元白浜ケンイチは、(平穏に)白浜ケンイチを見守りたい   作:turara

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太郎は、ピンチ回避したい!


懐かしさ

 俺は、新島流の逃げ足で痕跡を完璧に断ちながら隠れ家へ急いだ。どれだけ一般人とはいえ、隠れ家は用意しとくものだ。いざ、何かあったときとりあえず避難できる場所は確保しといておいた方がいい。

 

 山田太郎は、自動車の上を飛び越え走りながら、自宅とは逆方向へ進んでいく。ここで大事なのが痕跡を残さないことは前提条件だが、目撃者を最小限にとどめることも大事である。それは人間に限った話ではない。むちゃくちゃな話だが、達人にもなると、その辺に飛ぶ鳥が目撃情報になることもある。さらに言うと、こちらがどれだけ頑張っても、怪しい中国のまじないで場所を一瞬で当てられることもある。

 

 太郎は、むちゃくちゃだった梁山泊の師匠を思い出しながら静かに苦笑した。まさに規格外の強さと言ってもいい。

 

 (懐かしいな。)

 

 太郎は、この世に生を受けたときからずっと考えていた。俺が梁山泊の師匠に会いに行っていいのかどうか。もちろん、太郎はすぐにでも師匠の元へ会いに行きたかったし、できればまた、師匠の弟子として梁山泊と関わりたいと思っていた。

 

 白浜ケンイチが、どれだけ強くなろうとも、ケンイチの師匠は生涯あの人たちだったし、そのことは、ケンイチにとっても大事なことだった。

 

 

 太郎が、今まで梁山泊に関わらなかったのも、その強い思いが原因なのかもしれない。太郎は、これまで戦いという火種から逃げ続けてきた。もし一度でも、その場に踏み入れてしまえばまた再び戦いの世界に落ちていってしまうだろう。一人を助けると、もう一人を見捨てることができない。太郎は、そうやって自分の中で均衡を保ってきたのだ。

 

 太郎は、白浜ケンイチとして大切なものを数多く守ってきたが、その分失うこともあった。それは、生きていて当たり前の事だが、強くなると、否応もなくどちらかの選択をせまられることもある。これならいっそ、どちらも守れないというほうがましだと思うことがあった。

 

 「命の選択」強くなればこその問題だった。どちらも助けられればいいが、そうでないときも勿論ある。それは、白浜ケンイチを最も傷つける要因でもあった。

 

 数多くの犠牲を防ぐため、最小限の人を犠牲にする。それは本当に正しいことなのか。分からないまま、そして、それを実行するのは白浜ケンイチ自身である。

 

 過去、白浜ケンイチはその悩みを、妻の風林寺美羽に打ち明けてはいたが、やはり解決することもなく、彼の生涯をむしばみ続けた。どれだけ強くなろうとも、どうしようもないことは存在する。

 

 太郎は疲れていた。見捨てられない。そんな優しさを持っているからこそ救えなかったときの後悔は大きいものだった。

 

 確かに、ケンイチは生涯で守れたもののほうが多いだろう。しかし、もし自分が戦いとは無縁の世界で生きていたら。と考えることも無いわけではなかった。自分が守れなかった人が生きている未来があったかもしれない。ケンイチはそう思わずにいられない日はなかった。

 

 

 

 太郎が今世、戦いの道へ踏み込めない大きな理由がそれであった。

 

 (こんな自分で、会いに行けないよな。)

 

 太郎は、師匠にこんな自分を見られたくなかった。白浜ケンイチは梁山泊の一番弟子として、正義のために戦う存在だった。どれだけひどい状況でも、自分の信念に真っ直ぐで、全力で立ち向かっていける。それが、弟子としての誇りだった。

 

 太郎は、これから戦いの道へと進む白浜ケンイチを見ることになるだろう。太郎は、その事を止めはしないがつらい道だということを重々承知している。太郎は、その戦いの道から逃げてしまったのだ。

 

 それでも、この先大事な仲間と出会い、大切な師匠と出会い生きていく白浜ケンイチを羨まずにはいられなかった。

 

 俺も山田太郎ではなく、梁山泊の一番弟子、白浜ケンイチとして生まれていたら、もう一度、戦いの道へ進めたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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