長くなります、ごめんなさい。
ふむ。どうやら、やらかしたらしい。
フレッドだったころ、人間のヒトだった頃を思い出していた時。
ついつい、退屈に耐えかねて文字を木の枝で砂場に書いていたのだが、その姿をバッっチリ録画されていたらしい。
やっっぶべぇぇぇ⁉︎エェァーー!
ゴリラが、文字を書いた。何にも違和感がないように見えるかもしれない、だかしかし、書いたのはゴリラである。
しかも、とびきりデカくて、日常的に周りとは行動の異なる、そんなゴリラである。衆目はさぞかし奇異の目で私を包むだろう。
変わり者はいつの時代も肩身が狭いのだ。もとより私の寝床には天井もないものだから、ゴリラ身とでも言えようか。
まぁそんなことはどうでもいいのだ。
私が怖いのは、解剖されたり、剥製にされたり、ましてやクローンを作られたりと言ったものである。
たしかに、他の並ゴリラが3センチしかエレクチオンしない下に関しても、私は圧倒的に勝利宣言を示す、そうWe are the championsと。
勝者は私一人だが。誰に見せてもいないが。
何が言いたいかというと、交尾などしたくないということだ。
すでに周囲のゴリラから避けられまくっているのに、種の保存とかふざけた理由で嫌がっているメスゴリラと交尾させられようものなら、死ぬに死ねない。
どうせゴリラである。
堂々と童貞を完遂してやろう、そう決意を新たにした今日この頃である。
下らないことを考えているうちに周りには人だかりができていた。
スタッフオンリーの向こうから園長がカートを押してきた。見た感じ私とは同格な何か不思議な力を感じる。多分…筋肉だな、間違いない。
それにしても調子の良いことである。
いつもは少し元気のなくなってきた竹やら果物やらばかりなのに、今日に限って記念とかいってケーキを持ってきたようだ。
ふん、食べるがな。ふむ、もともと果物はあまり好きじゃなかったんだけどな。
「ごりオ君は今日もたくさん食べるなぁ、ハッハッハッ!さぁ、君のおかげで我が園の来園数は過去例を見ない勢いで伸びてるからねっ、今後とも何かあったら頼むよ!…さてさて、じゃそろそろこのホワイトボードに何か書いてみてくれないかな?」
ふむふむ、なるほど、そういうことか。
私を使って金儲けをしようということだな。まあ、こんな物騒な世界だしなぁ、ここがどの区かは知らないが毎食もらっている分は働かないといけないだろう。
私は一肌脱いでみることにした。
展示窓の向こう
「なぁ、本当にあのゴリラが文字書くと思うか?」
「意外と書けるかもよ?まぁ、相当ヘロヘロな文字だろうけどw」
「十分凄いと思うけどな。…それにしてもデカいな、マジモンのキングコングかもしんねぇな。」
ふふふ、相当に疑っているな。
まぁいい人間ども、私の文章力と達筆さにおののくがいい!
シャバ!シュ!シュババ!キュキュ!
「オオオォ‼️」
"My name is GODZILLA=gorilla=gorilla."
"齬 理 羅"
ふっふっふっ…まぁ、私にかかればこんなもんだろう。
圧倒的かつ、高等な私の漢字力、そして何より理解どころか目にしたこともないだろうローマ字。
クォレは平伏してもいいんじゃないかな?うん、どうぞ。
ほんの日銭稼ぎのような気持ちで行ったこの行動の一連は、当日居合わせた学者らを騒然とさせた。ある意味、公の歴史に彼の足跡が踏み込まれた最初の日となった。
なぜだろう。あの日からひっきりなしに白衣を着た男たちが私の展示区域、寝床にかじりついて私を観察してくる。
狭い世界ではあるが、やっと慣れ始めた私の日常の隅から隅までを覗いているのだ。
流石に怒りが湧くのも致し方ないことだと思うのは私だけだろうか。
動物園の動物が人に見られることは何とも、いわばプライバシーの常習的な侵害なのだということをゴリラになって感じることができた。
願わくば、一生知らなくても良いものである。
毎日が実験の日々。
恐ろしい言い方をするとそんな感じである。
ケーキを貰って数日経ってから、色々な機械やら何やらが私に向けられては、白衣の連中は楽しそうに騒いでいた。
食事は豪奢になり、肉の絵を描いて見せたら伝わったのか、 その日の夕飯は大きな肉であった。
生肉であったのが残念でならない。
言葉の重要性を感じた。
私は喋れることは喋れるのだから、同じ言語でのコミュニケーションをとることも案としては出かけたが、テレビやらのメディアが益々私の周りを騒がせることが目に見えていたので、血生臭さがのこる生肉とともに飲み込んだ。
それに、何というか、人の持つ興味だとか、そういうものは掻き立てておくことをある程度よしとするものだと思うのだ。
明確な答えを示せるのは人の良いところであり、悪いところだ。
しかし、善悪の隔てを無くしてありのままの概念だけを眺めれば、なんとも立派なものだと言えると私は思う。
其れ、即ち明確さやら、確定やらは人間ならではのものだと思える。
人間。
そうだとも、人間。
迷い悩んで生きる中で、救いを求めた結果得たものは、そういう断定なのだろう。
しっくりくることは大事だとも。
それの重さや厚さはあるだろうが。
何かを白黒つけること、これが人間の最大の発見の一つだと私は思う。
人間が自然だと感じるものというのは、何から何まで決め付けられないもののことを言うのだよ。
人間だけだね、明確な答えを出せる…ではなく、出す存在は。
ゴリラになって1週間近くが経った。
驚くほど不自由がないとは面白い。
穏やかな生活であるが、少々の退屈を感じてきた。
周りの並ゴリラは呑気である。
淡々と日々を消費してきた、もしくはさせられてきたのだから当然だが。
彼らは、働かず、よく食べ、よく眠り、よく遊ぶ。
コレがヒトの幸せのカタチと言うのだから面白い。
人間はどこまで行っても、帰る場所は動物的本能なのだと感慨に耽る。
穏やかな日々に不満はない。
単に、タダの動物の私、タダのゴリラの私、そんな些細な事実が許せなくなっただけだ。
本当は違うんだ。
変われるのに、ほんの少しも違うのに。
言葉を飲み込み、自分の表し方を模索し始めた。
私は、タダのゴリラではないのだよ。
そんな気持ちが胸を急かすのだ。
騒がしい白衣の連中は増えるばかり。
観客とマスコミも逸る気持ちを押さえ込んで並んでいるのが、離れていても分かった。
最初に始めたのは沐浴と歯磨きと手洗い。
そろそろ不清潔…良く言えば野生的な自分の身嗜みを整えたかったのでちょうど良かった。
周りの連中は唐突な私の行動に騒いでいた。
新人類だのなんだのとのたまっている。
正真正銘私はゴリラだよ。
次に実践したのは食べ物の選別や、食べ方を人間っぽくした。
いや、元々に戻しただけだとは思うが。
何が正しいのか、ゴリラの自分に不満がなかった私には少しわからなくなってきた。
さほど驚くものではなかったようだ。
やはり文字という文明の母を使いこなすインパクトが強過ぎたみたいだ。
前回の教訓を生かして、次にしたのは文字を使っての積極的会話だった。
うまくいったのは言うまでもない。
テレビにでたい、企画を立ててくれ。
そんなことをあらかじめ渡されていたボードに書いて渡した。
ケーキを貰った日以来一切のコミュニケーションを絶ってきた私からのアプローチは周囲に思いの外好意的に受け取られたらしい。
企画に沿って、大物コメディアン、流行りの俳優、新人芸人なんかを相手に、色々と文字で答弁してみたり。
猛獣体力テストと題されて、人間用のダンベルやらバーベルをパカパカ持ち上げて見せたり。
怪力アニマルとかいう企画では電車を押させられた。
引っ張りだことは聞こえはいいが、野菜と果物でギャラの賄える、便利なピン芸人のようなものであった。
自分のもつ人間としての感性が、周囲の人間から向けられる、私を人間的仕草をする程度の動物だ、と決め付けられる偏見に傷づけられていることに、私は気付かぬふりをした。
話題にもなった。
人気にもなった。
有名にもなった。
しかし私は、ゴリラである。
ついぞ誰も、それこそ学者であっても、私を、"唯"の私を認めてくれる者は居なかった。
私はどうやら"タダ"の動物らしい。
拭えぬ失望の一方で、燻っていたモノがザワザワと心の内を駆け抜けた。
この世界への反駁を思い出したのだ。
この世界の行末を思い出したのだ。
東京の狂騒を。
なにより、社会の排斥と理不尽の代償を穏やかな収束に見せかけた、其の結末を。
ナチスユダヤ的な収束は、私が最も嫌うものの一つである。
人間はヒトを喰うことをグールに許さなかった。
何故なら、ヒトもグールも人間だから。
姿の同一性が彼らに食と生の闘争を呼びこんだのだ。
人間はもはやヒトの手からも、グールの手からも滑り落ち、社会となって両者を蝕み続けていくのだろう。
私は"齬理羅"、"唯"の正義の執行者である。
有り体に言えば、気に食わないからぶち壊すのだ。
この世界の理不尽と悲劇を破壊せしめんとする"唯"のゴリラである。
なんでこんなに増えたんだ。自分でもこんなになるとは思わんかった。
ごめんなさい。次回はそんなに長くしないようにします。