元白浜ケンイチは、(平穏に)白浜ケンイチを見守りたい   作:turara

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プロローグ

 元、白浜ケンイチこと、山田太郎は一人教室の隅で細々と過ごしていた。彼の前世は、戦いの人生であったと言っていい。高校生の時、運悪くあの少女に出会ってから、崖から転げ落ちるように修羅の道へ進んでいった。

 

 別に文句があると言っているわけではない。戦いは好きではなかったが、大切な人を守るために戦っていると思えば苦ではなかった。それにあの少女、風林寺美羽のことは生涯ずっと愛する人となったわけだし、大切な愛娘も生まれた。

 

 しかし、また再び生をうけるだなんて、流石にそれはひどいと思わないか。それも、白浜ケンイチではなく山田太郎である。

 

 それでは、白浜ケンイチは誰なのかというと、これもまた白浜ケンイチなのである。つまり、過去の俺と、同級生であるということだ。

 

 恥ずかしくて見ていられるわけがない。

 

 俺にこんな時代があったことを娘に知られれでもしたら発狂するだろう。しかし、ともかく、どんな恥ずかしかったとしても昔の自分である。苛められ、パシられている俺を見殺しにできるほど、自分が嫌いなわけではない。

 

 白浜ケンイチを助けるにあたって重要なことは、自分が目立たないと言うことである。戦いのプロからしてみれば、修羅の道へ落ちるのは本当にあっという間だ。

 

 例えば、ここで絡まれている白浜ケンイチを助けたとする。すると、やられた輩はどうするだろうか?

 

 

 簡単だ。さらに強い奴に報告するのである。

 

 これは悪夢の始まりである。倒して、倒して、倒せば倒すほどさらに強い奴、強い奴が自分の元へ現れる。こうした悪夢の連鎖は、か弱かった俺を戦いの道へ進ませたのだ。

 

 俺は、かなり迷った。どうすれば白浜ケンイチを助けることができるのか?

 

 そしてさらに深刻な問題は、倒せば倒すほど、強い奴が現れるのと同様に、弱い奴にも、必ずと言っていいほどいじめる奴が現れるのだ。俺がどれだけいじめっ子を追っ払おうとしても、白浜ケンイチ自身が変わらなければそれは変わらないということだ。

 

 俺は、過去の自分、白浜ケンイチに戦いの道へ進ませたいかと聞かれれば、noと答えるだろう。自分のこれまでの人生を振り返り、また同じ地獄の人生を繰りしたいかと言われると無理と思うからだ。

 

 俺は、白浜ケンイチではない。しかし、彼は他人ではなく、もう一人の自分なのだ。

 

 彼が、行く末を見守り、少し手助けする事ぐらいはしようと思う。

 

 と言うわけで、このくらいのかつあげを助けることはしないことにしよう。これも、彼にとって重要なことかもしれない。と思うことにする。

 

 

 

 


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