Fate/Memento   作:九良川文蔵

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悪い夢のあと

 

 

 

 私も黙り、ライダーも黙った静まり返った廊下に、微かに声が響いている。

「Last song for you……Last song for you……」

 これは──歌だ。歌声だ。とても綺麗で、伸びやかで、澄み切った歌声。

「……約束なしのお別れです……Last song for you……」

 くれあの声は初めて聞いたときからなかなか美しいものだとは思っていたが、歌に乗るとここまで映えるものなのか。

 ライダーはこちらを見て微笑み、私に耳打ちする。

「あいつ、誰かが聞いてるって気づくと歌うのやめちまうんだよ。歌なんか金にならないんだから無駄ですよ──なんて言ってね」

「……勿体ない、ね」

「アタシもそう思うよ。でも……」

 一旦言葉を区切り、くれあの居る扉の方を見るライダー。まるでとても愛おしいものを見るような、あるいは割れ物を扱うような視線で。

「……でも、それがくれあにとって大切なことなら否定はしないさ。アタシは、あいつのサーヴァントだからね」

「ライダー……くれあくんのこと、何か知っているの?」

「何かって?」

「その、金銭への執着の理由、っていうのかな。どうしてだろうって考えてみたりもするんだけど、全然分からなくて」

 金を稼ぐことは手段ではなく目的。くれあは自らそう言っていた。金を使うことではなく金を稼ぐことそのものが目的なのだとしたら、私にはいよいよ何がなんだか分からなくなってしまう。

 そんな私を見て、ライダーは少し考えるような仕草をした。

「マスターとサーヴァントが無意識下で繋がって同じ夢を見る──っつうこと、あるらしいねえ」

「……うん」

「アンタ達と会う前、アタシも見た。くれあの夢」

 気色悪かったよ、と吐き捨てるようにライダーはいう。

「本当に気色悪かった。誰もがあいつを持ち上げて、崇めて、救いを救いをっつってあいつに手を伸ばして。くれあは……()()()()()()()

「血……?」

「そうさ。くれあが流した血を群衆が舐めて、代わりに札束を置いていった。ありがとうございますありがとうございます、なんてぺこぺこ這いつくばってね」

「……」

 ライダーの言うとおり、どうにも不快な気分になる光景だ。どうにも宗教じみていて、不気味で薄暗い。

「まあそれが具体的にどういうもんかはアタシにも分からない。ただ、アタシはあの夢を見てどうしてかひどく──守ってやらなきゃ、って思っちまったんだ。ガラにもなくね。野蛮な海賊風情が何言ってんだって笑うかい?」

「……いいえ、笑わない。私はくれあくんを理解したいだけだから」

「理解、ね。顔に似合わず傲慢なこと言うんだねえアンタ。アタシは嫌いじゃないよ、その大口」

 ま、頑張りな。

 ライダーはそう言って私の肩を軽く叩いた。

「……あ、うん、頑張ります。ていうか私、ご飯食べるからくれあくん呼びに来たんだった……」

 ここで私は当初の目的をようやく思い出し、部屋の前に立つ。

「……さよならのかわりに……さよならのかわりに……」

 くれあはまだ歌っている。

 ……歌が終わると同時に入ったら聞いていたとバレるだろうか。そう思って、くれあの声が途絶えてから少し待ち、それから私は扉をノックした。

 なんです、とぶっきらぼうな返事が返ってきて、ほぼ同時に扉が開く。

「ご飯の用意してるからくれあくんもおいで」

「ん、分かりました。すぐ向かいます」

「エーミールくんの作るご飯美味しいんだよ」

「そーですか。まあ味なんかどうでも良いですけど」

 相変わらずの調子でそう言い、くれあは手ぐしで髪を整えながら部屋を出てきた。

「ライダー、あんたも来たらどうです?」

「おや良いのかい? てっきり部屋の前で門番でもしろって言われるかと思ったけどねえ」

「僕を馬鹿にしてるんですか?」

「はいはい。アンタ、羽振りは良いけど器は小さいのをどうにかしなきゃね」

 軽口を叩き合いつつすたすた行ってしまうライダーとくれあの後ろを歩く。くれあの歌声について話題に出したいところだが、ライダーが言うには人に聞かれていると気づくと歌うことをやめてしまうらしいし、ここは言わぬが花か。

 ……しかし、それにしたって綺麗な声だった。

 金にならないと言っていたらしいが、いっそ歌を歌う仕事に就くというのもありなのでは……。

「……」

 ……いや、子供の将来なんて私の推し量ることではないか。くれあはくれあなりに生きているのだろうし。

 他のみんなが居る部屋に戻ると、食事の用意はすでにできあがっていた。

「おせえぞバカすけども」

 エーミールが文句を言う。

「はいはいすみませんねェ」

 くれあがそれを流しつつ適当な席に座る。その隣にライダーが。私は少し迷ってから、その斜向かいである灰音の隣に座った。

『久堂さんゲット。です。』

「ぬあー! あたしの負けかあ……!」

「え? なに、灰音くんもまほらばさんも楽しそうだね」

『久堂さんが僕とまほらばさんどちらの隣に座るか、おかずのからあげをひとつずつ賭けていたんです。久堂さんのおかげで僕はからあげげっちゅー。ありがとうございます。』

「んー、やっぱり性別の壁ってあるのかなー……! 女子高生の隣に座るのは成人男性にはキツかったか……まほらば、撃沈……」

 私がライダーと話したりくれあの歌を盗み聞きしたりしていたうちに、何やら愉快な賭け事をしていたようだ。

 運ばれてきたおかずのうちの三つのからあげを眺め、私はそのうちのひとつをまほらばの皿へ移動させた。

「あ! からあげ! くれるの!?」

「一個だけね」

「久堂さん……! あーもう! 好き!」

「エリザさんとどっちが?」

「エリザ!」

「正直で良いね」

『……。』

 むっとした顔をして、灰音もひとつからあげをまほらばの皿へ移動させる。

「灰音まで!? どういう風の吹き回し!?」

『ここでやらねば男が廃ると思いました。』

「灰音もイケメン! セラヴィ! セラヴィ!」

 セラヴィの使いどころは若干違っている気もするが、ここで水をさすのも良くないだろう。こういうときは考えるよりも勢いとテンションだと所長が──

「……?」

 ──()()

 この前のフラッシュバックでも口をついて出た名前──いや、役職?──だ。

 私とその所長なる人物に一体なんの関係があるのだろう。

『久堂さん。お顔が曇りましたがどうなさいましたか。』

「ん? ああいや……なんでもないよ。食べよ食べよ」

 所長。

 あとで熟考してみるとして、今はただ楽しもう。いくら何者か分からないとはいえ、『楽しい時間は考えるより勢いとテンションで思い切り楽しめ』なんて言う人が私に悪い影響を与えているはずがあるまい。……たぶん。

 いただきますの挨拶をして、料理に手をつける。

 騒々しい中で食べるからあげは、ひどく美味しかった。

 

 

 

 







名前:倉高エミリ クラタカ・エミリ

年齢:18歳

身長:169cm
体重:58kg

特徴:女/やや長身/細身/色白/セミロング/他者に対する頭一つ抜けた観察力

好きなもの:兄、恋愛映画、猫のキャラクター
苦手なもの:大人数で居る際の自発的な発言


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