トントンとスムーズに進めていこー。
あの後からウタが危険な雰囲気を放つことは無かった。
それどころか家が本格的に隣の部屋になっている。
お隣さんが増えた様で何よりだ。
物寂しいよりはずっといい。
朝はおはよう、仕事から帰ればお帰りと言ってくれる。
自分とは赤の他人である人間二人にそうしてもらえるのは幸せなことだ。
問題らしい問題もなかった。
それこそあの後清子ちゃんやら望願くんから問い詰められることも、何かこそこそしていないかと勘繰られることもなかった。
そう、なかった、なのだ。
今は残念ながらあるのだ。
昨日の夜のこと、仕事…(と言ってもその日はオフィスで呉緒がデスクワークしてるのを応援するだけだったが)から帰っていざ寝ようとしている時、ヤモリ達が訪ねてきた。
何の前触れも無くきたものだから、一先ずボーナスで買ったテーブルと座布団を用意してくつろいでもらった。
なんとも落ち着きのない様子だった。
何があったんだ?と淹れたてのインスタントコーヒーを差し出しながら聞いてみると、最近一人称が僕に変わったヤモリがおずおずと口を開いた。
あ、あのさ。
大兄貴は…区の頭になる気、なんてないかな。
僕は、自分でなっても良かったんだけど、やっぱりこの区が安泰になったのも大兄貴のおかげだし…。
それに!
今回みたいなことがまたあったらいけないから!
強いだけじゃない、カリスマってやつが大兄貴にはあるから!
ど!どうかな⁉︎
…意外や意外。
まさかそんなことを考えていたとは思わなんだ。
しかしウタの騒動と言い、20区に入ってきてる他の区のグールの群れのことと言い、確かに最近は芳しいとは言えない環境に戻りつつある。
それは否定できない事実だ。
いいのか?
一応だが、俺はゴリラだぞ?
それに今更言っちゃ何だがハトだぞ。
区の頭って言っても立派に務まる自信はないしな。
だが、まぁ嫌かと聞かれれば満更でもないのは確かだな。
安泰なのは俺の本意にも沿う。
俺が顔を隠すかなんかすればいいだけだからな。
正直に言えば、頭領になってくれと言われて嫌だと言えるほど隠棲的な性分ではない。
嬉しいし、なんだか大物にでもなった気分だ。
それに、すっかり言う様になったヤモリ達の姿を見て、その通りにさせてみようとも思ったからだ。
親心などといった御大層な大義は必要ない。
なんだか良い感じだと思った、それだけでも今の俺には十分だ。
ほ!本当か⁉︎
ッじ、じゃあ!今度の日曜までにこの区のグール連中をありったけ集めてくる!
住んでる奴らで大兄貴のことを知らない奴らはいないから大丈夫なはずだ!
結構集まると思うよ!
この区のボスが誰なのかをハッキリさせてやろう!
ハハハ!なんだか楽しくなってきたなぁ!
そういうと、ホクホクした様子で連れてきていたナキ達数人で並んで「お邪魔しました!!」なんて一礼してから帰っていった。
どうか無理だけはして欲しくないもんだ。
これからの秩序だとか、制度だとか、そんな小難しいことをぶつくさ言いながら家を出て行った彼らの背中はシャンと伸びていて、初めて姿を認めたときに感じた諦観に萎えた卑屈さや、知性の感じられない傲慢さは消え失せている。
自分がしてきたことは良かったのかもしれない、そう思えた。
ガチャリという音が響いて入れ替わる様にロマが入ってきた。
どしたの?
柄にもなく神妙な顔して?
何かあったのかにゃ?
ぷくくく。
心配されてしまった様だ。
神妙な顔、を今俺はしているらしい。
「ウガー!どーして笑うんだよ〜」とロマは俺の体にしがみ付いてきた。
眉が八の字のロマを摘んで正面に回した。
ギュッと抱きしめてみた。
頬を膨らませて怒っていた顔はすっかりポカンとしていて、間の抜けたそれには生来の彼女の可愛らしさがある。
気を取り直した様に一度顔をフルフルと振って見せた。
わざわざ頬を膨らませて抱き返してくれた。
ふんっ!
可愛らしい怒り方だこと。
彼女が俺の胸元に頭を押し付けているせいで、くぐもって聞こえた。
何をすることもなく暫く身を寄せ合っていた。
振り返ってみれば、二人でいると色々賑やかな日常だ。
久しぶりにゆっくりと時間を浪費した。
何をするともなく時を垂れ流すのは、全く退屈には感じないと教えられた一日になった。
何にも考えずに抱き合っていたら、自分の体に縋る力が緩んだ気がした。
先ほどから借りてきた猫みたいになっていたロマは、すっかり夢の中の様だ。
彼女には助けられてばかりだと思う。
いつもありがとう、だな。
おやすみ、ロマ。
こんなもんかなぁ。
チカラの器の方も書こーっと。
面白かったら、おもしろ〜いと思ってくれたら嬉しいです。
思うだけでいいよ。