ゴリラ的人生哲学   作:ヤン・デ・レェ

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会議、議題はナワバリ。


20区の首領

基本的にグールという生き物はヒトに紛れている。

 

どうして紛れていられるのか?

 

食べるもの以外、ヒトという悪虐非道な小動物と比べても外見に大きな差は無いからだろう。

 

そして何より、そもそもの話彼らは何方も人間に過ぎない。

 

ヒトを食べるかブタを食べるかの違いは単なる生態系、もしくは宗教の違いに過ぎない。

 

代替しがたいことは同じであるが、そういうものもある、という擦り合わせは不可能ではない。

 

あいも変わらず、それをしないで争うだけの間柄なのだ。

 

どちらが化け物かどうかで言えば、どちらが時のマイノリティーになるのか、数の多ささ少なさは大きな要因だろう。

 

まぁ、そんな所だ。

 

 

今日集まってもらったのは他でもない。

 

今後のここ、20区の話だ。

 

お互い程良い距離を保って平穏に暮らそう、そういう話をしに態々来てもらったんだ。

 

今までのココは無秩序だった、他と同じだったと言った方がいいかな。

 

トラブルの原因は二つ、まずは生存に必要不可欠な要素を求めての闘争、二つ目はある感情のしきい値が激しく昇降した時におこるパニック。

 

基本的にこの二つに限る。

 

 

 

一拍置いて周りを見渡す。

 

白い壁で清潔感のある執務室、黒革張りの椅子はさぞ高価なことだろう。

 

まさかまさかの面々を、よくヤモリも集めたもんだ。

 

上を見上げれば豪奢なシャンデリアが眩しい。

 

周りの数々の調度品にも目が行きがちだが、俺たちの足元に敷かれているのは、なんとなんとの熊さんの毛皮だ。

 

オーク調の木でできた御大層なテーブルの上には光を通して場に粒子を飛ばすみたいな綺麗なシャンパングラス、高そうな酒瓶に芸術っぽい絵が一枚一枚に描かれた銀の食器。

 

燭台も銀、ナイフとフォークも銀、皿に至っては金が張ってるのもある。

 

最後に正面、俺とは対になるお誕生日席に座っているムッシュを観る。

 

靴はピカピカ、背広はピチリと音がしそうだ、口元の髭と丸メガネの紳士が今回の会議場を提供してくれたらしい。

 

月山〜観母っ!

 

はっはっはっ!

 

ヤモリ君よ!君は何処で知り合ったのかね?

 

俺がちょくちょくしていた事は、案外デカい波を起こしていたのかもしれんな。

 

今はこれくらいにして、そろそろ話の続きをしようか。

 

 

俺はこの二つを何方もこの区から減らしたい。

 

根絶やすことなんざできやしない。

 

人間の営みの中で生まれる副産物に過ぎないからな。

 

大きな営みの中で、副産物を気にしていては滅びるのみだ。

 

では、我々は何をすべきか?

 

俺の考えは至ってシンプルだ。

 

もっとでかーいモノがあればいいだけだと思うのだよ。

 

突拍子もない?支離滅裂?

 

確かに一理ある、しかしだな、俺の言うそれは中立というやつだ。

 

デカい中立があればいいんだ。

 

この場合は殊更な、両方が頼れる強い中立が一つだけあれば良い。

 

より具体的に言おう。

 

俺がこの区の保護者になる!

 

 

 

シーン。

 

そんな感じだな。

 

肝心の他の連中も如何やら久々言い始めたな。

 

権益というものは面倒くさい。

 

変に学がついて複雑なことを考えだすと、利益というそれまで見えていなかったものが見えてくる。

 

周りの奴らとどれだけ見えるのかを比べて優越感に浸って、その差がだんだん埋められるもんだから、そのうち満足できなくなる。

 

小物と大物の違いは、それを実際に物質化、形質を持たせられるか否かだろうな。

 

至極小物につき人間の取り扱いには注意すべし、だな。

 

 

 

君はハトなのにどうしてこんなことを思いついたんだい?

 

 

 

のそ〜、といった感じの声が俺に問いかけた。

 

観母だ。

 

 

そうした方が俺の気分が良いからな。

 

あと、俺みたいなゴリラにとってはヒトのどうでもいい損得なんかより、もっと動物的で本能に従い生存努力を怠らないグールの方が、今は好きな気分だからだ。

 

 

過程も御託も何もかもすっ飛ばして言ってやった。

 

20区の各地域から来たリーダー格の連中は、すっかり毒気を抜かれたみたいに目をくりくりとさせて俺を見た。

 

観母は何だか不思議なものを見た様な、楽しそうな雰囲気になっていた。

 

若い男が立ち上がった。

 

 

乗った。

 

俺はアンタの言う保護者ってヤツがなんなのかは分からない。

 

アンタがハトだっていうことも知ってる。

 

ましてやトンデモない腕利きの化け物だったこともな。

 

 

動揺が走り、空気がピリついた。

 

 

だけどよ、他の奴らと喰い場を巡って争うことがパッタリなくなったのはアンタのおかげだったこともわかる。

 

なんの目的なのか、あんたになんの得があるのか、どうやってそうしてるのか、わからないことばかりだ。

 

だからこそ、アンタが俺たちに、俺と妹が、殺し合わずに食っていけるようにしてくれた。

 

アンタは肉をくれた、その事実しか俺は知らない。

 

それしか俺たちは知らないはずだ。

 

そして、あれ以来いつも定期的に、アンタとアンタの仲間連中は食べるものを俺たちにくれる。

 

俺はそれしか知らないが、今前よりずっと穏やかに生きていられるのはアンタのおかげだ。

 

だから、アンタが保護者になってくれるってんなら、他の奴らがココの王様なんかになるよりもずっと良い。

 

俺にできることは余りない。

 

強いて言うなら、喧嘩に少しは強いくらいだ。

 

だけど、それでも良いならアンタのために俺を使ってやってくれ。

 

少しでも良い暮らしに、今よりもっと良くなるなんて夢見たいじゃないか。

 

誰も俺たちを見ていなかった。

 

でも今はアンタがいる。

 

俺は信じたい。

 

 

そうして長く重々しい演説が終わった。

 

俺のことをそんな風に見てくれていたとは感激だが、俺にできることの中に自分の筋肉を人肉に変換できる不思議パワーがあっただけだ。

 

力を無駄にするのは、お得と限定が大好きな元日本人で現ゴリラの俺には難しかったんだ。

 

結果としては上々かもしれんな。

 

彼の高説は周りの連中の団結を呼んだらしい。

 

そう言えば、名前を聞いていなかったな…

 

 

名前は?

 

 

 

れんじ。

 

四方 蓮示だ。

 

 

 

よも、れんじ…か。

 

宜しく、蓮示。

 

俺は、フレッドなんて言われている。

 

ゴリさんと呼んでくれても構わない。

 

あっ、それはそうと…ウタという男を知っていたりするか?

 

 

 

コクッ…

 

 

 

すごく嫌そうな顔でうなづいたな…

 

 

そうか…じゃぁ、尚更ヨロシクだな。

 

 

…?あ、あぁ、よろしく。

 

 

 

このまま話がまとまるといいのだがなぁ…

 

幸先はよし。

 

心強い味方が増えたと言えよう。

 

問題はやはり、どうして観母なんていうヒトの社会に潜んでる様な大物が、わざわざ危険を冒してまでいかにも怪しいハトの怪物捜査官主催の会議に出席しているのか、だな。

 




うーん。
次で会議編はおしまいかな?
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