できたらしい。

 

(いや……の方は、できていないんだけど……)

 

 できてないらしい。

 

 

「かぐや様の恋路なら上手くいきそうですが」

 

 

…………

 

 

「早坂! どうにか時間を戻す方法を探して!」

 

 そんな事は当然あり得ないのである!

 男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉があるが、恋する乙女のアホさ加減は三日会わざれば目を覆いたくなる程であった。

 主人の部屋に入って数秒、数日前と何ら変わりないかぐやが無茶ぶりをぶん投げてくる。

 

「私ドラ●もんじゃないのでちょっと……」

「じゃあどうすればいいのよ!? あの会長がもう一度デートに誘ってくれるなんて保障はないんですから!」

「会長がデートを?」

「そうよ! あまりに自然だったから脳が理解するのに時間がかかっちゃったの!」

「たしかに以前の会長からは考えられませんね」

「と言う訳で早坂。どうにかして会長が誘ってくる状況を作れないかしら?」

 

 こういう所である。

 かぐやは策を弄して動く事は多いが、根本的な思想は待ちだった。待ちからの多彩な飛び道具が彼女の持ち味だ。

 スト2のガイルが可愛く見えてくるほど画面端でしゃがんでタメている。

 ソニッブー(策略)、ソニッブー(早坂)、サマソッ!(物理)。

 これがかぐやの基本戦術だった。昔のゲーセンならそのままリアルストリートファイター2開幕必至である。なお武道有段者のかぐやが勝つ模様。

 

「時は戻せませんが策はありますよ」

「何だあるんじゃないですか。早く教えなさい」

「私がかぐや様を誘います。美城が会長を誘います。そのまま集合場所に行けば四人が集まりますよね。『ぐうぜ~ん。私みぃと行くね~』と私達が場を離れると……」

「完璧じゃないですか」

「ですが、これは最終手段です。これに頼るより前に、勇気を振り絞って誘ってくれた会長には勇気を出して誘い返して差し上げるのが誠意ではないでしょうか」

「私から……」

 

 そう言うと、かぐやは枕を抱いてベッドの上をころころし始めたので早坂は主人の部屋を後にした。今まさにデートしたい思いと羞恥心のラウンド1が開始しているはずだ。

 

「……かぐや様はアレですが、眞妃様なら悩む事もないのでしょうか」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「翼くんが浮気してるかもしれないの!」

 

 もちろんそんな訳はないのである!

 

 

 時と所は変わって、眞妃が叫んだのは小忙しくしている生徒会室であった。

 白銀と石上が書類のチェックを行っている所に眞妃はやってくると、彼らが一仕事終えるまで静かに待って、気を利かせてお茶なんか淹れた後に上記の叫びである。落ち着くまで待ってあげる健気な彼女の一面が現れた場面だった。眞妃ちゃんをすこれ。

 

「……言う相手が違うんじゃないか?」

「そうですよ。『眞妃様』先輩ならまず美城くんに相談するべきだと思いますけどね」

 

 こんなどう聞いても面倒臭そうな案件を聞いてしまう彼らも彼らで大概気のいい奴である。石上は内心死ね死ねビームを放っているが、世話になっている先輩の尊敬する人とあって何とか表には出していない。

 

「出来るわけないでしょ!」

「どうしてですか? 美城くんなら何でもやってくれそうですけど」

 

 石上の脳裏に浮かんだのはニコニコとしつつ無双の働きをする、生きてるだけで『可愛いを極めたい』とポスターになりそうな容姿のアルビノ白髪灼眼男の娘だった。生き方がカレンチャンと思われる。

 ただでさえ部活の助っ人や喧嘩の仲裁に男女の紹介まで手広くやっている彼が、今更尊敬する眞妃のために労を惜しむとは思えないが……

 

「何でも、するからダメなんじゃない」

「ハァ~(クソデカため息)これがわがままお嬢様ですか」

「石上、先輩だぞ」

 

「何か言ったかしら?」

 

「いえ、なんでもありません……」

 

 弱い……。あまりにも……。

 

 生きのいい後輩にしっかり一言で上下をはっきりさせた眞妃は、そのまま立場を大上段に構えたまま話題を振り下ろす。

 

「翼くんがもし本当に浮気なんかしてたら……はわわ……『眞妃様を悲しませる要因は取り除いておきました』とか言ってアレコレされちゃうんだわ……」

「あるか?」

「でもやれるかって聞かれるとやるタイプですよ美城くんは」

「それは確かに否定できんが」

 

 さすが天才の一振りか、白銀と石上の両者の中にある美城の人物像の芯を食った一撃であった。事が露見したら美城に消されるだろうと薄っすら思い始めている。どっかの建物の人柱にされるかもしれない。

 可哀そうに。ただ資産一兆ドル企業の令嬢とお付き合いしておいて他の女と良い感じになっただけなのに。

 …………

 死ねばいいのに。

 石上の中にいる可能性の獣がデストロイモードになりそうであった。

 

 

「じゃあ四宮先輩じゃダメだったんですか? 女性同士の方が話しやすい……」

「それだけは絶対にダメ」

「そ、そっすか」

 

 再び眞妃に詰められ石上はしょんぼりしてしまった。女子にあまりにも弱すぎる後輩はひとまず置いて、白銀は当然の疑問を呈した。

 

「しかし、石上の言う事はもっともだと思うぞ。遠い親戚だからか知らないが、似た所のある四宮は自分を俯瞰で見る助けになるんじゃないか?」

 

「その子は肩口にかかるくらいの黒髪を結んでて、赤みがかった目に私くらいの身長で……出かける度に翼くんのチョイスが私好みになるの」

 

「それがどうか……待て、解けば肩にかかるセミロングの黒髪、赤みがかった目、四条と同じくらいの背で……同じような好み」

 

 あまり考えたくない答えが、うっすら白銀の目には見えてきた気がする。論理の帰結とそれを感情的に否定したい気持ちがない交ぜになって冷や汗すらかきそうだった。時の世界に入門してきた承太郎に対するDIOの気持ちが今なら理解できた。

 

 

「分かったようね。白銀」

 

 ゴゴゴゴゴ……

 書き文字の効果で空気が揺れる錯覚を覚えながら、白銀は答えをゆっくりと口にする。

 

「田沼と出かけて行ったという女子は……四宮だった……?」

 

 

「何を言ってるんですかー!!」

 

 

 バァン!

 

 

 扉が大破しそうな程力強く開け放たれた。

 突然の大きな音に、男子たちは驚いて一瞬で振り返る。

 重厚な生徒会室の扉をその細腕でどうやって開けたのか、副会長の四宮かぐやが仁王立ちで佇み、眞妃をキッと睨みつけた。

 

「人がせっかくなけなしの勇気を出そうかという所に、変な話題を持ち込まないでください眞妃さん!」

「なによ! 元はと言えば人の彼に粉かけるおば様が悪いんでしょ!」

「誰があんなただのアホに粉かけますか!」

「はい今言っちゃいけない事言ったー! おば様こそ庶み……」

「あーーー!!!!!」

 

 四条vs四宮の舌戦一ラウンドは、先手を取った眞妃が上から口撃を浴びせかけるが、かぐやの起死回生の大きな声でうやむやになる。野球部のスタメンより声が出ていた。

 

「埒が明きませんからオブザーバーを呼びましょう。五条くんとか」

 

 このままでは自分の喉と引き換えに平行線の戦いが続く事を悟ったかぐやは、状況を変える一手を打って出た。やたら怖がっている五条美城を呼んでしまえという身もふたもない作戦だ。

 さすが四宮の子である。人の嫌がる事を率先して行う事に何ら躊躇がない。

 人の心とかないんか?

 

「ダメー! 翼くんが……翼くんがぁ!」

 

 人の心あるほう世界代表・眞妃はそれだけは……とかぐやに縋りついた。

 氷のかぐや姫を経てチルドのかぐや姫くらいになっている四宮かぐやは、遠いとは言え血縁の眞妃の姿に同情する心が呼び起こされる。

 やんわり攻めましょう。

 かぐやの心境はそんなとこであった。殴らないという選択肢はない。

 ……やっぱり人の心が無いのでは?

 

「うるさいですね……。なら早坂……さんを呼びましょうか」

 

 

「でー? なんでウチ呼ばれたんだし? みぃと違ってヒマだからいーけど」

 

 と言う訳で何も知らされていない早坂が急遽召喚された。

 今は男子が二人いるため自らギャルとするところすこぶる篤い状態の金髪の美少女は、厄介そうな案件に辟易した様子を表に出さず軽―い感じで尋ねてみる。

 

「眞妃さんの彼が浮気をしたそうです。それだけなら、まあどうでもいいのですが……」

「よくない!」

「と、ご覧の通り冷静ではないようで、私がその相手だと仰るんですよ? どう思います」

「だって相手はセミロングの黒髪で私くらいの身長で赤い目をした女の子らしいの!」

「かぐやさ……四宮さん……」

「えぇー!?」

 

 素で出た呆れが『かぐや様』となって出てくるギリギリの所で飲み込んで何とか言い換えた。言い換えても呆れの感情は飲み込めてはいないが。

 突き放されたかぐやは味方してくれそうな当てが外れて愕然としている。

 

「ほらぁ! おばさまほらぁ! さすが美城が見染めた子なだけあるわ」

「まあ四宮さんじゃないと思うけどー」

「えぇー!?」

 

 眞妃は味方してくれそうな早坂に梯子を外されて愕然としていた。

 

 そもそもかぐやが他人の彼氏に粉かけられるような性格をしていたら、早坂が悩むことはほとんどなかったはずである。そのまま白銀に粉かけに行けばいいだけの話なのだから。

 それに、仮に性格的な面で出来たとしても物理的な面で出来ないのだ。従者の彼女は主人のかぐやのスケジュールをきちんと把握しており、主人の体が空く暇はないと記憶している。

 

「じゃあ誰なのかしら……その女って」

 

 ほかならぬ四宮かぐやを一番知る従者からの否定に、いつも気丈な眞妃もションボリが止まらなかった。

 

「……あの、少しいいですか」

 

 かわいそかわいいが極まりつつあった眞妃に、石上は若干の恐怖を乗り越えて提案した。

 

「思うんですけど、その人が誰かって四条先輩が七割くらい言ってるんじゃ……」

「適当な事言わないでよ。大体、七割言ってるってどういう事? 肩にかかるセミロングの黒髪で、私くらいの身長で……赤い目をした子の要素七割……」

 

「……」

「……」

 

 

 ピッ

 

 

「あ、もしもし美城?

 ちょっと聞くんだけど、あなたちょっと前に翼くんと出かけた? うん。……うん。

 あ、出かけたの。そう。

 黒のウィッグつけて? 何で? 家の事だからどうしても言えない? なら言わなくていいわ。

 うん。いや、別にいいの。あなたと出かけたんなら。

 ごめんね、何か舞台の手伝いとかで忙しいのに。うん。あ、じゃあね」

 

 

 

「「「……」」」

 

 耳が痛いほどの沈黙が生徒会室を包んでいた。

石上が言いたかった七割合ってるとは、セミロングの黒髪・眞妃くらいの身長・赤い目の三要素から二つ当てはまる人間が正解だと言う事だ。

 その中で変えにくい要素、身長と目の色の条件が合う、眞妃に身近な人物と言えば……

 

「さあ、眞妃さん。何か私に言う事があるんじゃないですか?」

 

 

 

「ふー……」

 

 

 

 

「こないだコンビニ行ったら透明のコーラがね……」

「そんな話題で誤魔化されませんから!!」

 

 

 失敗をコーラで流し込もうとしていた。

 到底看過できないかぐやは、裂帛の威勢で眞妃を責め立てる。今日は勇気を出して白銀をデートに誘うつもりだったのに、この再従妹姪はどうしてこう邪魔をするのか。白銀を誘った後に小一時間問い詰めたいところだった。

 

 姦しく始まった令嬢二人の舌戦の鋭さは留まるところを知らないが、聞いてる人間からすると互いに切っ先が向かうだけで危機はない。石上なんかホッと胸をなでおろしている。

 白銀は白銀で、かぐやが他の男と出かけているような事実がなくてホッと胸をなでおろしている所であった。

 

 最後に、結果的に無意味に呼ばれた早坂はと言えば、二人を見ながら最近考えている人生の大きな荷物をひとまず下ろすことを決めたのである。五条に入って四宮との縁を切るという物だ。

 かぐやがポンコツを晒しまくっている恋愛がまだ実っていないのに、彼女の元を離れる訳にはいかない。恋愛が実っても周りを引っ掻き回す眞妃を見て、せめてかぐやは独り立ちできるくらいまで見守ろう。早坂はそう心に決めて、美城との未来の話は保留する事にした。

 幸いにも期間は美城が働くまで……彼は大学まで出るだろうから、つまりあと五年だ。

 それだけあれば恋愛の進展がカタツムリの歩みと同じかぐやであっても、恋を実らせ一通り経験して一角の女性に成長してくれるに違いない。

 

「なによ」

「なんですか」

 

 ……未来の事はさておいて、今は目の前の言い争いを収めないと。

 

 早坂はいまいち頼りない男どもを押しのけて、かぐやと眞妃の二人の間に『まあまあ』と割って入って行った。

 

 

 本日の勝敗  四条眞妃&四宮かぐやの敗北(結局文化祭には誘えなかったため)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「会長。少しよろしいでしょうか」

 

 人騒がせなひと騒動があった放課後の、さらに夜に近づいた時間に作業をしている白銀にふとかけられる声があった。

 

「五条か。遅くまでご苦労だな」

「いえ、生徒会の皆さまほどではありません」

 

 薄暗い中にも白髪が存在感を放つ五条美城の声である。

 いつもの美少女のふりした美少年っぷりはどんな所でも健在で、かぐやに惚れている白銀でも単純な造形美に目を一瞬奪われるほどだ。

 

「それで、どうかしたのか? 問題があるなら遠慮なく言ってくれ。後回しにすると碌なことがないからな」

「ありがとうございます。ですが、私達の方は問題ありません」

「……なら何の話だ?」

 

「文化祭において、妙なお金と物の動きがあります。もしかして会長は何かなさろうとしておられますか?」

 

 今度は美城の外面ではなく内面に目を奪われる番であった。

 

「何を言ってるんだ?」

 

 美城の言葉に、白銀は平然と何もないように切り返す。

 だが、もちろん何かしようとしている彼は少しの動揺を額に一筋流していた。

 

 ウルトラロマンティック計画!

 文化祭を私的に利用して、四宮かぐやに告白する最高のシチュエーションを作り出すための、白銀の一世一代の計画である。

 二日開催という日程から、出店の配置に観劇の予定、実行委員の人事とありとあらゆる所に白銀の裏が巡らされているのだ。

 許されるか、許されないかで言えば許されない事である。それゆえに美城には『そうですか』と引き下がって貰わなければ。

 これはサプライズなのだから、驚きの仕掛けは知られない方が良いに決まっている。

 

「まあ会長ったら、誤魔化そうとしても駄目ですよ。事務方に簡易な運搬クレーンの申請を出しましたよね。事務長の鹿苑さん、の娘であるこがねが教えてくれました。リース会社の社長の知り合いでもある欽二くんが裏を取ってくれています。加えて前代未聞の二日開催とは言え、予算を動きがおかしいと銀行員の父の薫陶を受けた中沢くんが指摘してくれました」

 

 八方塞がりという言葉をこれほど実感した事は白銀の人生において無かった。

 秘密裏に行ったと思った事が、こんな簡単に白日の下に晒されるとは……。五条美城の土建屋の息子として広く物を見定める能力が、最悪の形で生かされたと白銀は恨めしく思う。

 

「もし俺が何かしようとしていたらどうする?」

 

 意味ないと分かりつつも、少しぼやけた物言いで美城を睨むように見据えた。

 不幸中の幸いとして、美城は情に厚くて約束事は守る人間だと言う事がある。頭を下げて頼めば最悪何とかなるのではないか。白銀はそう考えながら美城の次の行動を見逃さないよう怖い目つきをさらに怖くさせた。

 

「いえ。どうもしませんが」

「……は?」

 

 帰って来たのは気の抜けるような返事で、白銀の緊張の糸もふっと緩んだ。それを見計らったように美城は続きを話し始める。

 

「私も文化祭で少々サプライズを考えておりまして。もし会長が何かされるなら、変な事にならないよう話し合いたいと思っているのですよ」

 

 考えている事はどうやら同じような事らしかった。

 

「早坂さんのためにか」

「もちろん。愛に楽しい思い出を提供できる人間である事を示したいのです」

 

 こうなってくると話は変わってくる。

 確かにサプライズに水を差されたら困るのは白銀も同じだ。美城の案によっては共倒れも考えられるだろう。

 

 例えば美城がドローンを用意して空中に何かを描こうと考えているなら、白銀のバルーンは邪魔になるだろうし、ドローンの羽に巻き込まれてバルーンが割れてしまう可能性も考えられる。

 もしそのトラブルで怪我人でも出そうものなら……

 

『会長……こんな大げさな事をするのに他の人と摺り合わせも出来ないのですか? お可愛いこと……』

 

 

(それだけは絶対にダメだ!)

 

 そうなってしまえば告白をするやされるやの心境では無くなってしまうだろう。むしろ詰めを誤った無能としてかぐやの記憶に刻まれる可能性の方が高い。

 

「いかかでしょう。私の案を教えますから、どうか会長の案も教えてはくださらないでしょうか」

 

 白銀は逡巡の後に、

 

「分かった。教えよう」

 

 美城と協力することを選んだ。

 惚れた女に何かしたい。という一番大事な方向性が同じなら、協力できる余地は十分にあると思ったからである。

 

 白銀は美城に、美城は白銀に、それぞれ自分の案を話し合った。

 

「なるほど……それでしたら」

「ああ。どちらの案も両立できそうだ」

「ふふっ、共犯者ですね私達」

 

 秘密を同じくした同士は、文化祭を手中に収めて転がすことを決めた。色とりどりの個性が発揮される祭りを、ただ一つの目的のために弄ぶのだ。

 それぞれ相手の心を手に入れるために。

 

 

本日の勝敗 なし(恋愛頭脳共同戦線発足)

 

 





現時点の早坂が五条家の嫁になると嬉しい人一覧

・五条美城 好きな人と一緒になれて嬉しい

・五条静花 跡取りに出来ない息子の望みを一つは叶えられて嬉しい

・五条要  よく分からないけど兄が出世街道を外れてほの暗く嬉しい

・未来の要の夫  義兄さんが自分の地位を脅かしてこないので嬉しい

・四条眞妃、帝姉弟 幼馴染が好きな人と一緒になれたようで嬉しい

・四条家 一番の従家から裏切り者が出てざまあみろ嬉しい

・藤原千花 友達と友達がくっついて嬉しい



・早坂奈央 娘が好きな人を見つけて半分嬉しいが出て行かれて半分悔しい










・四宮かぐや 兄の指示で自分を裏切っていた上に四宮家まで裏切って許せない

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