五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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四条眞妃は/藤原千花は分かってる

「美城の言う通りだったわね。告白されるのを待ってれば良かったのよ。そりゃ、ここ最近あなたが色々してくれたのを忘れた訳じゃないけど……」

 

「はい、眞妃様」

 

「でも告白してくる時の翼君はカッコよかったなぁ……。キリッとした顔でね、こっちに来るの。ちょっと怖くなって後ずさりするんだけど教室だったから狭いじゃない? どんどん迫ってくるんだけど、その時は告白してくるなんて知らないからちょっと怖くて……」

 

「はい、眞妃様」

 

「そしたらいきなり壁をドン!ってしてくるし、びっくりしてドキドキしてたら『僕と付き合え』ですって! キャー!!」

 

「はい、眞妃様」

 

「もう頭真っ白になっちゃって、思わずはいって言ったから現実味が無かったんだけど……。その後に一緒に帰ってると段々実感がわいて来て恥ずかしくなってきちゃって、もうまともに顔も見れないの」

 

「はい、眞妃様」

 

「ドキドキしながら翼君の方を見上げるとね、風に吹かれて髪がたなびいてる姿がキラキラして見えちゃって、ああこの人の事好きなんだなって……」

 

「はい、眞妃様」

 

「それでね、それでね……」

 

…………

……

 

 

「最近美城に元気がないの」

「先輩ですけど言わせて下さい。正気ですか!?」

 

 その日、四条眞妃は珍しく白銀御行に相談を持ち掛けていた。

 曰く、幼馴染である五条美城が最近元気がないそうである。いつもはニコニコ朗らかな美城の表情が硬いらしい。目が合った時の微笑みがワンテンポ遅いそうだ。それに受け答えが通り一遍だという。

 

 不憫な……。

 

 白銀はそう思った。

 どこの世界に自分が好きな相手が他人に夢中な話を聞いて嬉しい奴がいるのか。NTRで脳が破壊される。寝てないけど。そもそも美城に寝たいという欲望があるのか、有識者会議を行って検証を進める必要があるかもしれない。

 

「何の先輩よ」

「五条の付き合い歴の、か?」

「じゃあ私は白銀を男歴の先輩として話を聞いてるんだけど」

「何で俺なんだ? 翼くんにでも聞けばいいだろう。せっかく彼氏彼女の関係になれたんなら」

「か……彼氏に……あぅぅ……」

 

 ぷしゅ~と湯気でも出てきそうなほど顔を真っ赤にした眞妃が俯いてアワアワし出して、さすがの白銀もこれにはビビった。控えめに言ってかわいめだった。

 

「幼馴染とは言え、他の男の子の話をされて喜ばないでしょ!」

 

 まだ赤い照れ顔のまま、無理くりまなじりを釣り上げて眞妃は威勢よく言い放つ。

 いやあたぶんそんな事はねえと思うぞ(悟空)。

 白銀は墓まで持っていく事を決意した田沼翼の相談内容を思い出す。彼は五条美城が気になると相談してきたのだ。何もなければそのまま美城の所に行って眞妃の情緒は滅茶苦茶になっていたに違いない。

 やっぱ俺もうちょっと褒められても良くない?

 というか今もちょっとその気があるような……。そんな彼が美城の話を持ち込まれて怒る事は考えにくい。

 

「まあそっとしておいてやれ。男には一人の時間が必要な時もある」

「そうなの……」

 

 目に見えるほどにしょんぼりしてしまった。あく抜きしたほうれん草くらいしょぼくれている。

 

「……白銀は美城の事女の子みたいに扱わないのね」

「たしかに五条の見た目は女みたいだが、あいつ結構クソガキじゃないか?」

 

 自分の置かれている状況を鑑みて、とまでは言わずとも可愛らしさを理解してからかってくるあたりとか。自分しか持っていないおもちゃを自慢する小学生男子のメンタリティーに通ずるものがある、という風に白銀は思っていた。

 

「分かってるじゃない。あの子って意外と男の子っぽい所あるのよね」

「ぽいというかその物だが」

「でもね、だからと言ってそこらの男子みたいに女の子紹介したら喜ぶとかは無いの」

「……まあ……それはそうだろうな」

 

 むしろ心は傷ついていただろう。

 自分の好きな人に女の子を斡旋されるなど、あなたに脈ありませんとかなり直接的な意思表示をされているような物だ。

 可哀そうに。白銀の中で五条お労しやポイントが溜まった。五ポイントでお弁当と交換できます。

 

「何か無いかしらね」

「必死になって考えるじゃないか」

「そりゃそうでしょ。幼馴染だもの」

 

 四条眞妃については、入学してから噂に聞く程度の事しか知らない白銀だったが、その思い描いていたイメージとは少し違うなと目の前の彼女を見ながら考える。

 傲慢で高飛車な典型的なお嬢様。それが白銀が抱いていたイメージだが、案外優しい所もあるのか、そういう風にイメージを改めておく。

 

「何とかしたいんだけどね……。邪魔したわ」

 

 そっと髪をかき上げると存在感たっぷりに立ち上がり、一瞬目線を白銀によこしてから眞妃は自分の席に戻って行った。

 何と言うか、お嬢様といった感じだった。もっとも白銀の中のお嬢様像と言えば、もっぱら四宮かぐやだが。

 

 あぁ、そう言えば親戚なんだっけ。少し似てるよな。

 

 そんな事を思いながら何の気なしに眞妃を見ていると、席に着いた眞妃が隣で教科書片手に唸っている田沼翼の方に歩み寄りながら、四条のお嬢様から恋する乙女への顔色の変化をつぶさに観察する羽目になってしまった。

 もし四宮がこんな顔をしているのを間近で見ていたとしたら……。これは辛い。

 白銀は五条に心の中で手を合わせておいた。

 

 

 

 

 

「会長、最近シロちゃんの元気がないんです」

「お前もか」

 

 その日珍しく難しい顔をした藤原千花が白銀の下に来たかと思えば、数時間前に聞いた事と同じ文言を唱えて来たので、白銀は少し投げやりに答えた。

 

「お前もかって、何ですかその態度は! 秀知院の生徒が悩んでいるんですよ!」

「ほうっておいてやれよ。五条の悩みはお前がどうこう出来る内容じゃない。もちろん俺にもな」

 

 失恋をした事がない白銀には、正直に言って美城の悩みを理解できるとは思わないので、下手な事は言えなかった。失恋を癒すのは新しい恋とも言うが、長い間想っていた人に変わるような女性がホイホイ現れるとも思えない。

 藤原を……いややめておこう。美城がもう恋なんてしないなんて言わないよ絶対とかいう事態になりかねない。

 

「会長、冷たいですよー」

「冷たいって事はないだろ。別に普段通り接してやればいいと思うが」

「むうう……」

 

 藤原は納得いかないようで、むくれながら白銀を睨みつけた。

 もちろん白銀は藤原の言いたい事も理解はしているが、何とかお節介を焼きたいというのはいかにも女性だなといった感想を抱く。

 

「何? 藤原も美城に元気がない事に気が付いてるの?」

 

 美城、という単語を聞きつけたのか眞妃もトコトコとやって来た。

 

「あ、四条さん。そうなんですよ。最近のシロちゃんは元気がありませんって話をしてたんですけど……」

「私もしたわね」

「会長ったらほうっておけって言うんですよ」

「それ私も言われたわね」

「四条さんもですか!?」

「そうよ。朝に相談してみたんだけどね。ほんと男って何ですぐほっとけって言うのかしら」

「ですよね!」

 

 雲行きが怪しくなってきた。白銀は急に帰りたい気分に襲われる。周りを見渡すも美城はおらず翼もいない。風祭、豊島の両友人もそっと目線を反らして、誰も助けてはくれそうになかった。

 

「普段話してる時ははいはい頷いてくれればいいのに、何か意見が欲しい時に限って『ほっとけ』とか『知らない』とか言うのよ」

「確かにそう言う所ありますね」

「ねえ、藤原はどうしたらいいと思うかしら?」

「私ですか? そうですね~……テスト期間が始まればシロちゃんはやる気出すと思うんですけど」

「美城の事分かってる人の言い方だわ」

「えへへ……まあ十年近く友達やってますから」

 

 あなた達今までそんな話した事ありませんでしたよね?

 白銀はそう言いたいのを堪えながら、自分の目の前で話し込み始めてしまった女子二人の様子を見守る事にする。本当なら単語帳の一つでも開きたいくらいなのだが。

 

「だから白銀、手を抜くような事をするとは思わないけど、気合入れて試験勉強しなさい」

「それはもちろん手を抜いたりはしないが、試験と五条にどういった繋がりがあるんだ」

 

そう言って目の前の二人に、どちらでもいいから話せと指をさす。試験が来るとやる気が出るという心理は白銀にもある程度は理解できるつもりではあるが、先ほどの話の流れから考えると、美城のその心理は自分の口で言いたいのだろう。今ははいはい言って話させておけば良いフェイズのはずだ。

 

「シロちゃんって意外と勝負事が好きなんですよ」

「へえ、たしかにそれは意外だな」

「小さいころから『眞妃ちゃんあれしよ、これしよ』ってね」

「私もよく遊んだから分かりますよ~。シロちゃんって……」

「美城って……」

 

「Sなのよ」

「Mなんです」

 

「「は?」」

 

 空気が凍った。

 

 SとM。もちろん服のサイズの話などではない。

 サディスティックであるか、マゾヒスティックであるか。この状況下に限って言えば、五条美城は勝負に勝つ事を望むか、負ける事を望むか、という話になる。

 

「美城は起きてる間は何かしら勉強し続けてるのよ? この前なんか数学を解きながらリスニング問題を口頭で答えるなんて勉強をしてたの。これが負けたいような人間がする行動かしら?」

 

「いつも勉強してるのはもちろん知ってます。でもシロちゃん会う度に『帝様に勝てなかった』『眞妃様にテスト抜かされた』ってニコニコ嬉しそうに話してたんです。勝ちたがりな人間がそんな風に笑えますか?」

 

 美城の本当の所はよく分からない白銀だったが、彼が非常に度し難い性格というか性分というか、そういう精神構造をしている事だけは理解できた。

 呪いのように勝つことを自らに課している白銀に、負けても良いという神経の回路は存在しないので、つまり自分の性分と真反対な美城は分かりかねる。というより白銀ほどの努力家でなくても、負けてニコニコしていられる人間は少ないはずだ。

 

「まあ藤原は美城との付き合いが少し短いものね。あの子の事を分からないのもしょうがないわ」

 

「え(笑)ちょっとちょっと~(笑)本気で言ってます?(笑)四条さんこそ同い年の男の子に『眞妃様』『眞妃様』って呼ばれ続けて本当のシロちゃんを見れていないんじゃないですか?」

 

「ふふふ……」

「あはは……」

 

…………

……

 

「勝負です!!!」

「望む所よ!!」

 

 

「何でそうなる!?」

 

 なんか知らないが戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

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