Fate/Memento   作:九良川文蔵

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金、あるいは偏執

 

 

 

「ひとり百万」

 人差し指を立て、くれあは整った顔でにやりと笑う。

「要は僕のライダーを含めて七騎のサーヴァントを使って、その対聖杯戦争とやらを完遂すれば良いわけでしょ? でもそれは命懸けの戦いだそうで。あんた方みたいな頭お花畑の正義の味方以外、そんなのタダでやるなんて有り得ない。少なくとも僕は御免ですね。世界を救ったあかつきにはあんた方おひとりにつき百万円お支払いしてもらいます。それが協力の条件です」

「……」

 その場の全員が黙りこくる。何かしらの報酬の要求は想定していたが、まさか金とは。……いや、まあ、想像していなかったわけではない。守銭奴だ成金だと自ら言うような少年だ。もちろんなんのメリットもなく戦うことへ非合理性を感じることも理解できる。

 しかし──

「それっておかしくない!? おかしいよねエリザ!?」

「ええそうね」

 私が口を開く前にまほらばが声を上げ、さらにランサーが言葉をつぐ。

「お金が欲しいっていうのは、まあ理解しましょう。でもアナタがこの戦いに参加しようと参加しまいと、(アタシ)達が負けたらそこでアナタも終わりなの。それだけでタダで戦う価値がある──いいえ、戦わざるを得ないのよ。違う?」

「違いますねェ違うんですよ。僕は世界なんかどうでもいい。どうだっていいどうなっても良い! だけど金は欲しい。僕の行動原理はそれだけです。僕が金を求めるのは手段ではなく目的! 札束に囲まれて死ねればそれで良いんですよ僕は!」

「……何それ。気持ち悪い」

「ええなんとでも仰ってください音痴宝具女さん。それよりあんた方の方が選択権ないんじゃないんですか? 僕の協力が得られなければ圧倒的不利なんでしょう? そこの丸っこい方──ええとエーミールさん? 彼は承諾してくださいましたよ」

「……お兄ちゃん、本当に?」

「ああ。金で解決するなら話は早い。エミリの分と合わせて俺が二百万払うと契約した。お前らはどうする」

「ら、ライダーさんは、どう思ってるの?」

「アタシかい? アタシはまあ、雇われの身だからね。雇い主の意向にはおおむね従うさ。アンタこそどうなんだい、アーチャーのマスター。アンタの分はアンタの兄貴が払ってくれるってんだから、アンタに損はないじゃないか。何を躊躇ってるんだい?」

「それは……」

 やっぱり大金だし、とありきたりなことを言ってエミリは黙る。

 そもそもくれあは、どうしてそこまで『金』という存在そのものに執着しているのだろう。言い方は最悪だが、これではまるで偏執狂だ。金のためだけに生きているようだ。

 分からない。私には一切分からない。

 私はただ──

「……?」

 私はただ──の、その次の言葉が見当たらない。私は何を言語化しようとしたのだろう。

 言葉にならない何かを思い出しかけた気がする。いや、思い出したというより反射行動に近い思考の巡らせ方といった印象だ。何度も繰り返し思い続けたことなのだろうか、『私はただ──』の次の言葉は。

「……良いよ。あたし払う」

 まほらばが頷く。本気? とランサーが問う。

「本気。どんなに馬鹿みたいな条件でも、この世界がなくなるよりはマシ。エリザと会えたことが無駄になるよりは、ずっとずっとマシだから」

「子ブタ……」

灰音(マスター)には悪いですが、私も賛同しましょう。曖昧なものですが演算が示しています。対聖杯戦争において、彼は必要な存在であると。』

「良いお返事がいただけて嬉しいですよ。さあセイバーのマスターさん。あとはあんただけです。もちろん頷いてくださいますよね?」

「……」

 私は。

 私はただ──。

「……分かったよ。払います私。記憶を取り戻して口座番号も思い出して、そこに一千万円くらい入ってたら良いなあ」

「ふふ、ははははは──これで四百万は確定ですね! ええ、ええ、良いでしょう僕も協力して差し上げますよ。場合によっては追加料金も考えますので悪しからず!」

『……。』

「なんです? 何か言いたげですねキャスターさん? ああそうですか、もしかして鮫島灰音と記憶を共有していらっしゃる?」

『そうですね。まあ。』

「あはははは! じゃああんたも僕に見覚えがあるわけだ。鮫島にどうぞお伝えください、()()()()()()()()()()()()()()、ってね」

『……。』

「さて。商談はお終いです。眠るところ──できれば個室でひとりになれる部屋があると嬉しいのですが、どうです?」

「わがまま言うんじゃねえお前も大部屋だ」

「はあ……貧乏くさいことですね、嫌ですよひとりでないと眠れないんです。……あー分かりました分かりました、エーミールさんとエミリさん。あんた方ふたり合わせて百五十万に値引きしますよ。それで手打ちにしましょう?」

「アタシからも頼むよ、デブ」

「俺をデブっつって良いのは俺だけだ! ……だがまあ良い。百三十万まで引け。これが条件だ」

「ふむ……まあ良いでしょう。あとでテキトーに理由つけてぶんどってやりますから。じゃ、ライダー。ベッドとか運んどいてください」

「はいよ。全く人使いが荒いねえうちの雇い主は」

 ライダーが部屋を出ていき、くれあはソファに腰かけて安っぽい座り心地ですねェと文句を言う。

「なんだお前。大丈夫か久堂」

「……え? 何が?」

「なんかすげえ遠い目してたぞ。マジで馬鹿みてえなツラになってた」

「あ、はは……いや、ひとつ思い出してさ」

「記憶? 記憶戻ったの久堂さん!?」

「や、ごめんねまほらばさん。そんな確かなものではないの。ほんと、断片的でちっちゃいこと」

 そう。

 断片的で小さな、たった一言。

 それでも確かにずっと昔から繰り返してきた、呪文じみた言葉。

 

 

 私はただ──死を待つために生きている。

 

 

 

 

 

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