ゴリラ的人生哲学   作:ヤン・デ・レェ

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だいぶ間が空いちゃった。
かなりガラッと変わるかも。
ま、脳筋が主人公であることに変わりはないよ。


闘魂カウンセラー

ウタという男に大きな影響を与えたことなど知りはしない。

 

はたまたお隣さんに強く想われていることなど露知らず。

 

あくまでも腕と足とを動かしていく。

 

上段下段や型、美しさなど知ったこっちゃないといった荒々しい力任せの打撃。

 

それを持ち前の戦闘センスで淡々と、寸でのところで捌き切るウタ。

 

風を切る剛腕としなる鉄骨のような足が襲う。

 

ガンガンという硬質な音と共に、コンクリートブロックで舗装された道路や鉄筋入りのビルディングの壁に巨大な爪の走ったような跡が刻まれていく。

 

何処までも何処までも、ひたすらに続くかに思われたそれは突然に終わりを告げる。

 

それまでは淡々と捌いていたウタが自ら前へと出たのだ。

 

豆腐に指が吸い込まれるように、ゴリラの拳がウタの胴を貫通した。

 

血を吹き出しているのが彼の自作のマスク越しにもわかる。

 

徐々に血が染み込ん赤くなるマスクの口元。

 

ウタがニヤリと笑った気がした。

 

 

 

やった。

 

やっと君に触れた。

 

やっと僕に触れてくれた。

 

あったかいな。

 

君にしてもらうととっても痛いんだね。

 

やっぱり君は特別なんだ。

 

 

 

ブツブツと止めどなく溢れ出る言葉が、彼が自身に何らかの執着を抱いていたことを証明していた。

 

それと同時に、どこか壊れたような危うさを感じた。

 

冷や汗が垂れそうになるがあくまでも鷹揚に、体の向こうから自身の腕を引き抜いた。

 

いや、引き抜こうとしたところでその歩みは止まった。

 

ウタが強く腕を抱きしめていた。

 

貫かれた胴より上を無理やりにねじって。

 

ゴリラの腕にしがみついた。

 

何処までも以上で無様だが、何処か恍惚と色を醸すのは気のせいか。

 

割れたマスクから目元が見えた、ウタは優しくあどけない笑みを浮かべていた。

 

 

ニタリ。

 

 

 

だーめ。

 

いかないでよ。

 

まだ君を感じていたい。

 

口の中が自分の血でいっぱいなのに苦しくないんだ。

 

今は違うものに溺れているからね。

 

漂うのは心地いいんだ。

 

 

今までに感じたことのない強い寒気から、身をのけぞらせるようにして勢いをつける。

 

力任せに腕を引き抜き距離を取った。

 

目の前の男の様子はまだ色気だった紅い頬と、それを飾る白粉の様に澄んだ白いマスク姿のままだ。

 

いや、どうして頬の色を思ったのか。

 

まるで自分に伝えたいが為に彼の体から立ち込める雰囲気がそう思わせたのかもしれない。

 

 

仕切り直しだ。

 

 

ゴリラの一言でウタのそれまでの雰囲気は霧散した。

 

気づけば目の前に迫るほどの勢いを纏って。

 

寧ろ喜しそうに、そうまるで音楽ショーのアンコールを聴けることを喜ぶように向かってきた。

 

先ほどにも勝るほど、今できる全力で持ってゴリラは応戦する。

 

すでに三棟のビルディングを破りながら戦闘区域を広げる有様だ。

 

ゴリラは少しずつ逃げるように距離を取っては戦う。

 

そうするほど、今までにない強い執念に突き動かされるようにウタは食らいつく。

 

強烈な拳が顔面に見舞われる。

 

直撃、金属が砕ける様な甲高い音が鳴る。

 

マスクは飛び散り顔は半分弾け飛んでいた。

 

グールですら戦闘不能に陥りかねない強撃が炸裂。

 

さらに足を真横から本気で振るう。

 

ウタの胸板の下辺りから上が消し飛ぶようにして圧壊した。

 

ウタは数回体を震わせた後に酔っ払いのようによろけて倒れた。

 

少し気が抜けたゴリラの体は浮遊間に見舞われた。

 

グルグルと目まぐるしく脈動するウタの赫子が自分の体全体を締め付けていた。

 

離すまいと恐ろしいほどの圧が加わり、未だ感じたことのない息苦しさに流石のゴリラも唸った。

 

ミシミシという赫子の収縮ともゴリラの骨の軋みともわからない音が大音量で周囲へ響く。

 

視線を感じた。

 

ゴリラは俯けていた顔をゆっくりと上に向けた。

 

マスクがとれた素顔のウタが、立てられた土管に入っているような状態の自分を見下ろしていた。

 

 

に・が・さ・な・い・よ

 

 

見せ付けるように、教え込むように。

 

ゆっくりだがハッキリと口を動かして見せた。

 

歓喜がにじむその顔には嫌でも苦笑いが生まれるほどだ。

 

軋む音を他所に全身に力を込めて押し返そうとするゴリラ。

 

死にはしないだろうが流石に苦しさはあるし、はじめてのピンチともいえる。

 

しかし、ゴリラはあくまで確実にウタを伸す気である。

 

ふんっ。

 

そんな場違いに優しい力み声が響くとともにウタの赫子の一部が喰いちぎられた。

 

アタシのお隣さんに!

 

な〜〜にぃしとるかっーー!!

 

ほんわかしているものの怒りがありありと表現されているそれは、ハトを読んでくれたゴリラの可愛い隣人の声に違いなかった。

 

 

ジャマはよくないと思うな。

 

 

一言珍しいほどに感情の起伏が無い声で冷たく返したウタ。

 

ゴリラは自力で残りの赫子の拘束を解きようやく抜け出すと、ロマの元へと駆け寄った。

 

ニコニコ顔からすぐさま頬を膨らませて心配させた事を怒っているらしい。

 

こんな時に悠長な、そう思うほどにやけにじっくりと自分たちのやりとりをウタに見せるロマ。

 

妬ましそうに、羨ましそうにウタは顔を歪めて見せた。

 

やっと終わったのかと思えば休むことなく戦闘が再開された。

 

苛烈さや厳しさを含んだウタの攻撃はキレよりも刺々しさを感じる。

 

天賦の才能に胡座をかくように戦うのが常であったロマには鮮やかさが垣間見えた。

 

ゴリラだけが変わらなく、どこまでも鋭く強靭な打撃を繰り出し続けた。

 

 

 

 

15分も過ぎようとしたころ、ハトの一団がゴリラに相対していたウタの後方から向かってくるのが見えた。

 

どうやら他の連中は片付いたらしい。

 

 

こちらも終いにするか。

 

 

ボソリと呟きゴリラは地を蹴った。

 

丸っきり目的が変わったように新鮮な体捌きでウタを追い詰めていく。

 

 

捕まえた。

 

 

ウタの耳にやけに優しくその声は聞こえた。

 

ロマを10メートル近く置き去りにして、ゴリラが肉薄した。

 

腕を掴まれたかと思えば引き寄せられた。

 

驚いて目を開いた。

 

抱きしめられたのだ。

 

骨が軋むくらいに、涙が出るくらいに強い自身を包み込むような抱擁。

 

ウタは柄にもなく狼狽えて声を上げて手足を動かした。

 

ミチリと腕が握り締められてウタの耳元に男の口が寄せられた。

 

 

十分遊んだろ。

 

お前のことはよくわからん。

 

だけど、どこか寂しいのはよく分かった。

 

今度はもっと人様に迷惑をかけないようにしろよ。

 

そしたらまた遊んでやる。

 

 

頭で内容を咀嚼した。

 

えっ…。

 

ウタから辛うじて出た声はそれだけ。

 

間の抜けた顔を晒してしまった。

 

 

でも、今回はオイタが過ぎたぞ。

 

 

男はそういうと体をひと回り大きくした。

 

まっ……!

 

 

又会おう!

 

 

男の異変か気づいたウタは疑問を訊こうとした。

 

 

待って!

 

どうして受け止めてくれるの?

 

本当にまた遊んでくれるの?

 

 

そんな幼く育った疑問がゴリラへ問いかけられる前にウタの世界は景色が変わった。

 

 

 

又会おう!という声とともにゴリラの全力によって投げ飛ばされたのだ。

 

絶対的な膂力は重力を正面からタコ殴りにして、ウタを東京の空の彼方に投げ飛ばした。

 

今日記録された人間投げの世界記録は永久に更新されないことだろう。

 

 

 

 

 

負けちゃったな。

 

でも…また遊んでくれるんだね。

 

 

 

人知を超えた大いなる力によって東京の空を滑空する羽目になったウタはポツリとそう漏らした。

 

 

 

 




進めたぜ。
最後にゴリラ航空東京便を利用する羽目になったのはハトから囲まれて彼が捕まるのをゴリラが嫌ったからです。
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