五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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私が更新してない間に歴史動いてて草も生えない

お盆は休みがありそうなので早めの更新頑張ります


秀知院は文化祭 一日目 朝

 四宮かぐやが想いを自覚してから初めての朝は、まだ夜のなごりを残した空に、満月が想い人の名前のような白銀の光を放っていた。

 送りの車から降りると、奉心祭と書かれた看板が校門に架かって、文化祭の行われる今日は、普段とは異なる様子で動いている事を否応なしに感じられる。

 

 かぐやが学園に足を運んだのは午前五時半ころの事であるが、不思議と眠気を感じずに、別の事で頭が一杯だった。

 もちろん、形を持った恋心が思考の大勢を占めているからだ。どこか心地よい敗北感と、好きという言葉が腑に落ちた感覚が彼女を包んでいた。

 とはいえまだ恋の輪郭が薄らぼんやりしている事も分かっている。

 

 ……自分の従者の早坂愛が、恋人の五条美城にデヘデヘしている所を見ると、恋とは結ばれてこそはっきりとその姿を見せるのだと聡いかぐやはよくよく理解させられていた。

 

『好きなら素直に告白するべきですよ。プライドを抱えて苦しみ続けるか、告ってとっとと楽になるか、ついに選ぶ時が来たのです』

 

 そう早坂は言った。

 正直『告白された側のあなたが何を言ってるの』と思わなくもないが、少なくとも恋愛経験者の彼女の言う事も一理ある。そうなると、告白……の流れになる訳だが。

 

(そもそも何で私は告白をしていないの。会長はどうせ私の事が好きなのだから問題ないじゃない)

 

 思案に耽るかぐやは、そのまま頭の中で白銀に告白する場面を想像した。

 

 

 

『ごめん』

 

 

 

(あああああああ)

 

 

 何故か脳内でフラれていた。唇も真っ青にガタガタ震えだしている。本番が非常に不安になる精神状態だ。

 かぐやも別に好き好んでネガティブな事を考えたい訳ではないが、彼女は能力が高い事に関して曇りなく自分を信じられるのに、人に好かれるという事に関しては疑いの目を持って自分を見る事しかできないのだ。

 だからこそ、かぐや様は告らせたい、なのである。一年近く貫いてきた意地をここで百八十度転換させるのは、天才であっても難しい。

 

(でも実際問題……会長に告白して振られたらきっと立ち直ることなんて出来ない……。誰か、参考になりそうな人は)

 

 常人の熟考に値する逡巡をした後、思いついたのは非常に消極的な物だった。

 人に頼ろうとは四宮の風上にも置けない……でも、しょうがないじゃない、分からないんですから。

 そう思ってかぐやの脳裏に浮かんだのは、最近は可愛げのあるところも見せるが基本小憎たらしい遠い親戚の四条眞妃と、ついでに一番近くの早坂愛の顔だ。

 だが、どちらも告白された側の人間である。少なくともかぐやはそう思っている。早坂は美城と本当に付き合うようになった流れを、誰にも話していないから仕方ないが。

 

 自分によく似て他人に対して臆病な早坂が告白したなど思いもしないかぐやは、自然と候補から外す。眞妃の恋人か美城のどちらかに話を聞くのが手っ取り早いと考えた。

 

(でも私、眞妃さんの彼氏さんとは碌に話したこと無いんですよね)

 

 何なら顔もぼんやりとして思い出せていない。

 いや……でもどこかに一緒に行ったような……。眞妃と付き合い始める前から、一応自分の関係者の欄の末席にいるような、いないような気がしてはいるのだが……。

 どちらにせよ一択だった。

 

 そうとなったら話は早い。あの目立つ容姿の彼の事なので、そこらの誰かに聞けば教えてくれるだろう。

 

「ミコちゃーん。暗幕の余りない?」

「こばちゃん。あれ? 暗幕無かった?」

「うん」

「もう開場まで数時間を切ってるって言うのに慌ただしいわね……」

「だからこそだろ。何事もそうそう予定通りにはいかないもんだ」

 

 歩みを少し進めると、聞きなじみのある後輩達の慌ただしい声が聞こえてきた。友人の少ないかぐやが憚ることなく声をかけられる、石上優と伊井野ミコと大仏こばち三者の物だ。

 

「こばちも頑張ってんな」

「うん」

 

 少し聞いてみましょう、と思った進めた足を一旦止まらせた。一応知っている声だが、応援団団長、風野は知っているだけで特に知り合いという訳でもない。

 

「先輩も頑張ってね」

「おう! じゃあまた後でな」

 

 幸いにも風野団長はその場をすぐ後にしたが、ミコの言葉通り慌ただしそうな空気が文化祭実行委員の部屋には満ちていて、聞くのは間をおいてからにしようと、その場を後に……

 

「あれ、大仏と団長って知り合い?」

「知り合いって言うか……付き合ってる」

「へえ、そうなんだ意外だな」

「こばちゃんああいう汗くさいの苦手だと思って……」

 

「「ええーー!!」」

(ええーー!!!)

 

 その場に釘付けになった。

 もし……大仏が恋愛成就者の一員となったのなら、ちょと話を聞いてみたい。

 いや、あくまで学内交際におけるサンプルケースの一つとしてであって、やましい事はありませんけど? 論理武装も完璧である。

 

「文化祭の準備で話すようになって……なんていうか流れ? いわゆる文化祭マジックってやつよ」

 

(文化祭マジック!?)

 

 基本孤高を貫いて、クラスの出し物でも与えられた仕事を一人で完璧にこなしてきたかぐやにはあずかり知らぬ所であるが、文化祭準備を経て急速に近づいた男女が祭りの熱に浮かされて交際するケースは非常に多いのだ。

 俗にこれを文化祭マジックと言う。

 

「そう言えば五条先輩も文化祭マジックにおける一考察がどうとか」

(知っているの五条くん!?)

「そう言えば僕も聞いたような」

「恋愛には『速攻』『浸透』『状況の複雑化』が有効って」

「それ軍記物の話だろ」

「まあ分かるけどね。人間関係って最初に出来た印象から出来てく所あるし。ほら、最初に好きって言った人と、後から好きって言った人じゃ、心情的に最初の方を選ぶでしょ」

 

(そうなの!?)

 

 ダラダラと片思いを続けてきたかぐやには突き刺さる言葉である。牽制しているとはいえ、白銀に対して密かにアプローチをかける女子がいる事も知っている身としてはちょっと涙目になる言葉だった。

 

「五条先輩が早坂先輩に速攻アタックかけたのもそういう事だよ。……事情が特殊すぎるけど」

「じゃあさっさと告白しなかったヤツはもう駄目か!?」

 

 石上も思わず語気が強まる。あの転校して僅かで彼女を手に入れた先輩の事を思い出せば焦りも生まれよう。

 

「だから『浸透』と『状況の複雑化』だよ。難しく言ってるけど、つまり日々の積み重ねで相手に自分って人間を知ってもらうって事だし」

「じゃあ状況の複雑化ってのは」

「それは……、ざっくり言ってシチュエーションかな。告白にレストランで優雅な夕食と綺麗な夜景と素敵なプレゼント貰ったら、フリーなら断らないと思うし。付き合いたい、って一つに『レストラン』とか『夜景』とか混ぜて、どれくらい手間をかけてくれたか、自分に価値を感じてくれてるかって思わせるテクニックかな」

「なるほど」

(なるほど)

 

 さすが恋愛成就者の言葉には含蓄があった。と、同時にあの突っ立ってるだけで世界中の好意を集める事を疑っていないような五条美城にも、そんな策謀の数々が備わっている意外性も感じている。これでは知恵を付けた藤原だ。一筋縄ではいかないはずだった。

 

「文化祭って特別な行事にも同じ効果が期待できるんじゃない? 石上も頑張って」

「……あほらしい。付き合ってられるか。ちょっとトイレ行ってくる」

 

 大仏の言葉が正しいなら、今はまさに複雑化した状況である。有体に言ってワンチャンある状況だ。

 だと言うのに、石上はあきれた様子で感心は無さそうだった。

 

「よっしゃああぁぁぁ!」

 

 

 嘘である!

 

 

「チャンス来たぁぁぁぁあ!」

 

 この男、滅茶苦茶チャンスを感じていた!

 

 以前から抱いていた、日ごろから仲のいい団長と子安つばめは付き合っているのかも……と言う疑念。それが今、大仏という団長の彼女の登場によって打ち壊され、残ったのはつばめ先輩はフリーかもという事と、文化祭という浮かれ騒ぎの状況だった。

 

 これにチャンスを感じなければ、この世にチャンスは存在しないであろう。

 

「ちょっと、大きな声出さないで……」

 

「四宮先輩……いたんですか」

 

 上がりきったテンションが急降下していくのを感じた。

 勢いのまま出て来たは良いが、そこにちょっと怖い……と思っている先輩がいる。テンションの乱高下で耳キーンなるって。

 

「まあはしゃぎたくなる気持ちも分かるわ。最も恐ろしい恋敵が勝手に脱落してくれたのですから。それに文化祭の雰囲気に乗じて告白すれば、十中八九成功するんじゃないか……? そんな事を考えているのでしょう?」

 

「そんな浅はかな事考えていませんよ!」

「あ、浅はか!?」

 

 かぐやは考えていた。

 

「そ……そんな事ないと思いますけど? ほら、五条くんなんてあの子運命の子ですよね?告白しよう、で成功しているんですから」

 

 道連れを作る気満々なかぐやの口車は、エンジンの回転数を次第に上げて行った。今は告白に向かう人の勇気を見て自分も励まされたい、というかなり自分勝手な思いで動いている。

 ここで急に石上に冷静になられては困るのだ。

 思考が命の輝きを見せてくれとか言う自分勝手な悪役に似ていた。これが悪役令嬢ちゃんですか……。

 

「あの人を引き合いに出すのはかなり卑怯だと思いますけど」

「それに大仏さんも言っていたでしょう。先に告白した方が有利だと。子安つばめ程の女性がこの期間に他の誰にも告白されない、という希望的観測でチャンスを無駄にするの石上くん?」

「それは」

「だから絶対告った方が良いわ石上くん! いつ行く!? 今!? 今行く!?」

 

「いや今はちょっと……」

 

 ごり押しが過ぎていた。

 これは決して速攻の意思の下に行われる作戦などではなく、かぐやのテンパりである。

 

「でも四宮先輩の言う通りですよね。つばめ先輩が告白されない何て誰も補償してくれませんから。とりあえず一緒に文化祭回らないか誘ってみます」

 

 その熱意が良きにしろ悪きにしろ、少し石上の背中を押したようだった。自分事のように必死な先輩を見て思う所があったのかもしれない。かぐやは石上の行動に精神的な活路を見出そうとしているので、ある意味自分事のように必死なのは当然だ。

 

「何に誘うつもりですか?」

「そうですね……」

 

 

 

 

 

「下に~下に~」

 

 石上が子安つばめを誘おうと思考を始めた所に、不思議な声が廊下中に響いて、思わずかぐやも一緒に声の主を探した。

 

「姫様のお通りである。下に~下に~」

 

 二人が見た物は、何とも時代錯誤な装いであった。

 大男が和服を纏って烏帽子を被り、籠を担いで校内を闊歩しているのだから、もはや時代錯誤というか狂気である。もちろん籠は一人で担げないので、もう一人同じ格好をした男子がうつむき加減で歩いていた。

 

「あの前歩いてる人、白組の応援団長の人でしたよね?」

 

 興味のない事に関して少し鈍いかぐやは、石上の呟きで『そんな人いましたね』と思い出した。次いで中山欽二という名前を思い出せなかったが。

 しかし秀知院一目立つ人間と仲が良かったと言うのは覚えている。早坂もそんな事を言っていた気がする。

 

(……と言う事は、あの籠に載っている人って……)

 

 誰々と仲が良いと言う所で、彼らが担いできた籠の中身にやけに思い当たる節があったかぐやである。もちろんそれは他の人も同じようだったようで、耳馴染みのない言葉に廊下へ出て来た生徒達もひそひそ耳打ちしていた。

 

「皆も知っているように、我らの姫様は今病に伏せっておられる」

 

 和服の中山はしっかりと注目を集めた所で再び言葉を継ぎ始めた。病にという言葉と同時にもう一人の、剣道部・中沢が籠の上を取り去って中を露わにした。どうやら本物ではなく、上にかぶせるハリボテの籠だったらしい。

中にはタンカが隠されており、そこに人が一人眠っていた。

 

 見ていた人ほぼ全員が思い描いていたように、五条美城が白髪の頭を横たえていた。

 

 少し変わった人が変な事をしているという、逆にまっとうな事件に何人かは安堵のため息をついて、また何人か少しからかってやろうとタンカの傍に近づいていった。

 

「きゃっ!」

「どうし……うわ!」

 

 ネタバラしをしたマジックの後のような緩んだ空気は、近づいて行った人が挙げた悲鳴で一変する。

 

「えっ……何、死んでる?」

 

 最初に悲鳴を上げた女子が、恐る恐るといった感じで呟いた言葉に、周りの生徒達も逆に興味を抱いてタンカに横になる美城の顔を覗き込んだ。

 かぐやと石上も、少し遠巻きではあるが近づいて彼の顔を見ようとする。

 

 それは、血の気の失せたような大理石の如き白い肌であった。僅かに笑みを浮かべたような唇は、普通存在する色味という物がほとんどなく、何人かの脳裏に死化粧を施される前の祖父母の顔を思い起こさせる。

 あまりに美しく、蒼白な顔は、普段の彼のにこやかな印象を越えて霊感的な物を覚えさせるに十分である。

 

「病に侵された姫様をお救い出来るのは、若者の心臓を火にくべ、その灰を蘿蔔の汁に溶いた物であると天よりお告げがあった」

 

 ん?

 

 既視感のある言葉に首を傾げたのはかぐやだけでは無かった。

 つい数日前に子安つばめから聞いた奉心伝説と全く同じなのである。

 

「姫様を助けようぞと思う者、またそれを見届けようと言う者は、十三時の体育館に来られたし」

 

 古風な男から出て来た体育館というワードに、察しの悪い者もさすがに気が付いた。

 その時間は新体操部が演劇を行う時間……。つまり、これは劇のプロモーションなのだ、と。

気味が悪いくらいに真っ白な顔は、そういうメイクなのだろう、と。

『迫真すぎでしょ』という生徒もいたほどだ。

 

 

 

「ん~……。やっぱりあなた達はワカってない。五条美城という人物を」

 

 

「彼がアルビノで真っ白な事は衆知の事実ですが、では私達はなぜその異質さに簡単に慣れてしまえたのでしょうか。答えは、彼が自分の顔の異質さを自覚して、私達が受け入れやすいように、眉の輪郭を少し黒くしたり、少し色味の付いたファンデで色白さを抑えたりとメイクを施してくれているんです。つまり何が言いたいか、と言いますと、あれはメイクではなく、彼の本当の素顔と言う事です」

 

 

「大体なんですか人の彼氏の寝顔を見ておいて『死んでる?』って。失礼だとは思わないんですか。たしかに私も初めて見た時は驚きましたけど。真っ新なシーツの色と同化して『えっ、ベッドで寝てたはずでしたよね』とか言っていましたけど。マットレスをひっくり返して床に叩きつけましたけど。この話前にもしましたっけかぐや様?」

 

 

「びっくりするわぁ!?」

 

 

 なにか……世迷い事みたいな物言いをする幻聴が聞こえるわね、とか思っていると、青い瞳のメイドの姿がそこにある事にようやく気が付いた。

 あまりに自然過ぎて早坂に無駄に三段落も話させてしまった。

 

「早坂……さん、いたの」

「はい」

 

 とっさに『さん』を付けられた彼女はもっと褒められていい。

 

「あの、早坂先輩……ですよね。ずいぶん雰囲気違いますけど」

 

 なにしろ四宮の事情を何も知らない石上優がいたのだから、誤魔化そうとしたかぐやの行動は理にかなった物である。

 いつもの早坂愛からかけ離れた、ロングスカートのエプロンドレスに、普段は結構ガバガバな首元にスカーフを巻いて楚々たる立ち姿……。これは四宮別邸でかぐやが見慣れた彼女の姿だ。二人の関係を隠している身からすれば、いくらでも言葉を尽くして誤魔化さなければならない場面である。

 

 

「い……石上くん。これは違うのよ」

「違いません。メイドですよ」

「早坂!」

 

「あ、そういえば四宮先輩の所はコスプレ喫茶でしたね。どうりでそんなコテコテの恰好」

 

 この場が文化祭でなければ。

 普段であれば、メイドの恰好をした早坂愛に強い疑問を抱くだろう。だがここは今、学校であって学校でない祭りの場なので、疑問に思う者は誰一人いなかった。

 

 それに目下、彼女よりも耳目を集める美城が着物に身を包んで寝ている姿に比べれば、どんな仮装も些末な物事である。

 

 

 

「下に~下に~」

 

 

 見ていた生徒に納得させた所で、再び中山と中沢はタンカを持ってどこぞに歩き出してしまった。恐らくこれを各階で行うつもりなのだろう。見ていた生徒達はさっきまで美城の寝顔に恐れすら抱いていた事も忘れて、熱心な宣伝姿勢に労いの言葉一つくらいかけたくなっていた。

 

「あ、これスケジュールでーす。よろしくお願いしまーす」

 

 二人のお付きと眠り姫(男)が通り過ぎた後に、普通に制服を来た新体操部員が演技時間の書かれたプリントを渡した事で余計にそう思った。

 掟破りの宣伝に各クラス、各部活はその手があったかと悔しさに臍を噛む思いであったと言う。

 

 

 

「かぐや様、私と同じシフトでしたよね。よろしければ一緒に見に行きますか?」

 

 そんな宣伝に乗せられなくても喜び勇んではせ参じる所存の早坂は、彼氏の劇の動員数のためにかぐやを連れて行こうとしていた。メイドモードは継続中のまま。

 

「しかし、早坂先輩キャラ仕上げてますね」

「ええ。長い時間をかけてキッチリ仕上げてきました。非日常感を演出するためにいつもと違う装いでお客様にドキッとしてもらうのがコンセプトですから」

「私にとっては日常間が強くて違う意味でドキッとするわ」

「あはは~四宮さんまじイミフ~! ちょーおもろーい☆」

「非日常感!」

 

 堅物メイドがおふざけギャルに変貌を遂げた。石上にとっては普段見かける早坂に戻っただけだが、かぐやにとってはあまり知らないギャルに変身したように見える。見事な非日常⇔日常のパラダイムシフトであった。かぐやのドキドキは尽きそうもない。

 

「キョ―ミあるなら会計くんも来たら~? あ、ウチらのクラス賞のために誰か連れてきてよ~」

「え、はい。……でもいいんですか? 美城くんが何て言うか」

「いーのいーの。みぃはお仕事って思ってるから。それに~、お家に本当のメイドいるせいであんまり喜ばないから面白くないし~」

「あっ、ふーん……」

 

 急に先輩に殺意を覚える石上だった。

 家にメイドいるって何!?

 全男子高校生の憧れをその手に収めている事に、憤懣やるかたない思いを抱く彼を責められないだろう。おまけにメイドの恰好してくれる彼女までいるのだから、石上の世の不平等さを呪う強さは天上知らずだ。呪力で仕留めなければ悪霊になる域に達しつつある。

 

 

「じゃあウチ朝一はみぃの手伝いしに茶道部いかないとだから。じゃ~ね~」

 

 献身的な姿を見せられて益々石上のヘイトが高まっていた。同時に彼女欲しい欲が少し鎌首をもたげてくる。

 次に、ピュアな石上は邪な気持ちに死にたくなって来ていた。

 

「最低だ……僕って……」

「急に落ち込んだ!?」

「ちょっと死にたくなったので帰ります」

「久しぶりに聞いたわそれ! というか石上くん、変な事を言わないで! ここで諦めたらつばめ先輩とはどうなるの!? チャンスはまだ残ってる。ここを頑張れば先輩と付き合えるんですから!」

 

 かぐやは精一杯励まそうと言葉を尽くしたが、何故か石上にはちょっと違って聞こえた。具体的に言うと来週あたりに死にそうなデュエリストの次回予告と言葉の並びが酷似している。

 何かの間違いで『次回 石上優死す デュエルスタンバイ!』しそうだ。

 

「やっぱり千年パズルを解いてくるので帰ります」

「何悠長な事言ってるの!? 千年よく分からない事する前に早く告白しなさい!」

 

 

 石上が正気を取り戻して、勇気を再び固めるまでもうしばらく時を有したそうだ。

 

 

 本日の勝敗 なし(かぐや・石上の勝負開幕)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤原書記。何をしてるんだ?」

「あっ会長! ハートの風船が大量に余ってるので、飾りの足りてないクラスに配ってるんです! やっぱり奉心祭のキーアイテムはハートですから」

「なるほど。良い考えだな」

「でしょ~。シロちゃんも奉心伝説広報として頑張ってますから、いつになくハートへの関心も高いですよ~」

「広報……?」

「今朝準備してる各階にお姫様姿で回ってたらしいです。……そのせいか一部の人が『心臓を捧げよ!』ってなってるらしいですけど」

「ほんとあいつ動くと大事になるな」

「会長も行ってみたらどうですか? たしかシフト空いてる時間ですよね」

「まあ、考えておこう」

「あっ、そろそろ始まりますよ!」

 

 

 

「それでは秀知院文化祭——奉心祭のスタートです!!」

 

 

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