しかし、彼はゴリラなのです。
…この気持ちは何だ……
就職?してから1週間が経った。
相方のクレオ氏もどうやら私のことをゴリラでは無く人として認識しているらしい。
…相変わらずマジックみたいなカラダである。
こっちの方が戸惑ってしまう。
上司の中でも特にお偉いらしい和修なんたらとかいうダンディーもお前デカいな…とかって驚いていたからそうなんだろう。
うむんむんむん、なかなかどうして周りの人の中でも限られた人しか私のことを知らないし、ましてやヒトだとは認めていないことはよ〜くわかった。
中にはハッキリ「ヒィッ!キングコングだぁ!」なんていってクインケを向けられたりした…すぐに気絶していたが。
だがしかし、それも仕方ないことなのだと思う。
想像して見て欲しい、貴方は職場にいつも通り気怠げに出勤。
自分のデスクに腰掛けて、タバコをふかそうと口にくわえる、しかしライターがない。
新人が隣のデスクらしいが、貸してもらおう。
横を見ると、そこにはドン!とびきりのデカゴリラ!
まさにコマンドーのワンシーン以上に警備員の大運動会、全員集合!
会社ごと仲良く出動の事案である。
ジュラシックパークのティラノレベルで目を疑う。
3メートル越えである、それが人間だって後ずさる。
……私の周りの肩身が狭いのはそういうわけである。
はあ〜〜〜…食い扶持は出来たから満足だ。
夜露を凌ぐ寝床も、自分の肉が主食の可愛い隣人も出来た。
おかげで遅刻だけはしていない、たまに功善に呼び出されて無断欠勤するが…ゴリラに注意するようなやつはそうそういない。
それどころかハブられていることを除けば普通にオフィスワークをしている自分がいる。
ワークといってもクレオの隣でレポートの資料を差し出したり、ここはおっかない、ここは安全なんていう地図の上でグールをプロファイルしているのに合いの手を挟んだり…仕事らしい仕事は外回りくらいだな。
たまに机にバナナを置くヤツがいるのは悩ましいがな。
……つまり、だ。
私の感じているこの感情は、自分がゴリラと言うよりも人間として生きていることへの違和感なのだと思う。
つい1週間前まで動物園でぬくぬくと食う寝るの生活を満喫していたのだから、なんだか耳が痒くなるような、そんな不思議な羞恥心があるのだ。
気遅れ?差別?そんなもんじゃない。
なんとも言えない、新鮮というよりも客観的にヒトを見つめているように自分を俯瞰している感じなのだ。
自分はゴリラだと思っていたのに…なんだか落ち着かない、それでいてとても気分が良い。
なんだか自分がゴリラであることを再認識できた気がする。
私はゴリラだ。うん。
「ーっどくーん…ーーフレッドクーン?」
「ん?あぁ、すまない。ついついゴリラについて考えていた。」
「ごりら?君みたいな偉丈夫が言うと何だか違和感がないね。ゴリラと君に親近感を感じるからかな?」
「どうだろうなッ。あそこ。あの空きビルの曲がり角にいるヤツ。アイツじゃないか。明らかに怪しい動きだぞ。それに…チャラ男だ!」
「ははは…チャラ男かどうかは置いといて、確かに目撃情報と一致してるね。それに、地図上の範囲にも入っているし、今日の彼の動きは過去の現場を避けるように動いている…行こうか。」
「おう。」
「それと、仕事中に考え事は気をつけたまえ。君はずいぶん丈夫なようだがね。」
「すまない…汗」
今日の仕事は最近暴れてるグループの頭と思われる容疑者への張り込み。
ついでを言えば、動き次第駆逐…らしい。
ここまでは覚えている。
それにしてもあのターゲット。
見た目が明らかにチャラチャラしてるってのはいただけないなぁ。
ゴリラは軽薄そうなチャラ男が大嫌いであった。
動き出した目標に対して私たちは一定の距離を開けて追跡し続けた。
どうやら住宅街から外れた広い貸し倉庫が立ち並ぶエリアに向かっているらしい。
何も起きずに今日は帰れることを祈るばかりだ。
そう願いながら三つほど重ねられた倉庫と倉庫に挟まれてできた通路に向かった。
「倉庫の上だ!フレッド君!」
「いらっしゃい。ハトのクソ野郎ども!」
おぉ!こん時はまだまだ若いな、ヤモリの神兄貴。
次回戦闘に入ります。
グールって長生きのイメージ。