ゴリラ的人生哲学   作:ヤン・デ・レェ

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筆が進めば随時更新させていただきます。


ワタシとゴリラと元ヒトと

ゴリラとして生を受ける。

 

字面だけで見れば、まぁ。

生物の誕生としては何ら違和感も感慨も抱かないだろう。

現に私もそうである。

自分の姿形を展示窓の反射で確認したあと、私は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

頭に浮かぶのは、いわゆる前世とでも言うものだろうか。

ヒトとして生を受けて、便利で多様に発達した社会で育った。

両親は仲が良く。兄弟もいた。昨今問題となっている核家族というわけでもなかった。祖父母間の関係も良好であったし、家族皆日々穏やかに生を謳歌していた。

 

そう、穏やかに。穏やかに生きていたのである。

時代は平成から令和に入り、私も一つ時代を跨いだのだな、などと確かな高揚に近い感情を抱いた。

無論、世界中で未だに争いや飢え、負の側面の繁栄が途絶えないことは間違いなかったが、そんなことは万人が知っていて、万人が意識の外に放っていた。

 

生まれは日本だった。正に平和である。

政治家はヘマをしても殺されないし。

戦争反対は挨拶と同じくらい何にも考えずに叫んでいる。

非核三原則はノーベル賞をとったが、核保有国との親愛には勝らないらしい。

他国からのスパイ対策は暖簾の如し、対他国のインテリジェンスは吹けば飛ぶように貧弱。

医療保険は、水道やらの修理以上に安く済むのに、携帯料金は高いと言う。

生活保護はあるし、憲法は文化的な生活を国民に約束している。

会社は白黒入り乱れ。準備もスカンピンなのに、外国人を受け入れる。

よくわからない、サマータイムやら特別な金曜日やら、ノー残業やら、イクメンやら…

 

そんな、軽く考えても随分濁った国に生まれたのだ。

まだまだ、変わったところも面白いところもいろいろある。

しかしはっきり分かるのは、どこまで行ってもどこか享楽的なのだということだ。

 

私も十分享楽的であった。漫画は読むし、アニメも見る、他人には言えない性癖もあったし、無論マスターベーションもする。

蚊は潰すし、菓子も肉も食う、課題をやらずにふて寝もしたし、兎にも角にも楽しむことはできていた。

堪え性もなかったが、些細なことで手や脚のでるような気の悪いヒトでもなかったと思う。

 

さてさて、一通り自分は確かにヒトであったということを確認したところで、改めて自分の今を考えてみる。

穏やかに、享楽的に暮らしていた、そんな文明人の私がどうしてゴリラになれようか。

一体全体、何が作用して私はコンナものになってしまったのだろう。

答えも出ないが、かと言って不満がない自分の今の心境に心穏やかではいられないのであった。

 

逸る気持ちに押されるように、原因究明を目標に"ヒト"であった、最後の日を思い出す。

 

 

あの日、私は学校からスッカリ疲れてしまって、汗を流すとすぐさまに、何をする気も起きないままに、ベッドの上に寝転んだ。ズボラながらも、肌が汗でベタつくことを許すほどの寛容さは持ち合わせていなかったのである。私は潔癖症ではなかったが、清潔を好む普遍的なヒトでもあった。

間も無く眠りについた、目覚めれば現在の有様である。

 

その後散々に理由を求めても、最後の日にはなんら心当たりがない。

納得も安心も出来ず、今の宙ぶらりんの自分の在り様に恐怖し、他に何か心当たりを探して、自身の懐を物色した。

見つけた心当タリは案外と単純なものだった。

 

 

 

私は身体を壊しやすいヒトでもあった。

心が弱く、些事ですぐにストレス性の腹痛に襲われた。慢性的な腹痛は長く長く私を苦しめていた。

そのせいで、よく休んだ。起立性調節障害というものも小学5年の時より患い、自分への不理解を恐れる中でボチボチと付き合っていた。

体の表面だけでも何か誇れるものをもとう、威を纏おうとして体を鍛えた。しかし、思うようにはいかず、鍛えては体調を崩しての繰り返しであった。

 

私の自己同一性は常に拭えない悔しさや、やり切れなさ、情けなさと同居していた。

 

ようはコンプレックスである。




前回よりも、少々長々としてしまいました。
次回は人間を登場させたいです。
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