元白浜ケンイチは、(平穏に)白浜ケンイチを見守りたい 作:turara
前の俺が戦いの道へと進むことになった、あの少女との出会いの前に、俺のほうが先に、人生の転機を迎えてしまったようだ。
というのも俺は今、闇への勧誘を受け逃げ回っているところだ。目立たないふつうの生活を目指していた俺がどうしてこんなことになったのか。それは、一週間前にさかのぼる。
あれは、好きな作家の本を発売日に購入し、うきうき気分で自宅に帰っていたときのことだった。
「やっと新作が出たよ。どれだけ待ち望んだことか!」
俺は、上気分で購入した榊原先生の作品を大事そうに抱えた。なんたって一年待っていたのだ。この本の上が発売されてから、続きが気になってしょうがなく、毎日そわそわした気持ちで過ごしていた。
飛び跳ねそうな勢いで、早く読みたいと家へ急いでいると、後ろから小さい気配を感じた。
俺は、後ろのシャツをくんと引かれて立ち止まった。
「お兄ちゃん。助けて!」
そう俺に助けを求めてきたのは、一般人とは思えない異様な雰囲気を持つ少女だった。真っ白い肌に白い髪の毛。目は薄い青色をしており、白いTシャツにサンダルを履いていた。
どう考えても訳ありの少女である。誰かにねらわれているのだろうか。
俺の長年戦いの中、研ぎ澄まされたピンチ回避能力は、この少女に警告音をならしているようだった。
とにかくいやな予感がする。
俺は、この少女に事情を聞くより先に、この少女を担ぎ込み一目散に逃げ出した。
いやな予感がするからといって放っておけるわけではない。それに、この少女が逃げているということから、敵もそんなに離れてはいないだろう。
また、彼こと山田太郎は、こうみえても達人である。その彼が、いやな予感を感じると言うことは恐らく、相手も自分と同じ、それか自分以上の敵であることが予想できる。
「あー。もっと鍛えとくんだったな。ちょっとやばいかも。」
山田太郎は、白浜ケンイチだった頃に比べて格段に弱くなっている。それはそうだろう。彼の前世は、戦いの連続で鍛え上げられてきた強靱な肉体があった。また、戦いの中でしか生まれない、武術の勘である。
山田太郎は、今世こそ平和にいきたいと願い、そう過ごすことに成功していた。昔のように敵がいるわけではなく、襲ってくることもない。白浜ケンイチに比べて弱いことは必然だった。
それでも一応は、達人クラス。達人に至るための気の掌握を会得しているため達人とはいえるものの、肉体的にかなりきついものがある。
「やだなー。久々だよこの感覚。命の危険が迫ってくる感じ。」
山田太郎は、全速力で駆け抜けながらため息をついた。