"唯の"ゴリラになった男
まぶたの裏が眩しくて目を開けた。
ここはどこだろうか。随分と野性味が溢れるトコロで目が覚めた。
あたりは透明で分厚い膜に覆われている。
その隔たりを介して、こちらを眺める存在がいた。
あっ、猿だ。
昨日は確かにもっと文明的な寝床で眠っていたはずだ。
本来なら私はここにいるはずがないのだが。
そんな感情を最初に抱いた。
しかし、何もしないで呆けていてもラチが開かない。
しばらくはこの暮らしを満喫してみようと思う。
そんな楽観的な気分で今一度まだ日の照らす空の下、随分逞しくなった自らの腕を枕にまだ温い寝床に横になった。
視界の隅に大きく黒い塊が見えたが気にせず眠った。
ふと、周囲の騒がしさに目が覚めた。
そういえばナニカがあったな。気になって眠る直前に視界の隅に入ってきた大きな黒い塊の方に目を向け………
ゴリラであった。
そんな単語が、それまで冷静を保った振りをしてきた我が思考回路を徹底的に崩壊せしめた。
ワッ、といった具合に風船から空気が抜けるような勢いで自分の肩を抱き、改めて冷静になろうと思った矢先。
私の体が目の前の巨獣と同等かそれ以上の巨躯を誇っているという錯覚を覚えた。
どうにも小さいのだ。いや、私が大きいのか。
体の大きさなど。
自分の存在がどういうものなのか確認することに比べて、毛ほども大事ではないのだが、わかりやすく示された答えに飛びつきたくないという自分の中の理性なのだろうか、
私は自分が"ゴリラ"であることを認めたくない一心で自分の体の大きさに思考を割いた。
あぁ、立派な体じゃないか。引き締まっているし、何より逞しい。
そ、それになぁ…そうだそうだ、コイツは分厚い掌だ。あ、ぁ。
あぁあ…それと、えー。強靭な顎?牙?…をしているなっ。な、なんでも食べられそうだな。
柄にも無くうろたえ、暫く冷静さをかいて現実逃避に精をだした。
考えれば考えるほど、自分の体が人間ではないという結論が近づいてくる。体表にはゴワゴワとして、お世辞にも手触りがイイとは言えない黒い体毛。背筋を真っ直ぐに伸ばすのば面倒に感じる。掌は分厚く黒々とした表皮がのぞいている。
身体の、心の方の持ち様はゴリラとは言えないかもしれないが…。
自分の体をじっくりと舐め回すように眺めたあと。
悩みつつ顔を上げた。私の四方を塞ぐ分厚い展示窓に、どこからか差し込んだ光が、頗る厳つい、その種の元来のイメージを体現するような、そんなゴリラを反射している。
到底理解は追いついていない。
夢であってくれ。そう願いながら私は思考の停滞を解き放ち、確かに私の置かれた状況を心中で言葉にした。
私はゴリラに生を受けたらしい。
生まれて初めて小説を書いてみることにしました。ズボラな性分故に、何の確証にもなりませんが、私が日常的に感じている、あけすけに人に吐き出せない人間的側面や性癖を詰め込みたいと思います。
内容の進行的には、しばらく"唯の"ゴリラとなった男の生活や思考を描きたいと思います。
勿論ハーメルン様の場をお借りすることも初めてなので、何卒お手柔らかに。今日より何卒よろしくお願いいたします。 水星フレッド