──■■■ってのは、■■じゃ■■な■■を持つ■■だ。
──□□。
──俺は□□の■に責任を持たにゃならんのだ。
──俺は、もう■■■人の□□を■してきた。
──だから、だからな、□□。
──■■■だ。
──■■は■■から、□□□□□──
「……っ!」
ベッドから跳ねるようにして上半身を起こす。
夢を見た。何かの夢を見た。誰かの夢を見た。黒く塗りつぶされたような部分とぽっかり穴があいたような部分が混在した、虫食いだらけの夢を。
誰だ。あの声は。顔が思い出せない。確かに私の近くに居たのに。
「マスター? どうなさいました?」
「あ、ああ、いや、あのねセイバー──」
霊体化を解いて枕元に寄り、心配の声をかけてくれるセイバーに先程の夢の話をしよう──として、違和感を覚える。
見えない。
……いや、見えはするのだが……どうにもぼやけてにじんで、目の焦点が合わない。水中に居るかのようだ。
「久堂さんどーしたの?」
目をおさえて黙り込む私に、私が眠っている間に部屋に来ていたらしいまほらばも近寄ってくる。
「……ちょっと目が……」
「目? ああ綺麗だよね久堂さんの目。蜂蜜色っていうの? 黄金色っていうの? めちゃ綺麗な色」
「ありがとう、でもそうじゃなくて。見えづらくて困ってる」
「んー? あたし眼科医じゃないから分かんないな……エーミールに訊いてみれば? いつも偉そうだし頭良いでしょたぶん」
エーミールの態度が尊大であることと彼の頭の回転や知識の豊富さが比例するとは思えないが、それは置いておくとして確かにここでベッドに座り込んでいても仕方ない。
私は毛布を抜け出し、ふらつきながら歩き出した。
「マスター、御手を」
「あ、ありがとうセイバー。ごめんね」
「いいえ。従者として当然の行為です」
セイバーの手を借りながら普段より時間をかけて隣の部屋へ移動すると、エミリとエーミール、それから灰音のシルエットがぼんやりにじんで見えた。
「ねえエーミール、久堂さん目が見えづらいんだってー」
「ほー。そりゃ心配だー」
エーミールの後ろ姿が棒読みで言葉を発する。
心底どうでもいい、と言いたげだ。
「忙しそうなところ申し訳ないのだけどほんとに見えないんだよエーミールくん。どうしよう」
「あのなあ、俺を便利屋かなんかだと思ってんのか?」
まあしかし、と立ち上がるエーミール。
「俺の眼鏡のスペアくらいならあるから貸してやる。度が合わねえってんなら知らねえ。これ以上この話題俺に振ってもどうにもなんねえからな」
「ありがとうエーミールくん!」
眼鏡を受け取りかけてみると、視界はかなりクリアなものになった。
「あはははは久堂さん眼鏡似合ーう! エリザには及ばないけどなかなか可愛いよ!」
「そう? ありがとう。どうかなセイバー」
「たいへんお似合いです」
眼鏡の枠の中でセイバーが微笑む。ああ、相変わらず同性の私でも心底美しいと思える出で立ちだ。特にこのなめらかな赤毛がどうにも綺麗で──
「……」
──自分の髪がみじめに思えるからこれ以上彼の髪を羨むのはやめておこう。
とはいえ、眼鏡をかけて見えるようになりました、はい解決。というわけにもいくまい。なぜ私の目は突然視力を大幅に失ったのか、事象には必ず原因があるはずだ。
「久堂」
「はい」
エーミールに呼ばれる。
反射的に返事をする。
「考える順序をまず考えろよ」
「順序?」
「おう。お前はただでさえやれ記憶がねえだやれ謎のメモだって問題だらけなんだ。いっぺんに考えようとすんな」
「うん……うん、確かにそうだね。ありがとう。エーミールくんは優しいね」
「俺をおだててもなんもねえぞバカすけ」
深呼吸をして、頭の中でまず考えるべきことを整理する。
何より大きな問題は当然『対聖杯戦争』だろう。なぜ世界に穴があいたのか。なぜ世界は滅んだのか。聖杯を倒すとして、聖杯とはどのような形でこの世界にあるのか。それを解決しない限りどうにもならない。
次に私、及びセイバーの記憶。なぜ私はあそこで、七五三千早から託されたメモを握りしめて倒れていたのか。なぜセイバーの霊基は欠けた状態であるのか。なぜ私とセイバーははぐれた状態だったのか。
大まかに分けて私が追うべきはそのふたつ。その副産物として、この表向きは物理学研究所である建物の正体と、七五三千早とは誰なのか。
……ざっくり考えるとこんなところか。我ながらあまりにも漠然としていて不安と同時に笑えてくる。
「……そういえば、みんな」
ふと思い至り、私はその場の全員に問いかける。
「世界がこうなる瞬間って、どんな感じだったの? なんかこう……こういう言い方はやや正確ではないかもしれないけれど、世界はどういう滅び方をしたの?」
私は何も分からず目覚めたときにはすでに世界はこうだったから、その瞬間を知らない。パニック映画さながらの光景が繰り広げられていたのだろうか。
「んー、ビカーッ! って光って、何も見えなくなって、もんのすごい衝撃が来て、気づいたらこんなん。で、我にかえったときになんか知らないけど『これは聖杯戦争だ』って思ったんだよね。あたしはそんな感じ」
『僕も同じです。目の前が真っ白になって体が吹き飛ばされて、気づけば聖杯戦争が始まったのだと謎の確信がありました。』
「エミリさんもエーミールくんも、そう?」
「はい」
「そうだな」
「そうなんだ……くれあくんもそうなのかな……」
ここまで意見がそろえば九分九厘くれあもそうなのだろう。恐らく、まだ出会っていない──七五三千早からのメモに記されていた最後のふたり──才賀日奈子とカリュプス・ラウィーニアも同じである可能性が比較的高い。
「……飯にするか」
エーミールが言う。その言葉で思い出したが、エーミールは相変わらずまともな休息をとっていない。……本当に大丈夫なのだろうか。
「すぐできるから、お前ら座っとけ」
「あ、じゃあ私くれあくん呼んでくるね。食事できたら呼んでって言ってたし」
言い、私は部屋を出る。眼鏡生活に慣れるためにも、ひとまず歩いてあちこち見た方が良いだろう。
廊下を進むとくれあが居るであろう部屋の扉のすぐそばで、ライダーが壁にもたれて立っていた。声をかけようとすると、彼女は人差し指を口唇にあてて『静かにしろ』と私に促す。
「あ──」
私は思わず、息を飲んだ。
名前:久堂紘平 クドウ・コウヘイ
(※記憶喪失のためあくまで仮称)
年齢:?
身長:181cm
体重:63kg
特徴:男/長身痩躯/記憶喪失/若白髪/危機感・恐怖心の欠如/注意力散漫
好きなもの:コーヒー
苦手なもの:起床