五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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早坂って162センチあるらしいけど……背高くない?
美城は早坂より明確に少しだけ高いって設定なんですけど、これだと美城165センチくらいあるから小柄って感じしないよなぁ。
まあこの作品では小柄っていう事で……。


お気に入り、評価、感想いつもありがとうございます。
アニメはもう最終回を迎えますが、このお話はもうしばらく続くのでお付き合いいただけたら嬉しいです


兄たちは見に行きたい

 エコーチェンバー現象という物がある。

 閉じられたコミュニティにおいて、一つの言説の響きがコミュニティの中で支配的になり、反響室で言った言葉が何倍にもなって跳ね返ってくるように、同じ価値観を持った人の集まりは一人の言葉を増幅させるという現象だ。

 事実かどうかは関係なく、集団の信じたい物が真実としてまかり通る、恐ろしい物である。

 

 要するに、学校という狭いコミュニティでは噂がすぐ広がり、その噂が知らない所で一人歩きするということだ。

 白銀が文化祭を前に、もっと言うとかぐやに告白するより前に抱いている懸念とは一つここにあった。

 四宮とのこと、変に噂とかされたら恥ずかしいし……。

 ときメモの藤崎詩織みたいな事を思う男である。実ってから言えと忠告したい所だ。

 しかし多感な時期の彼にとって、そして耳目を集める四宮かぐやを落とそうとする男として無視できない項目であった。難しい家柄のかぐやとオープンな付き合いを出来るか、と言うと、それこそ彼女に聞いてみなければならない。

 

 自らの羞恥心と彼女の家柄への配慮の天秤が丁度つり合う所が、文化祭を丸ごと利用した計画『ウルトラロマンティック計画』であり、怪盗アルセーヌである。

 

 しかし企てとは全く関係ない、金の動きと物の動きというロマンティックもへったくれもない所から計画がバレかけたのは記憶に新しい。物と金の動きに厳しいゼネコンの息子である五条美城が問い詰めて来た時は、ある種の死を覚悟した。

 幸い美城も文化祭を利用して、恋人である早坂愛にサプライズを計画しているそうなので、手を組むことにして取り込んだのだが……

 

(もう少し話を詰めておきたい)

 

 手を組む事自体はありがたいが、ヒューマンエラーを起こす要素を一つ増やしてしまったのも事実である。白銀の知力と権力をもって作り上げた計画に、新たに歯車を付け加えるのだから。

 そうならないためにも、もう少し話し合いの場を設けたい。

 

 だが何せ五条美城という男は目立つ。

 目立つったら目立つ。

 特に文化祭では四つの部活の助っ人として表に立つ事は秀知院周知の事実である。

 そんな彼と一緒にいれば裏方に徹している自分も目立つ羽目に会うかもしれない。

 そこから第二第三の美城が現れたら一巻の終わりだ。考えすぎかもしれないが、一人気付けたなら二人気付けない道理はない。

 なので、怪しまれずに会う場所が必要だった。

 

 

 

「ただいマグダラのマリア」

 

 あれこれ白銀が考えていると、妹の圭が帰って来た。白銀家では『ただいま』の後に何かくっつけるクレヨ●しんちゃん方式が取られているが、どうやら今日妹は西洋史を習ったようである。

 

「圭ちゃん。おかえり」

 

 遅かったな……と口が滑りそうになったが、確か中等部の文化祭で忙しくしているはずなので、出かかった言葉を慌てて飲み込んだ。

 圭は特に意味もなく兄を睨みつけると、「着替えてくる」の一言を残して子供部屋へと向かって行った。入ってくるなと言う事である。

 年ごろの女の子は難しいので兄としてこれはスルー。部屋が使えないので白銀はそろそろ帰ってくる職業不詳の親父の分も合わせて晩御飯の準備をする事にした。

 

 

 

「……」

 

 ペラッ……

 

「……」

「なあ圭ちゃん」

「……何?」

 

 着替え終えた圭は、一人黙々とファッション誌を呼んでいたが白銀はお構いなしに話しかけた。嫌そうな顔をされたが、こちらが黙っていると無限に黙っているのでコミュニケーションの必要性から話しかけるのはいつも兄の方からだ。そういう所がウザい? ……そう……。

 

「中等部の文化祭って明日からだよな」

「そうだけど」

「高等部の参考にしたいから見に行ってもいい?」

「え――……、……まあ……別に良いけど」

「じゃあ午後あたり……、……!」

「なに? お兄ぃどしたの?」

 

 ここで白銀の頭にある情報が繋がり、ある一つの事を思いついた。

 

「いや、午後じゃなくて少し早めに行くかも」

「は? 何それ」

 

 五条美城と怪しまれず話し合う場。そして中等部の文化祭。

 話にだけ聞いていた美城の妹も、確か中等部だったはずである。『Mbaを取って帰ってきたら妹と結婚していいですよ』と鬼軍曹構文を言っていたので覚えていた。

 そして、中等部の文化祭に行くとも言っていた。美城の妹とは面識が無いので遠慮していたが……。

 

「友達の予定に合わせようかと思ってな」

 

 カモフラージュ!!

 

 周囲の風景に溶け込み、敵の視線を欺き発見を免れる技法である!

 白銀は『中等部に妹を持つ同士』という皮を被って、美城と話しても不自然ではない状況を作り出そうといていた。相手方への連絡を怠りまくりの計画だったが、なんやかんや美城は許してくれる気がする。

 

「友達……ね。もしかしてその学ランでくるつもり?」

「そのつもりだけど?」

「それ目立つから止めて」

「なんでだよ」

「お兄ぃはこっちでも名が通ってるの! 友達も悪目立ちしてからかわれるの可哀そうって思わない!?」

 

 反抗期の圭ちゃん渾身の叫びだった。まず他人の心配をしてあげるのが良い子である。

 

「目立たず、だけどちゃんとおしゃれしないと連れてかない」

「はいはい」

「試しに明日どんな服で行くか見せて」

「え、何で?」

「いいから」

 

 小さいが有無を言わせぬ圧を伴った声に渋々白銀は従う事にした。晩御飯の準備があるのに、などと愚痴りながら。

 たしかに圭も小忙しくしていた身なので空腹だが、それよりも気にしないといけない、飢えるよりも大切な事が思春期女子にはある。

 

 

「こんなんでどうかな」

 

お願いやめてェ!!

 

 ダサい身内を友達に知られたくないと言う事だ。

 

「えっ……これダメ?」

「そんな中学生みたいな服恥ずかし気もなく着るヤツがまさか……まさか身内にいると思ってなかった!!」

 

 もう高校生半分終えた兄が着て来た服は、首から下げたシルバー『♰』と、胸の『 』が叫ぶはMad Boy。

 

 中二のころに憧れがちな物全部乗せみたいな非常に痛々しい服だった。小学生でセンスが止まっている方が救いがある。白銀のような強面がプリキュアTシャツを着ている方が逆に見たいまであるくらいだ。

 

「それ着て隣歩けるのデーモ●閣下かDAIG●くらいだから!」

「千鳥の……?」

「坊主の大吾と歩くにはクセが凄い!」

 

 高二でそれはクセじゃあ……。

 もはや芸人の物ボケの域に達している兄にツッコミたい事は山のようにある。いや山越えて連峰だ。

 

「大丈夫だって明日はワックスで髪の毛立てるし」

「激イタパンクバンドだから!! むしろ頭はまだ取り返しが付く方だからいじらないで!」

「そうかな」

「一人で下北沢歩くならまだしも、友達と歩くんでしょ? 少しは隣を歩く人をイメージして服選んだら?」

「……とんでもなく目を惹くヤツだったらどうすればいいんだ?」

「最悪きれいめなシャツと普通のジーンズでいいから、マシなの選んでよ。千花姉ぇに恥かかせないであげて」

「何で藤原の名前が出てくるんだよ」

「え? だって中等部に来るようなお兄ぃの友達って……妹の萌葉がいる千花姉ぇくらいしかいないでしょ」

「いや五条……」

 

 ガッ

 

「明日は絶対学ランで来て」

「何で!?」

 

 五条の『ご』の字を言ったくらいで圭は兄に掴みかかった。掴み過ぎて肩の所の血管がキュってなっている。白銀の指先が青くなり始めた。

 

「学ランは悪目立ちするから着てくるなって言ってたじゃん!」

「そうだけど! シロ姉が来るなら話は別!」

「諦めるなよ圭ちゃん! もっとファッションを指摘とか……何かあるだろ」

「諦めたら? 試合終了だよ?」

「安西先生――!!」

 

「てか、分かってるのお兄ぃ? 夏休みに来た時さ」

「あのプラネタリウムのチケットくれた時か」

 

 やけに力のこもった手で兄の両肩を締め上げていた圭は、少し落ち着いたので手を放して床に腰かけながら語り出す。彼女が言っているのは、白銀が夏休みにボランティアという名目で海に出かけたすぐ後の事だ。

 美城が『かぐや様と行くように』と言いながら白銀にプラネタリウムのチケットを渡してきた事は当然覚えている。しかし当のかぐやが本家の使用人が来たゴタゴタで行けなくなり、好きに使って良いとお達しを受けたので、結局白銀は圭とプラネタリウムを見に行ったのだ。たのしかったです(小学生並の感想)。

 

「恰好覚えてる?」

「いや……」

 

 圭が話したいのはそういう事ではないらしい。美城が着ていた服が問題だそうだが、四か月前くらいの友人の服装を思いだせとは難問だった。

 ファッションに疎い白銀でも『高そうな服着てんな』と思った記憶が、何とか忘れる土俵際で粘ってくれていた。だが高い服など溢れているので、実質思いだしていないとの同じである。

 

 

「シロ姉が着てたのグッチで手首に巻いてたのカルティエだよ」

「あいつグッチ背負ってウチ来てたの!? ハッチポッチステーションじゃん!?」

「裕三じゃないから」

「ていうかカルティエって女性向けのブランドじゃ」

「しょうがないでしょシロ姉の手首私より細いんだから」

「マジで!?」

「あの人もう骨格からメスだから」

「文化祭行ったら男子中学生の性癖を壊してしまうかもしれないな……」

 

 アルビノふんわりお姉ちゃん系お兄ちゃんとかいう性癖の破壊者が、まだ何も知らない男子中学生の中に入ったらどうなるのか。天才の白銀の頭脳を持ってしても分からない事は沢山ある。

 ロクな事にならないのだけは分かる。

 

「もう私から遅い時間で悪いけど、滅茶苦茶地味な服明日着てきてって言う!」

 

 しばらく考えていると、圭はしびれを切らしたように叫んだ。どうやら兄を更に更に高めるより、美城を下ろす方が簡単だと分かったらしい。いや……分かってはいたのだが、妹を見に来る兄という微笑ましいエピソードに自分のエゴで泥を塗っていいのか、という良心から分からないフリをしていただけだ。

 だが、圭も同じシチュエーションであるし、加えて【白銀が恥をかく+隣を歩く美城と比べられる+ひいては自分も馬鹿にされる】という恥3ポイントの自分に対して美城の妹・要の方は【自分より可愛い兄が来て比べられる】という恥1ポイントだ。

 どちらが被害が大きいかは一目瞭然である。これは初歩的なマキャベリズムであった。将来の圭がドライアイスの剣と呼ばれる日は近いかもしれない。

 

「……あ、もしもしシロ姉?」

 

 

…………

 

 

 

「と言う訳で圭の言う通り地味な服を着てきました」

「急にすまなかったな……」

 

 翌日。秀知院学園中等部に二人の姿はあった。

 白銀はいつものように純金飾緒の付いた学ランに身を包んで、やたらと周囲の目を引いている。卒業した者が自分の子供を通わせるケースが多い秀知院では、当然の如く保護者も白銀の付ける飾緒の意味を知る者であった。

 そして懸念であった美城の恰好はと言うと、メイドのまもるにユ●クロへ買いに行ってもらったオリーブ色のカーゴパンツに黒のインナーとダボっとしたネイビーと白のチェックシャツだ。おまけに黒髪のウィッグを付けて瓶底眼鏡までかけている。

 パッと見で地味だが、『あいつの可愛さを知ってるの俺だけだから……』みたいな後方彼氏面が多そうな女の子みたいだった。だが男だ。

 この前眞妃が大騒ぎしたのは、このウィッグを身に着けた美城の事を言っていたのだろう(服装はもっとマシだっただろうが……)。彼氏がこれと歩いていたら浮気を疑う彼女の心理が良く分かった。

 

 

「その服の事も」

「構いませんよ。それより、早く行きましょう。妹は朝のシフトなんです」

 

 白銀が何かと言う暇もなく、美城は彼の腕を取ってスタスタと早歩きで動き出した。

 

「会長は私の妹の事はご存知ですか?」

「いや。圭ちゃんからチラッと話を聞いたくらいだ」

「そうですか。なら、会うと驚かれると思います。私と違ってすらっと背が高くて格好いいんですから」

 

 楽しそうに妹の話をしながら、美城は勝手知ったる母校に帰って来た卒業生のように迷いなく妹のクラスへ向かう。

 一つ階を上がると、白銀の鼻を小麦粉の匂いがくすぐった。同時にチョコレートソースと、僅かながら柑橘系の匂い。クレープだ。

 

「クレープは中等部だと出してもいいのか?」

 

 そういえば意見書にクレープ屋台はどうしてダメなのか、という意見が入っていた事を思いだした。多忙な白銀は文化祭実行委員に投げた事だけは覚えているのだが、中等部は違ったのだろうか。

 

「ダメですけど、優くんが植物性油脂100パーセントのホイップクリームやジャムなら使用例が沢山あると教えてくれた……と、つばめ先輩が教えてくれたので要に教えてあげたんです」

「要、というとお前の妹の名前か」

「そうですよ。あっ。あそこに立っている子です」

 

 美城が手で指し示す先に、確かに一人女の子が立っていた。

 

「いらっしゃいま…………げ、兄さん」

「そんな顔しない。私だけならともかく他の方もいるのですよ」

 

 白銀達に気が付いた要は顔を向けると、紋切り型の接客用語を口にするが、完全に出る前に唇を結んだ。

 

(確かにこれは全然似てねー)

 

 お兄さんぶって叱っている美城にとても違和感を覚える妹である。

 まずデカい。

 170少しある白銀よりも高く、ともすれば180近いのかもしれない。女子に見下ろされるのはこの身長に育って初めての事だった。

 あと顔立ちも美城はたれ目の可愛い系だが、要は釣り目のカッコいい系の顔立ちである。大抵の人は、まず間違いなくこの二人が並んでいたら美城の方を妹さん呼ばわりするだろう。

 

「いらっしゃいませー。誰々? 要ちゃんの友達?」

「……家族」

 

 表担当の要が声を出さなくなったので、不審に思った女子がひょっこりと顔をだした。可愛らしいエプロン姿のまま隣に来ると、要はパッと見サブカルサークル入り浸り女な恰好の兄を指さしながら、嫌々そう言った。

 

「そうなんだ。初めましてー」

「初めまして。いつも要がお世話になっております」

「やーん可愛い~。妹ちゃん今日は彼氏と来たの?」

 

 早速された。

 教室から出てきた女子中学生と知り合って十秒で妹ちゃん呼ばわりされていた。

 

 そして白銀も巻き込まれる形で彼氏呼ばわりされていた。

 

「会長。ふふふっ、カノジョですって」

「いや違うから! こいつはおと」

「あーーー!!」

 

 

 …………。

 急に大きな声を出したのは要だった。

 いきなりの出来事に一瞬静寂が辺りに広がる。

 

「えっと、クレープ買いに来てくれたんでしょ? 私がここ奢るから他の所も行って来たら? ほら美葉、イチゴクレープとオレンジクレープ出して」

「え? でも……」

「いいから!」

「ひゃい!」

 

 静寂を破ったのは要自身だった。

 友人にさっさと指示を出すとゴリゴリに圧力をかけて場を離れさせる。

 

「要……」

「なに? 兄さん」

「人に言う事を聞かせられるようになって……、成長ですねぇ」

「いや褒めんな褒めんな」

 

 さっきの態度は怒って今の出来事は怒らないってお前の情緒どうなってんだ。素直に白銀はそう思った。

 

「で? 誰この人? まさか本当にカレシ? 愛ねーさんって人がありながら?」

「人のセクシャリティを勝手に決めるな。俺は女好きだ!」

「うわあ……」

「……あ、違う! ヘテロセクシャルだって事だ!」

「性癖が分かった所で改めて聞くんだけど……」

「だから違うって!」

「必死になる所がまたうわぁ……」

 

 どうやって戦えばいいんだ!!!

 女子中学生の軽蔑の視線に絶望的な気持ちになっていた。白銀の心は千年血戦編の阿散井恋次と同じである。ただ彼と違って済まぬしてくれる白哉兄様はいないし、見た目姉様の美城兄様はなんかニコニコしていた。お前の見た目のせいでややこしい事になってるんだから済まぬしろ。キレそう……(卍解)。

 

「この人は高等部の生徒会・白銀御行くんですよ。中等部の生徒会にいらっしゃる白銀圭さんのお兄さんです」

 

 ひとしきり状況を楽しんだ後、美城はようやく助け船を出した。判断が遅い!

 

「圭の……あー。噂の生徒会長小姑兄貴」

「知らないあだ名付けられてる!」

「まー別にいいんじゃない? 好きだから話すんでしょ。私は兄さんの事絶ッッ対に知られたくないから話してなかったし」

 

 それもどうなの……?

 

 流れ弾で嫌い呼ばわりされた美城はさすがに笑みを固くしていた。

 好きだから話す。なら話さないのは……そういう事だ。

 確かに白銀も自分よりカッコいいお姉さんがいたら絶対友達に紹介したくない。絶ッッ対姉貴来んなよ、と言い聞かせておいて悲しみがそして始まる。ちょっと考えただけでこれだ。人は悲しみを繰り返す生き物だという証左だった。

 

「要。出来たよ」

「ありがと。じゃあ二人ともこれは私の奢りだから。お金はいいから早くどっか行って」

 

 取り付く島もない、とか、けんもほろろに、とはこういう事だろう。

 これ以上兄をクラスメートに接触させたくない悲しき思春期モンスターが、有無を言わさぬ目力で帰れ帰れと訴えていた。

 

「……会長、早く行きましょうか」

 

 恐れを知らない戦士のように誰にでも突撃していく美城でも、妹に嫌われるのは堪えるのか、クレープ二つを受け取ると早く帰りたがった。

 

「邪魔したようで悪かった」

 

 白銀もこれ以上美城が落ち込むと、この後の話し合いに差し支えあると思ったので大人しく引き下がる事にする。というか『早く行こ?』と上目遣いで訴えてくる美城が彼女過ぎて噂されるのが嫌だったのもあった。

 ちょっとドキッとした。

 

 

 

…………

 

 

「おう、圭ちゃん」

「兄さん……本当に来たのね」

「たこ焼き一つ」

「はい。とっとと行ってよ」

 

 

 その後、白銀も妹のクラスがやっている出店で素っ気なくされるという同じ悲しみを背負うのであった。

 

 

 本日の勝敗 兄の敗北

 

 

 

 

 

 

「そういえば会長。少し気になっている事があるのですが」

「何だ?」

 

 美城の妹からクレープを、白銀の妹からたこ焼きをそれぞれ買った彼らは、一度も中等部の校舎に来た事が無いのに地理に明るい美城の勧めで校舎の端の誰も来ないベンチに腰かけていた。

 妹に押し付けられてしまったクレープを、ぱくりと小さな口でほおばりながら美城は話始める。

 

「アルセーヌの“答え”はどうなさるおつもりで?」

「……答え?」

「はい。アルセーヌの正体はもちろん会長ですが、それを明かすつもりは、つまりかぐや様とお付き合いする事実を大っぴらにするつもりはありませんよね」

 

 真っ白な肌に付いたストロベリージャムをそっと舐めて取りながら、美城の言いたい事は明確であった。

 謎には答えが必要。という、クイズの基本である。

 

「怪盗は皆の心の中に」

「どうしてそこもロマンティックでうやむやにしようとするんですか」

「しかしそこまで気にする問題か?」

「もちろん…………ありませんが」

「ないのかよ」

 

 二択問題で答えはA・Bどちらでもありません、というクイズじみてきた。

 

「もし怪盗の正体は会長ですか?と聞かれたとしても、『そうだ。いい思い出になっただろ』と言ってしまえばいいだけですからね」

「無駄に驚かすような事言うな」

「ですから少しと言ったではありませんか。物を食べながら大切な話はしませんよ」

 

 言われてみればそうである。

 美城は食べながら繋ぎの会話をしていたくらいの気持ちなのだろう。ただ見た目の神秘性から無駄に言葉に重みが産まれるだけだ。

 

(しかしアルセーヌの“答え”か)

 

 こんな感じで。

 

 確かに白銀はアルセーヌという虚像を作り上げたが、それはしょせん文化祭で生まれた虚像である。次の日には蜃気楼のように消えて、思い出の中にだけ残る存在と思っていたが、答えをしらない生徒の一部は『アレ何だったんだろうな』というしこりを残して生きていくのだろうか。

 少し無責任な気がした。最後の後始末までしてあげるのが親心ではないか。これではアルセーヌに申し訳が立たない。文句を言われる後始末は大怪獣だけで十分だ。

 白銀は特訓してくれる藤原の気持ちが少しだけ理解できた気がする。

 

「そうだな……。アルセーヌの物語を、形だけでも締めないとな」

「どうしますか? 私に出来る事なら協力致しますが」

 

 そういう美城は半分残ったクレープを片手にたこ焼きを突こうとしていた。甘いからしょっぱいの無限ループを生み出すつもりである。

 お前が言い出した事だろう。本当に軽い気持ちで言ったんだな、と白銀も呆れるくらいだった。

 じっと正面にいる極めて女に近いが一応男の生命体の食事シーンを眺め続けて、彼がたこ焼きを飲み込んで自分の方を向いた時、白銀は言った。

 

 

 

 

「五条。お前が“答え”になれ」

 

 

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