Fate/Memento   作:九良川文蔵

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じゃんけんぽん

 

 

 

『かくかくしかじか。というわけです。』

「どういうわけですか馬鹿ですかあんた」

『試しに伝わるか実験したのですが……ふむ……。』

「ふむ……じゃないですよほんっと変わってませんね鮫島。説明はそこの……ええと名前なんだったかな……丸っこい人がしてくれる手筈でしょ?」

「デブって言いたいのかてめえ。俺をデブっつって良いのは俺だけだ小金持ち野郎」

「せめて守銭奴とか成金って言ってくれます!? 小金持ち野郎ってなんかめっちゃ小物のモブ感あって嫌なんですが!?」

『どうにせよ悪口です。』

 

 ……トリオ漫才かなこれは。

 戻ってきた地下室。とりあえず灰音とくれあが何かしらの事情で顔見知りなのは確定だろうが、それは今探るべきことではないだろう。もう少し時間が経ってそれでも気になって仕方なかったらそれとなく訊いてみよう。

 とにかく、エーミールが一通りの説明をしているあいだ私はまほらばとあっち向いてホイで遊んでいた。彼女めちゃくちゃ強い。そもそもじゃんけんに勝てない。そしてすぐに顔を向ける方向を読まれてしまう。

「まほらばさん強いね……何かコツとかあるの?」

「んーとね。まず『じゃんけんぽん』の『ぽ』の辺りのとき指の動きを見てグーチョキパーのどれかを予想して、勝ったらすぐ顔見る。そしたら視線の動きとかでどっち向くか大体分かるよ」

「なるほど。私もやってみる。もう一戦お願いします!」

「受けて立とーう!」

 じゃんけんぽん。

 私はチョキ。まほらばはグー。

 あっち向いてホイ。

 私は上を向く。まほらばも上を指さす。

「もう一回お願いします!」

「はいよ!」

 じゃんけんぽん。

 私はグー。まほらばはパー。

 あっち向いてホイ。

 私は再び上を向く。まほらばも再び上を指す。

「なんの! もう一戦!」

「よっしゃ来い!」

 じゃんけんぽん。

 私はチョキ。まほらばはグー。

 あっち向いてホイ。

 私は左を向く。まほらばも左を指さす。

「うー、勝てない……!」

「久堂さんスジは良いんだけどねー。あたしレベルを相手にするときはフェイントも小細工も通用しないよ!」

 その後五回ほど勝負を挑んだが、案の定五連敗。駄目だ、勝ち筋がまるで見えない。

 と、ランサー──エリザがひょいと顔を出す。

「なになに? ジャパニーズピーポーの遊び?」

「そうだよ! エリザもやる? 容赦しないぞー!」

「あら子ブタ。(アタシ)相手にそんな大口叩くなんて偉くなったものね。さ、ルールを教えなさい」

「えーとまずグーチョキパーっていう三種類の手の形があってね、グーはチョキに勝つ、チョキはパーに勝つ、パーはグーに勝つ」

「要は三つ巴ね」

「そうそう、そういうこと。でね、グーチョキパーのどれかをじゃんけんぽんってかけ声の『ぽん』で同時に出して、負けた人は首を左右上下のどれかへ向ける。勝った人は負けた方がどこを向くか予想して、その方向を指さす。……改めてあっち向いてホイのルールの説明するって、なんか新鮮だね」

「大体分かったわ。要するにそのじゃんけんぽんのぽんで勝って、相手が向く方向当てれば良いんでしょう? なーんだ、簡単じゃない!」

「よーし! じゃあいくよー!」

 じゃんけんぽん。

 ランサーはパー。まほらばはチョキ。

 あっち向いてホイ。

 ランサーは下を向く。まほらばも下を指す。

「ふん……やるじゃない」

「もう一回やる?」

「当然! 勝つまでやるわ!」

 二戦目。

 じゃんけんぽん。

 ランサーはグー。まほらばはパー。

 あっち向いてホイ。

 ランサーは左を向く。まほらばも左を指す。

 三戦目。

 じゃんけんぽん。

 ランサーは再びグー。まほらばも再びパー。

 あっち向いてホイ。

 ランサーは右を向く。まほらばは右を指す。

 四戦目。

 じゃんけんぽん。

 ランサーはチョキを出す。まほらばはグーを出す。

 あっち向いてホイ。

 ランサーは下を向く。まほらばも下を指す。

 五戦目。

 じゃんけんぽん。

 ランサーはパーを出す。まほらばはチョキを出す。

 あっち向いてホイ。

 ランサーは右を向く。まほらばも右を指す。

「……」

「……」

「……アナタ強くない!?」

「ふっふーん! あたし強いのだ!」

「ちょ、ちょ、そこの子イヌ! こっち来なさい!」

「え、私……ですか?」

 ランサーがセイバーをぐいぐいと引っ張ってきて、あっち向いてホイのルールを口早に説明する。

「おおう? 今度は麗しのセイバーくんが相手? 良いよ良いよー、あたしは誰の挑戦でも受けて立つ! さっ来ーい!」

「……レディのお誘いとあらば、断るわけにもいきませんね」

 諸々省略。

 結果、セイバーの八連敗。

 見たところイカサマをしている様子もないし、よく観察するとまほらばの視線は確かにタイミング良く細かに動き、瞬時に出す手や指す方向を変えている。まほらばは考えるより先に行動に移すタイプだと思っていたが、もしかしたら逆なのかもしれない。考える速度が速すぎて、相手に思案するいとまを与えていない。

 エーミールは彼女を『馬鹿のくせに察しが良い』と評価していたが、私はキャスターが言った『地頭が良い』という表現の方が的確な気がする。

 案外──と言えば失礼になるかもしれないが、賢いのだ。遠木まほらばという少女は。

「ねえ、アーチャーとエミリさんもよかったら──」

「わ、私は、いいです。結構です」

 私が誘いの言葉を言い切る前に断られてしまった。わりと胸に来るな、即拒絶というものは。

 エミリは焦ったように「いや、あの、えっと」と口ごもりながら両手を振る。

「私、そういうの得意じゃないですし……その、ひとりで居る方がしょうに合ってるんです。だから、いいです、私はここから見てるだけで」

「そっ、か……まあ気が向いたらおいで」

「はい、ありがとうございます」

 私とエミリがそんな会話をしているあいだにもじゃんけんぽんあっち向いてホイのかけ声は続き、そのたびにまほらばの得意げな声、ランサーの悲鳴、セイバーの困ったような控えめな笑い声、さまざまな音が聞こえてくる。

 私も輪の中に戻り、そのまま私達は三人がかりでまほらばに二十連敗した。

「おい。お前らそれで良いか?」

 ふと。

 エーミールの声が飛び込んでくる。

 視線を向けると──ああ。

 怒ってる。完全に怒っている。

「まさかいい歳こいてあっち向いてホイに夢中になって話聞いてなかった──とかじゃねえよな?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「何とか言えよ」

「すみませんでした……」

「このバカすけどもが! お前らがぎゃーぎゃー遊んでたおかげでどのくらいのタイムロスになったか今から計算してやろうかボケ!」

『必要最低限の情報量とエーミールさんの言葉を話すスピードから計算したところ約九分二十秒のロスですね。久方ぶりにどうもこんにちは、キャスターのサーヴァントにして数学的概念の悪魔のお兄さんです。』

「あ? 灰音はどうした灰音は」

『それがね、疲れたと言って眠ってしまいまして。体は起きていますから、強制的に私が浮上したようですね。私も混じりたかったですねえあっち向いてホイ。』

「ああもうどうでも良いから黙ってしっかり聞け頭ゆるふわボンクラども!」

「はい……」

「なにふらふら立ってんだよ正座だ正座ァ!」

 ……エーミールについては前々からいつも怒っているなあと思っていたが、本当に怒るとこんなにも激昴するのか。ではあの不機嫌そうな仕草や態度も実は彼にとっては平常心だったのかもしれない。

「座れっつってんだよ久堂。俺のボディプレス喰らいてえか」

「あ、ごめんなさい」

 エーミールのボディプレス。

 少し見てみたい。

 が、自分がされるのは若干嫌なので、私は大人しく座った。

 

 

 

 

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