元白浜ケンイチは、(平穏に)白浜ケンイチを見守りたい 作:turara
「どんどんどん。」
梁山泊では、門の前で誰かが門をたたいている音が聞こえた。かなり焦っているようで、非力な一般人が精一杯叩いているような小さい音だった。
「ん?客人かな。」
秋雨は、読んでいた新聞から目を離し門のほうへ目を向ける。
「随分幼い子のようね。足取りが短いね。」
馬がそう言うと、アパチャイは嬉しそうに飛び出していった。
梁山泊の門はとてつもなく重い。一般人に到底開けられるような代物ではないかった。
「それにしても珍しい客人ね。」
「ふむ。アパチャイが怖がらせないといいが・・・。」
アパチャイが門の上から重い扉を開ける。しかし、客人はアパチャイに全く気にもとめず、門が開いてすぐ中に飛び込んでいった。
少女が着いたのは、あの青年、山田太郎と分かれてから10分後の事だった。
少女はあの青年に頼ってしまったことをとても後悔していた。
少女の目には涙が溢れている。少女は、自分が逃げることに精一杯だったが、本当は自分が捕まってしまえばよかったのではないかと激しい自己嫌悪に陥っていた。
あの青年は自分を犠牲にしてでも私を逃がそうとしてくれた。
今まで、自分が捕まれば悪い奴らに利用されもっと多くの人が傷つくと両親から言われ、人に頼ることを当たり前と思うようになってしまっていた。
しかし、少女は改めて、本当に青年が犠牲になってでも自分が助かる事に意味があるのかと思うようになっていた。
「誰かいませんかー!」
少女は、わき目もふらずそう大声で叫ぶ。息も切れ切れの中、少女はそう叫びながら、この家の住人を探す。
梁山泊の誰もがその声の必死さを聞き、少女にとって今、緊迫している状態だと言うことに気がついた。
秋雨は、すぐに立ち上がり、少女の元へ向かう。
少女は中庭にいた。誰かを探し走っているようだ。少女は今にも倒れそうなくらい衰弱していた。恐らく、自分の体力の限界を超えて、ここまで全力で走ってきたことが窺える。
秋雨は、その少女の身に何かあったのだろうとすぐに察した。そして、その特殊な容姿から、ある程度の事は予想がついた。
「どうしたのかね。」
秋雨は、そう少女に向かって問う。
すると少女は、涙を流しながら、秋雨に助けを求めた。
「助けてください!お兄ちゃんが死んじゃう!」
少女は嗚咽を漏らし、そう必死に訴える。その必死さから、どれほど事態が深刻かが窺えた。秋雨は、人命がかかっているということを知り、急いで彼女から事情を聞き出す。
「まあ、落ち着きたまえ。そのお兄ちゃんというのは今どこに?」
梁山泊にいた、馬、アパチャイも少女のもとへ近寄る。
「なんだ?このちっせえの。」
庭で巻き藁を叩いていた逆鬼も、近寄ってくる。
「今、ここの場所で戦ってる。早くいかないと殺されちゃう!」
少女は、ケンイチに書いてもらった地図上を指差す。
「分かった。詳しい事情は後で聞こう。」
秋雨は、涙であふれる少女に向かって優しく頭を撫でる。
「後は任せておきなさい。必ず助けますよ。」
秋雨はそう言うと、すぐに駆け出し青年の救助へ向かう。続く逆鬼も、秋雨の後に続いて飛びだしていった。
秋雨も、逆鬼も思った以上に事態は深刻ではないかと思っていた。彼女の容姿から察するに、恐らく狙っているのは、普通の者ではない。彼女を敵から逃がし、そしてこの梁山泊の場所を伝えたものは相当な実力者だろう。そして、その者が少女を一人逃がしてまで、戦わなければならない相手となれば、それは恐らく、我々のような武術を極めた達人。
「おい、秋雨。どう思う?」
二人は全速力で車の上を走り駆けていく。
「・・・詳しいことはわからん。」
逆鬼は、頭をかきむしる。
「なんかさっきから嫌な予感がしてるぜ。相当やばい相手かもな。」
秋雨も黙ってうなずく。
少女が指し示した場所まで、二人はあっという間に着いてしまった。しかし、二人はそこでもう手遅れだったことに気づく。
周辺は、かなり激しい戦闘があったことがわかる。あちらこちらに壊れたアスファルトの後や、焼けた残骸。戦闘の中心となったであろう場所では、前の建造物が跡形もなく消え去り、空虚な空間が広がっている。
「くそ。一足遅かったみたいだな。」
秋雨も逆鬼も、残された跡から行われた戦闘の激しさを悟る。しかし、幸いなことは青年の死体がないと言うことだ。
「恐らく少女の言う青年は生きているだろう。」
逆鬼もそれに同意する。
「ああ、その可能性が高いな。」
「にしても、両方ともかなりの使い手だな。」
秋雨もそれにうなずく。だからこそ、秋雨は、その青年が連れ去られた可能性が高いと思っていた。もし、あの少女の敵が闇の者だとすると、青年も闇へと勧誘された可能性がある。
「少女から詳しく話を聞く必要がありそうだ。」