ゴリラ的人生哲学   作:ヤン・デ・レェ

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ゴリラの主張は、限りなく普遍的なものです。なぜなら筆者の主張ですから。大したものではありません。頭にきたから怒るのです。この小説のゴリラは、それを行動に移すだけです。


ゴリラとミミズク

「来てしまったな。」

パンフレットに載っていたゴリラを一目見ようと何駅か跨いだ。

まさか私がゴリラを見るのに貴重な休暇を使ったと聞いたら、上司の芥子はどんな顔をするのだろうか。

さぞかし愉快だろう。

好きでもない上司を頭の中で一人で弄ることなど、初めてかもしれない。

私は自分の今の有様をくだらないとは思っていても、人生初の、正に未知との遭遇を心待ちにしてならなかった、

 

何かを変えてくれる。

そんな淡い希望にも似た残酷さを背負っていることに、誰しも気づきたくはないのだ。

何も生まない、何も絶やさない、そんな不格好な思考を止めないことが、それまで人間に打ち捨てられてきた私の抱く無邪気さへの、私なりの敬意だった。

私は楽しみを感じていることを、素直には認められない生き方を歩んできたから。

 

20区よりの最寄り駅からさほど離れてもいない所に空き物件を見つけた。

なんだか私は自分に糸が掛かったような気がした。

灯が入っていないココにどこか惹かれた。

どこをとっても全く不愉快はなく、また来ようと脚を進めた。

 

人の列が手元のパンフに掲載されたものよりだいぶ長い。

目の前の犇きから発される熱気が初夏の心地よい風を妨げているようで不快だった。

人混みは好都合だか、長時間目の前に肉を垂らされる犬になったようで、あまり気が乗らなかった。

近くの喫茶店でコーヒーを頼んだ。

 

三時間ほど粘ると人波は空いたようで、まばらに親子や老夫婦が並ぶのみとなった。

目的は同じだろうに。

と、列に加わり能天気なヒトの様子に嫉妬と呆れを覚えた。

 

思いの外空くのは早く10分もすれば視界が開けた。

前に並んでいた親子連れが順繰り見て回る中。

キリンもゾウもライオンも飛び越して、私は一直線にソコへ向かった。

 

 

その日、目当てのものが見つかることはなかった。

私の知るゴリラは、あんなに毛が薄くない。

背は高いかもしれないが、鼻も高い。

黒い毛はあるが、頭だけだ。

仕草は人間?

 

私の目の前には、背の高い裸の大男が立っていた。

 

全く以て衝撃を禁じ得ない。

思考は停止し、私は戸惑った。

気づけば、戸惑いのあまり何時も自分が人間に話しかけるようにソレに話しかけていた。

 

「何故、なぜ…服を着ていない…。」

 

「お前は何なんだ?」

 

「ゴリラは何処にいる。」

 

「…このパンフレットに載っているゴリラはどこにいるんだ?…教えてくれ!」

 

周囲の視線に気づき、周りを見回した。

自分が大きな声を出してしまったのは理解できる。

しかし、衆目は奇異なものを見る目で私のことを見つめているのだ。

 

まるで、全くわからないと言った具合に。

初めて何かを失った時のように。

ただ不思議そうに。

 

黒髪黒目の大男は、周囲の異変と私を見比べると、暫しの逡巡ののち口を開いた。

 

 

「俺は"唯の"ゴリラだぜ、Vの功善」

 

衝撃と理解不能の現実が私を貫いた。

 

 

 




主人公のもつ奇異はゴリラであること以上でも以下でもないのです。
彼は人間からの逸脱を望んでいません。
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