五条美城は白サギ嬢   作:アランmk-2

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ハッ(笑顔)


藤原千花は/四条眞妃は答えたい

「えー……という訳で、ここに第一回五条美城の真の幼馴染は誰だ選手権を開会いたします」

 

 どうして……(現場猫)

 

 白銀は貴重な昼休みの時間をこんな下らない事に費やしている自分に絶望すら感じていた。

 別にどちらがあの子と仲が良いのかと言う議論はしてもいいと思う。許されるのは中学生くらいまでだろうが。しかしそれに他人を巻き込むのはいかがな物か、小一時間問い詰めたい。石上、俺の代わりに説教しといて。

 

「司会は俺、白銀御行でお送りします」

「会長、お暇なんですか?」

「おまえー! お前のご主人様に言え!」

 

 小学生が金とか銀とかの折り紙で飾りつけしたかのような、無駄にギンギラギンの特設司会席に白銀は座ったまま、すぐ隣に腰掛けている五条美城に噛みついた。美城はコテンと小首をかしげながら白い髪をなびかせる。その様はゲームの箱が積まれた部室にあっても無駄に輝かしかった。

 藤原千花と四条眞妃が公正な出題者と採点者が必要と協議した結果、もう本人を連れてこようと引っ張り込んだのだ。

 もう本当に三人で話しててほしい。

 

「絶対に負けないわ」

「こっちのセリフです」

 

 白銀の切なる願いは叶えられそうにも無かった。

 

「えーゲストの早坂さん、今のお気持ちをどうぞ」

「帰りたい……」

「はい俺も同感です」

 

 

 哀れな被害者はもう一人いた。

 友人とお喋りという名目の下情報収集に励んでいた、四宮家侍従・早坂愛である。

 彼女は何やら必至な様子で藤原が校舎を駆けまわっているのを見て、良からぬことを企んでいるという確信を抱き、主人に害が及ぶ前に対処しようと声をかけた。それが運の尽きとは、想像だにしていなかったが。

 

「あれれ~、書記ちゃんそんなに必死になって、どしたし~?」

「早坂さん丁度いい所に。大変なんです来てください!」

 

 藤原は駆け足のまま早坂の所までやって来て手を握りしめる。一二回深呼吸して荒くなった息を整えると、藤原の手に一層の力が込められた。

 その様子を見て早坂は一瞬思考を巡らせる。

 

 大慌てで誰かを探しているようですが……。それも特定の誰か、ではなく適当な誰かが早急に必要な様子、という事は……これ私がついて行かなかったらかぐや様の所に行くんだろうなあ……。

 

 藤原千花が無軌道で無計画で無邪気な享楽家である点は早坂も、もちろん主人のかぐやも重々承知している。今更巻き込まれた所で怒り心頭になって早坂に処分を下す事は無い、と彼女は確信しているが、しかし回避できた事態に巻き込んだ事に嫌味の一つは言われるかもしれない。

 事は天秤にかけてみる事にする。藤原に巻き込まれてげんなりするか、かぐやに恨み言を言われてげんなりするか。

 藤原はさっぱりとした所があるので、事これ限りで済むだろう。対してかぐやは根に持つタイプなので後が怖い。生まれたばかりの頃まで覚えているのだ。どうしてめんどくささに手間を惜しんだ事を忘れるだろうか?

 

 しかたがないですね……。早坂は覚悟を決めた。

 

「いいよ~。何する?」

 

 にかっとご自慢の白い歯を見せながら、何をするか全貌を明らかにしていない藤原に無言の圧力をかけ続ける。もちろん藤原はそれで委縮するような(タマ)ではない。にっこりと微笑み返して、意気揚々と早坂の手を引っ張ってとある教室へと向かって行った。

 

「ちょっとちょっとどこ行くの?」

「TG部の部室です。そこで待っている相手がいるんです!」

「えっ普通にヤダ……」

 

 早坂は早々に後悔した。

 

 

 

 そんな背景があってTG部にやって来させられた早坂は、借りて来た猫のように大人しく席に座っていた。

 並大抵の事は持前の機転の良さと口先三寸でどうにか出来る自信のある早坂だったが、今TG部室にいる人間にそれは通用しないと苦々しく思う。

人に、というか四条眞妃には通用しない。彼女は今の早坂の姿が演技だという事を知っているからだ。

 

「別にもう一人呼ばなくても良かったんじゃないの?」

 

 眞妃はふっと軽く笑うと、いつものようにどこか尊大にも聞こえる口調で話し始めた。

 あなたの事をこの場でどうこう言うつもりは無い、と言葉の外で伝えてこられて、早坂は内心ありがたいと頭を下げていた。

 

 

「よ~し。これで司会、出題者、ゲスト、回答者が揃いましたね」

「ふん。あなたの恥を晒す相手が一人増えただけよ」

 

「なあ、そもそもの話いいか?」

「何ですか会長」

「どうしてお前らそんな対抗心を燃やしてるんだ」

「まったく……小さいころに美城に初めて会った時の衝撃があなたに分かるかしら?」

「分かんねー」

「例えるならヘドウィグが魔法のアイテムを持って家に飛んで来たくらいの衝撃ね」

「分かるー」

 

 白銀、一瞬で掌を返した。思いの外分かりみが深かった。

 

「そういう事なので大切な相手にニワカっぽい事言う人が許せません」

「どれくらい許せないんだ?」

「会長に幼馴染のシュワちゃんがいたとして」

「え待って無理……尊い……」

「そんな会長に『シュワちゃん好きだよ?ターミネーター2なんて千回は見てるし』って言ってくる人がいたらどう思いますか!」

「あっさ……。コマンドーは当然見てるよな?そうだよな?」

「残念ながら……」

「お前コマンドー知らなくてシュワちゃんが語れるか!野郎ぶっ殺してやぁぁる! ……充分理解できた」

 

 藤原のようなふわふわ女子から筋肉モリモリマッチョマンの名前が出て来た事に酷い違和感はあったが、言わんとしたい事は理解できた。思わずベネットになってしまったが理解はできた。

 憧れであり、誇りでもあるのだろう。それを否定するには、美城の外見はあまりにも神秘的すぎた。

 

「さあやりましょう。美城!」

「はい。言われたので問題を作っておきました」

「さすがね。はい白銀、読んでちょうだい」

「もうさっさとやって終わるか……」

 

 気乗りは全くしないまま白銀は手書きの原稿を受け取る。

 視線を落とすと段取りがびっしりと書かれており、特に回答者の紹介の文字数がとんでもない事になっていた。眞妃の紹介の件など紙面が真っ黒になるほど書き連ねられていた。

 

「ではまず回答者、自己紹介を」

 

 全部ぶっちぎって本人に言わせる事にした。美城はガーンと落ち込んだ顔をしていたが知った事ではない。

 

「四条眞妃。こんな脳カラ女には負けないわ」

「藤原千花。世間の厳しさを教えてあげます」

「中沢です」

「いや誰!?」

 

 はいはいと流そうと思っていたらしれっと見知らぬ男子が藤原の隣に座っていた。白銀は戦慄した。

 え、怖いつからいたの?

 

「初めまして会長。五条の友人の中沢です」

「男子もいるかと思って私が呼びました」

「いらん気を遣うな」

 

 何で手間増やしちゃうのこいつら?

わがままか?わがままお嬢様なのか?……お嬢様方なんだよなあ……。

 

 白銀は一人で勝手に納得してため息を深く吐く。

 全く知らない中沢という男子生徒がよろしいかと目線で訴えかけてくるので、どうぞと促した。

 

「どうも中沢です。お二人より歴は短いですが男友達として負けられません。お願いします」

「知ってるわよ、中沢直樹。片手で数えられるくらいの年数の付き合いなのにずいぶん言うじゃない」

「そうですよ。負けるはずありません!」

 

「私は五条と乳首をいじりいじられの関係ですよ? そんな事出来ますかあなた達に?」

 

 いやあるけどそういう男子同士のノリ。そんなキメ顔でいう事じゃないぞ絶対に。

 

「いや……それは……」

「ちょ、ちょっと……ねえ……」

 

 明らかに少女二人はうろたえていた。

 乳首は男女共に存在する器官であるが、その重要度は天と地ほどの差がある。男性が上半身裸になって乳首を晒しても放送コードに引っかからないが女性のそれは放送できない事からもうかがい知れる。

 

「でも男のち……び……なんてくすぐったいだけでしょ」

「くすぐりあいっこなら私達だってしたことありますし……乳首みたいな物ですよ」

 

「乳首みたいな物ではありません!乳首と申し上げたのです!!」

 

「ちょっと黙ろうか」

 

 圧が凄い。

 女子達は「ひぃ」と小さく悲鳴を上げてお互いを抱きしめあった。

 

「早く、早く初めてください会長!」

「男の人の大声こわい……」

「あーもう滅茶苦茶だよ」

 

 こんな事態になってまでする必要があるのか、はなはだ疑問である。女子特有の距離感だろうが抱きしめあっている姿は仲良しのそれなので、二人で決着をつけてはどうか。

 

「はい第一問!(デデン!)何今の音」

「ごっめーん☆ なんかー、賑やかな方がいいかなーって」

 

 諦めにも似た境地に達した早坂が、TG部員が持ち込んだ小道具を使って音声係と化していた。どうして生まれてから大人になった時音声さんになろうと思ったんだろう(広瀬す〇並感)

 白銀はこほんと咳払いをして問題文を読み上げた。

 

「えー……五条の好きな動物は何でしょう?」

 

 幼馴染同士がバッチバチに火花を散らしていた割には平和な質問だった。テレビで興味のないタレントがこんな質問をされていたらチャンネルを変える自信が白銀と早坂にはあった。

 だが回答者達にとっては興味のある人物の事。恐るべき速度で手元のフリップに動物の名前を書いて行く。後ろには富〇サファリパークのCMソングが流れていた。

 

「もうツッコまんぞ……」

「はい! 書けましたよ会長」

「じゃあ一斉にオープン」

 

眞妃:ウサギ

藤原:うさぎ♡

中沢:兎

 

「回答は全員兎だ。しかし兎って書くだけなのに個性が出てるな。何だ藤原そのうざったいハートマークは」

「かわいいでしょ~」

「早坂は何だと思う?」

 

 数多あるスイッチがそれぞれ何の音を出すのかという解析作業に勤しんでいた早坂は、突如眞妃に水を向けられて、背中から冷や水を浴びせかけられたかのようにビクッと身震いした。

 

「へ? 私?」

「他に誰がいるの」

「えー……でもフリップがもったいないしー」

 

 嘘である。この女、考える事がめんどくさいだけである。

 

「それなら心配いりませんよー」

 

 よっと。藤原がそう言ってダンボールの一箱を開いた。中にはぎっしりと白色のフリップが詰まっている。

 

「クイズゲーム用に買ってたんですけど、最近小さなホワイトボードを買ったので使わなくなっちゃったんです。遠慮なく使ってください」

「あ、そう……」

 

 足りない気力を物量で押し流されてしまった。だったらそっちを使った方が良くないだろうか?ケチってんじゃねーぞ藤原ァ!

渋々といった面持ちで早坂はフリップを受け取ると、サラサラと答えを書いた。

 

早坂:猫(白いやつ)

 

「「「あっさ……」」」

「書かせといてその言い草!」

「いやねえ、猫だけならまあ分からなくもないんだけど」

「白いやつって書いちゃう所が」

「思慮の浅さを露呈する形になっていますね」

 

 眞妃、藤原、中沢によるジェットストリームアタックを仕掛けられた早坂は成すすべもなく滅多打ちにされた。

 というか浅いって何ですか!

 早坂愛は憤懣遣る方無い。

 

「で、五条、正解は」

「はい。私の好きな動物は兎。三人とも正解です」

 

 美城は【兎】という文字と共に絵本のイラストのような兎を描いて正解を示した。それを見て三人は藤原を中心に「イエーイ」とハイタッチを交わして喜び合っていた。

 ますますこんな事をしている意義が揺らいでいくのを感じる白銀だった。

 

「ちなみに何で兎が好きなんだ?」

「兎には換毛期がありましょう?」

「ああ。夏毛と冬毛に生え変わるな」

「それを小さいころにテレビで見てですね、私も時期がきたら皆みたいな黒髪や茶髪に生え変わるんだと本気で信じておりまして。一時期は眞妃様に黒髪と茶髪どちらがいいですか?などと申し上げまして、そのままで良いと涙ながらに言われた事もございました。

 ……まあ当然生え変わる事なんてないのですが。ふふ……うふふ……」

「「おっも……」」

 

 白銀と早坂は同時に呟いた。

もっと心がぴょんぴょんするんじゃあ^~とか、真っ白で私に似ているから好きですとか可愛らしい理由は無かったのか。兎もそんな美城の変身願望の投影先にされている事を知ったら換毛する事に躊躇しかねない。

 

「はい次行くぞ次! えー……五条の初恋はいつ?そしてそれは誰?」

 

 読み終えた瞬間に白銀は美城の方をチラ見した。

 眞妃と翼が仲良く並んでいる光景を涙交じりで見ていた美城を間近で見ていた白銀は、この質問が人の心を踏みにじっている様に思える。が、これを書いたのはほかならぬ美城だ。下手な事を言う方が彼を傷つけるかもしれないと思い、白銀は黙っておく事にした。

 そうこう考えているうちに、回答者達は自信ありげな顔をしているので手元のフリップに答えを記入したらしかった。

 

「答えを」

 

 少しの気まずさから少々歯切れ悪く白銀は言った。かいちょー恋バナは苦手ですか?と後で藤原にからかわれるくらいには悪かった。

 

藤原:わたし

中沢:四条眞妃

 

「なるほど、藤原は五条の初恋は自分だと言いたい訳か。……自意識過剰か?」

「あなた眞妃様眞妃様と慕う五条の事を見ていないんですか?」

 

 藤原の答えは、男性陣からは冷ややかに受け止められていた。

 本人を前にして『あなた、私の事好きですよね』と言うに等しい……というか言っている。それも自分より仲の良い女の子がいる隣で。藤原の胆力には驚かされるばかりだ。

 

「うぐぐ……でもこれは負けられない戦いなんです。もし正解だったら四条さんにデカい顔できるじゃないですか!」

「正体表したな」

 

 恋愛感情でマウントすんな。

 白銀はそう思ったし四条もそう思っているだろうと思って彼女の方を見る。そこにはふふふ……と自信ありげに微笑んでいる眞妃が、扇子を使っているかのようにフリップで扇いでいる姿があった。

 

「浅いわね……あっさいわ、あなた達」

「なんですか四条さん」

「五条本人を前に言うのもなんですが、四条さん、あなたも自分だという自覚がおありでしょう」

 

「だから浅いのよあなた達は」

 

 眞妃は威勢よくフリップをひっくり返し、カンッ!と音をたてて机に置いた。

 

眞妃:幼等部に入った時に見かけた金髪の女の子

 

 その答えを見た美城を除く他の人は意を計りかねたようにポカンと口を開けて見ていた。

 金髪?……と藤原は呟くと、それを聞いた白銀は隣に座っている早坂の方を見た。予想通りの反応を見て、眞妃はニヤケながら早坂に言う。

 

「早坂。もしかしたら美城の初恋の相手はあなたかもよ?」

「えっ! ちょっと……こ、困るって言うか……」

 

 早坂は突然初恋相手かもしれないと言われて戸惑った。頬を赤らめて戸惑いながら、指先をツンツンと合わせてもじもじしている。

 それを見て眞妃は、本心では早坂が相手だとは欠片も思ってないのだろう。笑ってからかった。

 

「何て顔してるのあなた。あはは!」

「でもでも四条さん、それってただ珍しい人を見たってだけじゃないんですか?」

「そうですね。それだけで浅い呼ばわりされる筋合いはないと思いますが?」

「じゃあ教えてあげるわ」

 

 誇らしげに立てたフリップの角をトントンと叩きながら、眞妃は考察を披露した。

 

「まず美城って珍しい存在じゃない?周りの人間は皆黒髪か茶髪なのに自分一人だけ白い髪でしょ。だから心のどこかで自分と似たような人がいないか探してたと思うのよ。そんな時に入った秀知院の幼等部で出会ったのが……」

「金髪の女の子という事ですか?」

「そうよ。初めて見た自分に似た髪の女の子。本当に嬉しかったんでしょうね。ねえ、当時質問カードみたいなの作らされたの覚えてる?」

「えー、どうでしょう?そんな事もあったような……?」

「あったのよ。そこで何枚も何枚もカードを嬉しそうに作ってたんだけど……美城のお母さまが『外国の子は私達と髪や目の色が違う人もいるのよ』って言うとほんと滅茶苦茶ショック受けて泣き出したんだから」

「少しいいですか? 五条は外になかなか出れず幼稚園には行かなかったと聞いてますが」

「……その一日が美城の幼稚園に行った最後の日なのよ……」

 

 あ、うん……。

 TG部にいる美城以外の人間の意思はその一言に集約された。

 白銀の中で五条お労しポイントが一上がる。十ポイントたまったら圭ちゃんを紹介してやらない事もない事もない。

 

「結局その金髪の子に話を聞けなかった物だから、美城の中でどんどんその子が特別になっていった、っていう訳。まあ大きくなってパーティーとかで外国の人と交流するようになってくると金髪に対する幻想は無くなったみたいだけど」

 

 そう話を締めくくると、フリップの角から指を離してその厚紙がパタンと倒れた。机の上で『金髪の子』という文字が『わたし』『四条眞妃』に比べて異彩を放っているようにも見えた。

 

「深……」

「ええ、全く。付き合いの深さ。五条の心情の理解という点において誰よりアドバンテージのある四条だから出せた答えです」

「私がシロちゃんと会ったのは小学校入学前くらいですからね。いやーこれは深いですよ」

「どれくらい深いんだ?」

「最年少二冠の読みくらい」

「ふっか。それより深い物って地球上にマリアナ海溝しかなくない? どうなんだ五条」

 

 本人そっちのけで盛り上がっていた気しかしなかったので、司会役として白銀は軌道修正する。どんなに考察が深かろうと、これは美城の胸三寸。違いますよと言えばそれまでなのだ。

 

「眞妃様……」

 

 美城はじっと眞妃の顔を見つめて、その赤い目をゆっくりと瞬かせる。回答を書くペンが無駄に音をたてると、緊張感が部屋を支配した。

 え?まさか外れ?

 眞妃はそんな事を思いながら唾を飲み込んだ。

 

「さすがです」

 

美城がひっくり返したフリップには【幼等部に入った時に見かけた金髪の女の子】と、眞妃と一字一句同じな答えが記してあった。

 

「あーよかった」

「いやこれはお見事です四条さん」

「間違ってたらあなた達の記憶を消さなきゃいけない所だったわ」

「怖! そんな物騒な事言わないで下さいよ~」

「「「あははは」」」

 

 あれ冗談じゃ無いんだろうなあ。

 早坂は不思議と確信していた。

 

「はいこれで得点が2・1・1ね。俺の勝ち。何で負けたか明日までに考えといてください」

 

 眞妃はかのサッカー日本代表みたいな事を言いながら勝ち誇った。ちなみに眞妃はそのセリフが生まれたキャンペーンに二回勝負を挑んでどちらも勝ってプレゼントを貰っている。一回も勝てなかった弟の帝をハチャメチャに馬鹿にしたのは彼女の記憶に新しい。

 

「待ってください。元々私達が争った始まりはシロちゃんがどんな事が好きかっていう食い違いからじゃないですか」

「そういえばそうだったわね」

 

「ああ、そういう切っ掛けだったんですね」

「中沢とか言ったか……お前ほんと何も聞かされずにつれて来られたんだな」

「私だってそうだしー」

 

「最後にこれを聞いて終わりましょう。『シロちゃんの好きな事は何?』です!」

「いいでしょう。私が勝つけど」

「最終問題は五(じょう)三四六点が加算されます!」

「いいでしょう。私が勝つけど」

 

 バラエティー番組でもなかなかお目にかかれない馬鹿みたいな数字をかけて最終問題は始まった。ちなみに穣は兆の四つ上の桁で、1の後ろに0が28個つく。

 この問題の争点は彼女達の言葉を借りれば五条美城はSかMか、つまり勝ちに重きを置くか負けを受け止める事に重きを置くかという事だ。

 白銀が美城と接してて思うのは、勝ちにこだわる性格には見えないという事だろうか。(男子を勘違いさせるほどの)美貌をほころばせて笑う人物の、勝ちを求めてがっつく姿という物がどうにも想像できなかった。

 そもそも勝ち負けの二つの争点で考えているが、問題は好きな事とあやふやな物なので、美容と健康のために一杯の紅茶、が正解の可能性も無きにしも非ずと考えると何ともアホらしい。

 まあそれは無いのだろうが。

 

「私の答えはこれで変わりません」

 

藤原:帝くん、眞妃ちゃんに負ける事

 

「美城は意外と勝負好きで、勝負の楽しさは結局これよ」

 

眞妃:勝負に勝つ事

 

「二人とも勝ち負けの二元論で話すのはあまりにさもしくはありませんか?」

 

中沢:努力を重ねる事

 

 

 それぞれの解答は勝ちか負けか、それともそこに至るまでの過程か、という風に綺麗に分かれた。どれが正解でも納得は出来るだろう。……やっぱり負ける事が好きというのは理解しがたい。

 

「五条、正解を」

 

 やっと解放されると思いながら白銀は回答を書いている美城を急かした。いままでより少し長めにペンを走らせると、最後に句点を打って仕上げとした。

 

「あ、見せる前にいいですか?」

「何だ?」

「今日はいきなり呼びつけられて何事かと思いましたが、こんな風に皆が私の事を考えて下さっていると分かったので嬉しかったです。千花。中沢君。そして眞妃様」

「まあ友達ですから~」

 

 藤原の言葉ににこりと笑って美城はフリップをひっくり返した。

答えは【圧倒的に負かされる事】とあった。

 近しい回答をしたのは一人。つまり藤原の勝ちである。

 

「む……負けたのは最悪いいんだけど、いや良くないんだけど。美城!納得できる説明を頂戴。私が見て来たあなたの頑張りはどういう事なの」

 

 鋭い考察力を発揮してきた眞妃はこれにお怒りだった。

 眞妃はプライドの高い性格で、プライドとは積み重ねて来た努力によって形成される物であるという考えを持っていた。近くで美城の努力を見ていた身としては、本人がそうだと言っても納得できるものではない。

 偏差値77の秀知院に編入できるほどの能力の持ち主に、プライドが無い訳ないのだ。

 

「そう言われましても……。恐れながらこの性格になったのは眞妃様、帝様の両名に寄る所が大きいので……」

「え何それ知らない」

「初めて言いましたし」

「四条……」

「四条さん……」

 

 回答していた二人はじとりと眞妃の事を睨んだ。ちょっと軽蔑みたいな色が交じっているのは勘違いではないだろう。

 帝の奴絶対ぶっとばす。

 眞妃は決意を固めた。特に理由の無い……事もない理不尽が帝を襲う!

 

「自分で言うと面映ゆいですが、私は大体の事はそこそこ出来ました。多分一番じゃないかなと思い上がっていた所にお二方の出会いがあったのです。それからは遊びでも勉強でも全敗する日々。計算は速いですしボールを持てば敵なしですし。あれですね、井の中の蛙が大海を知ったような物でしょうか。そうなるともう『この二人はどうやって自分を超えていくんだろう』というのが楽しくなってきてしまってですね、それで頑張ってた所はあります。そしてお二方はいつも見事に私の上を飛んで行かれるのです。ふふ……。ですので私は別に負ける事は苦には思っていないのです。むしろ自分を打ち負かしてくれる誰かが現れるのを心待ちにしている節すらありますね」

 

 美城は長々とした話を何か詩でも読んでるかのように言った。

 締めくくった後で、白銀の方に笑ったまま顔を向ける。

 

「ですから私、会長の事をとても高く買っているのです」

「は!? 俺?」

「はい。一年の二学期頃から一位を守り続けているその才覚。どう私を負かしてくださるのか今から楽しみですね」

 

 ふふふ、と心底嬉しそうに美城は笑っていた。突如として激重感情を乗っけられた白銀は戸惑うばかりだ。肩が凝った気がする。お前とやる勝負、重いよ。

 

「美城」

 

 使用したフリップを空きダンボールに詰めた眞妃が美城の席へ歩いて行った。

 

「何て言うか……ごめんなさい。あなたがそんな風に思ってたなんて……」

「何を謝る事があるのです、眞妃様」

「だって……」

「では私めを哀れんで負けて下さるのでしょうか?」

「それは出来ないけど」

「でしょう? 眞妃様はそれでいいのです」

「分かったわよ。私はこれからも勝つからね」

「はい。ですが易々勝てるとは思われたくありませんね。ご存知でしょうか? 私の二番目に好きな事は勝つことなんですよ?」

「言うじゃない。なら次のテストであなたの大好きな事を味合わせてあげるわ」

「楽しみです」

「えへへ~、眞妃ちゃん良かったですね~」

「眞妃ちゃん……?」

「戦いを終えた二人には熱い友情が芽生えるというのが付き物ですよ!」

「ふふ……そうね、千花」

「では二人に友情が芽生えた所で祝杯を挙げに行きましょうか? 最下位の私が払いますよ」

 

 パンッと乾いた音をたてて柏手を打った中沢が提案した。確かに喉を使ってしまったので潤したい気分だった、と女子二人は同じ事を考える。

 

「あら、殊勝な心掛けじゃない」

「私タピオカミルクティーがいいです~」

「どうぞ遠慮なく。ですが次こういった事があった場合は負けません。倍にして返してもらいます」

「え~二本も飲みたいんですか?」

「そういう事ではありません」

 

 四人は一仕事終えたような爽やかな雰囲気でTG部を後にした。何か良い感じで締められても……と白銀と早坂は顔を見合わせる。

 はあ……と早坂は大きくため息を吐くと、

 あなたの周りは人を振り回す天才ばかりですね

 と侍従モード早坂の口調が出てきそうになった。それを引きつった笑みでごまかす。

 

「どうかしたか。えっと……早坂さんだったかな」

「もう疲れたしー。かいちょーさん、書記ちゃんの事ちゃんと見張っててよねー」

「それが出来れば苦労は……あ、おい!」

「ばいばーい」

 

 これ以上誰かといるとポロっと余計な事を言いそうな状態な早坂は早々に立ち去る事にした。それに白銀と二人っきりというのもよろしくない。もしも誰かがかぐやにご注進でもしようものなら……早坂は考えるのを止めた。

 一つ教訓を得たとするならば、やはり藤原のしようとする事に軽々に乗ってはいけないという事だろうか。

 

「早坂さーん!」

 

 自販機の前で大きく手を振っている藤原と、こっち来なさいと手招きしている眞妃に、控えめに手を振っている美城と、哀れ出費と荷物持ちの中沢の四人が見えた。

 早坂はその場を手を振り返すだけで立ち去った。

 

 

本日の勝敗 藤原の勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、いう事があったんですけど」

「か、会長と隣の席ですって……!」

「聞いてます? かぐや様」

「コホン……ええもちろん。でもあなたもヘマした物ね。どうにでも逃げられたでしょうに」

「ではかぐや様、五条美城の好きな動物をお答えください」

「なに? いきなり」

「早く」

「え……そうね……あ、白猫なんてどうです?」

「あっさ……」

「答えさせておいて!?」

「私が逃げたらかぐや様こんな目にあってましたよ」

「よくやったわ早坂」

「調子いいんですから……」

「しかし五条さんは会長と友人ですから、どうにか『使いよう』がありそうなのですが」

「いやあ……あれは書記ちゃんと違うベクトルで厄介な人物だと思いますけど」

「そうでしょうか……あら? 早坂、何か落ちましたよ」

「紙……手紙でしょうか?」

「まあ。早坂にも春が来ましたか?」

「まさか…………」

「早坂?」

「かぐや様」

「はい」

 

「春は春でも春の嵐みたいです」

 

 

 早坂愛様へ

 

――――五条美城より

 

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