元白浜ケンイチは、(平穏に)白浜ケンイチを見守りたい 作:turara
山田太郎は、何故か闇のメンバーの一員になっていた。闇のメンバーというより、闇のメンバーの候補生という感じである。いわゆるYOMIというグループである。
YOMIとは、闇のメンバーの弟子で構成された弟子育成機関である。
太郎は、YOMI幹部会議に参加し、ひとり首を傾げていた。
(どうしてこんなことになったんだ・・・。)
広く細長い机の前に、YOMIの幹部、いわゆる一影九拳の弟子達が顔をそろえている。
そこには嘗てライバルだった者の姿があった。太郎は最初こそ状況が飲み込めないでいたが、嘗て、死んでしまった叶翔、親友だった朝宮龍斗、友達になったものなど、を改めて見、涙ぐましくなった。
嘗て死闘を繰り広げた仲間。考え方こそ違ったが、太郎にとって大事な仲間だった。
だからこそ、太郎は自分がここのグループに入れて良かったとも思っている。もしかしたら、叶翔が助かる未来、朝宮龍斗が健康体でいられる未来があると思うからだ。
リーダーは、叶翔である。今日の会議はそれこそ自分がメインである。新しいYOMIのメンバーになる太郎を迎え入れるらしい。
太郎は、今日からエンブレム「王」として活動する事になる。
太郎は遺憾であった。何故、もと妻を闇へと追いやった憎きジュナザードの弟子にならなければならないのか。それでも、仕方がない。逃げられなかったわけだし、ここに所属していると闇の情報も少なからず入ってくるだろう。いいことだらけである。
しかし、太郎は本来の目的である武道家を辞めるということを一ミリも達成できてないことに溜め息を隠せない。やはり、達人になるのは、崖を落ちていくようなものだと太郎は全身で感じ取る。一度落ちれば、後はもう落ちるだけ。死なない限り留まらないのだ。
メンバーがあらかたそろったようで、会議が始まった。
「新メンバーがいるそうだ。ジュナザード様の弟子らしい。」
太郎はそう紹介され、ぺこりと頭を下げる。太郎は一番末端の席にいた。
エンブレム「鋼」ルチャ・リブレの使い手であるレイチェル・スタンレイが太郎をみ、あきれた声で言う。
「陰気くさい奴だね。そのフードうっとおしんだけど。」
派手なパフォーマンスを好む彼女にとって太郎の陰気くさい服装はかんに障るらしい。
太郎は、素顔を見られないように全身真っ黒いフードをかぶり、顔を殆ど覆い隠すマスクをつけていた。
どうして仮面ではないかという問いはいわなくても分かるだろう。
「いいじゃないか。見せられる顔をしてないんじゃない?」
そうリーダーである叶は太郎をからかう。
太郎は、明らかにここで浮いていた。
何を言われても無言でいる太郎に「影」のエンブレムを持つ鍛冶摩 里巳は言う。
「何かしゃべればどうだ?お前ももうYOMIの一員として活動してもらうんだぞ。」
太郎は、何を話せばいいのかと思う。と言うのも、声を出せばみばれする可能性がある。太郎は、YOMIとは別に、せめて学校生活だけは平穏に送りたかったので正体がばれることだけは避けたかった。
また、偽名を使った方がいいだろう。なんて名前にしようか。
太郎は、自分に出せる最大限に低い声で話す。
「へ、平穏だ。戦いは嫌いだ。任務も受けないぞ。よろしく。」
そう話す太郎に、周りのメンバーは不快感を持つ。これまで、死に物狂いで戦い、修行しこの地位を築いてきたのだ。こんなぽっと出に、さらに新人のくせに先輩の目の前で任務を受けないと豪語するなんて嫌われるに決まっていた。
「随分身勝手な奴が入ってきたもんだな。」
イーサン・スタンレイは腕を組み険しい表情を見せる。彼は、徹底的な任務主義者であった。
太郎は、完全にミスったと思っていた。こともあろうか、何故一番はじめの挨拶でこんなことをいってしまったのか。しかし、任務は受けるつもりは全くなかった。闇の仕事に荷担するなんて、ろくなことじゃないだろう。出来れば逃げ回りたいなと思っていた。
しかし、よりにもよってはじめの挨拶で言うべきことではなかった。完全に嫌われてしまった。
太朗は、ここまで最悪の印象をつけられるのは自分以外にいないだろうと思うのだった。
それにしても、活人拳の太郎がどうしてYOMIに入れたのだろうか。ある一定の実力があるものが見れば、太郎が闇の性質を持っていないことを察するのは簡単だろう。
しかし、太郎が入れたのは、活人拳か殺人拳かというレベルのところにいなかったからなのかもしれない。
戦いたくない。そう太郎は考えていたのである。
もともと、太郎はYOMIに入る必要はなかった。太郎は、肉体的にまだまだであったが、達人と対等に戦える実力は持っている。一影九拳のようなポジションにいてもおかしくはなかったのである。
それでも、彼が一影九拳に選ばれなかったのは「戦いたくない」という根っからの平和主義者だったからである。闇の幹部達は、太郎をYOMIに入れ、闇のメンバーとしての心構えをつけさそうという意図があった。殺すには惜しい人材だった。それもまだ若い年である。いくらでも調教のしがいがあると思ったのかもしれない。
しかし、ジュナザードはその際、そのように決めた幹部に「無駄なことだの」と一蹴している。ジュナザードがどれだけ精神を崩壊させるようしむけても全く折れなかった太郎である。
山田太郎書いた!想像は自由!