元白浜ケンイチは、(平穏に)白浜ケンイチを見守りたい 作:turara
俺と叶は変装を済ませた後、奪ったicチップで無事建物の中に入ることに成功した。恐らく、目的の情報が含まれているUSBは28階、情報処理部にあるはずである。
25階までは、社員なら誰でも出入り可能なようだが、そこから先は限られた者しか入ることが許されていない。25階でエレベーターを乗り換え、所謂、監視チェックの後、その先へのエレベーターへと通される。
俺はこの任務、何か嫌な予感を感じていた。ただの警備会社ならよかったが、あらかじめきな臭いということは証明されている。ただ、28階まで潜入し、目的のUSBを盗むだけでは済まないような、そんな予感がしていた。
(嫌な予感がする。)
俺の予感は、大体当たることが多い。そしてそれは、いつも最悪の状況で出現する。
(何事もなければいいけど。)
俺の胸騒ぎをよそに、25階までは、思った以上に簡単に到着することができた。1階のエレベーターから、そのまま直結でここである。警備が固くなるのもここからだった。
「おい、油断するなよ。」
叶は、エレベーターの中で、そう言う。叶も何か嫌な予感を感じているようだった。
俺は、エレベーターの中で黒いフードに着替えなおす。もともと、一人の侵入者と見せかけるつもりだった。叶が、注意を引き付けている間、その隙に警備を突破する。
「わかってます。USB見つけたら、何か合図するんで、個別に逃げてくださいね。」
俺は最大限まで気配を消した。普通のものなら気づかれないレベルである。さらに、他人の視線を利用し、死角に入ることでさらにその効果は増す。大人だった元白浜ケンイチが開発し、便利に使っていた技である。
「・・・へー。すごい技だね。ほんと、注意してないと気付かないかも。」
叶は、俺が気配を消したのを見て純粋に驚く。
「・・・こういうの、得意ですから。」
しかし、いつまでたっても叶の視線は外れない。俺は、じろりと睨み返すと、叶は興味深そうにしている。
「やっぱり、君って結構強かったりするんじゃない?」
叶は、思った以上に見えなくなった俺に、実力の評価を改めているようだった。
「・・・。」
エレベーターが25階まで着く。開き始めた瞬間、叶はとんでもないスピードで警備のところへ行ったと思うと、そこにいた敵を瞬殺して見せた。
「意外と簡単だね。心配する必要もなかったかも。」
叶は、そう余裕そうに言う。警備を抜け、目的の28階までは一瞬だった。
しかし、予想外のことが起きたのはここからだった。
「・・・ないね。」
一番有力であると思われた、情報処理部。肝心なUSBと思われる代物はどこにもなかった。
「まあ、こんな簡単に終わるわけないよね。どうする?」
「個別で、いいと思います。あるとすれば、見取り図に載っていない、どこか隠し部屋だと思いますね。」
叶は、思った以上に面倒くさくなりそうな案件にため息をついた。それに、今のところ敵が弱すぎて、平穏の実力を測れないでいる。しかし、敵地へ乗り込んだ時の、周囲への気の配り方、立ち回り方、そして、ここまで完璧に気配を断つ平穏を見、相当な実力者ではないかと思い始めていた。
「そうだね。・・・はー。隠し部屋か。面倒だね。」
叶は、きっちり締めていたネクタイを緩め、肩を回す。
「多分、地下だと思います。」
俺は、ある程度、隠し部屋の存在に気が付いていた。一階にいた時から、この下に空洞があるということを何となく感じ取っていた。恐らく、この建物のどこかに地下へとつながる通路がある。
俺は、USBの存在について思考を巡らす。
そして、それと同時に敵の気配にも気が付いてしまった。
「・・・・叶さん。来ますよ。」
俺は、最悪の予感が当たっていることに気が付いてしまった。恐らく、特A級。ここまで、俺に存在を悟らせなかったことから、相当な実力者であることがわかる。
俺が、叶にそう声をかけて2秒後、唐突として入り口のドア(壁も)破壊された。激しい音を立て、ドアがはじけ飛ぶ。
「・・・久々の侵入者か。」
現れた男は、およそ2m。金髪で片目が負傷している。放つオーラが、相当な実力者であることを示していた。
「うわ、やばくね?」
叶は、さすがに特A級クラスには、焦りを覚えているようだ。
「闇の者か。ずいぶん若いな。」
俺は、ごくりとつばを飲み込む。闇、梁山泊以外にも特A級がいてもおかしくないが、こんな頻繁に表れていいものではないだろう。恐らく、あのUSBは小国どころではない。どこか、もっと大きな国が関わっている。大国が揺らぐ、相当重要な情報なのだろう。
そうでなければ、特A級クラスを、常時待機させているなんてありえないことだった。
「叶さん。ここは俺が引き受けます。USB見つけに行ってください。」
俺は、頭まで深くかぶったフードを脱ぐ。本気を出しても、敵わない相手かもしれない。しかし、それでもまだ可能性があると思えるのは、この男が、戦いという舞台の一線を退いているものだからである。俺は、この男に見覚えがあった。確か過去、一影九拳にいたような気がする。片目が原因で外されて、闇から抜けることになったがそれでも、その実力は確かである。
(・・・厄介すぎる)
俺は、自分の身に降りかかる不幸に嘆いた。超人級の次は特A級である。多少は、鍛えたつもりだが特A級相手に、今の実力でどこまでやれるか。
(もう、最悪叶がUSBを見つけてくるまで耐え忍ぶしかないかも。)
しかし、俺の期待とは裏腹に、叶は俺の戦闘を見学する気満々である。
「へえ。やっぱり、実力隠してたんだ。」
叶は、おもしろくてたまらなさそうな表情をしている。
俺は、うんざりした。面倒ごとが二つも重なるのだ。叶に俺の実力がばれる。さらにこの敵を倒さない限り、危ない奴に兵器が渡ってしまう。俺は、もともとUSBの内容を盗み見、闇より先に先手を打ってやろうと考えていた。だからこそ、この任務は失敗するわけにはいかないのである。
恐らく、本郷はこのことを分かって俺に依頼したのだ。敵を倒しUSBを回収する役目が俺だとしたら、叶の役目は、俺の実力を把握すること。
(やっぱり、今後任務は受けないことにしよう。)
俺は、ため息をついた。